水精姫の選択

六道イオリ/剣崎月

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 パルヴィとイリアは別々の馬車に乗せられ、首都へとむかうことになった。
 イリアは薬師のテレジアと、パルヴィはヴォルフラムと共に。大型の旅行用馬車は寝台つきで、ヴォルフラムはそこに横になりながら本を読み、パルヴィは反対側の寝台に腰をかけ景色を眺めていた。
 ”見ていて楽しいのか”そう尋ねようとしたヴォルフラムだったが、流れる景色が映し出す光りと陰に照らされた横顔を見て、楽しいことはわかったので、わざわざ尋ねることはしなかった。
 たまにパルヴィが自分の顔を窺っていることにヴォルフラムは気付いていたが、無視をして本を捲り続けた。読んでいるのはパルヴィの故国ビヨルクの歴史書。
 水精にまつわることが書かれているかと目を通すが、どこにもそれらしい記述は見つからないまま、明日には首都にはいるという所までやってきた。
「明日からは馬車の中で寝なくていいぞ」
「……」
 それは明日王に会うことになるということ。
 パルヴィの表情の強ばり具合に笑い出しそうになりながら、新王の大まかな経歴を教えておくことにした。
「パルヴィ」
「はい」
「お前は新王のことどのくらい知ってる?」
「ゲルティ王のお孫さんだってことくらいです」
「まあ、そうだよな。ちなみに、名前は?」
「ジークベルト様だと」
「正解だ。ちなみに年齢は二十一歳で、フェルザー・ジークベルトという。髪は俺と同じ金髪だが、向こうさんは性格がそのまま出てて堅くて尖ってる。ちなみに短髪。ついでにもう一つ教えておくと魔人だ」
「……」
 魔人の称号にパルヴィは目を見開く。同時に瞳の色が緑から紫に変化し、時間が変わったことを告げた。
「性格は自他共に認める面白みのない男……そういえば、お前はゲルティ前王のことはどの程度覚えてきた?」
「ヴェーラの王としか……あと魔人ではないと聞いてきました」
「その通りだな。ゲルティと俺は従兄だ。ゲルティの母親イズベルガと俺の母親リヒャルダはそ王の娘で、姉のイズベルガが婿をとって、生まれた息子ゲルティが王位を継いだ。俺とゲルティ王は二歳しか違わない」
 パルヴィは国を出るとき「父親よりも年上の王」とゲルティのことを聞かされてきた。
「あの……」
「お前の親父さんより俺のほうが年上だよ。俺、幾つくらいに見える?」
 ヴォルフラムはそう言い酒を飲む。
 金色の長髪で、前髪も同じ長さで全てをまとめて後頭部の辺りで一本に結い顔ははっきりとわかる。パルヴィはその顔を正面から見ているのだが、どうにも年齢がわからない。
 決して若くはない、それはパルヴィにも解る。十代や二十代前半の若者の雰囲気はなく、パルヴィの父親と同い年である四十代のような感じもない。
「三十代半ばくらいに見えます」
「今年五十になった」
「嘘……」
「残念ながら本当だ。死んだゲルティは五十二歳、俺の二つ年上。これで俺の方が年上だったら、もっと面白かったかもね」
 ヴォルフラムは若々しいのではなく、年齢が止まってしまっているような感覚を人に与える。
「あの……」
「この若さ、城の魔女たちが言うには、呪いの仕業なんだとさ。俺は魔人として歴代でも五指に入るくらい異形を殺したんだが、あれは殺し初めて間もないころ。そうだな、今のお前よりもまだ若かったか? ……あ、ちなみにお前は十二歳だったよな? パルヴィ」
「はい。十二歳になりました」
「た ぶん十歳くらいの時だ。あの頃は一撃で殺すのに凝っててな、でも腕が未熟で殺しきれなかった。そしたら異形が”呪ってやる”と叫んだんだ。それはそれで終 わった。そんな事も忘れて過ごしていたある日”呪ってやる”と叫んだ異形と同種族の異形が”同属を殺しただろう”とかかってきた。それでどうして解ったの か? 聞いたところ、俺に呪いが掛かっていたから解ったんだそうだ。呪詛の言葉を受けると呪われると魔女でもある伯母イズベルガに聞かされたんで、それか らしばらくの間、一撃で殺さないでなぶり殺しを続けた。助けを求めるのが大半だったが、呪詛を吐いてくれる奴らもいた。そうやって呪われてみて王城に戻っ たら魔女たちが大笑いしてな」
「大笑い? ですか」
 パルヴィの耳からは”なぶり殺し”や”呪詛”という言葉が入っていったが理解できないまま。はっきりと解ったのは大笑いだけ。
「おう、呪われ過ぎて呪いが正しく動かないて。なにより俺は呪いに掛かり辛い上に、掛かったとしても術者の意図に反するように作用する体質だったらしく、そこに滅茶苦茶な呪詛が重なってひどい有様だったらしい」
「あの……」
「それで最後にハイエルフに呪われた。魔力が絶大なあいつの呪いだ、ささやかな呪詛なんざ吹き飛んだり巻き込まれて、そして俺の生来の特質で反作用になってこの状況。ハイエルフとやり合った年齢が三十四歳、だからその年齢に見えるらしい」
「年を取らなくても……いいのですか?」
「とくに困りはしない。なにより年は取らなくても、死ぬことはできる。エルフだって長寿だが殺すことは可能なのと同じようにな」
「あの……公爵閣下は人を殺したこともおありですか?」
「ある。どうした? パルヴィ」
「いいえ。なんでもありません」
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