ブリアール公爵家の第二夫人

大城いぬこ

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馬車

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 背中から聞いたことのない音がしたあと、胸が少し開放された。コルセットとドレスを重ねているせいで普段と感触が違い、でもまさかこんなことになるなんて思っていなかった。 

 馬車に乗ったらディオルド様に留め具をずらしてもらおうとしただけなのに、激しい口づけをされてしまった。今はなぜかうなじを舐められ吸われ、コルセットも落ちて胸を揉まれている。

 ディオルド様の膝の上で不安定な体勢は胸にある腕が支えている。離されたら転がるかもしれないと頭を過っても、痛かゆかった頂に触れられ頭が快感に染められていく。 

 速度を上げているような馬車の大きな音のなかにディオルド様の荒い呼吸が聞こえて下腹がうずいてくる。この感覚のあとは秘所が濡れてしまうともう理解している。外は明るいし、ここは寝台ではないのに欲しくなってしまう。 

「ディオ……駄目です…」 

「…無理言うな…駄目と言うなら誘うな」 

 誘っていないのにそう言われても… 

「ディオルド様…」 

「ロシェル」 

 一際強く吸われ、小さな痛みが走り、なぜか気持ちよくて声が出てしまった。 

「入れんぞ…俺は入れんぞ」 

 そう言いながらお尻の下にある硬い局部が私を何度も突き上げる。 

「あ!あ!…ん…」 

「入れんと言ってるだろ…くそ…」 

「…っか…駄目……まん…がま…」 

 走行音の合間にガガ様の声が聞こえる。馬車窓はカーテンをしているのにガガ様が私たちの戯れを知っているようで恥ずかしくなる。 

「ディオルド様…ん…」 

「俺は…耐えられる…」 

 ジェイデン様の言う通り、閨は二人の喜びだった。触れ合うと心も体も満たされて、感じたことのない快感に声も抑えられない夜が続いた。ジェイデン様も私の体を触ったけれど、あれは手加減していたと今になって理解している。 

「…ロシェ…ル」 

 いつの間にか口を合わせていた。私から顎を上げたのかわからないほど混乱している。上から注がれる唾液は飲み込みきれずに頬を流れる。 

「わかるか…?ちく…頂が固くなったんだ…俺が…そうしたんだ…はは…」 

 口づけをしながら話すディオルド様の荒い呼吸が頬をくすぐり、それさえも快感となり刺激される。 

「俺は変態だ」 

 下着が濡れている感触がする。女性はこうされれば皆が秘所を濡らすものなのか。ディオルド様の太い指を入れられると、出し入れされるととても気持ちがいいと知っている。入れて欲しい、そんなことを口にしそうになり、言わないためにも口を合わせたくてディオルド様の頭に腕を回して引き寄せる。 

「ふ…ん…ん…」 

 鼻から漏れる呼吸が熱くて汗ばむ。 

「ロシェル…落ち…つけ…邸まで…」 

 お尻の下でディオルド様の手が動いている。私を膝の上から下ろそうとしているのかもしれない。

 離れなければならない。離れたくない。強烈な快感は私を狂わせてしまうけれど嫌いじゃない。 

 なにも纏わない胸が涼しい。生地が触れていないから痛くもない。意識を落ち着かせるよう場所を考え、ディオルド様はドレスを直せるのかと頭に浮かび、鼓動を落ち着かせるため、深呼吸を繰り返す。なのにディオルド様は私を軽く持ち上げ、ドレスをめくり秘所に局部をあてた。入れてしまうと私はおかしくなってしまう。足を閉じて止めるべきだったのに、自ら開いていた。 

「…な…誘ってるだろ?」 




 先端に触れる下着が濡れていた。陰茎を押し付けると滑ってずれて、熱く柔らかく締め付ける窪みへあてると待っていたように飲み込んでいく。

 この時の快感はいつも形容しがたい。薄い腹にどうやって嵌め込まれているのかわからないほど、ピタリと合わさる。ロシェルの言った、繋がるが言い得て妙だと、興奮する頭のなかで冷静な部分がそう呟いた。 

 ロシェルの喘ぐ声を聞かせないために口を合わせ続ける。首を仰け反らせた体勢は苦しいだろうか?だが、外へお前の声を聞かせるわけにはいかんだろ。だが、馬車のなかでなにをしているのか匂いでバレてる。 

