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六章 アイオン落日編
未踏の道へ
「こっちは本当に久しぶり」
普段と違って武装以外は手ぶらに近い移動にも慣れた彼女は空き日である今日、周辺の散策に出ていた。
パーティメンバーとは別行動だ。
一応依頼の最中ではあるが、まだ危険域には入っていない。
熟練の経験と勘があってこその休息日、とも言えた。
「ライドウさん曰く、この辺りにはスライムの特殊な狩り方がある、らしいけど……」
あれかな、とトアは数百メートルほど先の複数の気配にアタリをつける。
盗賊、暗殺者系の通常ジョブとしては現状最高峰と呼ばれる無影となってしばらくが経つ彼女にとっては、こうした探知探索はお手の物だ。
ただ、一口に無影といっても暗殺寄りもいれば探索寄りもいる。
荒野入りを日常としているトアだから、これほどの探索もこなせる、と評した方が正しい。
戦闘も探索もどちらも限界まで追求した今の彼女は非常に器用だ。
アタリをつけた場所に急行したトアは念入りに気配を殺してスライム狩りを見学する。
(ふぅん、なるほどなるほど。核を抜き取るのがキモかな。ジェル部分をあまり削らずに核だけを抜き取って外で砕くと。おー、確かに溶けずに残ってる。核が貴重な素材になってる種はともかく、荒野のスライムでも可食できるのがいたら結構世界が変わるかも……)
などと考えながらトアは少し距離を取って同種のスライムで今見た狩り方を試してみる。
最初の数匹は失敗続きだったが、すぐに要領を掴んだ彼女は肉を残してスライムを倒す。
本来この辺りをうろうろする魔物はトアの相手にならない。
彼女にとっては草刈りでもしている感覚だろう。
「重さは大した事ない。マジックバッグにも……入る。後は味か。街の酒場でメニュー入りしてる、のよね確か」
いつか恩人に聞いた話を思い出すトア。
あの時はツィーゲからそっち側に出るのなんていつになる事か、などと思っていたトアだったが、思いのほか早くその機会が訪れたと苦笑する。
トアがこっそり見学していたスライム狩りをしていた冒険者はBランクくらい、既に無くなったベース、絶野にいた頃の彼女と同じ程度の実力を持つ冒険者たち。今やその差は天と地ほどにある。
もっとも、無謀に無謀を重ねていた当時のトアに比べれば彼らは十分に堅実で身の丈にあった依頼をこなしている。
(やー、ホントによく生きてるわ私。思い返せば当時絶野にいたのって一か八かでもないタダの自殺よねー)
赤面ものの過去だが、トアは決して当時を忘れない。
己の浅はかさへの自戒は恥じる事ではない。
繰り返さなければ良いだけだ。
スライムを狩る冒険者と当時の自分をわずかに重ねたトアは散策を終えて街に戻る。
折角だから名物スライム料理を楽しむ為である。
まずは仲間と合流する為に彼女は冒険者ギルドに向かう。
「よー、どうだったトア」
「うん、結構広範囲でスライム狩りしてたよ。面白かった」
「私らでも出来そうな感じだったか?」
「問題なさそう。でも荒野のも食べられるかどうかは課題ね。この依頼を終えて戻ったら試してみよ」
「美味かったら、な」
「確かに」
ギルドに入った彼女を迎えたのはパーティの仲間、ドワーフのラニーナだった。
戦士たちに囲まれたテーブルから手を挙げている。
入り口から左手、重装鎧を着慣れた連中が集まって暑苦しい空間を形成していた。
今、トアと仲間たちで構成されるパーティ『アルパイン』はツィーゲからアイオン側に遠征していた。
ツィーゲの商人ギルドから指名の依頼を受けての事だ。
スライム狩りにしてもトア達のレベルとランクを考えれば普通に依頼を受ける事は可能だし、そうしていれば狩り方にしても普通に教えてもらえたのだが、既に優先している依頼を受けているから、そして地元の冒険者の仕事を奪うつもりも無いからと、アルパインはこの街では依頼を受けていない。
見ればルイザも、ハザルも皆既に冒険者ギルドに来ていた。
御飯前に集合、といった緩い取り決めだったが、もう各々見て回りたい所は見て、用事も済ませたという事なのだろう。
ルイザの所にもハザルの所にもラニーナ同様に人が群がっている。
滅多にお目にかからないトップクラスの冒険者だけに街の冒険者で手が空いている者は見物に来たり何かしらを感じ取ろうとしたり、単にお近づきになろうとしたり。
