学生服の悪魔

式波博也

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学生服の悪魔

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やがて慌しく一日は過ぎる。
 日向櫂にとっても、雪ヶ谷唯にとっても・・・・
「それじゃあな、所長。明日は休日だが・・・・・何か進展があるかもしれない。そうなったらまた連絡するよ」
「ええ、分かったわ。私はもうちょっと情報を分析してから帰るけれど・・・・・」
「ああ、はるかにもよろしく」
「ええ、さようなら」
 そうして日向櫂は事務所を去る。
 死神はまだ彼の命を奪おうとはしない。
 しかし必ず死は彼にもやってくるのだろう。
 畳の上での死など、日向櫂には似合いそうもない。
 しかし・・・・あるいは、彼も長生きするのかもしれない。
 そうしたら、彼は自身の物語を子孫に残すだろう。
 闇と光に生きる、彼、日向櫂。
 其の物語はまだ始まったばかりだ・・・・・


 夜には夜の魅力がある。
 日向櫂は生まれ故郷の街で殺人をしていた頃から、それを感じていた。
 特にこの街の夜には独特な雰囲気がある。
 帰り道、彼はいつも通りの道を帰っていく。
 探偵事務所から彼の家まで・・・・・・・途中、大通りから狭い裏通りに、いつも通り日向櫂は足を向ける。
 しかし今日は、その帰り道に客人が居た。
 遠め、約二百メートル前からも櫂は其の人物を認識できる。
 其の人物はあまりにも目立つ格好をしていた。
 すなわち紅の学生服を着た学生服の悪魔である。
「こんばんは、先輩。今日も元気そうだね」
「ああ、俺のことが好きなのなら、待ち伏せなんかすることは無い。雪ヶ谷探偵事務所に電話でもかければいい。どうも日比谷と言い、お前と言い、俺の居場所を探し当てて、余計な労力を使いすぎる」
「そうかい。これでも雰囲気を大事にするからね、僕は。この学生服、今までは気に入っていたけれど、昨日から気に入らなくなった。お前のせいだ、日向櫂。お前みたいな甘っちょろい奴が着ていた服なんて僕は正直嫌いだよ。実力の上乗せがなければ誰が着るものか」
「そういうのなら、返してくれるかな。其の学生服は存在するのには危険すぎるのでね」
「イヤだね。返してほしければ実力で奪って見せろ。もういい話すことはない。後は・・・・」
 やろう、そう言って件(くだん)の人物はエモノであるナイフを出した。
 櫂もナイフを出す。
 二人の間合いは約六メートル。
 しかし様子見からか、互いにゆっくりと間合いを詰める。時間が流れる。
 櫂はナイフを前に構え、真半身の姿勢をとる。
 対する殺人鬼はナイフを下に向け、ゆったりと一足ごとに櫂に迫る。
 やがて間合いがニメートルほどになると、殺人鬼は突然、足を速めた。
 ギイン、という音と共に、ナイフをぶつけ合う二人。
 ロキのナイフは櫂の首筋を狙ったものだ。
 対する櫂は防御に回る。
 首筋、胸、腕と攻撃に回るロキ。
 ロキは早いナイフの連射で櫂を追い込もうとする。
 櫂は何かを待っているのか、攻撃に向かわない。
 やがて間合いを離す櫂。
「なるほど。お前、素人ばかり相手にしてきただろう。まるで、防御の姿勢を知らない。戦いを知らない、素人ばかり相手にしてきたお前に俺は倒せないよ」
「うるさい。本当は僕のことが怖くてしかたがないんでしょ?攻撃に回らないもの」
「まあ、いい。戦いについてこれから俺がお前の体にじっくりと教えてやる。覚悟しろよ」
 そう言うと、突然ロキにせまる櫂。しかしロキは防御を知らないのか。そんな櫂をナイフで突こうとする。
 流麗(りゅうれい)にナイフを交わす櫂。交わしたざまにロキの顎に掌底(しょうてい)を食らわす櫂。 なすがままに攻撃を喰らうロキ。
 櫂はそのままロキの胸と右肩に左のこぶしを突き刺す。
 そうして間合いを離す櫂。
 ロキは自分に対する怒り。さらには攻撃をしてきた櫂に対する怒りで頭が爆発しそうになっていた。
「分かったか?殺人鬼。これがお前と俺の差だよ」
「そんなことは聞いていない。もういいお前は殺す」
 そう言うと、ロキの周りに黒い渦が回りだす。
「!学生服の力か」
 力の解放の前にロキを倒そうとする櫂。
 しかし今回、ロキは自らの手で櫂のナイフを掴んだ。
 そうして攻撃に回る学生服の悪魔。
 櫂の胸をナイフが掠める。そうして頬にも。
 強引に力で、ナイフごと櫂を投げるロキ。
「!確かに腕力と敏捷性だけは俺より上だな」
 しかしそんな櫂の言葉は彼には通らない。
 次の瞬間。ロキの姿が消えた。
 櫂は後ろに気配を感じ、とっさに肘打ちを喰らわす。
 しかしロキは交わそうともしない。
 肘打ちを胸に受けてそのまま櫂の首を掴むロキ。
 櫂は首ごとロキに吊るされた。
 その時、苦しみながら、記憶が流れ出す。
 『これは誰の記憶だ?』
 『兄さん、もう止めて』
 櫂はそんな場面を見る。


