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21.降り続けていた雨が止む
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雨には魔力が含まれる。
魔力の多い魔導師達にとって雨の日は大敵。
ルルワは、お仕置き部屋と呼ばれた地下牢での生活と、長く打たれた雨、過去との決別と言う精神的負担から熱を出す事になった。
頼る者が居なくなったとルルワは思っているけれど、その不調は隠せるものではなく、小さな小鳥のままモフモフとした毛並で身体を膨らませ眠る。
バタバタと騒々しい音が聞こえるが、周囲で大勢の人が語る声、内容までは理解出来なかった。 優しい指先がそっと首元に触れる。
ぴっ
「大丈夫か?」
バサッと翼を広げて見せた。
戻る事の出来ない姿は小鳥。
私の本質は雨に弱い魔導師。
どれだけ大丈夫だと言っても、獣人であるカイル様にとっては困惑と不安を促すだけらしく、王宮魔導師が呼ばれたらしい事を後で知る。 私は、身体を戻す余力も無く眠っていて、その小さな身体を潰されないようにと、獣に襲われないようにと、美しい鳥籠が準備されそこに雨除けの魔術がかけられた。
「大人しく中に入って休んでおいで」
優しいカイル様の声を覚えている。 だけど、私は大きく硬く傷だらけの手の上から離れたく無くて、指をガッツリと掴み、嘴をひっかけた。
ぴっぴっぴっ、
「仕方ないな」
苦笑交じりだが優しい声、ソレに安堵して私は眠り、気づけば鳥かごの中に入れられていた。 視線をあげればカイル様の姿が見えるデスクの上、私は何度か目を覚まし、そして眠りにつけば、何度も私はカイル様の謝罪を耳にする事になる。
「悪かったな……俺があんなところに置き去りにしなければ、こんな事になる事も無かったのに。 すまなかった」
ハーノイス家は私の生まれ育った家で、ジェフリーは私の……いつかは決別を決意する必要のあった婚約者で、カイル様のせいでは決してない。
ぴよっ、
カイル様のせいではありませんから、お気になさらないで下さい。 そう告げたくても、まだ元の姿に戻る事も出来ない私では、彼に気持ちを伝える事が出来ない。
全部が私の問題ですから。
雨が続く。
シトシトと雨が続く。
雨の日が続く中で日々は過ぎて行く。
過ぎる日々の中で、カイル様は屋敷に居ない事があった。
どうしても仕事に向かわなければいけないのだと、何故か申し訳なさそうに、小さな寂しがりや名子供に言い含めるように彼は熱に眠る私に言って聞かせたのを虚ろながら記憶している。
「飲み物と食事はちゃんと……」
「分かっております、坊ちゃま。 とっとと仕事に向かって下さいませ」
侍女頭に睨まれ、やれやれとカイル様は何処かに向かった。
雨が降る。
大きな気配を持つ彼を追いかける事が出来ない。
その姿も、その気配も雨が邪魔して追えない。
雨の中、私の関係の無い場所で、全てが終わっていた。
3年の間、侵略計画を立てていたハーノイス伯爵、伯父様は……有力な領主だけでなく、王族、王子様まで彼のカジノに招待していたらしい。
【賭け金の清算は絶対に行われるものとする】
魔術による簡易的な契約だけど、ソレを守らなければ契約者の命に係わるものとされていたらしい。 今まで多くの利益を得ていた誰もが満足に契約書を読むことなく、カジノの高揚を前に新たなサインをしていたと言う。
そして招待された王族、貴族は勝負に負け続けた。
そこに恐怖は無く、勝ち続けた過去から勝利を信じて賭け続けていた。
王子と言えば賭け事だけでなく、ツガイを錯覚する薬を酒に混ぜ勧められ、ナンシーとの間に錯覚を覚える事になる……はずだった。 飲んだと思われた薬は、実は飲んだふりでヒッソリと吐き出される。 分かっていれば当然の好意だろう。
だが、
『王子は、ツガイのいる幸福と言うものを疑似的にでも味わってみたいと言う欲求はあったらしいがな』
