婚約者は私から全てを奪った従姉妹との愛を正当化するくせに婚約破棄はしてくれません

迷い人

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06.ブラウン侯爵家の当主

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 この世界の婚約も婚姻も神の前で行う神聖なる誓いとされる。

 獣人同士の婚姻の場合、生まれて来る子の種類は婚姻によって定められた家名の影響を強く受ける。

 それによってジェフリーが生家であるブラウン侯爵家は長く、その獣性を捨てるために婚姻関係を結んできた。



 運命のツガイが現れない限りは……。



 ブラウン侯爵家では来客がない限りは明かりを灯す事は無い。

 薄暗い屋敷。
 明かりも窓も無いチョコレート色の壁を持つ部屋。
 そこには、代々の当主の肖像画が並べられている。

 濃い赤茶色の髪をした男は、酒の入ったグラスと共に部屋に入って来た。 部屋の片隅にある椅子を中央へと引き寄せ座り、サングラスを外す。

 男……ブラウン侯爵家当主、ジョナスは深い溜息をついた。

『何時までルルワさんを一人であんな不気味な場所に置いておくのですか!! 私達、ずっとあの子を我が子のように接してきましたわよね。 私……あの子が心配なの……』

『君の願いは、なんだって叶えて上げたいが……それは、まだ早い。 彼女は魔術師として一人前になるときまでは、我が家との関係にはけじめを持ってもらわなければいけない。 あの子の両親が余りにも厳しい人だったから、せめてもと我が子のように可愛がりはしたが……私達は本当の親ではないし。 彼女はブラウン家の娘ではない。 ソレを理解しないうちは勘違いさせるような事はしない方がいい』

『どうして、そんな酷い事が言えるの!! あの子は親の愛情を得ていないから少し難しいところはあるでしょうけど、優しい子だわ!!』

 ブラウン侯爵家当主、ジョナス・ブラウンは、妻となったレスリーと初めて会った時……衝動的な愛情が沸き上がった。

 ジョナスにとって妻は特別な人だ。

 だからこそ、大切な妻を丸め込んでいるルルワへと憎しみが沸いてきていた。

『本人が直接頭を下げ頼むべきではないのか?!』
『自分から言えないつつましい子だって貴方も知っているでしょう?!』
『親が亡くなったとなれば、色々と違ってくる。 私達が導くべきは、力を注ぐべきは、成長を願うのはジェフリーであるべきだろう』
『あの子は、ただ寂しいだけなの!!』
『自分の立場を学ぶべきだと言うことだ』
『それに放っておくと食べる事も、眠る事も忘れて研究をするのよ。 放っておけない』
『アレは……いや、魔導師とはそう言うものだ』

 大好きな妻と、なぜ、喧嘩しなければいけないんだ!!

 それだけで、ルルワに不満を持ち始めていた。

 彼女を我が子のように溺愛する妻にショックをあたえまいと、ルルワと言う人間がどういう人間なのかを必死に隠してきた。



 あんな奴になると分かって居たら、ジェフリーとの婚約等求めたりしなかったのに!! 私の願いによって、家族が一族が不幸になる……それだけは避けたかった。



 それでも……。



 ブラウン侯爵家は建国時に重要な役目を負い、力と素早さ鋭い牙と爪、そんなものを持つ者には果たせぬ重要な役目を見事に果たし侯爵の地位を得た。

 ご先祖様はさぞ栄誉に思っただろう。



 ブラウン家の獣化血統は、赤毛のモグラである。

 その臆病さ、地面を掘り進める能力、そんな力が重要な役割を果たしたが、栄誉を勝ち取った初代は兎も角……代々のブラウン家は積極的に魔力を持ち魔術を使う人間と言う種族と交わり獣人としての血を薄め彼等は土と戯れる事を好み、土魔術を得意とする一族となった。

 どこまでも平和的で争いは好まない。



 アイツのせいで、妻と喧嘩をした。
 妻と意見が違った。
 嫌われたらどうしてくれる!!



 苛立つ。



「旦那様……」

 怯え困ったように小柄な男が現れる。 

「どうした」

「コチラを……」

 封を開いた十数通の手紙。 執事である男の顔を見れば、それは決して良いものでは……想像は容易でジョナスは深い溜息をついた。

「またか……。 こんな事になるとは……」

 執事から受け取ったのは請求書の束で、ジェフリーの婚約者ルルワのために使われたものと分かるような記載が請求書の脇に付け加えられていた。





 ルルワの両親が生きて来たころは良かった。

 彼女の両親は、子供に抱く愛情と言う者を持ち合わせていないのかと言うほど、幼い頃から厳しく魔術を学ばせ、魔導師としての身体を作らせ、それは同じ親として見るには堪えないものだったことを忘れられない。

 甘い菓子を与えるどころか、食事は栄養素を固めた保存食。
 親子の交流の全ては魔術に関する事だけ、ふわふわとした子供らしい喜びの感情を露わにすれば不機嫌そうな顔をし無駄だと叱りつけていた。 

