婚約者は私から全てを奪った従姉妹との愛を正当化するくせに婚約破棄はしてくれません

迷い人

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25.親密度と変化

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 子を残すと言う事は、神の奇跡。

 だと思った。

 獣性のその強さを見たからで別に私が子を作ったとかではない。

 古城からの帰り道、敵を退ける事を優先しながらも、邪魔になる者を薙ぎ払い撃退と言う名の致命傷を与え続けた。 最終的にはイラっとした様子があからさまなカイル様が立ち止まり振り向き、

『追ってこないなら、これ以上しない』

 面倒臭そうにしながら、たぎる血を抑え込み、それでもまだ戦闘の愉悦に笑っている。

『全く、旦那は結局こうなるんだから。 ねぇ、チビちゃんを僕に預けておきなよ』

『嫌だ』

『まぁ、大人しく引いてくれたら良いんですから』

 等と言いながら……大地が氷で埋め尽くされ敵を捕らえて行く様は、なんていっていいのか……。 結局は身動き取れなくなった異国の敵は放置され、足を氷漬けにされた者達は、後で改めて派遣した騎士達に対応させた。

 全部が……ただ縋っているだけも必死だった私のため……。

 それでも、サイラスさんは魔術的能力を生まれつき持っていたと言うし、セネルさんは魔導師な訳で……自分との差と言うものに獣人と人間の大きな差と言うものを感じた。

 魔導師としての人間。
 頑強な力を持つ獣人。

 その血脈を純潔として残す事も、混ぜ合わせる事も全てが神の奇跡なのだと思ったのだ。





 体調が良くない……。
 と言うか、回復が遅いような気がする。



 原因とされるものと言えば、少しばかり(?)の衝撃で、精神的なショックが魔力に影響を与えただけで、身体的には余り問題はないと思う。 それでもカイル様はとても気にかけ、以前よりも側にいる時間が増えていた。

 脳裏に過るのは、嫉妬の色に染まったキャロルさんの瞳。

 戦場にカイル様とカイル様を支える4人の側近、そして従う騎士達。 騎士達から向けられる視線はきっと特別なものだったのだろうと想像できる。

 日常を崩す異物。

 それは伯父一家が我が家にやってきた時に感じた、日常への変革に近いのかもしれない。  そう思えば申し訳なくあり、キャロルさんが可哀そうに思えた。

「お仕事は宜しいのですか?」

 遠回しに私はカイル様に問いかける。

 ベッドで横になる私の側、カウチソファーに優雅に身を預け、凶悪過ぎるほどの野生を中和するための(と侍女頭ベアトリーチェさんが言っていた)眼鏡をかけ、古城から持ち出した数冊の祖父の手記や、ご先祖様の手記、研究記録をカイル様は眺めていた。

「これも仕事だ」

「職場にいれば、あらゆる事に対処できるのではありませんか?」

「そんな事、4人に任せておけばいい。 アレ等はそれぞれ得意とする面が違うのがいい。 お互いを補いあって大抵の事は処理してくれる。 俺がいるよりも余程上手くやるさ」

 手記から視線を上げないまま、カイル様は語っていたが……不意に視線をあげて私を見た。 戦いを前に燃え自信に満ちていた金緑の瞳が不安そうに揺れ動き、ドキッとしてしまう。

 手記を閉ざし、手記を積み上げるために側に置いたテーブルに置き、ゆったりとした獲物を警戒させないためのような静かさでベッドの脇に腰を下ろし、私の頬、首筋を小鳥の時のように撫でた。

「えっ、な、何でしょう」

「俺がいると邪魔か? 身体が休まらないとか」

「いえ、そう言う訳では……ただ、重要な仕事を任せられるような方が、私の体調が悪いからと側にいると言うのが……その……申し訳ないと言うか、プレッシャーと言うか……」

「仕事を押し付け過ぎていた王が全て悪いんだから問題ないさ。 で、俺が居ると嫌なのか?」

 狂暴な獣に懐かれたかのような変な気分は、少しヤバイ。 自分が特別な存在になったかのように思えてしまって……。

 自らの自制心を促さなければと思えば、キャロルさんの顔が思い浮かんだ。
 冷静さを取り戻すために繰り返すのは心の中の深呼吸を繰り返す。

「私は、カイル様と一緒にいるのはとても光栄と思っていますが」

「そう言う堅苦し理由を聞きたい訳ではないのだが」

 溜息交じりの言葉を無視して私は言いたい言葉を続ける。

「その仕事に戻られる事をお勧めします。 その、私が居る事で起こる変化は、日常の変革を嫌う者にとって苦痛でしょうから。 だから、私が来る以前と変わらないように過ごしてはもらえないでしょうか?」

 これを言葉にするのは博打に近かった。

 俺の部下がそんな事を考える訳がないと怒りだしたら?
 そんな風に考えていないと思うが話をしておこう。 なんて言われたら?