全てが終わった後でカイル様は語ってくれた。
賭け事の場には、私がお世話になった……ブラウン侯爵家の方々は誰も居なかったと言う事だった。
『あの一族の能力は、国にとって重要だが、その本質を理解していない者は多い。 大切な役目を負えるポテンシャルを持つと言うのに本人達自身理解をしないらしい。 ハーノイス伯爵も同じで彼等を理解していなかったらしい。 ただモグラだと言うだけで、支配を受ける類の存在だと判断しあつかった。 もし、彼等を本当の意味で味方につけたなら戦況は変わっていただろうが、まぁ、こちらにとっては都合が良かった』
彼等はどうなったのか? そんな私の疑問は淡々とカイル様は語った。
カイル様がブラウン侯爵家に接触した時点で、王宮側に……ハーノイス伯爵家の敵として、スパイとして働くよう求めたと言う事だった。 ただし、ジェフリー様は除く。 ジェフリー様はツガイの夢に酔っていたから信頼が出来なかったそうだ。
ブラウン侯爵家の者は、臆病で慎重で身を潜めるのが上手い。
彼等はハーノイス伯爵の行う計画の中に入り込むふりをして情報を集めたと言う事だった。
ハーノイス伯爵が、何処の国と繋がっているか? それはブラウン侯爵家に派遣された魔導師によって、ブラウン侯爵家で作った薬が何処に送られるかによって敵は明確となった。
静かなる戦争と言うには騒々しい結末だったらしい。
高揚と喧騒、そんなカジノの場。
その日、国家反逆に関わる行為に蹴りをつけるため、カイル様は魔術契約を無効とするため神殿の者達、そして自らの部下を率いてハーノイス侯爵家に訪れたと言う事だった。
もしカイル様や神殿の行動がなければ、多くの領主はその領地と爵位を奪われ、国の半分以上は他国のものとなり、もし王子がツガイの薬を口にしていたなら、ツガイに溺れて民の多くを他国の者達と入れ替え国は奪われていたかもしれない。
そして、ハーノイス侯爵とその家族、彼等が連れ込んだ獣人、魔導師達は捕らえられ、そして後に他国との交渉に使う事にするだろうと言う話だった。
伯父……ハーノイス伯爵は……私の両親を事故に見せかけ殺した頃から3年を経過してようやく、その悪事の芽を摘み取られた。
ぴよっ……
私は、どうなるのだろう?
私もハーノイス一族のものだ……。
「君は追放された身だ。 被害者だ。 気にする必要はない。 全てを仕切っていた俺が言っているんだから間違いはない」
そう言われても、私は私の始まりを失った。
私と言う存在の不安定さにぐらつく。
もふっとした毛並が、ぷるぷる震え、その魔力は儚げに拡散されそうになったところで、カイル様が私を両手で包み込むように捕らえた。 捕らえてくれた……。
ぴっぃ
「以前言っただろう? お前はもう俺の家族だ。 特別な存在だ。 安心していい誰にも渡しはしないよ」
優しい声は、私の心を安定させ、魔力を安定させる。
安心していいのかな? 私と彼の間に、何があると言うんだ……不安が拭われるたびに、新しい不安が生まれて来る。
このまま眠りに落ちれば悪夢を見るだろう。
眠りたくない。
愚図る赤ん坊のように、ぷるぷると震え、カイル様の指に身を寄せ、ご機嫌を取るように毛づくろいをするようにその指先をついばんだ。
カイル様は小さく笑う。
「くすぐったいぞ。 なぁ、そんなに不安がるな。 ツガイって何か知っているか?」
ちゅぴっぴぴぴ
不安、不満、ジェフリーとナンシーに植え付けられた嫌な印象、どうせ、小鳥のさえずりしか彼は聞こえないのだからと遠慮なく、ツガイと言うものへの嫌悪を語った。
嫌い嫌い嫌い嫌い、訳わかんない。
「そう言うな」
カイル様は苦笑した。 まるで、言葉が分かっているかのように。
「ツガイは神が与える奇跡で、溺れる事無く、愛情と感謝と理性をもってその奇跡と向かえば、新たな未来が開かれると言われている」
低く穏やかで心地よい声が耳を擽り眠りを誘う。
「愛している、俺の特別な小鳥」
嘴に触れる唇の感触は、残念ながらただ触れたのだなぐらいにしか分からなかった。 それでも私は穏やかな気持ちで眠りに就く事が出来た。
