婚約者は私から全てを奪った従姉妹との愛を正当化するくせに婚約破棄はしてくれません

迷い人

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15.優柔不断

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 門の前で私は……立ち尽くしていた。

「どいてくれないか、邪魔になる!!」

 厳つい無表情な門番がキツイ口調で言う。 ショックを受けている私の手を取り引っ張られ、手を離されれば、そのまま身体は放り出され湿った地面に膝と両手をついた。

 何が起こったのか?! 私には理解出来なかった。

 屋敷に入れて貰えない……と言うよりも、誰も私も会ってくれないと言う事は今までもあった。 それに、使用人達の私に対する態度を思い出せば……いえ、それでも、これは余りにも酷いわ……。

 不満を口にしようとすれば、

 横合いを走り抜けていった馬車が跳ねた泥で、私を泥色に染めた。

「さっさと行け!!」

 追いたてられるように蹴りがいれられた。

「ぇ? な、何をするのよ!!」

 流石に不満を口にするけれど、門番たちは私を無視し馬車を出迎えて門を再びしめ、彼等が立つべき所定の場所へと戻って行った。

 一体、何があったの?! 愛情、優しさ、そう言うものは本物の親以上に、私の子供部分を救ってくれた、優しくしてくれた相手。

 ジェフリーが冷たくても、可愛い私達の子と夫婦は可愛がってくれた。
侯爵家当主に拒絶されても夫人がいた……。
 こういうのは初めてで、私の中はグルグルと混乱する。

 そこで、撤退する気持ちにはなれなかった。 それでも帰ったふりだけはしなければと、汚れ惨めな恰好でとぽとぽと肩を落としその場を歩き出す。 そうやって歩いている間に、何台もの馬車が屋敷の中に向かって行った。

 最近は頻繁に訪れてはいないけど、それでも、それはオカシイような気がするし、馬車を見て思い出したのは……先日、侯爵家の庭で眠った時、ヒッソリとした馬車の出入りを見た。



 並ぶ木々に身体が隠れた瞬間、小鳥の姿に変じて屋敷の中へと向かって行った。 屋敷の中……夫人の大切な庭園の中には、見慣れない……この国とは違う補助ローブを身に着けた魔導師達。

 彼等の力の程をはかることは出来ないけれど、その人数は多くて安易に近寄る事は避けるしかなかった。 私の魔力を察知すれば、敵として攻撃をしてくるかもしれないのだから。



 魔導師の一部は、植物の成長を促していた。

 植物として成長はするけれど、本来植物が持ち合わせているポテンシャルを薄めている。 もし、薬草を育成するなら、魔力を馴染ませながら効能をアップさせ薄まる効能を調整するべきだと学んでいる。

 敬意を向ける侯爵家とは言え、今、自分ではない何処の誰とも分からない魔導師に頼っている侯爵家の人達に訴える気にはならないと言うもの。

 夫人は、薬草の調合の場にいた。

 そこにも知らない人がいる。 夫人が薬草を分類し割合を調合している横から、知らない人達が調合していく。 力強いソレを見ればその人達の持つ獣人の力を想像できた。

 軟膏状態となった薬は、外から持ち込まれた美しいガラス瓶に詰め込まれていた。



 見た目こそ豪華だけど、内容自体は安っぽい品。

 不安そうな夫人に、大丈夫なのかと、どうしたのかと問いたいけれど、知らない魔導師達が大勢いるのが怖くて積極的には慣れなかった。 侯爵は、当主はどうしたの?? 夫人を愛する彼ならこんな事をさせることはないだろうに。

 オカシイよ。
 話を聞いてよ。

 そんな風に言い出せなかった。

 数日前には、目の前の薬を売り出すために、匂いの相談を受けていたはずだったのに……あの頃の薬なら本当に特別で宝石のように高く売れたと思う。 以前は手荒れを綺麗にするほどの力があったけれど、今は健康な肌に少々の栄養を与えるくらいだと思う。

 私の話を聞いて。

 遠くなった人を眺めた。

 私は呼ばれても居ないのに、相談されても居ないのに、これは違うと言うのは違うだろうと思う。 それでも、門を通してくれたなら、私は家族として夫人に話したかもしれない。