 同じ年ごろの子を持つ親としてソレは気の毒に思えるほどで、いずれジェフリーの妻……ブラウン侯爵家の人間になるのだと、我が子のように可愛がった。

 両親を失った彼女は、自分が領主となるのだからと使用人や伯父一家に対して、魔術を使い、今までの鬱憤を晴らすようにドレスを求め、豪華な料理を求め、贅沢のために税をあげたため、屋敷や領地から追い出したと聞いていた。

『あんなに厳しく育てられたのだから、甘えたくなるのも当然だわ。 そうやって周囲を試しているのよ。 しばらくは私が側で支えてあげるわ』

『魔術で人を傷つけたと聞いている。 もし一時的なものなら……落ち着いてから手を差し伸べればいい。 反省の無い者を延々と甘やかしても彼女のためにならないだろう』

 そう言って止めたが、幼い頃から可愛がっていたからと、今でも妻はルルワを気にかけている。 ソレに腹立ちを覚えた。





「我が家だって、決して裕福な方ではないんだぞ!!」

 怒るブラウン侯爵家当主に執事は茶を出し宥めた。

「それでも、ブラウ侯爵家には優秀な魔導師の血が必要なのですから、子を産ませて早々に放り出す事を考えるべきでしょう。 なら、坊ちゃまが彼女に貢ぐのも先行投資と言う事で目を背けるべきではないでしょうか」

 魔導師の血を強め、モグラの獣人としての痕跡を消す。 それが何代にもブラウン侯爵家の悲願だと思えば……苛立ちと共に請求書の束を強く握りしめ耐えた。

「それにしても屋敷の改装に始まり、ドレス、装飾品、魔力を高めるための特別な食事に、魔導師達の交流会費用……はぁ……レスリーにはしばらく関わるなと伝えよう。 ジェフリーとも話し合いが必要だ……戻ってきたら話をしたいと、何時でもいい伝えてくれ」

 そう執事に告げた。





 息子が訪れたのは深夜も遅い時間。
 酒の匂いと化粧の匂いがした。

 下品だ……。

 私の息子を悪の道に引きずり込むなんて……。 それでも、彼女が私を避ける以上は、ジェフリーに当主としての覚悟を持ってもらうしかない。

 状況判断をする視野を広げ、知識を増し、決断を下す強さが必要だ。

「ジェフリー、幾らなんでもルルワに金を使いすぎだ!! うちは……名だけの貴族様だ……」

 苦々しく、絞り出すように言った。

「使えない奴……」

「ぇ?」

 声を荒げそうになっていたにも拘らず、言葉は泊った。

 妻が耳にすれば、家族のいないルルワはうちで引き取るべきだと頑張るだろう。 間違いがあれば、側にいてただすべきだ、私が手を差し伸べたいの!! そう言うだろう。 だが……ブラウン侯爵の心の内側にはもう嫌悪感しかない。

「父上!! 彼女の心は未だ深い傷を負っているのですよ! どうしてそのような冷たい事をおっしゃるのですか……。 彼女は優秀な魔導師、いずれ気持ちが落ち着けば、我が家に多くの利益をもたらしてくれるはずです」

「それでも、貴族籍を奪われた娘のために、屋敷の回収費用を出し、ドレスや装飾品を購入する等やり過ぎじゃないか?」

「いずれは僕の妻となるのですから、貴族としてみすぼらしい恰好をしてもらっては困ります。 何時までも薄汚い魔導師服に身を包み、やせ細り寝不足の顔でいられては、いずれ我が家が世間から人としての情がないのかと言われるでしょう。 今は耐えるしかありません。 そして……今まで彼女に費やした分を、彼女の魔術で返させればいいではありませんか」

「だが、それ以前に貴族として……いや人としての道理を教えるべきじゃないのか? 屋敷を改装してやっても出資者を招待もしない、感謝もしない、いったい何事だ!!」

「彼女はその……アレですから……魔術しか取り柄がないと言うか……常識が欠如しているんですよ。 そう言う人なんです。 見守らないと。」

「なら、お前がシッカリと手綱を握っておくべきだろう。 いや、それ以前に、可哀そうだと自らを哀れみ贅沢を求めるよりも、医師に診療を受けさせるべきではないのか?! アレはもう気が狂っている!!」

「私は……自分の妻が基地外だと世間に知れ渡るのはちょっと……」

「……はぁ……だが、お前はそんなルルワを妻として迎える事ができるのか?!」

「僕に必要なのは妻ではありません。 子を産んでくれる者です。 そこは割り切るべきではありませんか?」

「婚約を強行させた私は間違っていた……。 もし、ツガイが現れたら、いやツガイがあらわれずとも、あのような馬鹿女は捨ててしまえ」

「ですが、彼女は母上のお気に入りで……」

「レスリーは私が説得しよう。 レスリーは優しいから……それでも、傷ついてない訳無い……レスリーには全て内密で、ルルワにかけた金を回収し、そして子を産ませ、追い出す……情なんぞ持つものではないぞ」

 そう、ブラウン侯爵は息子に念を押した。





 ルルワは、従姉妹の行い……いや、ハーノイス伯爵家を乗っ取った伯父、その妻の行いの全てが自分の責任にされているとも知らず、ジェフリーが置いて行った論文の見本を読みふけるのだった。
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