その女剣士は世界を救い、英雄となる。

第25話

「もう行かれるのですか？」

スターリンの立ち去る気配を察したのだろう。

ギルバートが残念そうに尋ねる。

「ああ、おまえも知っているようにこの時期は忙しいからな。ん、ああわかった、すぐ向かう。」

「また、喧嘩ですか？」

ギルバートはスターリンが途中でぼそぼそとやっているのに不審がらずに尋ねた。

仲間から連絡があったのだろう。ルフトに遠く離れた場所から会話をすることのできる能力者がいるということを聞いたことがある。

おそらく、今のがそうなのだろう。

はためには突然壊れたように見えたけど・・・。

どうやらギルバートにはこんなことを見た、または実際に経験があったのだろう。

「そのようだ、じゃあな。今度馬術を教えてくれ」

ギルバートの返事も聞かず、淡々と言うことだけをいって立ち去ってしまた。

「ずいぶんと時間がかかったわね」

「申しわけありません。いつも使っている厩がいっぱいだったものですから遠くまで行っておりました」

「別にかまわないわ、おかげでいい者がみれたから」

「スターリン様のことですか？」

「なかなか察しがいいわね。その通りよ。ところでギル、バガルト・スターリンと知り合いだったんなら教えてくれればいいのに」

「はぁ、すみません。もう私のことなど覚えていらっしゃらないと思ったものですので・・・」

ギルバートが申し訳なさそうに答える。

「どうしてそう思ったの？」

あたしは疑問に思ったことを口にしてみた。

「はい。あれは今から３年前、私が馬術大会に出場するために初めてここに来たときのことです。私は大会の活気・・・といっても今の活気とは比べものになりませんが・・・に怖じけずいてしまい、人のいない場所で黄昏ていたときでした。

『こんなところで何をやっているんだ少年？』

そうスターリン様がお声を掛けてくださったのです。当時より世界一になられ、国王さまのもとで働いて御多忙にもかかわらず、親身に私の話を聞いてくださり、

『チャンスを創るのは神かもしれん、だが自らが望まなければそれも無意味だ。神は道を創るが、通るのは人の意思だろ？うまくは言えんがそういうことだと思う。最後にどうしたいのかは君が決めるしかないんだよ。ギルバート・カイザー』

そう言葉を掛けてくださりました。」

「それで見事に一位を勝ち取ったってわけね」

「はい。未だ信じられませんが・・・」

照れながら、ギルバートが返事をする。でもすごいわね、三年連続馬術一位ってのは伊達じゃないってことか。

「それから後は、一度もスターリン様にお会いできませんでしたから・・・」

「なるほど。それじゃあ向こうが覚えてないと思うのも無理ないわね。でも良かったじゃない？覚えててくれて」

「はい！感激しました」

そうギルバートは喜びを表現した。

「ねぇ、もう入れるの？」

あたしたちは再び世界大会場『W・O・P』に来ていた。あたしが尋ねたのは、試合当日以外は会場に入る事ができないと聞いていたからだ。

「あっ、はい。正確には会場の控え室みたいなところで講習を行うんです」

「講習って？」

「すみません、詳しいことは教えられてないんです・・・」

「そう・・・」

それもそうか、管轄が違うものね。