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第11話 仕事の終わり、値札のついた男
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第11話 仕事の終わり、値札のついた男
朝の空気は、まだ少し冷たかった。
ハローワークの前の歩道には、同じような年齢の男たちが立っている。
誰もあまり目を合わせない。
恒一はスーツの襟を整える。
「……久しぶりだな」
就職活動という言葉を、口に出すと少し苦かった。
自動ドアが開く。
中は暖房が効いていて、少し古いカーペットの匂いがした。
番号札を取る。
**42番**
電子掲示板の数字がゆっくり変わる。
「……41番の方」
恒一は呼ばれる。
窓口の若い職員がパソコンを見ながら言う。
「希望職種は?」
「営業です」
「営業経験は?」
「四十年」
職員が顔を上げる。
「……管理職ですか」
「はい。営業部長でした」
職員は少し考える。
キーボードを打つ音。
カタカタ。
「ただ……」
恒一は眉を上げる。
「この年齢だと」
言葉を選ぶ。
「管理職求人は、ほぼありません」
恒一は笑う。
「そうですか」
「現場職なら」
「現場?」
「はい」
恒一は小さく頷く。
「……わかりました」
---
一週間後。
面接。
小さな会議室。
蛍光灯の白い光。
向かいに座る男が履歴書を見る。
「営業部長」
「はい」
男は聞く。
「現場作業はできますか?」
恒一は答える。
「できます」
「パソコンは?」
「基本操作なら」
男は頷く。
「周囲に指示される立場でも大丈夫ですか?」
恒一は一瞬だけ止まる。
かつて自分が部下に言っていた言葉。
**「指示に従ってください」**
その言葉が、今は自分に向けられている。
恒一は言う。
「大丈夫です」
男は履歴書を閉じる。
「検討します」
その言葉の意味を、恒一は知っていた。
---
三回目の面接。
四回目。
五回目。
結果は同じだった。
帰り道、コンビニのガラスに映る自分を見る。
スーツ。
だが肩は少し落ちている。
「……歳か」
小さく言う。
---
ある日、電話が鳴る。
「立石さん?」
「はい」
「マンション管理会社です」
恒一は背筋を伸ばす。
「管理員の仕事ですが」
少し間。
「よろしければ」
恒一はすぐ言う。
「やります」
電話を切る。
部屋は静かだった。
恒一は窓を見る。
「……決まった」
その声は、少しだけ軽かった。
---
初日。
制服を渡される。
グレーのジャケット。
帽子。
恒一は更衣室の鏡を見る。
「……きついな」
腹が少し出ている。
袖も短い。
鏡の中の男は、思ったより老けていた。
六十五歳。
恒一は帽子を被る。
「まあ」
肩を回す。
「仕事だ」
---
マンションのエントランス。
朝の光がガラスに反射する。
掃除用具の匂い。
モップ。
雑巾。
恒一は床を拭く。
水の音。
シャッシャッ。
通り過ぎる住民。
一人が言う。
「ああ、管理人さん」
恒一は頭を下げる。
「おはようございます」
男は軽く頷くだけ。
恒一は少し苦笑する。
かつては
**「立石部長」**
今は
**「管理人さん」**
名前も知られない。
---
午後。
エントランスの電灯が切れている。
住民の女が言う。
「これ、つかないんですけど」
恒一は脚立を持ってくる。
「見てみます」
ネジを外す。
金属の匂い。
新しい電球を入れる。
パチン。
光がつく。
女が言う。
「助かりました」
その言葉は短かった。
だが、少し温かい。
恒一は言う。
「いえ」
脚立を畳む。
---
夕方。
小さな子どもがエントランスで泣いている。
「お母さん……」
恒一はしゃがむ。
「どうした」
子どもは涙を拭く。
「迷った」
「何号室?」
「……わかんない」
恒一は笑う。
「おじいちゃんと探すか」
子どもが聞く。
「おじいちゃん?」
恒一は少し笑う。
「まあ、似たようなもんだ」
一緒にエレベーターに乗る。
ドアが閉まる。
静かな箱の中。
子どもが言う。
「ありがとう」
その言葉が、少し胸に響く。
---
仕事が終わる。
外に出る。
夕焼けが空を赤く染めている。
空気が少し冷たい。
恒一は歩く。
ポケットに手を入れる。
マンションの灯りが後ろで点く。
ふと立ち止まる。
夕焼けの光が目に入る。
恒一は小さく言う。
「……肩書がなくても」
風が吹く。
街の匂い。
遠くで電車の音。
恒一は続ける。
「仕事ってあるんだな」
その言葉は、夕焼けの空に溶けていった。
朝の空気は、まだ少し冷たかった。
ハローワークの前の歩道には、同じような年齢の男たちが立っている。
誰もあまり目を合わせない。
恒一はスーツの襟を整える。
「……久しぶりだな」
就職活動という言葉を、口に出すと少し苦かった。
自動ドアが開く。
中は暖房が効いていて、少し古いカーペットの匂いがした。
