痴漢を捕まえたら女の子だったので、好きに触らせてみた結果、私が百合にハマった話。

木立 花音

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最終章「幸せは長続きしないようにできている」

【最後の夜。最後の触れ合い】

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 詩さんが与えてくれた温もりが、私に戦う力をくれた。母さんのせいじゃない。けれど、私が悪いわけでもない。初めてそう思えたんだ。
 混雑している電車の中で、彼女の手を握ったあの日、すべてが始まった。詩さんの指が背中の痣を慈しんだとき、初めて「自分に愛される価値がある」と思えた。
 保護施設で迎える朝。柔らかな朝陽が差しているカーテン越しに、外の景色を見る。木々の葉が、次第に色づき始めていた。心にかかっていたもやが、ようやく晴れてきたように思う。詩さんのおかげで、自分が何をしたいかわかった気がしたから。

 ――私の指先が、詩さんの頬に触れる。柔らかくて、ほのかに温かい。その温もりが、私の心を惑わせる。
 夜の空気は静かだ。詩さんのアパートの寝室には、間接照明の淡い光だけが揺れていた。
 ベッドの上に移動する。詩さんの膝の上に腰を下ろし、対面座位で見つめ合う。彼女の瞳には怖れも迷いもなく、ただ、私を受け入れてくれる優しさだけがあった。
 私の髪を弄んでいた詩さんの手を握る。手のひらに頬を寄せ、彼女の手首に唇を押し当てた。

「今日は私に満たさせて」

 詩さんが頷くのと同時に唇を塞いだ。驚きで見開かれていた瞳が細められて、表情が蕩けていく。彼女の頭を抱えて、唇を強く押し付け合う。唇と歯茎の裏を舐め、舌を絡ませる。引けそうになった彼女の腰に手を回して抱き寄せる。
 お互いの胸が潰れるくらいに密着してキスをしていると、詩さんの身体がぴくんと跳ねて、漏れる吐息と一緒に身体の力が抜けていく。
 感じてくれているのかな?
 これまでは触れることで私が満たされていたけれど、今日は私が彼女を満たしたい。
 キスをしながらブラウスのボタンを一個ずつ外す。脱がせると、彼女のブラが露わになって、生唾を飲んでしまう。今日はすべてが特別だった。

「触れてほしいところ、教えて」

 気持ちいいところ、全部知りたい。
 詩さんが一瞬息を止め、「首筋……」と囁いた。
 首筋へのキスは、『執着』の意味だ。この先どんなことがあろうとも、私は詩さんを愛し続ける。たとえ、結ばれることがなかったとしても。
 首筋に強くキスをする。色白できめ細かい肌が、唇の下でかすかに震えた。ちゅ、ちゅと繰り返される水音と、速く短くなっていく彼女の息遣いに、私の理性が崩れていく。

「詩さんを癒したい。今度は私が」
「次……耳の裏かな」

 詩さんの声はほとんど吐息だ。
 耳へのキスは『誘惑』だ。私は、詩さんとの未来をひそかに夢見ている。彼女が安心できるように、焦らず自分の足元を固めたい。
 柔らかな耳たぶを口に含むと、彼女の吐息が一瞬乱れて肩が震えた。輪郭を舌先でなぞりながら耳元で「好きです」と囁くと、詩さんが「んっ」と気持ちのいい声を漏らして私の頭を両手で抱えるから、もっと気持ちよくなってほしくて耳たぶに何度もキスをした。

「りの……」

 切なげな声で呼ばれると、身体の奥がぎゅっとなる。

「うなじ」

 うなじへのキスは『その人を守りたい』だ。詩さんは、私を守ると何度も言ってくれた。守られてばかりの私でも、できることが何かあるかな。
 背中から両手を回して強く抱きしめる。密着した身体から、熱が、髪の匂いが、息遣いが伝わってきて、全身で詩さんを感じる。
 髪をかき分けうなじに唇で触れると、彼女の身体がわずかに反った。その反応が私に勇気をくれる。
 回していた手を持ち上げて、胸の膨らみのすぐ下で止める。
「ここはいいんですか?」と耳元で囁くと、「バカ」と拗ねた声が返ってきた。
 本当は、触れていた手を滑らせて、このまま下を触りたい。でも、無理やりはしたくなかった。彼女が望むまでそれはしたくない。
 代わりに、鎖骨を唇で挟んだ。この場所は皮膚が薄いので、軽い刺激でリンパの流れを促すと、リラクゼーションに効果がある。強弱を付けてキスするたびに、彼女の吐息が微妙に変化して楽しい。
 着ていた服を全部脱ぎ捨て、二人とも下着とストッキングのみになる。月明かりに照らされた彼女の白い肌は、まるで朝露を湛えた花のようだ。私の指先に溶け、温もりが私の傷を静かに癒す。

 ――なんか、スイッチ入ってきたかも。

 背中に手を回し、体重をかけて彼女をベッドに押し倒す。顔の左右に手をついて見下ろすと、彼女が照れくさそうに笑う。かすかに朱を帯びた頬に、胸の奥がキュッとなった。
「もっと、教えて」と私は囁く。
 次は、脇の下へ。
 そこは、無防備かつ敏感な場所だ。息を吹きかけると彼女の身体が震えた。舌先で触れると、詩さんが「くすぐったい」と甘えた声を上げながら、逃げようとするでもなく身をくねらせて笑うので、調子に乗って脇腹をくすぐる。「あはは、やめてよもう」二人で顔を見合わせて笑った。

