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第17話 苺と練乳
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第17話 苺と練乳
朝の空気は、まだ冬の匂いが残っていた。
アパートの階段を降りると、コンクリートがひんやりしている。
息を吐くと、白く曇った。
恒一はポケットの中で指をこすった。
「……風邪には」
小さく呟く。
「ビタミンCだろ」
誰に言うでもない。
病院へ行く前に、スーパーに立ち寄ることにした。
---
自動ドアが開く。
野菜売り場の冷たい空気。
水の霧が細かく漂っている。
苺のコーナーが赤く光っていた。
パックに並ぶ、小さな赤い粒。
「……お」
恒一は手に取る。
つやつやした苺。
指先にひんやりした感触。
甘い香りがほんのり漂う。
「志保、苺好きだったな」
ぽつりと言う。
志保はよく練乳をかけて食べていた。
皿に並べて、
「贅沢ね」なんて笑っていた。
恒一は苺をじっと見る。
「……ビタミンC」
言い訳みたいに呟く。
隣に練乳のチューブが並んでいる。
白いチューブ。
赤いキャップ。
恒一はそれを持ち上げる。
「……これもいるな」
カゴに入れる。
カタン。
その音が妙に軽かった。
---
レジの前。
店員が苺をスキャンする。
ピッ。
「いちご、598円です」
恒一は少し目を丸くする。
「……高いな」
店員が笑う。
「旬ですから」
恒一は苦笑する。
「そうか」
袋に入れる。
ビニールがカサカサ鳴る。
苺の甘い匂いが袋の中から漂う。
恒一は袋を持ち上げる。
「……よし」
---
病院へ向かう途中、コンビニに寄る。
ドアのチャイム。
**「いらっしゃいませー」**
店内のコーヒーの匂い。
揚げ物の油の匂い。
恒一は棚を見る。
紙皿。
プラスチックフォーク。
「……いるな」
紙皿のパックを手に取る。
軽い。
カサッ。
フォークも取る。
レジに持っていく。
店員の青年が聞く。
「温めますか?」
恒一は笑う。
「紙皿温めたら燃えるだろ」
青年が苦笑する。
「ですよね」
レジの機械が鳴る。
ピッ。
「302円です」
恒一は財布を出す。
硬貨の音。
チャリン。
袋を受け取る。
「どうも」
外に出る。
風が少し冷たい。
だが、袋の中の苺が重く感じる。
---
病院の廊下。
白い壁。
消毒液の匂い。
恒一は袋を持って歩く。
足音がコツ、コツと響く。
病室の前で立ち止まる。
「……苺か」
小さく笑う。
ノックする。
コンコン。
「どうぞ」
志保の声。
カーテンを開ける。
志保がベッドに座っている。
グレーのカーディガン。
昨日買ったやつだ。
恒一が言う。
「土産」
袋を持ち上げる。
志保が首をかしげる。
「また?」
恒一は袋から苺を出す。
赤いパック。
志保が笑う。
「苺?」
「ビタミンC」
恒一は得意げに言う。
志保は笑う。
「誰に聞いたの」
「俺の常識」
袋から練乳も出す。
志保は目を丸くする。
「……練乳まで?」
恒一は紙皿を出す。
「コンビニ」
志保は吹き出す。
「あなた」
「ん?」
「準備いいわね」
恒一は言う。
「昔は何もしてなかったからな」
紙皿に苺を並べる。
赤い粒。
白い練乳。
甘い匂いが広がる。
志保がフォークを取る。
一口食べる。
もぐもぐ。
「……甘い」
恒一は聞く。
「うまいか」
志保は頷く。
「うん」
それから言う。
「久しぶり」
恒一は苺を一つ取る。
口に入れる。
酸味。
甘み。
「……うまいな」
志保が笑う。
「でしょ」
病室の窓から光が差し込む。
苺が赤く光る。
志保が言う。
「ねえ」
「ん?」
「あなた」
少し考える。
「こういうこと、前は絶対しなかった」
恒一は笑う。
「そうだな」
志保はフォークを置く。
「でも」
恒一を見る。
「悪くない」
恒一は苺をもう一つ食べる。
甘い。
胸の奥が少し温かい。
恒一は小さく言う。
「……風邪には」
志保が笑う。
「ビタミンC?」
恒一は頷く。
「そう」
二人で苺を食べる。
白い病室。
赤い苺。
甘い匂い。
その時間は、静かで、
少しだけ優しかった。
朝の空気は、まだ冬の匂いが残っていた。
アパートの階段を降りると、コンクリートがひんやりしている。
