月が導く異世界道中

あずみ 圭

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六章 アイオン落日編

使徒vs魔人②

 あの鎌、先輩の帯と同じ感じがする。
 女神の力を宿した道具、神器ってやつかな。
 一番強くあからさまに力を感じるのは大鎌なだけで身につけている物全般から似たような雰囲気はある。
 女神の使徒というだけあってアレに由来する物とも身近なんだろう。
 特に圧される、動きが制限されるといった竜の咆哮や神の威光みたいな効果は感じない。
 確かに雷は厄介な性質で、これが相応にパワーアップされて女神が使ってくるならかなりマズイ代物だとは思う。
 でもなぁ、あの虫の伝承やら逸話も洗ったけどあいつの話に雷なんて殆ど出てこなかった。
 意図的に情報を削除したって線もない訳じゃないけどさぁ。
 多分……自分自身では使えないんじゃなかろうか。
 このアルテって狂信者を見てて何となく思った。
 信仰心と、あと雷属性を扱う為に何らかのハードルを越える事、もしくは雷属性を既に扱える事。
 それが使徒の条件じゃないかなと。
 つまり使徒だから雷属性を扱えるんじゃなく、雷属性を扱えるから女神から使徒と認められるみたいな?
 多少強いヒューマンが扱う程度なら雷もさして怖くはない。
 上のも腕で消せたから自信が深まった。

「おお、魔人よ。女神の時代に終わりを告げる御方よぉ!!」

 ……。

「黙れぇぇ!!」

 ……。

「まさか、まさかライドウ様が魔人様だったなんて……。私は何て勿体ない時間の使い方を……」

「何と雄々しい、凄まじき力の化身……。同志マハロ、同志リース。貴君らはこれを見たのか。自ずと世界は変革の時を迎える、裁きは人が下すものに在らずと……おお、見える、見えるとも。私にも見え――」

「呪詛を吐くな用済みどもがっ!!」

 アルテが僕と、それから周囲にたかってきた集団にまとめて雷を放つ。
 神器の力か、極端な詠唱の短縮が成されている。
 これも僕には随分と守りに寄った選択だと思える。
 既に別の術で常時オートガード発動してるような状態だから正直今のアルテに詠唱の短縮なんてそこまで必要なモノじゃない。
 僕が彼女と同じ立場なら装備で高めるのは攻撃の威力一択だ。
 でもそこにはアルテも誇りがあるらしい。
 彼女の赤い雷は攻撃の度に複数の状態異常を相手に与える性質を持っている。
 状態異常の王、だっけ。
 純粋な攻撃威力を高めるって選択は自らに宿った赤雷を裏切ってしまうような想いでもあるんじゃないかなと僕は推測してる。
 実に阿保らしい拘りだ。
 と断じつつも、僕も弓での戦いにそれなりに拘っている。
 矛盾しているのか、戦闘に関して僕という個人の中で複数の物差しがあるのか。
 多分後者だろうな。
 節目節目になるような戦い、一番でかいのを想像するとあの女神が浮かぶんだけど、例えばその決着は意地でも弓で付けたいと思っている。
 素手や他の武器、魔術じゃなく弓で。
 でもひたすら最善を突っ走って戦闘を最速で済ませようとする自分も同時に存在して。
 そちらでは武器に拘りなんて持つべきじゃない、それは隙に繋がると告げてくる。
 難しいとこだ。
 さて、どういう因果か僕が適当に転移した先には反神教がいた。
 ツィーゲから逃亡した一派らしかった。
 最初はいなかったんだけどアルテと小競り合いしてたら周囲をかためるかのように彼らが円形に集まってきた。
 反神教と革命軍、両方が合流していた様子でアイオンのどこかで再起を狙って進軍途中だったのか。
 何にしても運が悪い連中だ。
 第一僕もアルテも特に気にしてなかったし何なら気付いてもいなかったんだから、すたこら逃げれば良かったのに。
 宗教にはまる人というのはよくわからんです。

