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第18話 雑誌三冊
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第18話 雑誌三冊
朝の空気は少し乾いていた。
病院へ向かう途中、駅前の小さな本屋の前で恒一は足を止めた。
ガラス越しに雑誌が並んでいる。
色の明るい表紙。
笑顔の女性。
大きな文字。
恒一は腕を組む。
「……何か持っていくか」
昨日は苺だった。
今日は何にするか考えていなかった。
志保は病院のベッドの上で、わりと退屈そうにしていた。
テレビを見てもすぐ消して、窓を見ていた。
恒一は呟く。
「暇だろうと思って……」
自分に言い訳するみたいに。
ドアを押して店に入る。
チリン、と小さなベルが鳴る。
紙の匂い。
インクの匂い。
暖房の温かい空気。
恒一はゆっくり雑誌コーナーへ行く。
女性誌の棚。
色とりどりの表紙。
恒一は一冊手に取る。
**『素敵なあの人』**
表紙の女性は笑っている。
明るい服。
恒一はページをめくる。
パラ。
春のカーディガン。
靴。
ストール。
「……服の雑誌か」
志保は服が好きだった。
買い物に付き合わされたことを思い出す。
「これ似合うと思う?」
そう聞かれても、恒一はいつも
「いいんじゃないか」
としか答えなかった。
恒一は表紙を見る。
「……今なら」
少し笑う。
「ちゃんと見るかもな」
カゴに入れる。
---
隣の棚。
**『ハルメク』**
健康特集の文字。
恒一は開く。
ページいっぱいの見出し。
**「60代からの体の整え方」**
「……これは」
少し苦笑する。
志保は健康情報をよく読んでいた。
「塩分控えめにしないと」
「野菜食べて」
「歩きなさい」
恒一はそのたびに
「うるさいな」
と言っていた。
今は、自分が健康の本を読んでいる。
恒一は小さく呟く。
「……逆だな」
それもカゴに入れる。
---
もう一冊。
落ち着いた表紙。
**『サライ』**
渋い写真。
古い町並み。
日本酒。
恒一はページをめくる。
静かな写真。
古い宿。
温泉。
職人。
「……これは」
少し気に入る。
志保と旅行に行ったのは、何年前だろう。
思い出す。
海。
温泉。
浴衣。
志保が笑っていた。
恒一はカゴに入れる。
「三冊か」
自分で言って、少し笑う。
---
レジ。
店員の女性が雑誌を重ねる。
「プレゼントですか?」
恒一は少し考える。
「……まあ」
女性が言う。
「素敵ですね」
恒一は苦笑する。
「そうか?」
「きっと喜びますよ」
レジの音。
ピッ。
ビニール袋がカサッと鳴る。
恒一は袋を持つ。
雑誌の重み。
紙の重み。
「どうも」
外に出る。
風が少し冷たい。
袋の中で雑誌が揺れる。
恒一は言う。
「……暇つぶしには」
少し笑う。
「なるだろ」
---
病院。
廊下。
白い床。
消毒液の匂い。
恒一はドアをノックする。
コンコン。
「どうぞ」
志保の声。
カーテンを開ける。
志保がベッドで雑誌を見ている。
昨日のカーディガン。
「また来たの?」
「来た」
恒一は袋を出す。
「土産」
志保は眉を上げる。
「また?」
袋から雑誌を出す。
三冊。
志保が驚く。
「……雑誌?」
恒一は言う。
「暇だろうと思って」
志保は一冊取る。
**『素敵なあの人』**
表紙を見る。
「……これ」
少し笑う。
「私、前よく読んでた」
恒一は言う。
「そうなのか」
志保はページをめくる。
パラ。
「このブランド懐かしい」
「ほら」
ページを見せる。
「このコート」
恒一は覗く。
「似合いそうだな」
志保は止まる。
少し驚く。
「……あなた」
「ん?」
「ちゃんと見てる」
恒一は笑う。
「今はな」
志保は次の雑誌を取る。
**『ハルメク』**
「健康特集?」
「風邪だからな」
志保は笑う。
「気遣い?」
恒一は肩をすくめる。
「一応」
最後の一冊。
**『サライ』**
志保が言う。
「渋い」
恒一は笑う。
「俺の趣味」
志保はページをめくる。
温泉の写真。
志保がぽつりと言う。
「……旅行」
恒一は聞く。
「行きたいか」
志保は少し笑う。
「元気になったらね」
恒一は頷く。
「そうだな」
窓から光が差す。
雑誌の紙が光る。
志保は言う。
「ねえ」
「ん?」
「ありがとう」
恒一は言う。
「どういたしまして」
志保は雑誌を抱える。
「これ、読むの楽しみ」
恒一はその様子を見て、少し安心する。
