婚約者は私から全てを奪った従姉妹との愛を正当化するくせに婚約破棄はしてくれません

迷い人

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23.新しい居場所になり得るか?

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 懐にしまったまま連れていかれたのはカイル様の職場。

 柔軟な筋肉は引き締まり、大きな手や筋張った指は硬く、ふとした瞬間の鋭い眼光、笑った時に覗き見える牙、獣人らしい耳や尾を見せつける事の無い人の姿だけれど、それでも彼が肉食系の獲物を追う側の獣なのだと想像でき、戦闘以外の職務を彷彿される執務室が少しばかり意外に思えた。

 小さなエントランスをイメージする応接室。 応接室に繋がる扉から繋がる部屋は入室者を選別する魔術的な通路。 その通路から分岐するのは側近たちが使う執務室、カイル様の執務室、膨大な量の書類や書籍がある書庫、簡易的なキッチン、魔術処理室。

 騎士として戦う事が彼の仕事だと思っていた私は少しばかり驚いた。 

 それでも同じ建物内は宿舎となっていて出入りの騎士達住まいし、窓から覗き見える外からは騎士達の訓練や、攻撃系魔導師達の訓練が行われており、それは想定内と言えるだろう。

 カイル様の執務室にたどり着けば、待ち構えているように……氷の魔力を帯びながらも獣人を維持していると思われる冷ややかな印象の男性。 魔導師にありがちな年齢不詳の少年魔導師、生真面目そうな女騎士が出迎えた。

 大公閣下の騎士団と言えば、魔導師、獣人入り混じり、獣人の種族にもこだわらない才能が認められれば誰でも部下になれると有名な騎士団であり、雑多でありながらその功績や栄誉は大きいのだと……昔ジェフリーが憧れをもって語っていた事を覚えている。

 だから、無意識に、アノ時の話が物語る先だと思えば、奇妙な高揚感を覚えてしまう。

「いらっしゃい」

 優しく最初に声をかけて来たのは魔導師の少年。 野宿に良い木を庭に持つ屋敷に住まう人物。 初めてカイル様に出会ったのは彼の庭だったの事を思い出す。

 ぴっ、

 カイル様の懐から顔を出し、ぺこりと頭を下げた。

「随分と可愛らしい保存食ですね」

 そう氷の人が少しばかり獣らしい食欲を表に表し笑って見せるから、私は慌ててカイル様の内ポケットに身を隠す。

「サイラスさん、小さな子を虐める者ではありませんよ。 同じ魔術師仲良くしましょうね」

 控えめに笑みを浮かべながら肩を竦める氷の人を諫めて、魔導師の少年は微笑みを向けた。

 ぴよっ

「お茶をしながら、報告会を行いましょう」

 白い髭を蓄えた穏やかな男性が、珈琲の香りと共にやってきた。

 氷を思わせる男性サイラス(孤児院出身)
 魔導師の少年セネル・ランドール(子爵家)
 女騎士キャロル・ドナヒュー(伯爵家)
 執事マイルズ・ストーン(伯爵家)

 この4人がカイル様の側近と呼ばれている人らしい。

 氷の人、サイラス以外は貴族出身だけれど、むしろそのサイラスは一番静かで流麗な所作で動いていた。

 少年に見えるセネルは、あくまで見えるだけ……私が変化を使うように多分、油断を誘うために子供の姿を取っているのだと思う。 独特の魔力の流れが見えた。

 女騎士キャロルは何処までも華々しく、立派で、堂々とした美しさの内側に隠れた強さを持ち合わせ、不機嫌そうにしていた。

 最後のマイルズは、好々爺な印象だけれど……彼のフルネームを聞けば、彼が油断ならない人物だと楽しそうに語っていた祖父との話を思い出した。
 





「毎日、毎日、食事のたびに屋敷に戻るし、夜は眠りに帰る。 何時までそんな無駄な事を繰り返す訳?!」

 不機嫌そうなキャロルはお茶を一気に飲み干して、テーブルの上にドンッと乱暴に置いた。 おやおやとマイルズが新しい珈琲を淹れるのだけど、それはキッチリと半分の量。 ざらざらと大量に入れられる砂糖と、どぼどぼ注がれるミルクは想定済と言う所だろう。

