13 / 46
災難
しおりを挟む
新天地での初めての朝。
何か話声が聞こえた気がしてノエルは目が覚めた。
しかし隣にアランの姿がなかった。
「気のせいかな」
一階のキッチンに向かうとアランは食事の用意をしてくれていた。
食卓に昨日買ってきたパンとチーズ、ハムを並べ、お湯を沸かしてくれているところだった。
「おはよう、もう少しゆっくりしていても大丈夫だよ」
「おはよう。なんか話声が聞こえた気がしたんだけど気のせいだったみたい」
「いや、オムロから言付けをもってきてくれたんだ」
オムロはラクロワからメローランド国への荷運びの仕事があったらしく、他の護衛とともに帰国するとの事だった。
そしてなんとあのエミリーがラクロワのギルドで待ち構えていたという情報を知らせてくれた。
エミリーは本気でアランと一緒にメローランド国へ戻るつもりで待っていたらしい。
アランが帰国しないことを聞くと荒れていたから気をつけろと忠告してくれたのだ。
「オムロさんから? なんだって?」
「ああ、うまく仕事も見つかったしこれから出立するって挨拶だ。あとエルによろしくって」
アランは不快なエミリーの情報は話さなかった。
「オムロさん律儀な人だね。向こうまで何事もなければいいんだけど」
「もう盗賊はいないし他の護衛と一緒とのことだ。大丈夫さ」
「それなら安心。オムロさんもすごく強かったしね。あ、食事の用意してもらってありがとう。僕がしなきゃならないのに」
ノエルはテーブルの上を見てお礼を言った。
「大したものは出来ないけどね」
「僕は火も起せないもの。アランにこんなことまでさせてごめんなさい。早く信頼できるメイドを雇用するようにするから」
「気にしないでいいよ。いつもやっていることだ」
「ありがとう。勢い勇んで国を飛び出してきたくせに情けない。アランがいてくれなかったら僕早々に立ち行かなくなってたかも」
「それでも一人で異国の地で生活する決断をしたんだから自信を持っていい。ほんと、その行動力や決断力を尊敬する。だから事業も成功を収めてきたんだろう」
「……そうかな。仕事するしか能がない堅物で、可愛げも面白みもないけどね」
ノエルは自虐するように笑った。
「はは、そういう奴は見る目がないんだよ。俺には優秀で努力家でかわいくてとても魅力的にしか見えないけど」
「……え?」
ノエルは、慣れない誉め言葉に顔を赤くした。
嘘でも、気を使ってくれたのだとしてもなんて温かい言葉をかけてくれるのだろう。
今までどれだけ頑張っても褒められたり感謝されることもなく当たり前のように搾取され続けてきたノエル。自信と自尊心を失い冷え固まっていた心がほぐれていくようだった。
「あ、ありがとう」
「たった数日の付き合いでも人となりはわかる。もう一つ分かることは君は頑張りすぎたんだよ、他人のために」
「え?」
「親のために、妹のために、婚約者のために。もっと自分を甘やかしていいんだから」
「そうしないと居場所がなかったから……」
「これからは俺が甘やかすことにするから」
アランはノエルの手を取り、その甲にキスをした。
「なっ! アラン!」
ノエルは真っ赤な顔になりうろたえた。
「ははは。俺の決意表明だよ。じゃあ、朝ご飯を食べたら早速街にいこう」
それからは毎日、買い物に出たり、お茶や食事に出たりとアランは街を案内してくれた。
腕を出しエスコートをしてくれる。人混みではすっと肩を抱いて安全な方に寄せてくれる。
そして疲れてないか、欲しいものはないかと常に気を配ってくれる。
着替えの手伝いまでしようとしてくれるのには驚き、固辞したが本当はうれしかった。
アランはノエルをノエルとして見てくれる。
過剰とも思えるほど甘やかし、人に頼ってもいいのだという事を教えてくれた。
元婚約者と家族に傷つけられたぼろぼろの心がアランのおかげで少しづつ回復していくようだった。
家事全般をこなしてくれているアランに教えてもらいながら、ノエルも少しずつ慣れない家事を何とか覚えようと頑張る生活が4日ほど経った頃、訪問者があった。
「誰だ?俺が出るから。」
予定のない訪問者にアランが警戒する。
ドアを開けると、ある貴族の使いだった。
「こちらにアルフレッド様はいらっしゃるでしょうか。手紙を主人から預かってまいりました。返事をもらってくるよう言い付かっておりますので待たせていただきます」
「……わかった」
一瞬眉をひそめたアランだったが手紙を受け取ると中を確認し、
「今日の午後に伺うと伝えてくれ。それから……」
後半は使いに耳打ちをした。
「かしこまりました。では失礼いたします」
使いが帰っていくとアランは大きくため息をついた。
「どうしたの?」
「ああ、古い友人に俺が帰ってきたことが知れたようだ」
「お友達?」
「ああ。まったくどうして知ったのか……めんどくさいけど放っておくとさらにうっとうしいことになりそうだから会いに行ってくる。一緒に行かないか?」
「ありがとう。でも久ぶりなんでしょう? また今度紹介してもらうから今日はゆっくりしてきてね」
「ああ。じゃあ、しっかり戸締りして。帰りに食べるもの買って来るよ」
アランが家を後にすると、ノエルはまだ慣れない家をゆっくりと歩き回り壁や柱を撫でてまわった。そうして自分の気を家になじませると、慣れて居心地がよくなり早くこの家に愛着がわくような気がした。
そうして一通り家の中を回った後は覚束ない手つきで覚えたてのお茶を入れ、一息ついた。
殺風景な部屋を見渡しながら、絵画や調度品などもう少し購入して少しづつ居心地の良い家にしていこうとわくわくしていると、玄関の方でノックが鳴った。
こっそりと他の窓からのぞいたところそこには女性護衛のエミリーともう一人知らない男が立っていた。
