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17.手に入るなら、ソレでいいのよ!!

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 命を救ったケガからの休暇。
 それは命の危険を伴うものだった。

 そう考えれば、ブラッドリーがラナの側を離れた期間は決して長いとは言い切れなかっただろう。

 それでも……幼い頃からずっと親以上に側にいたラナにとっては、長い時間だったのだ。

「ブラッドリー!!」

 目を覚ますと同時に、その姿を探し……そして返事は直ぐに返された。

「お呼びですか? お嬢様。 朝食の準備が出来ております」

 言われて見ればお腹が空いていて……それでも、昨日の事を思えば恥ずかしさと……できれば先にお風呂に入りたいと言う思いもあって……多分、凄く、微妙な表情になっていたと思う。

 それに気づいたのか、何時もの無表情面でブラッドリーは言う。

「身体の方は、お嬢様が意識を失った後に、拭わせて頂いております。 それはもう、隅から隅まで、なのでご安心してお召し上がってください」

 真剣に言われれば、昨日の事は嘘のようで、でも……話の内容は閨事を示している訳で……羞恥で顔が熱い。

「ちょっと、そう言うのは起きてから風呂に入るから、余計な事はしないで頂戴!!」

「寝苦しいかと考え、失礼させていただきました」

「……恥ずかしいのよ……」

「お気になさらず、もっと恥ずかしい姿を拝見させていただきましたから」

「デリカシーがない!!」

 グズグズとベッドから動かずにいれば、抱き上げられる。

「ちょっ!!」

 食卓へと運ばれ、幅の広い椅子に座らされた。 温野菜のサラダ、オムライス、玉ねぎのスープ、そしてパン。 決して特別な朝食ではないものが、1人分だけ並べられている。

「ブラッドリー、アナタの朝食は?」

「お先に失礼しました」

「……コーヒーだけでも付き合いなさい。 後……明日からはパートナーとして、朝食は共に取りなさい」

「お嬢様……私は、打ち据え捨てられていた存在。 戸籍も無く、お嬢様のパートナーに相応しく等ございません」

「はぁ? 昨日は散々、私にあんなことをしながら!! それに、わ、た、し、は!! 恋人を作りにくい立場にあるのでしょう!! アナタならそんな立場を無視してくれると思ったのよ!!」

「お嬢様をお慕いしてはおりますが、今のお嬢様は小さな頃から私だけを見ていて、他所を見ようとはしていません。 もう少し、世間を見るべきではありませんか? 世の中にはお嬢様を大切にして下さる方が、きっとおいでになるはずです」

「ウルサイ、ウルサイ!! ウルサイ!! 私は、アナタにそうなって欲しいと言っているのよ!! それとも大切にしないって言うの?」

「そうですねぇ……夜は、少しばかり……乱暴になってしまうかもしれません」

「う、ぉ、ぁ……いや、そういう……私は……その、あぁあああ、もう!! ようするに、好きかどうか!! それだけでいいのよ!! どうせ、地位のある人は地位の高さを理由に、うちを食い物にする。 同等の地位であれば、商売をする私を理解しきれず、妻らしくあれ。 そんな風に言われるだろうって言うのは想像できているわ。 どうせ、どうせ、ダメなのよ……だから、大人しく私のパートナーになりなさい……」

 小さな子供の駄々っ子のように言った。

「お嬢様……」

「それとも、アナタは私が嫌いなの? 私はアナタが好きよ!!」

「昨日の事があって、感情が高ぶっているのではありませんか? とにかく、落ち着いて下さい」

「ウルサイわねぇえ!! 嫌かどうかって聞いているのよ!! どうしても嫌っていうなら、アナタが私に相応しい男をつれてきなさい……。 私はアナタを思ってその男と一緒になるわ。 そしてアナタは自分の連れて来た男に責任を取り、昼も夜も側に控えなさい」

「それは……その男性が余りにも可哀そうではありませんか?」

「言いたいのは、ソコじゃない!! アナタは……その、私が他の男として、嫌じゃないの?!」

 今までは、ハッキリと聞くのは、怖かった。
 10歳の年の差。
 出会った頃の年の差を考えれば、何時の間にか仕事に忙しい親の変わりに側にいるようになった事を考えれば、自分はずっと子供で……こんな思いをぶつければ、何処かに行ってしまうのではと思った。

 でも……。

「私はブラッドリーにとって、女なのよね?」

 据えた視線と、覚悟を決めた声で聴けば。

「その通りでございます。 お嬢様。 お嬢様の手を他の男が取り……側で支え、それだけで嫉妬を覚えます……」

 静かに視線を伏せながら、ブラッドリーは言う。

「なら!!」

「少しだけ、お時間を頂けないでしょうか?」

「いや」

「お嬢様……」

「側からいなくなるのは嫌。 不安になるもの……別に……うちは貴族でも何でもない金があるだけの庶民よ。 アナタが何者でも、例え何もでなくてもいいじゃない。 側にいて欲しいのよ……」

「お嬢様……」

 呼ばれる声に視線を上げれば、オムライスがフォークの上に乗せられ差し出されていた。 えっと……口をあけてオムライスを食べれば、ブラッドリーは正面の席を立ち、ラナの横に来て身体を抱き上げ膝に乗せる。

「お嬢様に、そこまで言って頂けるなら、私も覚悟を決めましょう。 ただ……少しお出かけ程度には側を離れさせていただきますけどね」

「いや」

「お嬢様……子供ではないのですよ。 昨日の事が後々、お嬢様の不都合にならないよう、立ち回る必要があるんです」

「昨日の後始末?」

「えぇ……王位継承権1位が居なくなった今、壮絶な王位争いが始まります。 お嬢様の財力を考えれば、ソレを利用しようとする者が現れるでしょう。 中には余り上品ではない手段を使うものもいるはずです。 ですので、その前に先手を打っておきたいのです」

「政治や貴族の事は、良くわからないわ」

「えぇ、ですから。 其方の方は私にお任せ下さい」

「仕方がない事なの?」

「はい、仕方がない事です」

「ソレで私の身が危険に会う事は? アナタが側にいないのは怖いわ」

「護衛を増やしましょう」

「分かったわ……ソレで、アナタが私のものになってくれるなら……我慢する」

「もう少し、お話を聞かないのですか? ……第五王子を王位継承者として推すためお力添えをお願いしたいのですが……?」

「全部任せるわ。 どうせ、聞いても分からないんだもの。 私にできる事は、お金を増やすだけだもの。 それにアナタは私のふりになるような事はしないでしょう?」

 こんな会話の間も、雛鳥のようにブラッドリーはラナの口元に食事を運んでいた。

「世間の事はもう少し疑うべきではございませんか?」

「世間は疑うけど、アナタがいるもの。 私はアナタを信用しているの。 それより……私、デザートが欲しいの」

 ニッコリと笑って見せ、ブラッドリーの頬に手を添えた。

「お嬢様……」

「帰ったら、忙しいのでしょう? もう少し……甘やかしてよ」

「何時も、甘やかしていると思いますが?」

「……」

 無言のまま、ラナは考えこんだ。

「私を……アナタのモノにして欲しいの……」

 唇を寄せ……そして、本当は必要としない、キツイ印象を隠すためだけにしている眼鏡に手をかけテーブルの上に置いた……。

「お嬢様は、本当に淫乱ですね。 食事をしていただけなのに……もう、ここから蜜が溢れ、太腿まで濡らしているじゃありませんか。 何を、想像していたのですか?」

 主従逆転……とでも言うようなその瞬間。
 ブラッドリーの声に甘く怪しい色が混ざり……ラナの心を震わせるのだった。
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