婚約者は私から全てを奪った従姉妹との愛を正当化するくせに婚約破棄はしてくれません

迷い人

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05.ジェフリーの愛

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 ジェフリーとルルワが初めて会ったのは、ルルワがまだ3歳の頃。

 ルルワが神殿に祝福を受けに行った時、その魔力を見たブラウン侯爵がルルワと息子であるジェフリーとの婚約を求めた。 ブラウン侯爵の必死な様子にハーノイス伯爵は危機感すら覚えていたと、当時の様子を見た者は言うだろう。

 ハーノイス伯爵家の当主夫婦と小さな娘を招待したのは、王都にありながら広大な土地を所有する侯爵家。 綺麗に手入れされた庭が印象的な屋敷。

 是非にと婚約を求めるブラウン侯爵家当主とは違い、ハーノイス伯爵家当主の答えは余り芳しいものでは無い。

 ハーノイス伯爵の素っ気なさに比べ、父親に抱っこされたルルワは目にする物全てに興味津々で……あの頃は、とても可愛らしかったのですよね。

 肩までの長さのふわふわのホワイトブロンドの髪。
 大きな新緑色の瞳。

 キョロキョロと落ち着かない様子の髪は揺れ、新緑色の瞳は庭園を飛ぶ蝶々が気になるのだと綺麗な瞳で必死に追いかけている。 父親の腕の中から落ちそうになり、ソレを必死に父親が捕まえている様子で、それがとても可愛くて可愛くて……彼女が僕の婚約者になるってくれるのでしたら、凄く嬉しいと……ワクワクしたものでした。

 当時の僕は7歳で、親同士の言葉は難しく、多くを理解する事は出来なかった。 それでも子供だった僕にだって分かる事はあったのですよね。

 ハーノイス伯爵が乗り気ではなかった。

 ハーノイス伯爵が語っていたのは……そう、そうです。

「ツガイが現れた時を考えれば、このような幼い時期に婚約を交わすと言うのは大きなリスクを子供達に負わせる事になります。 それは私達の子供に良いものではありません」

「それほどまでイヤなのか!! このブラウン侯爵家と縁が結ばれる事を!! ツガイなど迷信に等しい!! そんなものを宛てにしていては、我が一族は……(おしまいだ)、頼む、妻として我が家で預かる等と言っている訳ではない。 時が来るまでは婚約だけで十分だから……たのむ……お願いだ……」

 縋りつくような父の姿は、見たくなどありませんでしたね。

 あの頃はルルワの愛らしさに目を奪われ考えていなかったけれども、あれは……とてもショックな姿でした。 えぇ……侯爵家当主に相応しく等ありません。



 獣の本能が失われ、ツガイどころか、耳付き、尻尾付きも長く生まれていなルルワラウン侯爵家は、武力を失い、だからと言って特別な知性を持ち合わせている訳でも、魔力と言う人間の力を持っている訳でもない。 その事実をジェフリーは考えないようにしていた。



 当時は貴族制度の見直しを検討しようと言う声が上がり始めた頃、ブラン侯爵家は後がないと当主は焦っていた。 そして……今は実際に、それにそった法改正を行おうとされている。

 自らの責任を思い出したジェフリーは甘えて来るナンシーを他所に苛立ちそうになるのを、そのしなやかな身体を抱きしめる事で押さえ込んだ。

 そして、再び昔を思い出す。

「安心してください。 貴殿のご子息にはツガイが現れます。 この私が保証いたします」

 そう伯爵は言った。

 そう彼は正しかった。 だけれど、ルルワとの婚約が無ければ彼女と出会う事は無かった事を思えば、婚約を否定する気にはなれませんよね。

「適当を言うな!! そんなにもこの申し出が気に入らないのか!! そんなもの宛てになるものか!!」

 父はそう叫びながら、必死に怒りを抑えていた。

 大人同士が声を荒げる中、ルルワは怯えて大きな瞳から涙が溢れ出し、可愛らしい口が今も泣くぞ泣くぞとパクパクと動いていましたよね。

「ぼ、僕は、ルルワを大切にするよ!! 僕は一目でルルワを好きになったんだ。 可愛くてふわふわしていて、頼りなくて……。 僕は例え獣の力が無くても、彼女のために強くなるし、勉強も沢山するから!! お願いします!! 僕を彼女の婚約者にしてください!!」

 侯爵に頭を下げ、侯爵の腕の中のルルワに手を伸ばしジェフリーは訴えた。

「ルルワ……ねぇ、ルルワ、僕は君を大切にするから、大人になったらお嫁さんになって欲しいんだ」

「お嫁さん? ルルワはね、パパのお嫁さんになるからダメ!!」

 その答えに、僕は苦笑いしか出てきませんでしたが……それでも、とてもカワイイと思ったのですよね……昔は本当に可愛らしかった。

「父さんは、大人の話があるから、その間ルルワちゃんに庭を案内してきてくれないか?」

「分かったよ! 父様」

 4歳年下のルルワは小さくて不安そうで頼りない様子が愛らしかった。 彼女と手を繋ぎ庭を案内すれば、小さな身体で必死に後をついてきて、転びそうになる彼女を支えて……結局抱き上げて……僕は彼女を守った。 柔らかくて頼りなくて……強くなったような気がした……今も柔らかな美しい思い出として記憶している。