何か話声が聞こえた気がしてノエルは目が覚めた。
しかし隣にアランの姿がなかった。
「気のせいかな」
一階のキッチンに向かうとアランは食事の用意をしてくれていた。
食卓に昨日買ってきたパンとチーズ、ハムを並べ、お湯を沸かしてくれているところだった。
「おはよう、もう少しゆっくりしていても大丈夫だよ」
「おはよう。なんか話声が聞こえた気がしたんだけど気のせいだったみたい」
「いや、オムロから言付けをもってきてくれたんだ」
オムロはラクロワからメローランド国への荷運びの仕事があったらしく、他の護衛とともに帰国するとの事だった。
そしてなんとあのエミリーがラクロワのギルドで待ち構えていたという情報を知らせてくれた。
エミリーは本気でアランと一緒にメローランド国へ戻るつもりで待っていたらしい。
アランが帰国しないことを聞くと荒れていたから気をつけろと忠告してくれたのだ。
「オムロさんから? なんだって?」
「ああ、うまく仕事も見つかったしこれから出立するって挨拶だ。あとエルによろしくって」
アランは不快なエミリーの情報は話さなかった。
「オムロさん律儀な人だね。向こうまで何事もなければいいんだけど」
「もう盗賊はいないし他の護衛と一緒とのことだ。大丈夫さ」
「それなら安心。オムロさんもすごく強かったしね。あ、食事の用意してもらってありがとう。僕がしなきゃならないのに」
ノエルはテーブルの上を見てお礼を言った。
「大したものは出来ないけどね」
「僕は火も起せないもの。アランにこんなことまでさせてごめんなさい。早く信頼できるメイドを雇用するようにするから」
「気にしないでいいよ。いつもやっていることだ」
「ありがとう。勢い勇んで国を飛び出してきたくせに情けない。アランがいてくれなかったら僕早々に立ち行かなくなってたかも」
「それでも一人で異国の地で生活する決断をしたんだから自信を持っていい。ほんと、その行動力や決断力を尊敬する。だから事業も成功を収めてきたんだろう」
「……そうかな。仕事するしか能がない堅物で、可愛げも面白みもないけどね」
ノエルは自虐するように笑った。
「はは、そういう奴は見る目がないんだよ。俺には優秀で努力家でかわいくてとても魅力的にしか見えないけど」
「……え?」
ノエルは、慣れない誉め言葉に顔を赤くした。
嘘でも、気を使ってくれたのだとしてもなんて温かい言葉をかけてくれるのだろう。
今までどれだけ頑張っても褒められたり感謝されることもなく当たり前のように搾取され続けてきたノエル。自信と自尊心を失い冷え固まっていた心がほぐれていくようだった。
「あ、ありがとう」
「たった数日の付き合いでも人となりはわかる。もう一つ分かることは君は頑張りすぎたんだよ、他人のために」
「え?」
「親のために、妹のために、婚約者のために。もっと自分を甘やかしていいんだから」
「そうしないと居場所がなかったから……」
「これからは俺が甘やかすことにするから」
アランはノエルの手を取り、その甲にキスをした。
「なっ! アラン!」
ノエルは真っ赤な顔になりうろたえた。
「ははは。俺の決意表明だよ。じゃあ、朝ご飯を食べたら早速街にいこう」
それからは毎日、買い物に出たり、お茶や食事に出たりとアランは街を案内してくれた。
腕を出しエスコートをしてくれる。人混みではすっと肩を抱いて安全な方に寄せてくれる。
そして疲れてないか、欲しいものはないかと常に気を配ってくれる。
着替えの手伝いまでしようとしてくれるのには驚き、固辞したが本当はうれしかった。
アランはノエルをノエルとして見てくれる。
過剰とも思えるほど甘やかし、人に頼ってもいいのだという事を教えてくれた。
元婚約者と家族に傷つけられたぼろぼろの心がアランのおかげで少しづつ回復していくようだった。
家事全般をこなしてくれているアランに教えてもらいながら、ノエルも少しずつ慣れない家事を何とか覚えようと頑張る生活が4日ほど経った頃、訪問者があった。
「誰だ?俺が出るから。」
予定のない訪問者にアランが警戒する。
ドアを開けると、ある貴族の使いだった。
「こちらにアルフレッド様はいらっしゃるでしょうか。手紙を主人から預かってまいりました。返事をもらってくるよう言い付かっておりますので待たせていただきます」
「……わかった」
一瞬眉をひそめたアランだったが手紙を受け取ると中を確認し、
「今日の午後に伺うと伝えてくれ。それから……」
後半は使いに耳打ちをした。
「かしこまりました。では失礼いたします」
使いが帰っていくとアランは大きくため息をついた。
「どうしたの?」
「ああ、古い友人に俺が帰ってきたことが知れたようだ」
「お友達?」
「ああ。まったくどうして知ったのか……めんどくさいけど放っておくとさらにうっとうしいことになりそうだから会いに行ってくる。一緒に行かないか?」
「ありがとう。でも久ぶりなんでしょう? また今度紹介してもらうから今日はゆっくりしてきてね」
「ああ。じゃあ、しっかり戸締りして。帰りに食べるもの買って来るよ」
アランが家を後にすると、ノエルはまだ慣れない家をゆっくりと歩き回り壁や柱を撫でてまわった。そうして自分の気を家になじませると、慣れて居心地がよくなり早くこの家に愛着がわくような気がした。
そうして一通り家の中を回った後は覚束ない手つきで覚えたてのお茶を入れ、一息ついた。
殺風景な部屋を見渡しながら、絵画や調度品などもう少し購入して少しづつ居心地の良い家にしていこうとわくわくしていると、玄関の方でノックが鳴った。
こっそりと他の窓からのぞいたところそこには女性護衛のエミリーともう一人知らない男が立っていた。
1,659
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された悪役令息は隣国の王子に持ち帰りされる
