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17 こんにちは、死ね!
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「なんていうか⋯⋯想像通りだね」
ダンジョンに入る前に、盗賊士ギルドの出張所に行って、これから潜ることを伝えると、とくに止められることもなく受け付けてもらえた。
それからすぐにダンジョンに入った。
入り口付近は冒険者が多かったから、私はミニマップを使って人気のないほうに進む。もちろん、ミニマップにモンスターの影もないことは確認済みだ。
で、肝心のダンジョンはというと、
「あれだね、二画面のゲーム機で、マス目を埋めてくタイプのダンジョンだ」
高さも幅も3メートルくらいの石畳の空間が、果てることなく続いてる。
ダンジョン内はうす明るく、数メートル先までなら見通せる。それより奥は真っ暗だ。
「ミニマップで見ると、本当にマス目になってるね」
ひとマス3メートル四方の碁盤の目が並んでるような配置なのだ。
通路は、その長さを基本単位として伸びてて、曲がり角や十字路も、必ずその基本単位に従って配置されてる。たとえば、この先にある曲がり角は、3ブロック分ーー9メートルくらい先にある。
「天然の洞窟だったら、上り下りもあるし、水がたまってたり天井が低すぎたりして通れなかったりするものだけど」
小学校の修学旅行で有名な鍾乳洞に入ったことがある。
このダンジョンはそれとは異質で、むしろ人工物のようだった。
ダンジョンは人を食うために造られた魔物ーードモさんの言葉を思い出す。
「ううん⋯⋯今それを考えてもしかたないかな。とにかく、コカトリスなんだよね」
石化熱の特効薬であるコカトリスの嘴。
それが今回の目的だ。
「でも、思ったより大変っぽいなぁ。まさか、報告のパーティ以外は迷路とモンスターハウスで足止めされてるとは」
実質、通過者はいないようなものだ。
「とりあえずは、入り口付近で様子見したほうがいいんだっけ。グランドマスターとやらの恩恵が得られるまでは、マップ確認と弱いモンスターとの戦いだね」
そう確認してると、奥のほうからモンスターが近づいてくるのがわかった。
目では見えないけど、ミニマップに赤い光点が表示されてる。
「あはは⋯⋯緊張してきた。ゴブリンはなんとかなったけど⋯⋯」
もちろん、オプションの難易度はビギナー固定である。
現状、それ以外の難易度にする意味がない。
「でも、こういうのは自分から仕掛けたほうが有利だよね。なにもさせずに倒すのが理想。動きを見るのは、もっと慣れてからでいい」
私はゲームが上手くないので、タイミングを合わせてジャスト回避みたいなことはたいていできない。
それをカバーするための先手必勝だ。
私は腰にさした剣を抜き放ち、奥に向かって進んでいく。
すぐに、モンスターの姿が見えるようになった。
モンスターは、身長2メートル半くらいで、毛むくじゃら。
ちょっと猫背で、全体にずんぐりむっくりしてる。
よだれの垂れる口元からは大きな牙がのぞき、長くたくましい腕の先には鋭利な爪が生えていた。
黄色い白目に、赤く光る瞳。
体毛は毒々しい紫色だ。
そう、それは――
(いきなり熊⁉)
かなり強そうなんだけど⁉
熊は、こっちにはまだ気づいてない。
普通に視界に入る距離だと思うのだが。
(あ、そうか。難易度のせいかな)
スニーキングミッションが売りのアクションゲームでは、敵の視界の広さが難易度によって変化する。
難易度が低ければ、絶対見つかってるだろって状況でも、敵がこっちに気づかないことがある。
(これなら楽勝⋯⋯かな?)
