婚約者は私から全てを奪った従姉妹との愛を正当化するくせに婚約破棄はしてくれません

迷い人

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26.反逆行為

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 1日、1時間、一分、1秒と時が流れ積み重なる。



『俺を知ってくれ』

 何処かふざけたような軽い口調。
 私を眺め見る視線が笑う。

 伸ばされた手。
 指を曲げ、無言で手を重ねろと訴えられ、私はおずおずと手を伸ばす。

 元は伯爵家の娘だけれど……偏屈で魔術ばかりだから社交界に出た事は無い。 社交界を気にしたブラウン侯爵家から、多分最低限の事は学んでいるが、この大公殿下の気まぐれのような優しさに応えられる下地がない自分が、手を重ねる事をためらわせ、僅かに指先を触れ合わせるに留まっていた。

冗談の用に語る真剣な瞳で、

『俺を知ってくれ』

 そうして彼は私の側にいた。

 陛下からの召還だと若い騎士がやってきて彼は若い騎士と共に出かけ、彼を知ると言う事に繋がるのか分からないけれど、私はベアトリーチェさんに獣人の事が書かれた書物を持ってきて貰った。



 わずかに残る不調の痕跡の熱。

 何時もなら魔術の研究に勤しんでいるころあいだけれど、

「まだ、いけません。 大人しくなさっていてください。 余り、心配をさせるようでは、私の美しい毛並みが抜け落ちてしまいますからねぇ~」

 そう、笑いながらベアトリーチェさんは、カウチソファの横にサイドテーブルを置き、お茶と甘い砂糖漬けの入った瓶を置く。

「ベアトリーチェさんの毛並みは、美しいのですか?」

「それはもう、旦那が惚れ込むほどにねぇ~」

 そう笑いながら彼女は言い、彼女と私の2人しかいない部屋で耳に顔を寄せコソコソと話をする。

「お菓子を作った日、晴天の日、美しく花が咲き誇る日、草木が風に揺れる日、旦那は私の毛並みに顔を埋めてうっとりしながら言うんですよ。 これは幸せの香りだねって」

「なんだか素敵ですね」

「えぇ、素敵な旦那なんですよ」

 本当は獣に姿になれるのか? そう聞きたかった。

 昔はもっと獣の姿を取れるものが多いのだと思っていたけれど、書物を読み進めれば分かる。 獣の姿を取れたのは昔であっても一部のものだったのだと。

 どうして彼等ほどの力を、人間と血を混ぜる事で捨てたのだろうか? 疑問に思っていたのだけれど、元々、カイル様やその周囲の方のように力ある人は稀だったのだと、だから誰でも手にする事が出来る魔力を人は求めた。

 そう考えると……ブラウン侯爵家のように確実に獣の力を魔力で補い残している一族は珍しくとても貴重で得難い存在なのだと思えてしまう……。 彼等は獣の血を消したがっているけれど。

 重ねられた書物。
 ページを1枚1枚めくる。
 外から流れ込む風が、私の代わりにページをめくる。

 その風の心地よさに、私はカウチでいつの間にかうたたねしていた。 ふわりと身体の上にかけられる上掛け。 そっと頬に触れる感触、遠慮がちの体温は、きっとカイル様だなと思いながら私は挨拶をすることなく、そのままうたたねしていた。

『俺を知ってくれ』

 繰り返し、繰り返し、彼はヒッソリとそう言っていた。

 指に指を重ね、口づけ……真剣な瞳で見つめ……困ったように微笑みながら。

 カウチソファでうたたねすれば、心地よい風が髪をさらい頬を撫でられ気づけばうとうとしていて、手の中の分厚い書物のページが閉ざされる。

 獣人とは?