kouta
BL
婚約破棄された直後に前世の記憶を思い出したノア。
かつて遊んだことがある乙女ゲームの世界に転生したと察した彼は「あ、そういえば俺この後逆上して主人公に斬りかかった挙句にボコされて処刑されるんだったわ」と自分の運命を思い出す。
そしてメンタルがアラフォーとなった彼には最早婚約者は顔が良いだけの二股クズにしか見えず、あっさりと婚約破棄を快諾する。
「まぁ言うてこの年で婚約破棄されたとなると独身確定か……いっそのこと出家して、転生者らしくギルドなんか登録しちゃって俺TUEEE!でもやってみっか!」とポジティブに自分の身の振り方を考えていたノアだったが、それまでまるで接点のなかったキラキライケメンがグイグイ攻めてきて……「あれ? もしかして俺口説かれてます?」
おまけに婚約破棄したはずの二股男もなんかやたらと絡んでくるんですが……俺の冒険者ライフはいつ始まるんですか??(※始まりません)
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー
エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。
生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。
それでも唯々諾々と家のために従った。
そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。
父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。
ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。
僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。
不定期更新です。
以前少し投稿したものを設定変更しました。
ジャンルを恋愛からBLに変更しました。
また後で変更とかあるかも。
完結しました。
『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました
小池 月
BL
大学一年の半田壱兎は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。
壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。
加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。
大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。
そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。
☆BLです。全年齢対応作品です☆
優秀な婚約者が去った後の世界
月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。
パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。
このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。
妹に奪われた婚約者は、外れの王子でした。婚約破棄された僕は真実の愛を見つけます
こたま
BL
侯爵家に産まれたオメガのミシェルは、王子と婚約していた。しかしオメガとわかった妹が、お兄様ずるいわと言って婚約者を奪ってしまう。家族にないがしろにされたことで悲嘆するミシェルであったが、辺境に匿われていたアルファの落胤王子と出会い真実の愛を育む。ハッピーエンドオメガバースです。
炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています
ぽんちゃん
BL
希望したのは、医療班だった。
それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。
「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。
誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。
……けれど、婚約者に裏切られていた。
軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。
そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――
“雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。
「君の料理が、兵の士気を支えていた」
「君を愛している」
まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?
さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?
推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!
木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。
この話は小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる