復讐のレシピ

復讐のレシピ

水を張ったガラスの中で
白い根がほどけていく

光の方へ伸びるそれを
私は、ただ見ていた

---

「これは食べられるのか?」

誰かがそう言った気がする

でも私は
答えなかった

---

台所には
似た形のものが並んでいた

細くて
白くて
静かに命を含んでいるもの

どちらが食べられて
どちらが死を運ぶのか

私は知っていた

---

でも
教えなかった

---

鍋の中で
香りが立つ

油と熱と
刻まれた何かの匂い

それはいつも通りで
だからこそ
何も変わらなかった

---

名前を書いた夜

紙の上に並ぶ文字は
ただの記号のはずなのに

指先が少しだけ震えた

祈りでもなく
呪いでもなく
ただ
終わってほしかっただけ

---

食卓には
湯気が上がる

誰も疑わず
誰も確かめず
当たり前のように口に運ぶ

その一口の奥にあるものを
誰も知らない

---

私はいなかった

だから
止めることもできなかった

---

朝になっても
誰も起きてこない

静かな家に
残るのは匂いだけ

あの夜の
あの鍋の
あの選ばれなかった言葉の

---

後から知った

あれは毒だったらしい

でも
私は何もしていない

---

ただ

知っていて
何もしなかっただけだ

---

ノートを開く

余白はまだ残っている

書くべきかどうか
分からないまま

私はペンを置いた

---

復讐は
火でも刃でもなく

たぶん

沈黙のかたちをしている
24h.ポイント 2,337pt
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小説 541 位 / 219,852件 現代文学 10 位 / 9,235件

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