「はぁはぁ」

 アルテはアルテで僕だけじゃなく反神教も同時に標的にして赤雷を連打してる。
 ぶっちゃけ魔力は貫通しても保有する魔力による状態異常への抵抗力は活きてる。
 障壁も魔力体も役に立たないけど、実は界の方はしっかり役割を果たしてくれてる。
 流石は神様由来である。
 同じ神様の力にきちんと対抗してくれるなんてね。
 という訳で僕としては痛いけど、それだけだ。
 痛いのは……我慢すればいい。
 動けなくなる程ダメージが蓄積する前に使徒ってものがどういう存在かわかれば、別に構わない。

「魔人、様……」

 反神教の方も魔人魔人うるさい。
 彼らの希望の星になる気も毛頭ないってのに。
 アルテは夢中になって彼らの言葉を聞いては殺してるけどさ。
 リーダーらしきエルフのミュラーが恍惚と呟いて僕を見つめてくる。
 どれだけ魔人に夢を見てるんだか。
 もっとも、彼女が一人のエルフとしてクズノハ商会の門を叩いていたなら多少の結果は違ったかもしれない。
 でも現実にミュラーがツィーゲに来て向かったのは知己であるリオウの所、黄昏街だ。
 ……たらればには意味がないか。
 すでに全身に複数の毒が回り、身体の所々が石化している。
 時々体の一部が内側から破裂して派手に血が飛び散っていた。
 精神異常の方は最初からアレなんでよくわからない。
 少なくともアルテに魅了されたりはしてない。
 とはいえ既に死が間近なのは確実。
 数発の赤雷でこれだ。
 まともなヒューマンでアルテに抗うのはかなり難しい。
 予め複数の状態異常に備えているような奇特な存在、例えば荒野常連の冒険者なんかじゃないとまともに対峙する事すら出来ないだろう。
 魔術じゃなく装備や護符で状態異常に対処するタイプがアルテにとっては最も厄介な存在、かな。
 あとは残念な事に今目の前にいるけど、僕も。

「ミュラー、ツィーゲから消えたとは報告があったけど。残念だったわね、反神教も、これでお仕舞」

「……ええ。でもきっと貴女も今日死ぬ。だってそんな顔してる使徒を、私は見た事がないもの、うふ、うふふ! 仲良く一緒に死にましょうねえ女神の使徒!!」

「ごめんなさいね、一緒に行ってくれるのは愛しい愛しい魔人様よ。死ね、汚物」

「っ!」

 一瞬美麗な石像になったミュラーはそのまま追撃の衝撃で砕けた。
 あっさりと反神教の終わりをトップとして認めたって事は……きっとトカゲの尻尾切りだ。
 尻尾じゃなく、トップさえも時に盛大に死んでみせ世界の油断を誘い、延々と彼女たちは女神への叛意を紡いできたんだろうから。
 とんでもないな。

「顔色悪いねアルテ。そろそろ限界?」

「はっ、ついでにゴミ掃除しただけよ。それに一撃たりともお前への攻撃も緩めた覚えは無い」

「……確かに」

「神の使徒としては、地味かもしれない。でも私のかんだちは当て続けた分だけ、確実に相手を死に近づける。お前が準備万端で私に挑んできたのは毒や麻痺、石化すら受け付けてないのを見ればわかる」

「準備万端、ねえ」

 戦場にも戦いにもそんな状況は殆ど無い。
 というか僕に限っては大抵ある日突然にやばい状況が部屋まで押しかけてくるざまだ。
 準備万端で戦うなんてのはファンタジーも良いとこで、麻雀で天和かますくらいにレアだと思ってる。

「極めつけはあの腕ね。まさか上空に展開した私の切り札を相殺するようなすべがこの世にあるだなんて想像もしてなかった」

「……」

 別に相殺じゃなく、やる事やったから戻しただけですが。
 とにかく目立つから、ある意味僕の切り札でありながら使用機会が限られるんだよね。
 ここまでアルテ自身にも踏み込んだ集中が終わったならもう必要無いし。

