【R18】私との婚約は破棄ですか? では、この書面に一筆お願いします。

迷い人

文字の大きさ
8 / 22

08.それでいいのかと言われれば、それでもいいのだと言うしかない。

しおりを挟む
 大爆笑へのいら立ちで殴ってみたが、ケインはその後も声を抑えながら肩を震わせていた。

 罰の悪そうな顔をするファース様。

 だけど!! 笑われようと、勘違いだろうと、ソレがなんだと言うんですか!! 興味のない、嫌いな男と結婚するぐらいなら、私の恋心を引っ込めて、適当に丸め込んでかくしてしまいましょう。 ガンバレ私、ベンニング公爵家のトップとして、馬鹿なカスペルを横目にどれだけの苦労を重ねてきたか、それら全てが私の力なの! 負けるな私!

「現状、お付き合いされている方が、いえ、思われている方がいないなら、私を助けると思って、条件付きの契約結婚で構いません。 どうか、私と結婚してください」

 淡々となるべく感情を抑えていえば、ファース様の表情にさっきの突発的プロポーズの時には見られなかった動揺が……見えたような気がした。

「だっ」

 ファース様が何かを言おうとしたその瞬間。

「大丈夫ですよ。 ファース様にはこの2年ほどお付き合いしている女性はいません」

 ケインの言葉に何で知っているんだろうと顔を見れば、ファース様はファース様でギョッとした顔でケインを見ていた。

「な、んで……そんなことを知っているんだ?」

「あたり前ですよ。 ファース様、アナタ、ベンニング家の名を使ってはいませんが、公爵家との縁を切った訳ではありませんからね。 本来、アナタがすんなり当主の地位についていてくれれば、俺達はコレほど苦労する必要など分かった訳ですよ。 その意味、分かりますか?」

「……俺が、一族と関係無いからと、相手を選ばず、欲深な女性と付き合ってしまった場合大変なことになると言うことか?」

「えぇ、そういうことです。 カスペル坊ちゃまがもっとまともなら、亡き公爵も公爵家を分裂させるリスクを減らすために除名を願ったでしょうが、何しろ信頼に値しない人ですからねぇ。 カスペル坊ちゃまは、」

 ファース様の視線がチラリと私の頬に向けられているのが分かった。 その目には、罪悪感のような、切なさが見えたような気がした。

 が、気付かないふりを結構する!! 口は悪いし意地悪もするけれど、ケインだけは絶対に私の味方だから。



 私の小さな恋心は、2年前からケインは知っている。

『あぁ、やっぱりイジメられちゃいましたか。 頼んでおいてよかったぁ~。 本当なら俺がおそばに居られればよかったんですけどね』

 と……相手の好意を期待していた私を、速攻叩き潰してくれたんですよねぇ……。 まぁ、その後は失恋したと酷く荒れたものでした……。

 カスペル様の婚約者として社交界に出ておきながら、おかしな話ですけど……いえ、だからこそ早急にケインは私の恋心を叩き潰したのかもしれません。



 そういう経緯があってこその、後押しなんでしょう。



 ケインは、当主問題、婚姻問題を、私の問題から、ファース様への問題へと切り替えて追い込んでいく。 頼もしいと言うか、なんというか……そりゃぁ、最初から恋愛等期待してはいけないことはわかってはいますけど、結婚をまとめるために、わずかながらの恋愛の可能性を薄氷を踏み割るかのごとく潰していません?!

「ケイン、余り追い詰めるものではありません。 今は、他の方と同様に候補者の1人に名乗りを上げて下さるだけでも十分です。 どうか、お願いできませんか?」

 亡き公爵が大好きだった両手を合わせた媚び媚びお願いポーズを上目遣いですれば……視線を逸らされた。

 そっかぁ……ダメかぁ~。
 失敗したかぁ~~~。

 だけどまぁ、想像していなかった出会いで、楽しめたし、良い思い出が出来た事はケインに感謝しましょう。

 そんなことを考えながら、ケインを見れば、向こうもコッチを見ていて、私は偽らない自分の笑みでヘラリと笑って見せた。 ワシワシと頭が撫でられれば、泣きそうになる。

 初恋は実らないとは言うけど、切ないなぁ……。 と、感傷に浸っている私の頭をワシワシし続けるケイン。 編み込まれている髪が大変なんですけど?