様々な思惑の結果だろう。
だが、それにしては少しばかり熱気が強いような。
トアはふとそんな事を感じながら最初に言葉を交わしたラニーナの所に近づく。
「何か、盛り上がってない?」
「記念にとせがまれて皆でカードの更新をしたのさ。そうしたらジョブが変わるタイミングだったようでな」
「! 凄いじゃない! ラニーナ? ハザル? ルイザ?」
ジョブの変化は冒険者にとって大きな成長を意味する。
トア達にとってはここしばらく誰にも訪れていなかった。
今夜は祝いだ。
そう即断する程度には喜ばしいサプライズだった。
「私と、ハザルだ。ルイザは昏謐狙撃士のままだった」
「もう変えたの? スキルの使用感は?」
「変更はしたが、まだ何も試してない。明日にでも、というとこか。今は大事な時だが、休息も兼ねとる。だからこそのタイミング、のようにも思えてな」
「……そう。で? どんなジョブ?」
「私は震撃剛精、だな。ドワーフ専用らしい。ずっと神官戦士として精霊に仕えるジョブを選んできたが種族専用というのは初めてで特に問題なさそうだったんで、迷わず選択した」
「ドワーフ専用……鍛冶師系に鞍替え、じゃないわよね?」
「わははは! 違うとも! 今更金槌を持てるか! 私は一生戦士で行くともさ。スキルの構成を確認してみた感じでは前よりも硬く、対多数を得意とする印象だな」
「楽しみ。それで街の冒険者も色々話を聞きに来てると」
「うむ。済まんが今日は大きな店を貸し切って奢る約束をしてしまった。リーダー、数少ない祝いの機会だ、許せよ」
「……ま、仕方ないよね。こればっかりは。大丈夫でしょ、今回はツィーゲがお財布だから」
「で、ハザルは?」
「それは本人から聞いてやれ」
「……えぇ、あそこに行くの? 何か女ばっかいるんですけど」
「ハザルは隙だらけに見えるものな! あれでもランク相応の男なんだが、ライドウ殿同様見た目と雰囲気で損をするタイプなのだろ」
「……はぁ」
ラニーナに見送られ、トアはハザルの待つテーブルに歩を進める。
先ほどまでのテーブルとは違う、若干香水の匂いが強い席。
パーティメンバーのいるテーブルだというのに、何故か見当違いの微かな敵意を向けられトアは辟易する。
が、仲間の喜ばしいイベントだ。
おめでとうの一言は当たり前である。
「クラスアップですって? おめでと、ハザル」
「トア! やー、びっくりしましたよ! ここ最近特に荒野入りして篭ったってのでもないのに」
「ラニーナはもう選択したようだけど、貴方は?」
「もちろん、選びましたとも。彼女も私も今回は候補が一つでしたしね。星詠術士、私の新しいジョブです」
「……ごめん、イメージ湧かない」
「まあそうですよねー、これまでと同様の役割に加えて強固な結界スキルと……直感系スキルらしきものが幾つか、条件は厳しめですけど高火力スキルもあります。使用感については後日すり合わせと言う事で」
「凄い。凄いけど……最早それ何でも屋の領域……それに攻撃スキルって。貴方一応系統は錬金術師でしょうに……」
「あはは。ですね。超器用貧乏ハザルです。今後ともよろしくですリーダー。一応ラニーナのも私のも過去出現例はあるようですけど、生きた情報は無いらしく。生きるレアモノでもあります」
「私も良い加減無影を卒業したいんだけどね。一応上位には影朧ってのがあるらしいのに」
「今キテますから、更新してみたら意外となれちゃうんじゃないですか?」
「ルイザもこの前いきなりだったもんね。……やってみるか」
「後でリーダーのだけお祝いするのも面倒ですから、是非!」
「一言余計だよーハザルー」
現在生きている冒険者でトア達は間違いなくエース級だ。
当然彼女たちのクラスアップはギルドの資料にも無い変化をする可能性は高い。
いよいよ手探りで自分たちの能力とも向き合っていかなくてはいけない段階。
だが、その覚悟などとうに済ませているトアは長らく無影という上位ジョブのまま不動だった。
ギルドに問い合わせてみて返ってきた情報は記録上は影朧という名がある、というだけ。
「どうも、仲間がお騒がせしているようですみません。折角なんで私もカードの更新お願いします」
仲間が立て続けに上位のジョブに成長する。
どうも置いていかれるようで焦りも感じたトア。
だが特に手応えがあった訳でも閃きのようなものがあった訳でもない。