私はそっと胸をなでおろす。
(じゃあ、予定通り奇襲、だね)
私は剣を握り直して熊を見る。
と、熊の上に文字のようなものが浮かんでいた。
アドベンチャラー・キラー・ホークヘッド・グリズリー
赤字の文字の下には、HPバーのようなものがある。
左端から途中までが紫で、そこから右端までが水色だ。
(こういうのって、ふつうは赤からだよね。赤、黄色、黄緑、水色、紫⋯⋯みたいな。HPが高くてバー一本に収まらないから⋯⋯)
⋯⋯うん、激烈にイヤな予感がする。
「ひょっとして⋯⋯ネームドモンスター的なやつなんじゃ⋯⋯」
名持ちモンスター。
MMORPGにありがちな、普通のモンスターより強い、特別な名前を持ったモンスターだ。
「あはははっ! や、ヤバいよ!」
私が気づいたときにはもう遅い。
というか、今の笑いで気づかれた。
言われてみればホークヘッド(鷹の頭)なグリズリーが、私のことをギロリと睨む。
そして――
「ベアアアアアアアア!」
ちょっと間抜けな叫び声とともに、私にむかって襲いかかってきた。
ダンジョンに入る前に、盗賊士ギルドの出張所に行って、これから潜ることを伝えると、とくに止められることもなく受け付けてもらえた。
それからすぐにダンジョンに入った。
入り口付近は冒険者が多かったから、私はミニマップを使って人気のないほうに進む。もちろん、ミニマップにモンスターの影もないことは確認済みだ。
で、肝心のダンジョンはというと、
「あれだね、二画面のゲーム機で、マス目を埋めてくタイプのダンジョンだ」
高さも幅も3メートルくらいの石畳の空間が、果てることなく続いてる。
ダンジョン内はうす明るく、数メートル先までなら見通せる。それより奥は真っ暗だ。
「ミニマップで見ると、本当にマス目になってるね」
ひとマス3メートル四方の碁盤の目が並んでるような配置なのだ。
通路は、その長さを基本単位として伸びてて、曲がり角や十字路も、必ずその基本単位に従って配置されてる。たとえば、この先にある曲がり角は、3ブロック分ーー9メートルくらい先にある。
「天然の洞窟だったら、上り下りもあるし、水がたまってたり天井が低すぎたりして通れなかったりするものだけど」
小学校の修学旅行で有名な鍾乳洞に入ったことがある。
このダンジョンはそれとは異質で、むしろ人工物のようだった。
ダンジョンは人を食うために造られた魔物ーードモさんの言葉を思い出す。
「ううん⋯⋯今それを考えてもしかたないかな。とにかく、コカトリスなんだよね」
石化熱の特効薬であるコカトリスの嘴。
それが今回の目的だ。
「でも、思ったより大変っぽいなぁ。まさか、報告のパーティ以外は迷路とモンスターハウスで足止めされてるとは」
実質、通過者はいないようなものだ。
「とりあえずは、入り口付近で様子見したほうがいいんだっけ。グランドマスターとやらの恩恵が得られるまでは、マップ確認と弱いモンスターとの戦いだね」
そう確認してると、奥のほうからモンスターが近づいてくるのがわかった。
目では見えないけど、ミニマップに赤い光点が表示されてる。
「あはは⋯⋯緊張してきた。ゴブリンはなんとかなったけど⋯⋯」
もちろん、オプションの難易度はビギナー固定である。
現状、それ以外の難易度にする意味がない。
「でも、こういうのは自分から仕掛けたほうが有利だよね。なにもさせずに倒すのが理想。動きを見るのは、もっと慣れてからでいい」
私はゲームが上手くないので、タイミングを合わせてジャスト回避みたいなことはたいていできない。
それをカバーするための先手必勝だ。
私は腰にさした剣を抜き放ち、奥に向かって進んでいく。
すぐに、モンスターの姿が見えるようになった。
モンスターは、身長2メートル半くらいで、毛むくじゃら。
ちょっと猫背で、全体にずんぐりむっくりしてる。
よだれの垂れる口元からは大きな牙がのぞき、長くたくましい腕の先には鋭利な爪が生えていた。
黄色い白目に、赤く光る瞳。
体毛は毒々しい紫色だ。
そう、それは――
(いきなり熊⁉)
かなり強そうなんだけど⁉
熊は、こっちにはまだ気づいてない。
普通に視界に入る距離だと思うのだが。
(あ、そうか。難易度のせいかな)
スニーキングミッションが売りのアクションゲームでは、敵の視界の広さが難易度によって変化する。
難易度が低ければ、絶対見つかってるだろって状況でも、敵がこっちに気づかないことがある。
(これなら楽勝⋯⋯かな?)
私はそっと胸をなでおろす。
(じゃあ、予定通り奇襲、だね)
私は剣を握り直して熊を見る。
と、熊の上に文字のようなものが浮かんでいた。
アドベンチャラー・キラー・ホークヘッド・グリズリー
赤字の文字の下には、HPバーのようなものがある。
左端から途中までが紫で、そこから右端までが水色だ。
(こういうのって、ふつうは赤からだよね。赤、黄色、黄緑、水色、紫⋯⋯みたいな。HPが高くてバー一本に収まらないから⋯⋯)
⋯⋯うん、激烈にイヤな予感がする。
「ひょっとして⋯⋯ネームドモンスター的なやつなんじゃ⋯⋯」
名持ちモンスター。
MMORPGにありがちな、普通のモンスターより強い、特別な名前を持ったモンスターだ。
「あはははっ! や、ヤバいよ!」
私が気づいたときにはもう遅い。
というか、今の笑いで気づかれた。
言われてみればホークヘッド(鷹の頭)なグリズリーが、私のことをギロリと睨む。
そして――
「ベアアアアアアアア!」
ちょっと間抜けな叫び声とともに、私にむかって襲いかかってきた。
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