 ワシワシしながらケインは再び語りだす。

「ちなみに、今現在求婚を申し込んできているのは、金融事業部で副主任を務めるバフマン君」

 ファース様が、眉間を寄せた。

「エーリク様の息子、外交官を務められているエイリアス様、貿易管理をなされているエドワード様、倉庫管理をなされているエリック様。 そしてブラーム様、ヘリット様、建設部門の監査官をなされているホドフリート君です」

「ちょっと待て……」

「はい?」

「なぜ、既婚者ばかりなんだ!!」

「いえいえ、エドワード様、エリック様は婚約者こそいますが、未婚ですよ。 それに、ブラーム様も愛人と子供は沢山いますが婚姻自体は不公平になるからとされていませんし、ヘリット様は昨年奥様を亡くされております。 で、ホドフリート君は独身です」

 ケインが淡々と告げた。

「いや、ソレでいいのか?」

「それは、まぁ……。 野心のある方は大抵若いうちに婚約者を持ち、婚姻をしているものですからね。 それにこの国では複数の妻を持つことは禁じられていませんから。 仕方がありません。 そこは俺が一生かけてつくすのでティアには我慢してもらいますよ」

 色々思うところはあれど、まぁ……聞き流そうと、私は考えたのですが、ファース様はイラっとした様子で声を少し荒げて、ビクッとした私はケインに寄り添うように逃げてしまう。

「ティアはそういう夫でいいのかと聞いているんだ」

 怒られているのでしょうか?
 オロオロしそうになるが、仕事仕事と自己暗示。

「あ、えっと、まぁ構いませんよ。 婚姻と言っても子供の有無によって何らかの影響が出るという遺言はありませんし。 それに日頃のあの方々の態度を見ている限り、私に手を触れようと言う方はいませんよ。 あははっは、せいぜい殴る時ぐらいじゃないですか?」

 結婚や恋愛なんてのは、大抵は家のために行うものと割り切っているのに、執拗に疑問を呈されてはイライラしてくる。 感情的になってくる。 自棄になって要らぬ言葉を吐いてしまって後悔した。

 そして、後悔しているのに、言葉が止められない。

「覚悟の無い方や、自己意識の弱い方を、今から当主として育てればよいと幼い方を選んだとしても、精神的に支障をきたすだけですからね。 とは言っても、現状名乗り出ている方は、公爵家の事業バランスを大きく崩し、庶民に影響を与えかねない方ばかりなんですよね。 そういう意味では、ヘリット様が一番良い婚姻相手なのですが、何しろ御年80歳を超えていらっしゃるでしょう? 直ぐに次の当主問題が出てくると言うのが頭の痛いところですよ」

 ウンウンと私の言葉にケインはうなずく。

「婚姻はあくまで当主を迎えるために行うものだと?」

 私とケインに苛立ちが向けられた。

 だけど、仕方がないじゃな?
 金も地位も名誉も、ファース様は必要としていない訳でしょう?

 私は静かに大人の顔で、仕事モードで答えた。


「はい、公爵家の事業に問題が起これば、国が傾きかねません。 それほど大きな力を持ち過ぎているがゆえに、必要な手段なのだと理解しております」

 大きな大きな溜息が、ファース様からつかれた。

「もし……」

「はい?」

「俺が夫になったなら、手を出さないと言う選択はないが、それは大丈夫なのか?」

 フェース様が、私に顔を寄せたかと思えば、赤く腫れたままで未だ放置されている頬をペロリと舐めてきた……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

公爵夫人は愛されている事に気が付かない

山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」 「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」 「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」 「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」 社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。 貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。 夫の隣に私は相応しくないのだと…。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...