つまり期待薄だ。
それでも更新に金がかかるでもない。
どうせ宴会になるなら自分も主役で楽しみたい。
誕生日でもあるまいに、後で皆に遅れて一人だけ祝ってもらうのも何となく、ハザルに言われたのもあって癪だった。
「か、かしこまりました!」
Sランクの冒険者カードなどそうそう見る機会もない受付嬢は緊張した面持ちで手続きを進める。
さて、もしジョブが変化する条件を満たしていたならばここでカードが赤くなる。
トアは祈る様に取り出し台に置いたカードを見つめた。
「……ん?」
赤く光ってはいた。
しかし、それは自分の臀部あたり。
正確には荒野で取り戻した、蒼き短剣だった。
普段は冷たい蒼なのに、ラピスと呼ばれるその剣は今、内から赤い光を発していた。
そして。
「と、トア様。クラスアップ候補が」
カードも赤く光り出した。
何か、イレギュラーが起きている。
けれどトアはまずカードの赤光を見てよっしゃと握り拳を作った。
「私もとうとう影朧に到達って訳ね!?」
「い、いえ。候補は二つ。一つは仰るように影朧」
「え?」
「もう一つは……トビ……カトウ?」
「とびかとう?」
受付嬢にならって言ってみたものの、トアの顔が全力でなにそれと訴えていた。
「はい、トビカトウとなっています。これは……! ギルドが初めて記録する全く未知のジョブとなります!」
『!?!?』
冒険者ギルド中が受付嬢の興奮した声にざわつき、そしてトアに注目する。
元々彼女の動向を追っていた者も少なくなかったが、今、ギルド内全ての目がトアを捉えていた。
「ぬぬ……影朧は、目指してたヤツ……! で、でもギルド初のジョブもめっちゃ気になる……! これは……」
「……これは?」
ごくり、と。
受付嬢の喉が鳴った。
「保留ー」
『えーーー!!!!』
「こんなのその場で決められる訳なし! 宴会の後でゆっくり考えまーす。みんなー今日はお店貸し切り予定だったけどちょっと変更ー! 何軒か貸し切って広場辺りに料理持ってきてもらいましょう! 今日は……大宴会だお前ら―!!」
『やふぉぉぉぉぉぉ!!』
トアの提案に野太いのと甲高いのが奇跡のハモリを見せた奇声が湧き起こった。
アルパイン、アイオン王国の地方都市で宴会中。
普段と違って武装以外は手ぶらに近い移動にも慣れた彼女は空き日である今日、周辺の散策に出ていた。
パーティメンバーとは別行動だ。
一応依頼の最中ではあるが、まだ危険域には入っていない。
熟練の経験と勘があってこその休息日、とも言えた。
「ライドウさん曰く、この辺りにはスライムの特殊な狩り方がある、らしいけど……」
あれかな、とトアは数百メートルほど先の複数の気配にアタリをつける。
盗賊、暗殺者系の通常ジョブとしては現状最高峰と呼ばれる無影となってしばらくが経つ彼女にとっては、こうした探知探索はお手の物だ。
ただ、一口に無影といっても暗殺寄りもいれば探索寄りもいる。
荒野入りを日常としているトアだから、これほどの探索もこなせる、と評した方が正しい。
戦闘も探索もどちらも限界まで追求した今の彼女は非常に器用だ。
アタリをつけた場所に急行したトアは念入りに気配を殺してスライム狩りを見学する。
(ふぅん、なるほどなるほど。核を抜き取るのがキモかな。ジェル部分をあまり削らずに核だけを抜き取って外で砕くと。おー、確かに溶けずに残ってる。核が貴重な素材になってる種はともかく、荒野のスライムでも可食できるのがいたら結構世界が変わるかも……)
などと考えながらトアは少し距離を取って同種のスライムで今見た狩り方を試してみる。
最初の数匹は失敗続きだったが、すぐに要領を掴んだ彼女は肉を残してスライムを倒す。
本来この辺りをうろうろする魔物はトアの相手にならない。
彼女にとっては草刈りでもしている感覚だろう。
「重さは大した事ない。マジックバッグにも……入る。後は味か。街の酒場でメニュー入りしてる、のよね確か」
いつか恩人に聞いた話を思い出すトア。
あの時はツィーゲからそっち側に出るのなんていつになる事か、などと思っていたトアだったが、思いのほか早くその機会が訪れたと苦笑する。
トアがこっそり見学していたスライム狩りをしていた冒険者はBランクくらい、既に無くなったベース、絶野にいた頃の彼女と同じ程度の実力を持つ冒険者たち。今やその差は天と地ほどにある。
