その女剣士は世界を救い、英雄となる。

第79話

「片付いたのか？」

あたしが涙を流していることが気付かないようにバガルトが尋ねてきた。

「ええ、何とかね」

涙を見せまいと袖で拭ってからそう答える。

「あなたは？」

バガルトは肩を竦める動作をして、

「取り逃がした。瞬間移動を逃げるために使われては打つ手なしだ」

「じゃあ、またこんな騒ぎが起こるの！？」

自然と声が荒がる。

冗談じゃない、あいつのせいでまたキートみたいに訳もわからず苦しむ人が出てきてしまうなんて！あの怪物が
キートの姿を変貌させたという根拠はなかったが、あたしはそのことを疑いもしていなかった。

「まあ、落ち着け。少なくともあいつが再び行動を起こすのには時間がある」

「どういうこと？」

嘘なのか本当なのか、どちらかわからず尋ね返す。

「だいぶ弱らしたからな。いくら人外のものでも回復するのにかなり時間がかかるはずだ」

「そう・・・」

その話を聞いてあたしは、いまだキートに刺さったままになっている剣を丁寧に引き抜いた。

悲しいことに血は一滴たりとも流れでなかった・・・

「どうする気だ？」

黙ってキートを抱え上げたあたしにスターリンが尋ねてくる。

「決まってるでしょ。埋めてやるのよ」

スターリンは暫らくあたしの目を見ていたが、フッと力を抜いて、

「その死体から色々わかるかもしれんが、お前がそこまで言うなら仕方がないな。俺も手伝おう」

「・・・いいの？」

はっきり言ってスターリンのこの言葉には驚いた。

最悪、戦うことも考えていたからだ。

「良くはないが、たまにはいいさ。行くか」

あたしは黙って頷いた。

それは愛想が悪いとかしゃなく声を出すとまた涙が込み上げそうだったからであった。

キート・・・あなたってこんなに軽かったのね・・・



「王様ってのは随分待たせるんだね」

そう文句を言ったのはレベンである。

怪物の襲撃のあった日からもう１週間もたっており、レベンの傷もすっかり治っていた。

「まあまあ、お会いすることが出来るんだから光栄でしょうが」

リリヤがレベンを宥める。

「まったく。あんたたちって緊張感ってもんがまるでないわねー」

自分のことは棚に上げて言いたいことを言ってやった。

すると誰かが肩を叩く、

「ん。ああ、サイカ。どうしたの？」

「あの・・・私なんかが来て本当に良かったのでしょうか？」

「なーに言ってるのよ。あなたはちゃんと王様に認められたんだから、胸を張っていればいいの！」

「・・・はい」

「覇気が足りないわよ！」

「はい！」

「それでよーし！」

あたし、レベン、リリヤ、サイカ、の４人は今、国王の城の応接室にいた。

怪物の襲撃事件の後、あたしたちは、怪我を負っていた人々の手当てを手伝った。

・・・レベンは重傷だから動けなくてバガルトは国王への報告と世界大会のことで手いっぱいだったみたいだけどね。

それで何だかんだで３日くらいたった時かしら、歴史上初めての世界大会の中止が発表されたのは。

それだけでも驚愕に値するというのに、その後の伝令があたしたちをよりいっそう驚かせた。

「バガルト・スターリン、マーヘン・リバース、リリヤ・スタング、レベン・アインターブ、サイカ・インマイア、この５名を英雄と讃え４日後国王様直々の表彰し、感謝の意を示すために盛大な催しを行う」

なーんて言われたもんだから、あたしはびっくりしちゃったわよ。

サイカなんて、その時からビクビクしちゃうし。

そんなこんなで今あたしはここにいるってわけ。

王都はそこらじゅうから集まってきた人でいっぱいだ。

人込みが嫌いなレベンは呻いていたけど・・・。

おそらくあたしたちの姿を今か今かと都中の人たちが広場で待っているだろう。

表彰の後、あたしたちは国王直々にみんなに紹介されるらしい。

コンコン

不意にドアを叩く音がした。

「どうぞ」

レベンが返事をする。

「失礼いたします」

侍女が深々とお辞儀をして入室してきた。

「大変長らくお待ちさせてしまい申し訳ありませんでした。ただ今国王さまの用意が整いましたのでどうぞこちらにお越しください」

そういってあたしたちを促した。

「さぁて、やっと国王さまに会えるね」

うれしそうにレベンが立ち上がった。