婚約者は私から全てを奪った従姉妹との愛を正当化するくせに婚約破棄はしてくれません

迷い人

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27.子供

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 訴えはなされた、連行するから、後は裁きを受けよ。

 そんな事を彼女は言ったが、その憎しみは分かりやすく個人的感情に塗れつつも、私を睨んでいた。

 そう……彼女は最初から私を嫌っていた。

「お前さえ現れなければ……私は、私は幸福でいられたのに!! あの方の唯一無二の女性として!! ずっとずっと仕えてきた。 私は特別だった。 カイル様にとっての特別で、騎士団にとって特別で、私は唯一の存在だった。 だから!! 発情期の訪れと共に幾人もの女が招かれ欲望を満たされたとしても、その欲望の先に私が居なくても、私は私だけが代わる事無く特別だった!! そう思えた!! それが事実だった!! なのに、なのに……ツガイだなんて、そんなふざけた存在に私達の過去を!! 絆を!! 邪魔されるなんて許せない!! その血肉を取り込み……私が、貴方に成り代わってカイル様のツガイになる!!」

 キャロルは壁に叩きつけ押さえ込んでいたルルワの身体を引き寄せ、彼女の獣が牙をむく。

「そんな話見ていない!! 聞いていない!! 何、馬鹿な事を言っているの?! ツガイなんて、そんなの伝説だし、それが血肉を食らえば素質が移動するなんて聞いた事がない!!」

 私が叫べば、

「うるさい!!」

 牙が触れる瞬間……ドンッと何かがぶつかり身体が放り出された。 空気に乗りそのままゆっくりと吹っ飛ばされたかのように……そして、柔らかく私の身体は受け止められる。

 乱れた呼吸と鼓動の音。
 大きな手、熱のこもった呼吸。

「カイル様」

 ボンヤリと私は、私を受け止めた相手を呼んだ。

「悪い遅れた。 と言うか……セネルが悪い」

『酷いなぁ~。 身体を張って必死に頑張ったのにさぁ、それも、僕にすれば好きな女性に嫌われるリスクを負ってだよ』

 空気を振動させ音が作られた。

 その音の主はセネルであり、側にいた黒い大型の猫でもある。

 壁にぶつかり、ずるりと床に座り込んだままのキャロルはショックを露わにしていた。 そして何故か私を抱きかかえているカイル様も同じようにショックを受けている。

「「なんで、そんな恰好をしているんだ!!」」

 その叫びは、キャロルだけではなくカイル様からも発せられたから、私は凄く驚き、セネルは面白くて仕方がないとでも言うように笑っていた。

「な、何?!」

 セネルはフードの中に潜り込み猫から人の姿に戻る。

「私を愛していると言いながら、なぜ、どうして!! 獣の姿をソイツに見せる!! 私への思いは嘘だったのか!! 君まで……その女に誑かされたと言うのか!! どこまで私の居場所をめちゃくちゃにすれば気が済むんだ!!」

 そう叫んだキャロルさんは剣を手に激情のまま私へと振り返るが……私を背後から包み込むように抱きしめているのはカイル様で……眼光厳しく睨みつけていた。

 無言の圧……。
 硬直する状況。

 そんな中、

 お茶と菓子を持ってきたのはベアトリーチェさん……と、カイル様の側近でもマイルズさんだった。 ニコニコと仲睦ましそうに話をしながらケーキタワーに乗った菓子とお茶を運んで来る2人。

 未だ、私を抱きしめたままのカイル様を見上げ顔を覗き込めば、

「あの二人は夫婦だ」

 抱きしめられたまま私はポンッと手を打った。 なるほどねと言う意味を込めてなのだけど、実は凄く羨ましかったと言うのもある。 それだけ素敵な雰囲気だったから。

 ヒッソリ寄り添い、静かに語らい微笑みあう。 劣等感に苛まれる事も無く、相手にマウントを取る事も無く、ただただ二人の周囲の空気は幸福そうだったから。

 ボソリと呟く。

「なんだか、いいなぁ……」

「何がだ?」

「二人が素敵だなって思ったの」

 言えばただひたすら頭が撫でられた。

 そうした横で、キャロルは子供のように嘆き駄々っ子のように暴れていた。 部屋の家具が破壊される様子は冗談のようにしか見えないのだけど、攻撃の矛先が自分ではないと言うのが少しばかりの余裕を生み出してくる。

「どうして、アンタまで!! 私の事を愛しているって言ったくせにぃいいい!!」

「何故、彼女はあんなに怒っているの?」

 自分の事でなくなってしまえば余裕が出ると言うもの。

「動物の姿に変身するルルワにとっては、便利な姿程度の考えなのかもしれないが、獣人の獣姿と言うのは自分の本質を見せつける事で……そうだな、愛していると言う言葉以上の意味を持つ。 こんな自分ではあるけれど好きになってもらえるだろうか? と言う切ない思い。 それに獣姿を見せると言うのは、性的な意味合いも持っている」

「ぇ?」

「いや、流石に魔術による変化と、獣化は違う。 あくまで獣化はその本性をさらけだすことにある訳だし。 それに国ごとの価値観、文化の違いもある。 他所の国の者達は、耳や尾を得意げに見せるが、この国の獣人にとっては……発情し、異性を誘っている風に思えてしまう」

 苦笑いと共に語るカイル様に、私も苦笑いで返した。

 だからジェフリーはナンシーに対して何時も欲情めいた風を見せていたのかと。

「なら、なぜセネルさんは私に獣の姿を見せて下さったのでしょうか? そのセネルさんはキャロルさんをお好きだと……」

「魔術師としての考え方を優先したのかもしれないな」

 苦笑いと共に言う言葉、だけど……嫉妬で泣きわめき暴れるキャロルの姿を見れば……なんとなくなんとなく別の意味があるように思えた。

「キャロルさんって子供ですね」

 私の言葉に、キャロルはピクッと一瞬震えたようになり彫刻のように制止した。

「だって、私が特別でないと嫌だって暴れるなんて、幼い子どもでもここまで酷い事はしませんよ。 カイル様の側近として特別だと言う前に、人格的に未熟と言うのは如何な物でしょうか? カイル様の評判が落ちてしまう事を考えれば……貴方が過去どれほどの功績をあげていたとしても、恥……カイル様にとっても恥ずべき事となります。 見直すべきではありませんか? 生まれ持った能力が高いからと言って我侭な子供のような態度が許されると考えているなら、ダメダメですよね」

「だな」

 カイル様は苦笑いと共に頷いて見せた。

「挙句に、ルルワを陥れるために、ハーノイス伯爵と接触したでしょう? 君の事はその子供っぽい所や、馬鹿なところも込みで好きだけどさ。 今回のはちょっとやり過ぎ。 居場所を失う原因は誰でもない君自身だよ。 少し大人になりなさい」

 そう幼い姿のセネルに見上げられながら言われたキャロルは、うわぁあああああああああと叫ぶかのように空を見上げ口を上げたが、声を出すのは耐えていた。

「セネル、キャロルを任せてもいいか?」

「うん、僕に任せて」

 そう微笑む子供の姿が少しばかり物騒に見えたのは……私の気のせいでしょうか?
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