「何時もの仕事量が異常なのですよ。 今は戦時中ではないのですから、常に緊張状態でいるなんて、疲れるばかりですよ」

「だからと言って、仲間同士の交流、友好関係、気持ちを一つにするからこそ私達は強くあれる!! ソレを忘れてはいけない!! そうは思いませんか!!」

 ドンッと空になったカップが再び置かれた。

 次にマイルズが注いだ珈琲の量は、カップ3分の1。

 優雅に紅茶を飲むのは魔導師セネル、そして彼は静かに微笑み囁く。 その声色は穏やかで甘く優しいのだけど言葉は辛辣だった。

「その考え、気持ち悪いですよ」

「だな……一人一人が与えられた仕事をする事が、最終的に結果に繋がる。 私はそうやってきたと思うんですけどね」

「お前達は顔を合わせるたびに、じゃれつかなければ気が済まないのか……」

 やや呆れた様子で言うカイル様だが、その瞬間、声を合わせてサイラスとセネルが言うのだ。

「あんたが(お前が)言うな!!」

「全く、お気に入りの子の前だからって恰好つけやがって」

 サイラスのニヤニヤな様子に穏やかな笑みを浮かべてマイルズが微笑むが、一番ダメージを与えているのも祖父の戦友だったとされるマイルズだ。

「まぁまぁ、生暖かく見守ってまいりましょう。 そう決めたではありませんか」

 ぴよっぴぴっぴより

 音にするとこんな感じだけど、祖父の戦友であれば挨拶をしっかりとしておきたいと言う思いがあって、伝達魔術を使い言葉を伝えた。

『祖父からお噂を色々聞いております。 静かで穏やかな風情に似合わずとても頼りになる方だと、懐かしく語ってておりました。 若輩ものですが私もよろしくしてやってください』

 そう挨拶をする私に、一瞬目を丸くするものの、すぐにマイルズは笑顔になって、私に向かって指を差し出した。 私は握手をするには羽か嘴か足かと少し悩んだ結果、ぽんっと羽根の先端をペシャリと置いた。

 目が緩む。

「あの方の孫と言う割に、随分とお可愛らしい。 きっとお婆様やお母様に似られたのですね」

 ちょっとした棘のような言葉も親しみがこもったものだった。

「ところで体調は? 変化の魔術が使えると言う事は、だいぶ調子がいいのかな? 出来れば色々と魔術について語りあいたいんだけどな。 ハーノイス家は古い魔導師一族の割に表舞台には出てこないからね。 そんな見事な変化を見せつけられれば興味が尽きないよ」

 ぴぴっぷゆっぴっ

『体調の方はまだ、雨の影響を強く受けてしまったのと少しばかり無理をしたので……まだ……姿を変えるのが精いっぱいなんです』

「あぁ~確かに無茶を言っていたからね。 雨続きの中、よく、あれだけのダミー魔術を組み込みながら、魔道具を作る事ができるなんてと思っていたんだ。 アレの事も、ダミーの巧みさだけでなく、成功例も踏まえて語って見たいと思っているんだ。 元気になったら、一緒にお茶をしながら語り合おうね」

 子供……に擬態しただろう彼……セネルは警戒心を抱かせない笑みを浮かべた。

 そんな様子をカイル様は安堵したように私の首元を撫で頭をなで、ふわふわの羽毛をそっと触れている。 そして、そのカイル様を見ながらサイラスは目を細めて薄く笑いながら、場の空気をキリッとした緊張感あるものに切り替えた。

「さて、わざわざチビっ子を連れて来たのには、理由があるのですよね?」



 そして迷いの森の古城に置かれた、手記の事をカイル様は語った。



「森は、チビッ子が入ると道が開くのですか? それともチビッ子が許可した人が入れるのですか?」

 ぴっぴよよ。

「ぴよぴよ、ぴよぴよ不快だ、構って欲しい? 可愛いって思われたい? ちゃんと話してくれませんか!!」

 イラっとした女騎士に言われ、私は困ったなとなる訳で、そんな私に手を貸してくれたのは同じ魔導師のセネルだった。

 通訳が行われる。

「ルルワちゃんが、森に入ると森は開く。 入るのは自由だけれど、招待の無いままだと迷いの魔法で外に放り出されるらしい。 ただ嗅覚が優れた獣人や、魔力的に上位の者なら、突破できてしまうだろうって事らしい。 モルエル国の獣人、魔導師の多くは捕らえたけれど、強い奴らは逃げてしまっているからね~~、どうしようか?」

 セネルが向ける視線はサイラスで、

「少数精鋭が良いでしょうね。 旦那、俺、セネルってところでしょうか?」

「だな」

 うなずくカイル様。



 緩い感じで森へ向かう計画が立てられる中……。
 異物に対する視線を感じとる私は、そっとポケットの中に身を隠す。








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 氷を思わせる男性サイラス(孤児院出身)
 魔導師の少年セネル・ランドール(子爵家)
 女騎士キャロル・ドナヒュー(伯爵家)
 執事マイルズ・ストーン(伯爵家)

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