心地よい眠り。
雨は止み、翌日には私は人の姿に戻る事が出来た。
魔力の多い魔導師達にとって雨の日は大敵。
ルルワは、お仕置き部屋と呼ばれた地下牢での生活と、長く打たれた雨、過去との決別と言う精神的負担から熱を出す事になった。
頼る者が居なくなったとルルワは思っているけれど、その不調は隠せるものではなく、小さな小鳥のままモフモフとした毛並で身体を膨らませ眠る。
バタバタと騒々しい音が聞こえるが、周囲で大勢の人が語る声、内容までは理解出来なかった。 優しい指先がそっと首元に触れる。
ぴっ
「大丈夫か?」
バサッと翼を広げて見せた。
戻る事の出来ない姿は小鳥。
私の本質は雨に弱い魔導師。
どれだけ大丈夫だと言っても、獣人であるカイル様にとっては困惑と不安を促すだけらしく、王宮魔導師が呼ばれたらしい事を後で知る。 私は、身体を戻す余力も無く眠っていて、その小さな身体を潰されないようにと、獣に襲われないようにと、美しい鳥籠が準備されそこに雨除けの魔術がかけられた。
「大人しく中に入って休んでおいで」
優しいカイル様の声を覚えている。 だけど、私は大きく硬く傷だらけの手の上から離れたく無くて、指をガッツリと掴み、嘴をひっかけた。
ぴっぴっぴっ、
「仕方ないな」
苦笑交じりだが優しい声、ソレに安堵して私は眠り、気づけば鳥かごの中に入れられていた。 視線をあげればカイル様の姿が見えるデスクの上、私は何度か目を覚まし、そして眠りにつけば、何度も私はカイル様の謝罪を耳にする事になる。
「悪かったな……俺があんなところに置き去りにしなければ、こんな事になる事も無かったのに。 すまなかった」
ハーノイス家は私の生まれ育った家で、ジェフリーは私の……いつかは決別を決意する必要のあった婚約者で、カイル様のせいでは決してない。
ぴよっ、
カイル様のせいではありませんから、お気になさらないで下さい。 そう告げたくても、まだ元の姿に戻る事も出来ない私では、彼に気持ちを伝える事が出来ない。
全部が私の問題ですから。
雨が続く。
シトシトと雨が続く。
雨の日が続く中で日々は過ぎて行く。
過ぎる日々の中で、カイル様は屋敷に居ない事があった。
どうしても仕事に向かわなければいけないのだと、何故か申し訳なさそうに、小さな寂しがりや名子供に言い含めるように彼は熱に眠る私に言って聞かせたのを虚ろながら記憶している。
「飲み物と食事はちゃんと……」
「分かっております、坊ちゃま。 とっとと仕事に向かって下さいませ」
侍女頭に睨まれ、やれやれとカイル様は何処かに向かった。
雨が降る。
大きな気配を持つ彼を追いかける事が出来ない。
その姿も、その気配も雨が邪魔して追えない。
雨の中、私の関係の無い場所で、全てが終わっていた。
3年の間、侵略計画を立てていたハーノイス伯爵、伯父様は……有力な領主だけでなく、王族、王子様まで彼のカジノに招待していたらしい。
【賭け金の清算は絶対に行われるものとする】
魔術による簡易的な契約だけど、ソレを守らなければ契約者の命に係わるものとされていたらしい。 今まで多くの利益を得ていた誰もが満足に契約書を読むことなく、カジノの高揚を前に新たなサインをしていたと言う。
そして招待された王族、貴族は勝負に負け続けた。
そこに恐怖は無く、勝ち続けた過去から勝利を信じて賭け続けていた。
王子と言えば賭け事だけでなく、ツガイを錯覚する薬を酒に混ぜ勧められ、ナンシーとの間に錯覚を覚える事になる……はずだった。 飲んだと思われた薬は、実は飲んだふりでヒッソリと吐き出される。 分かっていれば当然の好意だろう。
だが、
『王子は、ツガイのいる幸福と言うものを疑似的にでも味わってみたいと言う欲求はあったらしいがな』
全てが終わった後でカイル様は語ってくれた。
賭け事の場には、私がお世話になった……ブラウン侯爵家の方々は誰も居なかったと言う事だった。