 「天照大地(あまてらすだいち)!」
 そう小声で呟く櫂。
 そう呟くと櫂の右腕に魔力が通る。
 其の手は力を得て、ロキの左手をナイフで刺した。
 再び投げられる櫂。
 ごほ、とむせる櫂。
「こいつは難儀だ」
 そう呟く櫂。
 一方ロキの左手は勝手に修復を始める。
 勝負はロキがやや優勢、と言ったところか。
 パワーと敏捷性に劣る櫂はロキを殺しきれない。
「お前、女だったんだな」
 そう櫂は呟く。
 そう言うとロキは正気に戻った。
「だからなんなんだい?その女にあんたは殺されるんだぜ」
「記憶の流れ出すのは、かつて俺が学生服を着ていたときにもあった。お前、可哀想な奴だな」
「!言ったね」
 そう言いながら、ナイフを構えなおすロキ。
 しかしその眼には、光がない。
「もういい。お前を殺すのは次に襲ったときだ。今日は少し消耗した。また来る」
 そう言い、ロキは去った。走りながらこちらをちらりと見る。
 其の眼には確かに涙が浮かんでいた・・・・・・・ 


「まるで、あれだな・・・・・・・まあなんだ、だから奴も学生服に選ばれたのかな・・・・・」
 そう言い、現場を後にする櫂。
 櫂は混乱していた。
 ロキの記憶を見たこと。
 それが櫂にロキを哀れと思わせた。
「奴にも救いがあるだろうか・・・・・」
 そう言いながら、日向櫂はその場をあとにした。


 櫂の見たロキの記憶・・・・・
 それはロキの兄による、両親の殺害・・・・其の現場と其の時いらい不安定のなったロキの過去だった。
 自らの部屋に帰った櫂は其の記憶に触れてみる・・・・・

『どうして兄さんが母さんと父さんを・・・・』
『兄さんを止めなければ・・・・・・だけどどうしたら』
『あなたは誰?』
『私の名前は灰原ガロア。君に私は力を与えよう。君の望みが叶うだけの力を』
『兄さん、死んでくれ』
『さらばだ真理花。お前のことを愛していたぞ』
『兄さん・・・・・・・・私はどうすれば』
『力ヲ受ケ入レロ』
『・・・・・・・・』
 
「そこまで見れば十分でしょ?」
 そう誰かの声がして櫂の意識は目覚めた。
「これが奴の記憶か・・・・・・・」
 そう一人ごちる櫂。
『奴を止められないかな・・・・・・』
 やがて櫂は居間に行くと煙草を吸った。
 そうして一息つく櫂。
 やがて櫂は休めないと判断し、ため息を付くと、唯に電話した。
 コール音が鳴る。
 やがて不機嫌そうな唯の声がした。
 時刻はまだ八時頃。
 唯はまだ雪ヶ谷探偵事務所に居るだろうか?
「唯、今、大丈夫か?」
「今、食事中だったのだけど。食事が進まなくなる話はしないでね」
「そうか・・・・・実は学生服の悪魔と、ロキと会ってきた所だ。話し合いには勿論ならなかったわけだが・・・・・・」
「そう。なんでそんな話を今、するかなあ・・・・・・・いい加減にしてよね!櫂!まさか死体は作らなかったでしょうね?」
「ああ、痛み分けと言ったところかな。学生服に接触した時に奴の記憶も見たよ。何というか可哀想な奴だった」
「そう。あんたがそんなこと言うなんて珍しいわね。なんか特別な事情があるの?」
「いや、そうでもないがな。奴も学生服に選ばれるだけはある。元の奴は純粋なところがあったよ。あの服が宇宙の一部と以前ガロアが言っていたが、それも嘘ではないのかもな」
「宇宙の一部?」
「ああ。そう表現していいだろう」
「それが現実にはどう作用するの?」
「それは俺にも分からない。だが重要なことには変わりはないだろう。何か因果があるのだろうな」
「それで、今後はどうするの?」
「奴を探すつもりだ。それと言うのもこんなことを言うのもなんだが・・・・・・俺は奴を救おうと思う。以前俺が所長の父に救われたように・・・・・」
「・・・・・・・・・・はあ」
「ダメか?」
「ダメね」
「そうか。でもなんとかならないかな」
「いい、櫂、ロキは殺人を犯しているのよ。警察が黙ってないでしょうが」
「それは貸しにできないか?」
「できない」
「・・・・・・・」
「いい、大人の世界はシビアなの。よっぽどの貸しが無いと、許してくれないでしょうね」
「そうか。そうだよな、貸しさえあれば・・・・・・」
「加えて、私はもう面倒なことはしたくないの」
「貸し・・・・できないかな」
「ムリ」
「・・・・・・・そうか。まあ何か考えてみるよ。じゃあな唯」
 そう言って日向櫂は電話を切った。
 櫂にとって、試練が訪れようとしている。
 それは櫂が肌で感じることだった。試練が訪れようとしている・・・・・
 櫂はそれを感じ、ため息をついた。
 『まるで小説みたいだ。まったく俺はさまざまな試練に合う』
 そう櫂は思い、明日のことを思うのだった。

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