番号札を取る。
**42番**
電子掲示板の数字がゆっくり変わる。
「……41番の方」
恒一は呼ばれる。
窓口の若い職員がパソコンを見ながら言う。
「希望職種は?」
「営業です」
「営業経験は?」
「四十年」
職員が顔を上げる。
「……管理職ですか」
「はい。営業部長でした」
職員は少し考える。
キーボードを打つ音。
カタカタ。
「ただ……」
恒一は眉を上げる。
「この年齢だと」
言葉を選ぶ。
「管理職求人は、ほぼありません」
恒一は笑う。
「そうですか」
「現場職なら」
「現場?」
「はい」
恒一は小さく頷く。
「……わかりました」
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一週間後。
面接。
小さな会議室。
蛍光灯の白い光。
向かいに座る男が履歴書を見る。
「営業部長」
「はい」
男は聞く。
「現場作業はできますか?」
恒一は答える。
「できます」
「パソコンは?」
「基本操作なら」
男は頷く。
「周囲に指示される立場でも大丈夫ですか?」
恒一は一瞬だけ止まる。
かつて自分が部下に言っていた言葉。
**「指示に従ってください」**
その言葉が、今は自分に向けられている。
恒一は言う。
「大丈夫です」
男は履歴書を閉じる。
「検討します」
その言葉の意味を、恒一は知っていた。
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三回目の面接。
四回目。
五回目。
結果は同じだった。
帰り道、コンビニのガラスに映る自分を見る。
スーツ。
だが肩は少し落ちている。
「……歳か」
小さく言う。
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ある日、電話が鳴る。
「立石さん?」
「はい」
「マンション管理会社です」
恒一は背筋を伸ばす。
「管理員の仕事ですが」
少し間。
「よろしければ」
恒一はすぐ言う。
「やります」
電話を切る。
部屋は静かだった。
恒一は窓を見る。
「……決まった」
その声は、少しだけ軽かった。
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初日。
制服を渡される。
グレーのジャケット。
帽子。
恒一は更衣室の鏡を見る。
「……きついな」
腹が少し出ている。
袖も短い。
鏡の中の男は、思ったより老けていた。
六十五歳。
恒一は帽子を被る。
「まあ」
肩を回す。
「仕事だ」
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マンションのエントランス。
朝の光がガラスに反射する。
掃除用具の匂い。
モップ。
雑巾。
恒一は床を拭く。
水の音。
シャッシャッ。
通り過ぎる住民。
一人が言う。
「ああ、管理人さん」
恒一は頭を下げる。
「おはようございます」
男は軽く頷くだけ。
恒一は少し苦笑する。
かつては
**「立石部長」**
今は
**「管理人さん」**
名前も知られない。
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午後。
エントランスの電灯が切れている。
住民の女が言う。
「これ、つかないんですけど」
恒一は脚立を持ってくる。
「見てみます」
ネジを外す。
金属の匂い。
新しい電球を入れる。
パチン。
光がつく。
女が言う。
「助かりました」
その言葉は短かった。
だが、少し温かい。
恒一は言う。
「いえ」
脚立を畳む。
---
夕方。
小さな子どもがエントランスで泣いている。
「お母さん……」
恒一はしゃがむ。
「どうした」
子どもは涙を拭く。
「迷った」
「何号室?」
「……わかんない」
恒一は笑う。
「おじいちゃんと探すか」
子どもが聞く。
「おじいちゃん?」
恒一は少し笑う。
「まあ、似たようなもんだ」
一緒にエレベーターに乗る。
ドアが閉まる。
静かな箱の中。
子どもが言う。
「ありがとう」
その言葉が、少し胸に響く。
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仕事が終わる。
外に出る。
夕焼けが空を赤く染めている。
空気が少し冷たい。
恒一は歩く。
ポケットに手を入れる。
マンションの灯りが後ろで点く。
ふと立ち止まる。
夕焼けの光が目に入る。
恒一は小さく言う。
「……肩書がなくても」
風が吹く。
街の匂い。
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「仕事ってあるんだな」
その言葉は、夕焼けの空に溶けていった。
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