 私は夢の中でも考える。

 なぜ、血を混ぜようとしたのか? 過去の人はきっとそこに可能性を見たのだろう。 その可能性が、ブラウン侯爵家の者達や、サイラスさん、セネルさんと思えば、ソレはほんの僅かな奇跡のように思える。 無理に血を混ぜなくても。

『そう、難しいものでもない。 血が濃くなり強くなり過ぎれば、子の数が減って来ている。 俺や王……国の中枢にいる獣人としての血が濃すぎる者は、子を残せはしない。 なのに本能ばかりは強くなる。 だから……』

 ウトウトとする中、何処か辛そうにそんな声を聞いた気がした。





「いけません!! 坊ちゃまに許可なく屋敷に入る等!!」

 ベアトリーチェさんの叫び。

 吹っ飛ばされただろう人が壁にぶち当たり物凄い音を立てる事数分、少しばかりの静けさと、そして再び無遠慮に乗り込む足音。 立ち塞がるベアトリーチェさんと集まる屋敷の者達。

 気になって私もその場を立とうとすれば、くいっと軽く袖が引かれ……そして聞こえる制止する声。

「止めろ!!」

 凛とした厳しい女性の声が、開け放した窓を通し良く聞こえた。

「召喚状だ!! ルルワ・ハーノイスを連行させてもらうぞ!!」

「坊ちゃまに許可を取っていただかないと困ります!!」

「***正式な*****状に文*をつ***?」

 脅すような低い声で言い合う声はぼそぼそと聞こえにくいが、屋敷内を走る重い音だけはしっかりと聞こえていた。 部屋の位置は分かっていないらしく、屋敷の者も教えるつもりはなく、だからと言って大公家の屋敷の者に乱暴を働く事は躊躇われたのか、扉が一つ一つ開かれ確認され私の元に近づいて来た。

 突きつけられる書状。

 法務院の印が押されているが……サインは誰? と言うか……私には政治的分野の知識は皆無で、ソレに対する反論はすぐに思い浮かばなかった。

「魔導師ルルワ・ハーノイス。 国家反逆の罪で連行させてもらう」

 そう語られ、私は首を傾げた。

「なぜ?」

「お前がハーノイス家の者で、現在最も大きな力を持つ魔導師で、法の裏をついて国を乗っ取ろうとしたあのシステムを構築したのが、お前だからだ!!」

 私は肩を竦めて見せた。

 そう言われるだろうと言う事は、カイル様から聞いていた。 そう言われるだろうから先手を打つと言っていたのもまたカイル様で、古城からとって来た祖父の手記のコピーは既に王にまで届けられている。

 ようするに……上と下の行き違い??

 きっと……ついて行ってもそう長くかからずに助けられるだろうと思ったから私はコクリと頷いた。

「そうですか……貴方方のおっしゃっている事は間違いですが、間違いであることを伝えるためについて行きましょう」

 そう語れば兵士達はホッとしていた。

 私自身は魔導師の中でも、戦闘を得意としない方なのだけど、彼等にとってみれば魔導師=破壊行為を行う者なのだろう事は想像ついた。

「逆らう事は許しません!!」

 そんな叫びと共に声と……長い金色の髪が揺らめきながら私に近寄る。

 キャロル・ドナヒューの姿だった。

 ただ……

「ぇ?」

 胸倉を掴まれ物凄い勢いで壁に押し付けられた。

 私に魔封じの手錠をつけようとしていた兵士が驚きながら、私を視線で追っている。

「何を……」

 胸倉が締め付けられ気道が塞がれた。

 美しい金髪が揺れ、金色の瞳はギラギラと燃えている。 以前に見た時と違い、不自然に肉が落ち、目の下にクマがあり、唇も荒れていた。 立っているだけでも猛々しくも美しかった姿の名残はあるけれど、気高さとも言える雰囲気は脱ぎ払われていた。

 手首を使い服を巻き上げ、私の首が締まり……そのまま持ち上げられた。

「首謀者が隠蔽を行う可能性がある!! 書物のたぐいは全て押収せよ!!」

 兵士達に命じる。

 そこにある書物の多くは、王立図書館からカイル様が借りてきてくださったもので、何かの証拠的なものは一切ないと言うのに、意味が分からなかった。

 何をするの? そう問う事も首を絞められていては満足にできなかった。 耳元でささやかれる。

「全ての罪から逃れ国を出ると言うのなら、協力しよう。 かつて、アノ人がそうやって追い詰められ、国を追われたように……次はお前が惨めに生きるといい」
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