 どちらも微妙に困ると言うものです。

「なるほど、そんな馬鹿げたことを言うようなら。 その時に話をつけよう。 今はそんな些末な事よりもお互いを知る事が大事だと思わないか?」

 そう言い寄られては……逆らう事等出来る訳ありません。

「そう、で……すね」

 そう、でしょうかね? 等と言える訳が無い。

 困っている私に気付いてかカイル様は話を変えた。 話を変えたけれどお互いの物理的距離は近いまま……。

「ところで、現ハーノイス伯爵……ノエム・ハーノイスと言う男は、精神感応的な何かを昔から仕えたのか? 手記を読んでいると術と言うような感じがしないのだが」

「えぇ、私も余り詳しい事は知らなかったのですが、サイラスさんの氷のギフト、アレを見て確信しました。 初めて伯父……いいえ、ノエムが生まれながらにして持ち合わせた能力ギフトなのだと。 神に与えられた特別、そんなものがあるのですね」

 そして私が作るようにと言われた魔道具は、彼自身が自らのギフトとも言える力を解析し研究し生み出したものだろうと言う事。 ソレを語れば、なるほどなとカイル様は神妙な顔で聞きながら頷いていた。

「厄介な力ではあるが、逆に言えば彼の責任であると実証するのに都合がいいと言うものだ」

 偉いぞとでも言うように、髪が撫でられ、髪に口づけられる。

 それはとてもくすぐったい。

「そうだ……俺は伝えたくないのだが、セネルが持ち出した魔導書について色々と学びたいと言っていたが、体調が戻ってからで構わないから相手をしてやってもらえないだろうか?」

「はい、私でお力になれるのなら。 ところでセネルさんはその獣人よりの方ですよね?」

「あぁ、どうしても魔導師になりたいと、ヤバイ魔導師の力を借りて魔術を使えるようにしているが、元を正せば完全な獣人だ。 あ~~、その……ルルワもセネルに興味があるのか?」

「ぇ、いえ、違います。 その獣人の方の身体能力が余りにも凄かったので……とはいっても、サイラスさんやセネルさんが純粋な獣人と言っていいのかわかりませんが……」

「まぁ、スペック的には一般の純粋種よりも強くはあるがな。 それが?」

 何処か不満そうなカイル様。

「いえ、強くて、綺麗で……」

 羨ましい? とは少し違う、それは言葉に出来ない感情。

「そこには、俺もいれてもらえるのかな?」

「当然です!! カイル様が一番綺麗でカッコいいです!!」

 私の言葉に少し黙り込み、僅かに頬を染め視線をそらし、ボソリと彼は言うのだ。

「そっか、なら、良かった。 ありがとう……」

「その、話の流れと言うか少しそれると言うか、伺いたいのですが……」

「なんだ?」

 いつの間にか、ベッドの横で添い寝をするような体制を取るカイル様にドキドキしながらも、私は空気を読むことなく聞いてしまうのだ。

「ブラウン侯爵家の方々と言うか当主様は、獣性を捨てようと必死になっておいでですが、私にはカイル様や他の方の獣性による力を見る限り、疎ましく思い放棄しなければと必死になるようなものには思えないのですが……」

「そう……だな……。 俺は奴等とは根本的な部分で違うから何とも言えないが、俺だって人間と交わり獣性を薄めたいと思った事はあるぞ」

 ぇ? と、不思議に思わない訳が無い。
 強くて強くて、そんなカイル様が?

 そんな疑問と共にカイル様を見れば、薄く笑っていた。 僅かに開いた距離を、闇夜に隠れ獲物を狙うような猫のように近寄り、そしてペロリと頬を舐め甘く歯を当ててくる。

 私は真っ赤になって熱が数度上がった気がした。

「強い獣性と言うのは厄介な事もあるからな」

 クスッと笑われれば、からかわれていたのかと思えば恥ずかしくて仕方がない。

「ブラウン家の獣性は、モグラだよな。 サイラスが氷のギフトを受けたように、ブラウン家は血統でその魔法ギフトを受け取っているはずだ。 地下を掘り、土を改良する。 それは国にとってとても役立つ力で、国としてはソレを残し続けて欲しいと考えている。 だからこその侯爵家なんだが……陛下に一度話し合ってもらう必要があるかもしれないなぁ~」

 気づけば私を抱き寄せたカイル様は、まるで慈しむかのように髪を撫でてきていた。 私は……恥ずかしいし、キャロルさんを思えば……逃げるべきだと考えながらも……結局は侍女頭のベアトリーチェさんが来るまで、撫で続けられていたのだった。
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