 結局、他人って事かな……。

 優しい婦人を思い出せば切なくて……。

 そして、瓶詰の薬を確認し、周囲に微笑みを向けていた。 やったね!! と手を打ち合わせ、抱き合い、商品が出来たことを喜び合っていた。

 急に孤独が押し寄せて来る。



 戻ろう……。



 小鳥のまま空を飛び帰ろうとする私の元に……ジェフリー様の伝聞鳥が話しかけて来た。

 会いたい……。
 すまなかった。
 力を貸してほしい……。

 会ったのは気まぐれだった。
 侯爵夫婦の愛情を再び得る事が出来る下心があったのかもしれない……。





「魔道具を作って下さい。 魔術式はここにあります」

 待ち合わせのカフェ。

 着ているものは何処か色あせ汚れ皺がより、彼自身からは肉が落ち、目だけがやけにぎらついていた。 

「どうしたんですか?」

「魔道具を作って欲しいと言っている」

 私は残酷だ。 彼を見れば、彼もまた侯爵夫婦からブラウン侯爵家から拒否されているのがわかる。 彼に機嫌を取ってもあの夫婦が親のように、親よりも無責任に、好かれる事だけを求め甘やかすような事はないのは、今の姿を見れば分かる。

 退廃的……それこそ獣らしく……。

 私は首を横に振った。

「なぜ!! 僕の言う事が聞けない!!」

 ジェフリーは大声と共に立ち上がる。
 打ち付けられたテーブルが震えて、カップが落ちた。

「僕は君を愛する事は無いが、僕はナンシーに愛されていなくても彼女を愛して、彼女の望みをかなえる事で幸福を感じる。 君だって、僕と同じように、僕から愛を得られなくとも、僕を愛しているなら僕のために何かをする事を幸福と感じられるはずだ。 これからも婚約者として、将来の夫婦として、僕達の形を作っていけると僕は信じている。 愛する僕のために尽くしてほしい」

「何を言っているのか分からない……」

「なぜ? 今まではそれでうまく言っていた。 僕はそれを改めて言葉にしただけ、それに婚約者なら、僕のために言う事を聞いて当然だろう。 それがお互いの利益になるんですから」

「約束する家も無く、愛情も無いのに何が婚約ですか……」

「分かりました。 婚約を破棄しると言うのなら慰謝料を払って下さい。 僕が納得するだけの慰謝料を頂けたなら、婚約を破棄しましょう。 さぁ、先ずは僕の望みをかなえて下さい」

「馬鹿馬鹿しい……」

 吐き出すように私はいい、その場を立ち去ろうとすれば、手首が無遠慮に掴まれた。 暴力的な魔術は得意ではないし、魔術を構築するまでに暴力の1つでも振るわれればそれでおしまいだ。

 何より……彼は最初から一人では来ていなかったらしく、気づけば周囲を囲む獣の視線。

 そして私は捕らえられ、久々に……両親が祖父母が王都で日々を送っていた場所、屋敷へと3年ぶりに訪れた。 でも……懐かしさよりも不味いと言う思いがあった。

 魔導師一族ゆえに、魔術での逃亡を禁じるお仕置き部屋、魔力を反射する部屋が存在している。

「まずは、依頼した魔道具を作ってもらいます。 材料は既に準備してありますから。 食事は1日2回……睡眠は、まぁ勝手にしてください。 依頼量をこなさない限りは外には出しませんから」

 金属の塊が箱に詰め込まれていた。 ソレを手に取り鋼鉄製の扉に向かって投げつける。

「婚約者って何よ!! 婚約者って……何なのよ……」

 わけがわかんない……。

 不自由でしかないジェフリーが語る婚約というものに苛立ち怒りを覚える。 部屋の壁と扉は魔力を反射させるから攻撃魔術は使えない。 それでも魔道具を作らせることを目的にしているのだから、内部では魔術を使える訳で……逃げる方法はある。

 逃げたら……もう、絶対にもう会わない。 二度と会うものですか!!

 壁際にある鉄格子の明り取り、小鳥にでもなってそこをくぐれば終わる。 何もかも終わる。 過去を捨て去るように終わる。 魔術以外の私の全てが無意味だったのだと終わる。



 鳥に転じる事に……私は、立ち止まってしまうのだ。
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