もっとも、無謀に無謀を重ねていた当時のトアに比べれば彼らは十分に堅実で身の丈にあった依頼をこなしている。
(やー、ホントによく生きてるわ私。思い返せば当時絶野にいたのって一か八かでもないタダの自殺よねー)
赤面ものの過去だが、トアは決して当時を忘れない。
己の浅はかさへの自戒は恥じる事ではない。
繰り返さなければ良いだけだ。
スライムを狩る冒険者と当時の自分をわずかに重ねたトアは散策を終えて街に戻る。
折角だから名物スライム料理を楽しむ為である。
まずは仲間と合流する為に彼女は冒険者ギルドに向かう。
「よー、どうだったトア」
「うん、結構広範囲でスライム狩りしてたよ。面白かった」
「私らでも出来そうな感じだったか?」
「問題なさそう。でも荒野のも食べられるかどうかは課題ね。この依頼を終えて戻ったら試してみよ」
「美味かったら、な」
「確かに」
ギルドに入った彼女を迎えたのはパーティの仲間、ドワーフのラニーナだった。
戦士たちに囲まれたテーブルから手を挙げている。
入り口から左手、重装鎧を着慣れた連中が集まって暑苦しい空間を形成していた。
今、トアと仲間たちで構成されるパーティ『アルパイン』はツィーゲからアイオン側に遠征していた。
ツィーゲの商人ギルドから指名の依頼を受けての事だ。
スライム狩りにしてもトア達のレベルとランクを考えれば普通に依頼を受ける事は可能だし、そうしていれば狩り方にしても普通に教えてもらえたのだが、既に優先している依頼を受けているから、そして地元の冒険者の仕事を奪うつもりも無いからと、アルパインはこの街では依頼を受けていない。
見ればルイザも、ハザルも皆既に冒険者ギルドに来ていた。
御飯前に集合、といった緩い取り決めだったが、もう各々見て回りたい所は見て、用事も済ませたという事なのだろう。
ルイザの所にもハザルの所にもラニーナ同様に人が群がっている。
滅多にお目にかからないトップクラスの冒険者だけに街の冒険者で手が空いている者は見物に来たり何かしらを感じ取ろうとしたり、単にお近づきになろうとしたり。
様々な思惑の結果だろう。
だが、それにしては少しばかり熱気が強いような。
トアはふとそんな事を感じながら最初に言葉を交わしたラニーナの所に近づく。
「何か、盛り上がってない?」
「記念にとせがまれて皆でカードの更新をしたのさ。そうしたらジョブが変わるタイミングだったようでな」
「! 凄いじゃない! ラニーナ? ハザル? ルイザ?」
ジョブの変化は冒険者にとって大きな成長を意味する。
トア達にとってはここしばらく誰にも訪れていなかった。
今夜は祝いだ。
そう即断する程度には喜ばしいサプライズだった。
「私と、ハザルだ。ルイザは昏謐狙撃士のままだった」
「もう変えたの? スキルの使用感は?」
「変更はしたが、まだ何も試してない。明日にでも、というとこか。今は大事な時だが、休息も兼ねとる。だからこそのタイミング、のようにも思えてな」
「……そう。で? どんなジョブ?」
「私は震撃剛精、だな。ドワーフ専用らしい。ずっと神官戦士として精霊に仕えるジョブを選んできたが種族専用というのは初めてで特に問題なさそうだったんで、迷わず選択した」
「ドワーフ専用……鍛冶師系に鞍替え、じゃないわよね?」
「わははは! 違うとも! 今更金槌を持てるか! 私は一生戦士で行くともさ。スキルの構成を確認してみた感じでは前よりも硬く、対多数を得意とする印象だな」
「楽しみ。それで街の冒険者も色々話を聞きに来てると」
「うむ。済まんが今日は大きな店を貸し切って奢る約束をしてしまった。リーダー、数少ない祝いの機会だ、許せよ」
「……ま、仕方ないよね。こればっかりは。大丈夫でしょ、今回はツィーゲがお財布だから」
「で、ハザルは?」
「それは本人から聞いてやれ」
「……えぇ、あそこに行くの? 何か女ばっかいるんですけど」
「ハザルは隙だらけに見えるものな! あれでもランク相応の男なんだが、ライドウ殿同様見た目と雰囲気で損をするタイプなのだろ」
「……はぁ」
ラニーナに見送られ、トアはハザルの待つテーブルに歩を進める。
先ほどまでのテーブルとは違う、若干香水の匂いが強い席。
パーティメンバーのいるテーブルだというのに、何故か見当違いの微かな敵意を向けられトアは辟易する。
が、仲間の喜ばしいイベントだ。
おめでとうの一言は当たり前である。