息を吐くと、白く曇った。
恒一はポケットの中で指をこすった。
「……風邪には」
小さく呟く。
「ビタミンCだろ」
誰に言うでもない。
病院へ行く前に、スーパーに立ち寄ることにした。
---
自動ドアが開く。
野菜売り場の冷たい空気。
水の霧が細かく漂っている。
苺のコーナーが赤く光っていた。
パックに並ぶ、小さな赤い粒。
「……お」
恒一は手に取る。
つやつやした苺。
指先にひんやりした感触。
甘い香りがほんのり漂う。
「志保、苺好きだったな」
ぽつりと言う。
志保はよく練乳をかけて食べていた。
皿に並べて、
「贅沢ね」なんて笑っていた。
恒一は苺をじっと見る。
「……ビタミンC」
言い訳みたいに呟く。
隣に練乳のチューブが並んでいる。
白いチューブ。
赤いキャップ。
恒一はそれを持ち上げる。
「……これもいるな」
カゴに入れる。
カタン。
その音が妙に軽かった。
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レジの前。
店員が苺をスキャンする。
ピッ。
「いちご、598円です」
恒一は少し目を丸くする。
「……高いな」
店員が笑う。
「旬ですから」
恒一は苦笑する。
「そうか」
袋に入れる。
ビニールがカサカサ鳴る。
苺の甘い匂いが袋の中から漂う。
恒一は袋を持ち上げる。
「……よし」
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病院へ向かう途中、コンビニに寄る。
ドアのチャイム。
**「いらっしゃいませー」**
店内のコーヒーの匂い。
揚げ物の油の匂い。
恒一は棚を見る。
紙皿。
プラスチックフォーク。
「……いるな」
紙皿のパックを手に取る。
軽い。
カサッ。
フォークも取る。
レジに持っていく。
店員の青年が聞く。
「温めますか?」
恒一は笑う。
「紙皿温めたら燃えるだろ」
青年が苦笑する。
「ですよね」
レジの機械が鳴る。
ピッ。
「302円です」
恒一は財布を出す。
硬貨の音。
チャリン。
袋を受け取る。
「どうも」
外に出る。
風が少し冷たい。
だが、袋の中の苺が重く感じる。
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病院の廊下。
白い壁。
消毒液の匂い。
恒一は袋を持って歩く。
足音がコツ、コツと響く。
病室の前で立ち止まる。
「……苺か」
小さく笑う。
ノックする。
コンコン。
「どうぞ」
志保の声。
カーテンを開ける。
志保がベッドに座っている。
グレーのカーディガン。
昨日買ったやつだ。
恒一が言う。
「土産」
袋を持ち上げる。
志保が首をかしげる。
「また?」
恒一は袋から苺を出す。
赤いパック。
志保が笑う。
「苺?」
「ビタミンC」
恒一は得意げに言う。
志保は笑う。
「誰に聞いたの」
「俺の常識」
袋から練乳も出す。
志保は目を丸くする。
「……練乳まで?」
恒一は紙皿を出す。
「コンビニ」
志保は吹き出す。
「あなた」
「ん?」
「準備いいわね」
恒一は言う。
「昔は何もしてなかったからな」
紙皿に苺を並べる。
赤い粒。
白い練乳。
甘い匂いが広がる。
志保がフォークを取る。
一口食べる。
もぐもぐ。
「……甘い」
恒一は聞く。
「うまいか」
志保は頷く。
「うん」
それから言う。
「久しぶり」
恒一は苺を一つ取る。
口に入れる。
酸味。
甘み。
「……うまいな」
志保が笑う。
「でしょ」
病室の窓から光が差し込む。
苺が赤く光る。
志保が言う。
「ねえ」
「ん?」
「あなた」
少し考える。
「こういうこと、前は絶対しなかった」
恒一は笑う。
「そうだな」
志保はフォークを置く。
「でも」
恒一を見る。
「悪くない」
恒一は苺をもう一つ食べる。
甘い。
胸の奥が少し温かい。
恒一は小さく言う。
「……風邪には」
志保が笑う。
「ビタミンC?」
恒一は頷く。
「そう」
二人で苺を食べる。
白い病室。
赤い苺。
甘い匂い。
その時間は、静かで、
少しだけ優しかった。
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