『あの一族の能力は、国にとって重要だが、その本質を理解していない者は多い。 大切な役目を負えるポテンシャルを持つと言うのに本人達自身理解をしないらしい。 ハーノイス伯爵も同じで彼等を理解していなかったらしい。 ただモグラだと言うだけで、支配を受ける類の存在だと判断しあつかった。 もし、彼等を本当の意味で味方につけたなら戦況は変わっていただろうが、まぁ、こちらにとっては都合が良かった』
彼等はどうなったのか? そんな私の疑問は淡々とカイル様は語った。
カイル様がブラウン侯爵家に接触した時点で、王宮側に……ハーノイス伯爵家の敵として、スパイとして働くよう求めたと言う事だった。 ただし、ジェフリー様は除く。 ジェフリー様はツガイの夢に酔っていたから信頼が出来なかったそうだ。
ブラウン侯爵家の者は、臆病で慎重で身を潜めるのが上手い。
彼等はハーノイス伯爵の行う計画の中に入り込むふりをして情報を集めたと言う事だった。
ハーノイス伯爵が、何処の国と繋がっているか? それはブラウン侯爵家に派遣された魔導師によって、ブラウン侯爵家で作った薬が何処に送られるかによって敵は明確となった。
静かなる戦争と言うには騒々しい結末だったらしい。
高揚と喧騒、そんなカジノの場。
その日、国家反逆に関わる行為に蹴りをつけるため、カイル様は魔術契約を無効とするため神殿の者達、そして自らの部下を率いてハーノイス侯爵家に訪れたと言う事だった。
もしカイル様や神殿の行動がなければ、多くの領主はその領地と爵位を奪われ、国の半分以上は他国のものとなり、もし王子がツガイの薬を口にしていたなら、ツガイに溺れて民の多くを他国の者達と入れ替え国は奪われていたかもしれない。
そして、ハーノイス侯爵とその家族、彼等が連れ込んだ獣人、魔導師達は捕らえられ、そして後に他国との交渉に使う事にするだろうと言う話だった。
伯父……ハーノイス伯爵は……私の両親を事故に見せかけ殺した頃から3年を経過してようやく、その悪事の芽を摘み取られた。
ぴよっ……
私は、どうなるのだろう?
私もハーノイス一族のものだ……。
「君は追放された身だ。 被害者だ。 気にする必要はない。 全てを仕切っていた俺が言っているんだから間違いはない」
そう言われても、私は私の始まりを失った。
私と言う存在の不安定さにぐらつく。
もふっとした毛並が、ぷるぷる震え、その魔力は儚げに拡散されそうになったところで、カイル様が私を両手で包み込むように捕らえた。 捕らえてくれた……。
ぴっぃ
「以前言っただろう? お前はもう俺の家族だ。 特別な存在だ。 安心していい誰にも渡しはしないよ」
優しい声は、私の心を安定させ、魔力を安定させる。
安心していいのかな? 私と彼の間に、何があると言うんだ……不安が拭われるたびに、新しい不安が生まれて来る。
このまま眠りに落ちれば悪夢を見るだろう。
眠りたくない。
愚図る赤ん坊のように、ぷるぷると震え、カイル様の指に身を寄せ、ご機嫌を取るように毛づくろいをするようにその指先をついばんだ。
カイル様は小さく笑う。
「くすぐったいぞ。 なぁ、そんなに不安がるな。 ツガイって何か知っているか?」
ちゅぴっぴぴぴ
不安、不満、ジェフリーとナンシーに植え付けられた嫌な印象、どうせ、小鳥のさえずりしか彼は聞こえないのだからと遠慮なく、ツガイと言うものへの嫌悪を語った。
嫌い嫌い嫌い嫌い、訳わかんない。
「そう言うな」
カイル様は苦笑した。 まるで、言葉が分かっているかのように。
「ツガイは神が与える奇跡で、溺れる事無く、愛情と感謝と理性をもってその奇跡と向かえば、新たな未来が開かれると言われている」
低く穏やかで心地よい声が耳を擽り眠りを誘う。
「愛している、俺の特別な小鳥」
嘴に触れる唇の感触は、残念ながらただ触れたのだなぐらいにしか分からなかった。 それでも私は穏やかな気持ちで眠りに就く事が出来た。
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