婚約者は私から全てを奪った従姉妹との愛を正当化するくせに婚約破棄はしてくれません

迷い人

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28.神の獣

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 はぁ……お気に入りになりつつあったカウチソファが壊れている。 しばらく身体を預けたベッド、お茶を楽しんだテーブルセット。 茶器、本、少しずつ私のお気に入りが増やされた棚。 感情的に殴られ、蹴られ、ぶん投げられた壁。

 星を眺め見る事が出来る。

「綺麗な星空だわ」

 カウチソファをズリズリと起こして、壊れたカウチに座り星を眺めた。

「こんな時にも空は綺麗だ」

 色々と壊している中で、図書館から借りた本はキャロルが連れて来た兵士達に退避されていた事で無事だったと言うのは幸いかもしれない。



 元々キャロルさんの様子がおかしかった事で用心はしていたらしく、セネルさんが魔術について最近勉強会をお願いしたいなと言ったのもその一環らしい。

 誰が見ても明らかにオカシイ状況が分かるまで待ってしまった事は、セネルさんだけでなくカイル様からも謝罪をされた。 今度こそ本当に囮に使うような事は最後にすると。

 それで私が役立つと言うなら構わないのに……。



 私がオカシイと言った後、マイルズさんは折角だから今後の方針を決めましょうとカイル様と向かい合っていた。

『ただ強いと言うだけで重要な地位に就く事の問題、確かにルルワさんの言う通りだと……今後、周辺国との協定で戦争が減り、私共の役割が変化していく中、強い者が強い権力を持つ事で正しさを訴えられないと言うのは大きな問題となってくるでしょう。 これを機会に考え直してはいかがでしょうか?』

 そう告げるマイルズの一言によって今後騎士団内で改革が行うとカイル様は宣言された。





 後日の話だけれど……

 その流れのままキャロルさんは騎士団離職が決定され、セネル・ランドールの妻となるため花嫁修業が行われるらしく、国内でも物凄く礼儀作法に厳しいご婦人の指導を受けさせることになるから、獣人としての怪力を封じる&暴力を働けば電気が流れる首輪を作るのに協力して欲しいと言われた。

 後日の話だけあって二人の中で色々と話し合いがなされた……と言うか、騎士団から追放された力の抑制が効かない女騎士と言うのは、なかなか立場的にもろいと言う状況を体験する事になったらしい。 そう……周囲の視線がかなりつらかったそうだ。



 これは後日談。





 うん……暴力はダメ、暴力は……普通にコレは一般人は死ぬレベルだわ。

 溜息をつき、倒れた棚から壊れたポット、カップ、茶葉を取り出し、壊れた部分を魔術出直しお茶をレ始めた。



 カップに温かなお茶が注がれる。
 砂糖もミルクもないけれど、この香りだけでもご馳走だ。



 星を眺めながら、冷たい風に身を任せる。

 カイル様の事を語っていたキャロルの言葉、発情期に女性を招いて……と言うのが少しばかりモヤッとしていて、そのモヤっとした気持ちを消すのに風にあたっていた。

 自分とは全く関係の無い人の女性関係に不満を持って……そうなると私もキャロルも変わらなくなる。 あぁ言うのって違うよね? そう思ったからこそ飲み込まなければいけない。

 こういうときこそ、魔術で全てを忘れるのがいい……。

「部屋に戻ってはどうだ? 夜風は冷たい。 また熱が出るぞ?」

 壊された壁から顔を出し苦笑いするカイル様。

 今はまだ近寄って欲しくはないのだけどなぁ……。 そう言うのも含めてベアトリーチェさんに相談すれば良いのでしょうか?

