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第四章:全国との戦い

第62話:激突

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「ツモ」

 和弥は静かにツモ牌を置く。
 この瞬間、立川南の2回戦進出が決定したのだ。

「やったーっ!!」

「2回戦だよ2回戦っ!! ベスト16だよ!!」

 大会規定により1卓の上位2校が次の16卓に進出。

「そんなに喜ぶなよ。ベスト16になるために、俺らはここに来たワケじゃないだろ?」

 控室に戻って来た全く浮かれた様子はなく、鉄櫛で髪を整える。

「竜ヶ崎の言う通りだ。私達の目標はあくまでシャーレを掲げる事だぞ」

 龍子も浮かれている綾乃や紗枝に釘を刺した。いよいよ明日は大阪代表・桐生学園との対戦だ。

◇◇◇◇◇

 翌日。2回戦・ベスト16が開始される。

「よう、兄ちゃん。勝ち上がってきたんやな」

「俺の事より自分の心配でもしてたらどうなんだ」

 チッ、と明らかに分かる舌打ちをする和弥。その態度にムッとする桐生学園の生徒達。

「オットコ前やのぅ? でも後々恥じかかんよう気ぃつけるんやな」

「心配すんなよ」

 互いに不快そうな表情を浮かべる和弥と竹田を見て、大会組織委員が仲裁に入った。

「お互い、相手をリスペクトする気持ちを持つように」

「へえへい」

 悪びれもせず背を向けると、控室に戻る竹田や桐生学園の生徒達。
 一方の和弥も納得は出来ないが、一応控室に戻った。

(リスペクト、ね。俺が麻雀打つ上で一番要らない感情だと思っているんだが)

 副将戦までは小場になり、立川南を含めた4校とも僅差である。
 いよいよ大将戦。和弥を見るなり露骨に不満な顔をする竹田だが、仮親は構わずサイコロボックスのスイッチを押す。
 東1局。和弥は北家ペーチャで始まった。
 ドラは四索。

「その八筒ポンや」

 3巡目で早速動く竹田。そして5巡目。
 

「ツモ。500・1,000ゴットーや」

 和了アガったのは桐生学園大将・竹田清である。

(な、何よあれ………。タンピン三色の二向聴リャンシャンテンくらいあったでしょう………)

(あの手を2,000に落としてまで早和了りするの?)

 小百合と由香も不可解に思う竹田の早和了りだったが、ここに来て2人ともハッとした。
 1回戦目までの、相手を狙い撃ちするヘビのようなしつこさも勿論だが、竹田だけでなく桐生学園にはここまで「面前メンゼンでの和了り」がないのだ。
 さらにいえば、この勝負が始まってからは1,000点、2,000点、良くて3翻のアガリばかりである。
 1回戦目で和了った、メンホン・チートイの倍満はなんだったのか。

(チャンス手も安手であっさり蹴られたり、狙い撃ちされたり………)

(なるほど。こりゃベスト8が賭かった勝負じゃ、相手はプレッシャーでどんどん冷静に打てなくなるよね)

 龍子も綾乃も、竹田のいやらしさに思わず眉をひそめた。
 雀士には強い・弱いの他に、ボクシングでいう3種類に分けられる。
 和弥や綾乃のように、大技・小技を状況で使い分けるバランス型。
 由香や麗美のように、小技も使うが常に接近戦で渾身のストレートやフック、アッパーカットで一発KOを狙う「インファイター」型。
 そして、足を使って距離を取り、致命打とはならないが有効なジャブを数多く当てて判定勝ちを狙う「アウトファイター」型。
 竹田はまさにアウトファイター型雀士である。
 しかも素人の鳴き鳴き麻雀ではない。基礎技術や読みはしっかりしているので、余計にタチが悪い。
 小百合もオンライン麻雀では、やたらと鳴きアガリをする打ち手を見た事はある。が、まさか大会の麻雀でこんな打ち方をする雀士にお目にかかるとは思わなかった。
 だが、何事も無かったかのように和弥は竹田に点棒を払い、牌を収納口に落とす。

(チャンスは必ずくる………。大切なのは、こいつのペース巻き込まれないことだ)

 東2局目は、その竹田の親だ。
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