「胸」
「やっぱり触ってほしくなったんですね?」

 言葉攻めをしてみたら、「お互い様でしょ?」と返される。そうだね、私も触りたかった。
 胸へのキスは『所有』だ。私は彼女がほしい。
 笑いの余韻が残るうちに、唇をゆっくりと胸元に。柔らかな膨らみのふもとへと到達した。
 膨らみの曲線に沿って唇を滑らせる。そこは普段誰にも触らせることのない、恥ずかしいほど敏感な場所だ。
 乳房を両手で持ち上げる、ためらいながらも、愛を込めて。
 指先に力を込めると、詩さんの呼吸が浅くなる。肌が汗ばんでいく。彼女の胸が上下する様子に、私は自分の身体の火照りを重ねた。熱くなっているのは私? それとも?
 キスを重ねながら徐々に下へ。ストッキングの端に指をかけた。

「脱がしますね」

 ゆっくりとストッキングを下ろしていく。
 黒い生地が詩さんの太ももを滑り落ちると、白いショーツと肌が露わになった。お腹は月光に照らされた湖面のように静かな波を立てている。
 膝を左右に開かせ、その間に身体を滑り込ませた。まるで大切な場所に招き入れられたような、静かな幸福感。
 一緒にお風呂に入ったことがあるので初めて見るわけじゃないけれど、こうして間近で見ると勝手が違う。意識すればするほど鼓動が速くなって、目が離せなくなる。

「汚くないかな?」
「そんなわけない。とても綺麗です」
「綺麗じゃないよ。なんか、恥ずかしい……」

 汚くないか気にするってことは、キスされるのを期待しているってことだ。
 隠そうとした彼女の手を取って、指先に口付けた。

「もっと見せてください」

 手首から肘へ向かって舌を這わせる。彼女の緊張をほぐしたくて、二の腕にもキスをした。

「手首へのキスは『欲望』です」

 囁きながら、もう一度手首に口付ける。私の気持ちが、唇を通して彼女に伝わりますようにと願いながら。
 お腹にキスをして、滑らかな肌の起伏を辿る。へその周りを、円を描くように舌先で撫でると、詩さんがくすぐったそうに身じろぎした。逃げられないように腰に手を回して捕まえて、そのまま彼女のおへそを可愛がった。

「りのっ……」

 上ずった声で呼ばれると、愛しさが泉のように湧いてくる。ここが気持ちいいんだとわかったからには、もっと可愛がってあげなくちゃね。舌先でおへそのくぼみをくすぐると、彼女の身体がぴくんと跳ねた。
 焦らすように緩慢な動きで、唇を下へ滑らしていく。彼女が私の髪に指を絡め、ねだるように腰が動いた。
 わざと動きを止めて見上げると、期待と羞恥で潤んだ瞳が私を見つめていた。
 いいね、その顔。でも、もうちょっとだけ焦らしちゃう。
 肝心なところはスルーして、足先に口付けた。
 足の甲にキスをして、足の指を口に含む。膝の裏から内ももに向かって舌先を這わせると、くすぐったいとさっきまで笑っていた声が、切なさを引き延ばすような薄い吐息に変化した。
 くすぐったいと気持ちいいの境界はどこにあるのだろう。それはわからないが、今、彼女のスイッチが切り替わったのはわかった。
 太ももへのキスは、支配欲の表れだ。私は彼女を支配したい。今、この瞬間だけで構わないから、私のことだけを考えてほしい。
 柔らかいその場所は火照っていて、内側にいくほど温もりが強くなっていく。唇を強く押し当てると、彼女の身体がぴくんと跳ねた。
 太ももに手を添え下着に鼻先を寄せるけど、まだ触れてあげない。
 時間は止まり、部屋は私たちの吐息だけで満たされる。詩さんが、もどかしそうにシーツを握り締めた。
 詩さんの身体で触れていない場所は一つしかない。目を合わせ、どこに触れてほしい? と意地悪な質問をしたあとで、最後の壁をそっと壊した。
 下着の上からキスをする。彼女の身体がわずかに震えた。
 でもその震えは、恐れからくるものじゃない。私たちの心が、共鳴し合っている証なんだ。私は彼女のすべてを受け入れるように、ただそこにいた。
 彼女の温もり、彼女の吐息、彼女の存在そのものが、私の心を満たしていく。
 彼女が両手で、私の頭を愛おしそうに抱え込んだ。

「詩さん、大好き」

 呟きが、涙と一緒に零れる。詩さんが私の頬を両手で包み、額にキスをする。

「私も……りの、大好きだよ」

 彼女の言葉は、まるで夜空に星が降るように響いた。
 今度は私にも触ってほしい。私もすべてを見せるから、私の存在をまるごと抱きしめてほしい。
 彼女の指が、私の温もりをたどる。絡み合った指先で、互いの愛を交換し合った。
 この温もりが、母の冷たい手も過去の傷も、すべてを塗り替えていく。
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