 モヤッとした気持ちを消そうとしたのに、余計にモヤモヤしてしまう。 ソレを必死に隠したくて指先に魔力を集めて笑って見せた。

「なんだか勿体なくて、構造を理解すれば元に戻す事も出来ますし。 ヒステリックに感情的な人に八つ当たりされてゴミになったでは、この子達も可哀そうですし」

 ペシペシとカウチソファの壊れた部分を軽く叩いて見せれば、割れた破片が形を変え元に戻って行く。 多少日数はかかるけれど治せない事はないでしょう。

「そう言ってくれるなら仕事として頼ませて貰うが、今日の所は部屋に戻ってくれないか?」

 返事を待たずに私は軽く抱き上げられた。

「自分で歩けます」

「こうしたいんだ」

「誰にでもそう言う事を言っているんですか?」

 言葉にしてシマッタと思ってしまった。 冗談のようにからかい言うつもりだったのに……実際には嫉妬の混ざった声になってしまっていた。 もう、余り一緒にいたくない……彼女のような馬鹿げた姿を見せたくない。

 彼女の言う通り他の国の魔導師協会を巡るのも良いかもしれない。

「誰にも言った事ない」

「ぇ?」

「誰にも言った事は無い。 自分で歩けない奴はくたばればいい」

 唖然とした顔でマジマジと見た。

「最前線の戦場、国の中枢、弱いものを庇いながらどうこう出来るものじゃない」

「私だって、庇われる必要なんてありません」

「そう言う風には思えないが? 放っておくとすぐに自虐的に突き進んでいく……自分は何でもできるからと。 だが、付け入る隙があって悪くない。 悪くないが、他の奴にそう言う弱いところは見せて欲しくはない。 なぜ、セネルは獣の姿に?」

 獣人としての変化ではなく、魔導師としてだったのだろうと言ったのは彼だったはずなのに……少しばかり考えこんで私は何となく何となくで返事をする。

「獣人を知りたかったから。 貴方が知って欲しいと言ったから……、本だけでは分からなかったから……ぇ?」

 新しく与えられた部屋にあるカウチソファの上に座らせられ……何かが変わったのを感じとった。

『あぁ』

 次の言葉を促すような言葉は、セネルさんがやっていたように、空気を震わせるような声で、私は驚き振り返る。

 大きめの黒猫を思わせたセネルさんよりも、もっとずっと大きいネコ科の肉食系の獣がゆったりとした動作で歩み寄ってきた。 金緑の瞳が星のように光見つめ、黒い身体からも金緑の淡い光が溢れていて、それはやがて収まっていく。

 セネルさんの時には、あぁこれが獣人が変化する獣の姿なんだと……普通の猫よりも大きくはあったけれど、知性の高い獣と言う印象が強かった。

 だけれど……今、目の前にいるカイル様は全てが違っていた。

 獣以上の獣。
 神に愛されたうえで創造された生物。

 獣人の血が濃いと言う事の意味が初めて分かった気がした。

「どうして……」

 その姿を見せるのかと言う言葉は、神秘的とも呼べる姿を目の当たりにすれば言葉にする事が……おこがましいかのように感じた。 強者、支配者、そう言う言葉が相応しい完璧な獣人。

 セネルさんは、キャロルを馬車に詰め込んだ後、そっと……魔術を使い言葉を伝えて来た。 誰にも聞かれないように、誰にも聞こえないように。

『陛下やカイル様、他に数名の王族の方々は特別でね、だから……子を産む確立を上げるために、多くの女性が招かれる。 獣人も獣人ではないものも色々。 でも、それは彼等の役目で、そこに心がある訳ではないから、誤解、しないでね?』

 と……。

 子供を作りたいと、残して欲しいと言う周囲の気持ちが理解できた。

 ゆったりと近寄って来る獣。

 思わず私はソファから立ち上がり、膝をつき彼と視線を合わせた。 そうしなければいけないのだと……魔導師であるはずの私が思ったのだ。

『怖くはないか?』

「はい」

『触れていいか?』

 するりと身体をすりあわせ、撫でるように私の横を通り過ぎ、まるで握手をするかのように、尻尾がトンッと手に触れた。

『もう少し楽な体勢でいてくれないか?』

 苦笑交じりの音が低い穏やかな鈴の音のように響き、そしてベッドの上に来るようにと前足でトントンと叩く。

「ぇ?」

『安心しろ、発情期でもなければ正気を失い無理やりどうこうする事もない』

「その……」

『なんだ?』

「どうこうとは、その姿でなんですか?」

 ガックリと獣が少し長めの首を項垂れさせるから、何となく申し訳ない気分になって私は大人しく広いベッドの上、その中央に座りこんだ。
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