「でも。ダメージは確実にある。それだけの魔力、それだけの力の代償としてはあまりにも些末で卑怯だとは思ったけれど……ライドウ、お前は治癒の効かない体か治癒魔術を使えない」

「……へぇ」

 そこは見抜いてくるんだ。
 雷属性の使い手というだけじゃなく、まだ何かスキルを隠してるか。
 ローレルの巫女、チヤさんみたいな心眼の類か。
 ……それは別にアルテから集めなくても良いから特に興味も無いけど。

「だとすればお前の、泰然としたムカつく態度はフェイク! ダメージなど無いんだと相手に絶望を与える為の強がりに過ぎない」

「まあ、正解かな」

 ただ当てれば倒れるほどに弱ってもいない。

「もう分散して受け止めてくれる魔人信者もいないわ」

「反神教。はん、しん、きょう! 魔人信者じゃないっての」

「元々標的も目撃者も消すのが掟、でも今回ばかりはその掟を全力で肯定したい気分よ。こんな無様な力押し、美学に反する勝ちなんて屈辱でしかない」

「はは、まるで暗殺者みたいな物言いだ。女神の使徒なんていっても、所詮はあの虫の使いっ走り、それも汚れ役って事か」

 いや本当に。
 既に勝てると確信してるのも何とも痛々しい。
 ただただ苦戦の経験が足りない子だ。
 
「挑発で時間を稼いでも無駄よ」

 雷が球体になって幾つもアルテの周りを浮遊する。
 アルテの視線で大体狙ってるとこはわかるんだよな。
 でも回避しようとすると正確に軌道を変えて直撃させてくる。
 回避できない、ってのはああいうのを言うんだな。

「その気は無いよ。もう出涸らしみたいだから終わらせようと思ってたのは僕も一緒だ。さ、済まそう」

 あと一つ、試してみたい事はあるけどあの球でやればいいもんな。
 一番欲しかった確信も得られた。
 この戦いを、自らの使徒が戦う様を、あいつは見てない。
 もしかしたら全知全能の存在なにもしないひとでも気取ってるのかね。
 出来れば……ぶっ壊すに足る相手のままでいて欲しい。

「その弓が神器クラスなのももう認める。あまり使わせると、またあの訳の分からないスキルが出るかもしれないって事もね! 撃たせはしない!! お前の順番はもう永遠に来ない!!」

 射るだ、馬鹿野郎。
 いや女郎?
 アルテは四つの雷球を僕に向ける。
 ブルっと大きく震えると球は炸裂して雷光の束になり、四つのレーザー状の攻撃が僕に向く。
 攻撃を当てれば矢は飛んでこない。
 アルテはそう学習してる。
 僕が彼女に対してずっとそうしてきたから。
 さて。
 四つの攻撃の狙いどころは全部わかる。
 ダメ元ではあるけど、その四つプラス幾つかの箇所、僕の身体付近に霧の門を生成。
 どうなるかな。
 雷属性の必中がどこまでの精度なのか、見せてもらいましょ。
 弓は番えたまま。
 僕の視界が真っ赤に染まる。
 でも僕の脳裏にはアルテの姿がある。
 額に集中して……射る。
 
「っ痛つ!」

 痛いけど、腿にも追加!
 もういっちょ!
 心臓ももらっとくか。
 視界ゼロの中、アルテの球数と同じ四矢お見舞いした。

「!?」

 慣れた痛みが体をいた。
 思いもしない方向から三回。
 次いで赤を通り越して真っ白になってた視界が元に戻る。

「上出来上出来」

 空に繋げたのと地中深くに繋げたのとずっと彼方の荒野に繋げたの……それから亜空に繋げたの。
 咄嗟の選択だった。
 でも結果はかなり興味深かった。
 僕は見えない中で上から下から、そして背後からレーザーに撃たれた。
 痛みを受けた箇所でそれはわかる。
 どこに転移させても雷属性からは逃げられないって事だ。
 ただし、亜空を除いて。
 異空間に転移させられた雷は僕を再捕捉できなかった。
 そこまですれば回避できると見るべきか、そこまでしないと回避できないと見るべきか。