 かすかに香水の匂いが香る。エコーとガガが対処を始めたようだ。効果があるのかわからないが。 

 腰を振らなくても馬車の速度を上げたせいで揺れが大きい。小石を踏む度に強く突き上げてしまうが、ロシェルの悲鳴は俺が飲み込んでいる。 

 気持ちいいな、ロシェル。お前は入り口より奥が好きらしい。奥を突く度、声を上げるからわかるんだ。

 後ろから抱いたことはなかった。初級の体位しか試していなかったのに、馬車のなかでこんなことをしている。中級の背面座位はロシェルにはまだ辛いか?いや…喜んでいるな。後ろからだと角度が変わって感触までなにか違う気もする。 

 耐えるつもりだった。我慢するつもりだった。だが、ロシェルが欲しがり誘うんだぞ。それは叶えたくなるだろ。 

「ロシェ…ル…声を…聞かれるぞ…ああ…唇が赤い…はは…紅のせいで…顔が…」 

 水色の瞳が欲を含み俺を見ている。赤い唇が抑えた喘ぎを漏らしながら、俺の顔も汚れていると唇を動かし教えてくれた。 

 入れただけで果て、今は二度目の射精が近い。 

「この俺が…色に溺れるとはな」 

 数多の誘惑にあってきたが、一度も触れたいと思ったことはなかった。極力触れるなと言うステイシーとの義務は香油を使ったもので極限まで自身でしごき、痛がる声を上げる女を見れば、閨事への関心はさらに失くなった。 

「…な…お前を失くせん」 

 この喜びを快感を愉悦を知ってしまったんだぞ。誰にも、お前さえ俺からお前を奪わせはしない。お前の乳首を吸う赤子に嫉妬する自分が簡単に想像できるんだ、ロシェル。 


「お前は体力がなさすぎる。散歩だけでいいのか?訓練をするか?」 

 馬車は邸に着いたようで、今は停車している。何度か扉を叩かれたが待てと指示を出せば、ガガのため息が聞こえ、蹄の音が遠ざかり、人の気配が散っていく。 

 危険すぎて窓を開けられず、俺はロシェルの匂いを吸い込み続けているせいで勃ったままだ。埋めたままだ。繋がったままだ。 

 ロシェルのドレスは無惨な姿になり、留め具を壊したせいで着せることが困難になった。俺の衣装も三度も吐き出した子種のせいで濡れて色を変えているだろう。もう少し待てば、気が利くエコーあたりが着替えと湯とタオルを持ってくるだろう。 

「もう少し…な」 

 意識を失くし垂れる頭を俺の胸に倒し抱き締める。

 ロシェルのなかはすごいことになっている。収まりきらない子種が面白い音を出しながら溢れ出ている。ドレスの上から下腹に触れて軽く押せば俺を感じたような気がして頬が緩む。 

「変態め」 

 もしかしたら変態は褒め言葉かもしれん、と阿呆なことを考える自分に笑いたくなり、腕のなかの鼓動を感じながら目蓋を閉じる。 

 今頃、ダートとゼノはバロン・シモンズをブリアール公爵邸内にある地下牢へ入れているか?いや、俺たちは早々に教会から退散した上に馬車は速度を上げて戻った。落ち着いて考えれば、まだ教会かもしれんとわかるだろ。俺はここ最近浮かれている。この浮かれは落ち着くのか? 

「旦那様」 

「エコー」 

「馬車の周りにはガガとスモークと私だけです」 

 俺は扉の閂を外す。ゆっくりと開いた先には無表情のエコーがいた。その腕のなかには服とタオルが重なっている。 

「湯が必要だと思わんか?」 

「ガガが持っています」 

「置いて閉めろ」 

 エコーが空いている座面に服とタオルを並べ消えたあと、目を細め鼻に布を突っ込んでいる無表情のガガが湯の入ったタライを足下に置いた。 

「すけべ」 

 ガガは扉を閉めながら呟いた。 

「…すけべと言われた…くく」 

 俺は巻き付けた腕を離し、片腕でロシェルを抱きながらドレスを剥いでいく。 

「あいつのほうがすけべだろ。俺はまだ密室で抱くが、あいつは外で女を鳴かせてる。なぁ、ロシェル」 

 女というのは抱く度に気を失うのか?今度ガガに聞いてみるか。





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