「クラスアップですって? おめでと、ハザル」
「トア! やー、びっくりしましたよ! ここ最近特に荒野入りして篭ったってのでもないのに」
「ラニーナはもう選択したようだけど、貴方は?」
「もちろん、選びましたとも。彼女も私も今回は候補が一つでしたしね。星詠術士、私の新しいジョブです」
「……ごめん、イメージ湧かない」
「まあそうですよねー、これまでと同様の役割に加えて強固な結界スキルと……直感系スキルらしきものが幾つか、条件は厳しめですけど高火力スキルもあります。使用感については後日すり合わせと言う事で」
「凄い。凄いけど……最早それ何でも屋の領域……それに攻撃スキルって。貴方一応系統は錬金術師でしょうに……」
「あはは。ですね。超器用貧乏ハザルです。今後ともよろしくですリーダー。一応ラニーナのも私のも過去出現例はあるようですけど、生きた情報は無いらしく。生きるレアモノでもあります」
「私も良い加減無影を卒業したいんだけどね。一応上位には影朧ってのがあるらしいのに」
「今キテますから、更新してみたら意外となれちゃうんじゃないですか?」
「ルイザもこの前いきなりだったもんね。……やってみるか」
「後でリーダーのだけお祝いするのも面倒ですから、是非!」
「一言余計だよーハザルー」
現在生きている冒険者でトア達は間違いなくエース級だ。
当然彼女たちのクラスアップはギルドの資料にも無い変化をする可能性は高い。
いよいよ手探りで自分たちの能力とも向き合っていかなくてはいけない段階。
だが、その覚悟などとうに済ませているトアは長らく無影という上位ジョブのまま不動だった。
ギルドに問い合わせてみて返ってきた情報は記録上は影朧という名がある、というだけ。
「どうも、仲間がお騒がせしているようですみません。折角なんで私もカードの更新お願いします」
仲間が立て続けに上位のジョブに成長する。
どうも置いていかれるようで焦りも感じたトア。
だが特に手応えがあった訳でも閃きのようなものがあった訳でもない。
つまり期待薄だ。
それでも更新に金がかかるでもない。
どうせ宴会になるなら自分も主役で楽しみたい。
誕生日でもあるまいに、後で皆に遅れて一人だけ祝ってもらうのも何となく、ハザルに言われたのもあって癪だった。
「か、かしこまりました!」
Sランクの冒険者カードなどそうそう見る機会もない受付嬢は緊張した面持ちで手続きを進める。
さて、もしジョブが変化する条件を満たしていたならばここでカードが赤くなる。
トアは祈る様に取り出し台に置いたカードを見つめた。
「……ん?」
赤く光ってはいた。
しかし、それは自分の臀部あたり。
正確には荒野で取り戻した、蒼き短剣だった。
普段は冷たい蒼なのに、ラピスと呼ばれるその剣は今、内から赤い光を発していた。
そして。
「と、トア様。クラスアップ候補が」
カードも赤く光り出した。
何か、イレギュラーが起きている。
けれどトアはまずカードの赤光を見てよっしゃと握り拳を作った。
「私もとうとう影朧に到達って訳ね!?」
「い、いえ。候補は二つ。一つは仰るように影朧」
「え?」
「もう一つは……トビ……カトウ?」
「とびかとう?」
受付嬢にならって言ってみたものの、トアの顔が全力でなにそれと訴えていた。
「はい、トビカトウとなっています。これは……! ギルドが初めて記録する全く未知のジョブとなります!」
『!?!?』
冒険者ギルド中が受付嬢の興奮した声にざわつき、そしてトアに注目する。
元々彼女の動向を追っていた者も少なくなかったが、今、ギルド内全ての目がトアを捉えていた。
「ぬぬ……影朧は、目指してたヤツ……! で、でもギルド初のジョブもめっちゃ気になる……! これは……」
「……これは?」
ごくり、と。
受付嬢の喉が鳴った。
「保留ー」
『えーーー!!!!』
「こんなのその場で決められる訳なし! 宴会の後でゆっくり考えまーす。みんなー今日はお店貸し切り予定だったけどちょっと変更ー! 何軒か貸し切って広場辺りに料理持ってきてもらいましょう! 今日は……大宴会だお前ら―!!」
『やふぉぉぉぉぉぉ!!』
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※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です