「……」

 アルテは立ち尽くしている。
 よろけた後はあるけど、奇跡的に立ってる。
 額、両腿、胸に矢が刺さっている。

「弁慶の仁王立ちとは、最後まで気取る」

 全部決まった。
 額のだけで終わりだったけど、相手の数に合わせるのも良いかと思い直して追撃したのは蛇足だったかも。
 あー痛かった。
 強いので言えば遥歌さんだったけど痛いので言えばアルテがランクインだ。
 ……仁王立ち。
 ふと一発、ノーモーションで手近で死んでた反神教の持ってた短剣をアルテに投げてみる。
 すると触れる前にうねる雷が短剣を消し炭にした。
 おいおい。
 まだ生きてるか。

「……一つ、聞きたい」

「先に生きてる理由が知りたいよ」

「お前は、女神様を敵視している」

「ああ」

「あの方と対峙して、打倒し、新たな神となる事に何の意味がある。既に世界に敷かれた秩序を根底から覆して、お前は何を望むの?」

「? 僕の望みはあの女神に神の傲慢なんてものがいつもいつもまかり……ってそこはいいや。望んでる事はただ一つ、気に食わない女神に仕返しをしに行く。ただそれだけだよ」

「神にも秩序にも……野心すら……」

 新たな神とか秩序とか。
 話を大きくされても困るってもんだ。
 僕はただあの女神とセメントしてガチンコしてごめんなさいをさせたいだけだ。

「……」

「おーい」

「まさか……全てに意味があるとは……勇者降臨と同じ時代に二人の使徒が存在する事にさえ……女神様だけでなく世界そのものさえもが?」

「……はぁ」

 仕方ない。
 もう一回だ。
 弓を番える。

「読み違えていた! 私はここに来るべきでは……じじぃ、無事でいなさいよ! っ!?」

 右目。
 ここも確実に急所だ。
 目を射抜かれた衝撃でアルテの身体が背後に吹っ飛ぶ。

「ライドウ。次は、お前を絶対に殺して見せる!」

 仰向けで大の字になったまま、彼女が吠えた。
 ホラーだな。
 人の形をしているだけで中身は別物だったのか。
 ……ま、次は無いけどな。
 お前が、誰に、何をしたのか。
 忘れてもらっちゃ困るんだよ。
 何を閃いたのか、どこから電波が飛んできたのかなんて知った事じゃない。
 こんな痛みで巴とエマを嬲ってくれた落とし前は、今日つけてもらう。

「次は無い」

 次は左目、っ!?
 
「消えた……」

 微妙に引っかかってた、雷属性で移動や転移、逃走を図った場合はどうなるのかという疑問。
 その答えがこれか。
 雷を体に纏うってだけでもアルテには大分負担だったようだし、彼女には向いていない術だろうに。
 身体鍛えてる感じしなかったし、完全に術に付いていけてなかった。
 そんな事も言ってられない状況まで追い込まれて必死に逃げた、か。
 僕しか立ってないすっかり荒れた場所で、僕は静かに矢筒を取り出す。
 あいつの場合、魔力で作り出した矢とかだと面倒な事に無力化してくるんだよな。
 後ろに矢筒を十ほど用意する。
 はぁ、普段はできるだけちゃんと回収して大事に使ってるのに。
 今回は諦めるしかなさそう。
 なあ、アルテ。
 僕は言ったよな。
 落とし前はつけさせるって。
 ミュラーも予言したろ?
 お前は今日死ぬって。
 弓を番える。
 今も異空間や異世界じゃなくこの世界のどこかにいるアルテに。
 脳裏にはアルテの姿。
 
「急所が無いなら肉片一つまで削り取る。さよなら、アルテ」
 
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