 だけれど、それは過ぎ去った過去に過ぎません。

 蝶々を追いかける姿が、とても可愛くて。 頭に乗った蝶々に喜び振り返った時の笑顔に……運命を、きっとツガイとはこういう事なんだろうと思ったのですよね。



 ですが……実際には、ハーノイス伯爵の言っていた事は正しかった。



 1年、また1年、年月を追うごとに僕はルルワから興味を失い始めた。

 可愛げのない奴。

 文字を覚えた、計算を覚えた。
 クロスワードパズルが楽しい。
 庭の薬草なんてどうでもいいし、田舎の領地巡りは退屈だった。

 何より知識のひけらかしがムカついた。

 魔術を勉強し始めたと言った時は、もっと最悪だった。
 覚えた魔術を見せられるたびに、気分が悪く吐き気すらする。

 偉そうで、僕を見下して……気分が悪い。

 両親を亡くした時。
 爵位と領地と屋敷を奪われたと泣いていた。

 ルルワの弱々しさに、守らなければなんて心を動かされるなんて事はなく、弱々しさを見せつけられるほど、鬱陶しいと心が冷めて行った。

 辛気臭くて最悪。 泣いた顔を見ても、頼ってこようとするのも……僕を都合よく利用しようとしているのが見えて吐き気を覚えた。

 どうせ……すぐに自分の方が賢いと、僕を見下すはずだ……。



 ツガイと言う存在を実感したのは、彼女の従姉妹のナンシーと出会った時。

 笑顔が無邪気でとても可愛らしかった。
 社交界は初めてだから楽しみだと言いながら、怯えて頼って来る様子に強くなれた気がした。
 何時だって甘えてくるナンシーには、ルルワに感じるような劣等感を覚える事はない。 
 貴族の事を何も知らない彼女に、色々と教えてあげるのが快感になっていた。

 発情期を迎え辛そうな様子で助けてと言われて迎えたあのときの感動を僕は忘れない。

 黄金の髪がしなやかに揺れ、発情と共に首、肩、腕、背中を満たす金色の滑らかな毛並。 快楽に揺れる感情豊かな尾。 しなやかで美しく、僕の心も体も甘く締め付け捕らえてきた。 

 ルルワでは絶対に味わう事が出来ないだろう感動。

 僕のツガイはルルワではなく、ナンシーだったのだと気付いた。



 だからと言ってルルワと婚約破棄をする訳にはいかない。 なんとか……関係を維持しなければいけない事は、僕だって理解している。

 彼女を、ルルワを大切にするようにと言う父上以上に。

 カフェに行きたいと可愛くおねだりしてきたナンシーに、ルルワの元に行くと言うべきではありませんでした。

『ジェフリー様とナンシーは……ツガイなのでしょうか?』

 そうだと思ってはいますが、そうだとは言える訳がありません。

 彼女の賢さは今の僕には必要不可欠なのですから。
 この国にとって特別な存在となるためには、彼女の力は必要だ!

 彼女の無駄な賢さも、始めて役に立つと言うもの。 僕が国政に関わるような重要な部署につくことができなかったら……爵位も領地も王家に返還しなければならない。

 あぁ……上手く……彼女を誤魔化せたでしょうか……?

 ナンシーを抱きしめても、口付けても、それだけが気になってしまう。

 彼女とは何れ婚約を破棄したいと考えている。 だからと言って仲たがいをしたい訳では決してないと言う事を……むしろ婚約者と言う間柄でないのなら、仲良くしたいとすら考えている事を理解し、彼女にもそう思って欲しい。

 いえ……今、僕に向ける好意のまま、婚約破棄したい……。

 彼女にはナンシーの両親をハーノイス伯爵家から追い出し、ハーノイス伯爵家の当主の座についてもらわなければいけない。

 ナンシーの両親達はたちが悪い……。

 僕とルルワとの婚約がある以上。
 ルルワがブラウン侯爵家に嫁ぐ以上。

 ナンシーの父親が当主となるのは仕方がない事ですが、アノ人達は油断なりません。 何しろ随分と段取りよく当主の地位、領地、屋敷を奪い……そして管理が困難な領地を売り払ったのですから。



 あんな親に育てられ可哀そうなナンシー



 そしてナンシーを強く抱きしめた。
 苦々しい気持ちを抱えながら。

 今は……ナンシーと仲良くしている僕に金の無心をしてくる。 もし、今のままナンシーと結婚したならどんな目に合うか……。 想像に容易い。

 僕とナンシーが幸せな未来を送るために、上手くルルワを活用しないと……。
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