婚約者は私から全てを奪った従姉妹との愛を正当化するくせに婚約破棄はしてくれません

迷い人

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07.王立図書館

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 散々……仲睦ましい様を見せつけられた私は、頭の中がグチャグチャになっていた。



 何を思い、何を考え、何処に希望を見出せばいいの?

 婚約者。
 未来の妻。

 そんな言葉に意味はない。

 徐々に冷ややかになって行く関係性を深く考えた事は無かった。 両親は、ブラウン侯爵夫婦と違い支え合う男女のような関係性ではなかったけれど、同じ目標を持つ仲間で、夫婦になれば領地経営・領民のためと言う同じ目標を持つ仲間に慣れると思ったから。

 それに……レスリー夫人が、とても優しくしてくれていたから。 彼女の娘になれるならきっと幸せだろうと思えたのだ。

「せめて、ナンシーでなければ良かったのに……」



 初めてナンシーと出会ったのは、両親が亡くなる3日前。

 決して激しくはないけれど、シトシトと何時までも続きそうな雨の日だった。 伯父は雨に濡れた妻子を見て可哀そうだと思わないのか! そう言って家の中に入り込み……そして、両親が王都に向かい旅立ってからは、屋敷の者達と仲良く過ごしていた。 そう、とても仲良く過ごしていたのだ。

『さぁ、親交を深めよう!!』

 そう言って馬車から酒を持ち込み、屋敷の者達全てを巻き込んで賭けゲーム大会。 両親の持ち物を勝手に持ち出し商品にする。 最初こそ戸惑っていたけれど、1時間もすれば無法地帯へと変化し……屋敷の中は結託した。

 両親に仕えていた忠誠心なんて、まるで最初から存在しなかったかのように、勝負に勝っても負けても、1人また1人と伯父に媚びを売り始めた。 訳が分からない……。 幼い頃から知っていた人達が知らない人達のようになり、私は部屋へと逃げもどった。

 過剰な喜怒哀楽が怖かった。

 部屋に戻って、ベッドの中に隠れ夜が明けるのを待とうとした。 朝になれば日常が戻ると思ったから。

 でも……残念ながら日常は戻らず、私と両親は最初から存在しなかったかのように扱われた。





「ナンシーをジェフリー様から引き離さなければ!! きっとジェフリー様だって、侯爵夫婦だって食い物にされてしまう。 私が止めないと……」

 強く決意をしたものの……。 最近、侯爵様は私の前に姿を現す事は無くて……どうにかお話するキッカケを……。 そう考えれば、ジェフリー様に押し付けられた課題の情報収集を思い出した。

 論文の課題情報を作らせて、お茶の一杯も出さないと言う事は無いですよね?



 そして、私は翌朝、王立図書館へと向かった。

 大きな鳥の姿に転じて王都の手前に降り立った。

 爵位と関係ない立場、庶民になった時、全てのものはおいて来た。 当然、馬などは持たせてもらえるはずはなくて、私に残されたのは魔法だけ。

 王都の門で今の私を示すもの、首から下げた魔導師の証明書であるネックレスを門番に見せつける。 うんっと門番は頷きアッサリと通すのは月に数回その門をくぐるため。

 同じように王宮図書館も通る事が出来て安堵した。

 すっかり忘れていたわ……。

 王宮図書館が持つ権威と言うものを。
 王宮図書館は知識の宝庫。
 保管されている書物は国の宝。

 かつて獣人国家は国ではなく、ただ同種が集まる集落同士の深い結びつきのみだったと言う。 ソレを国と言う形にしたのは人間の商人であり職人であり魔導師だったと言われ、初代獣人の王は自らが築いたものではないからこそ、その記録の全てを残すべきだと膨大な書籍をここに残したと言われている。

 今回ジェフリー様が課題として選んだのは、経済。 見本とされたのは食料素材をテーマにしたものだった。 麦、とうもろこし、トマト、林檎、色々あるけれどそれぞれの情報が違うだけで書かれている文章は殆ど同じ。

「大雑把だし、退屈な論文ね」

 経済……と言うと……衣食住に嗜好、戦闘、そんなものの生産、流通、消費活動を金銭により調整するシステム。 国の要職につくなら知っておいた方が良いと考えたのかもしれないけれど……。 全てを学ぶには何年もの月日が必要となる。

「う~ん」

 通常なら絶対的に必要な食料に関わるものを選ぶのだけど、金銭流通の大きさを考えるなら嗜好品。 多国との流通を調べるのが面白いと思うのだけど、市場調査が必要となってしまって、ジェフリー様が言っていた期日までには間に合わない。

 となると……。

 衣類、素材の生産、布地にする加工、細工、流行、それを地域的分布と……私は書類を選んでいく。 建造物の進化、快適な住宅も面白いけれど……国の利益をちらつかせるなら衣類、布地を題材に選ぶのが良いでしょう。

 そして私は数冊の本を選び、席を選ぶ。

 木陰に隠れた窓際の席を選んだ。 広い図書館で人はぽつぽつといるだけ。 獣人と言う種族を考えればそう言うものかもしれないし、図書館自体が知識の流布を目的としているのではなく知識の蓄積を目的としているとなれば、こういうものなのかしら?

 積み上げられた書籍に目を通し、題材を選び、必要な情報を箇条書きし、そして厚みを与えて行く。 領地ごとの産業にまで広げるのは、

「今日中には無理ですね」

 ふぅ、と、書籍から顔を上げれば、目の前には体格の良い余り図書館が似合いそうにない男性がいた。

 他にも席があるのに……。

「余りにも真剣だから、何か面白いものでも読んでいるのだろうかな? そう思ったのだが……この席はなかなか良いな」

 程よい木陰で、時折吹き込んでくる風が心地よい事に、あらためて気づいた。 視線をあげ私の見つめる先には、いかにもな肉食獣を連想する黒髪、緑色の瞳をした男性。

「どうかしたか?」

 知らない人……。
 警戒する私を意に介さず彼は金緑の瞳で笑って見せた。

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