袋の中はもう空だった。
だが、胸の中は少しだけ満たされていた。
朝の空気は少し乾いていた。
病院へ向かう途中、駅前の小さな本屋の前で恒一は足を止めた。
ガラス越しに雑誌が並んでいる。
色の明るい表紙。
笑顔の女性。
大きな文字。
恒一は腕を組む。
「……何か持っていくか」
昨日は苺だった。
今日は何にするか考えていなかった。
志保は病院のベッドの上で、わりと退屈そうにしていた。
テレビを見てもすぐ消して、窓を見ていた。
恒一は呟く。
「暇だろうと思って……」
自分に言い訳するみたいに。
ドアを押して店に入る。
チリン、と小さなベルが鳴る。
紙の匂い。
インクの匂い。
暖房の温かい空気。
恒一はゆっくり雑誌コーナーへ行く。
女性誌の棚。
色とりどりの表紙。
恒一は一冊手に取る。
**『素敵なあの人』**
表紙の女性は笑っている。
明るい服。
恒一はページをめくる。
パラ。
春のカーディガン。
靴。
ストール。
「……服の雑誌か」
志保は服が好きだった。
買い物に付き合わされたことを思い出す。
「これ似合うと思う?」
そう聞かれても、恒一はいつも
「いいんじゃないか」
としか答えなかった。
恒一は表紙を見る。
「……今なら」
少し笑う。
「ちゃんと見るかもな」
カゴに入れる。
---
隣の棚。
**『ハルメク』**
健康特集の文字。
恒一は開く。
ページいっぱいの見出し。
**「60代からの体の整え方」**
「……これは」
少し苦笑する。
志保は健康情報をよく読んでいた。
「塩分控えめにしないと」
「野菜食べて」
「歩きなさい」
恒一はそのたびに
「うるさいな」
と言っていた。
今は、自分が健康の本を読んでいる。
恒一は小さく呟く。
「……逆だな」
それもカゴに入れる。
---
もう一冊。
落ち着いた表紙。
**『サライ』**
渋い写真。
古い町並み。
日本酒。
恒一はページをめくる。
静かな写真。
古い宿。
温泉。
職人。
「……これは」
少し気に入る。
志保と旅行に行ったのは、何年前だろう。
思い出す。
海。
温泉。
浴衣。
志保が笑っていた。
恒一はカゴに入れる。
「三冊か」
自分で言って、少し笑う。
---
レジ。
店員の女性が雑誌を重ねる。
「プレゼントですか?」
恒一は少し考える。
「……まあ」
女性が言う。
「素敵ですね」
恒一は苦笑する。
「そうか?」
「きっと喜びますよ」
レジの音。
ピッ。
ビニール袋がカサッと鳴る。
恒一は袋を持つ。
雑誌の重み。
紙の重み。
「どうも」
外に出る。
風が少し冷たい。
袋の中で雑誌が揺れる。
恒一は言う。
「……暇つぶしには」
少し笑う。
「なるだろ」
---
病院。
廊下。
白い床。
消毒液の匂い。
恒一はドアをノックする。
コンコン。
「どうぞ」
志保の声。
カーテンを開ける。
志保がベッドで雑誌を見ている。
昨日のカーディガン。
「また来たの?」
「来た」
恒一は袋を出す。
「土産」
志保は眉を上げる。
「また?」
袋から雑誌を出す。
三冊。
志保が驚く。
「……雑誌?」
恒一は言う。
「暇だろうと思って」
志保は一冊取る。
**『素敵なあの人』**
表紙を見る。
「……これ」
少し笑う。
「私、前よく読んでた」
恒一は言う。
「そうなのか」
志保はページをめくる。
パラ。
「このブランド懐かしい」
「ほら」
ページを見せる。
「このコート」
恒一は覗く。
「似合いそうだな」
志保は止まる。
少し驚く。
「……あなた」
「ん?」
「ちゃんと見てる」
恒一は笑う。
「今はな」
志保は次の雑誌を取る。
**『ハルメク』**
「健康特集?」
「風邪だからな」
志保は笑う。
「気遣い?」
恒一は肩をすくめる。
「一応」
最後の一冊。
**『サライ』**
志保が言う。
「渋い」
恒一は笑う。
「俺の趣味」
志保はページをめくる。
温泉の写真。
志保がぽつりと言う。
「……旅行」
恒一は聞く。
「行きたいか」
志保は少し笑う。
「元気になったらね」
恒一は頷く。
「そうだな」
窓から光が差す。
雑誌の紙が光る。
志保は言う。
「ねえ」
「ん?」
「ありがとう」
恒一は言う。
「どういたしまして」
志保は雑誌を抱える。
「これ、読むの楽しみ」
恒一はその様子を見て、少し安心する。
袋の中はもう空だった。
だが、胸の中は少しだけ満たされていた。
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