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六章 アイオン落日編
道は拓かれた
儀式魔術に特化した戦術。
盲点というよりも大博打だ、と見る人も多いだろう。
僕も最初はレンブラントさんらしくない、出たとこ勝負な戦い方を選んだと思った。
でもPRGのヴィヴィさんやノマさん、他歴戦の傭兵や冒険者らに同時に繰り出していた複数の策と併せて話を聞いていくと実はかなり現実的な……博打だとしてもかなり勝率の高い博打だったのではと考え直すようになった。
大体、兵力の差と根本的な資源の差を考えるとツィーゲとアイオン王国ではツィーゲの方が圧倒的に不利だ。
つまり独立宣言を出して国として分離する事自体が既に無謀とされる行為だった。
そう考えれば……儀式魔術という目の付け所は博打じゃなく世の盲点を突いたと見る方が正しいかも。
圧倒的な兵力差を埋める火力としては確かに数字だけみれば魅力的な手だから。
まあ僕はレンブラントさん寄りの考え方をしてるから彼贔屓の思考になるのは、そこは仕方ない。
アイオン王国が派兵を決め出兵するまでの間、既にレンブラントさん達ツィーゲの商人は動き始めてた。
まず王国に所属しながら王国への忠誠や期待を失っている一派に秋波を送った。
その候補は相手に露見しない事を第一に慎重に、だけど広範囲に大胆にもと商人の鼻を全力で発揮させて選ばれていき。
同時に儀式魔術を担当する魔術師隊など戦争の結末を決めるのに重要な立場にありながら、確実に露見するようなリスクがある相手にも交渉を持ち掛け、駄目ならそれを囮に深い所での離反工作を進める。
「結果、儀式魔術師たちの寝返りは失敗したけど彼らの無力化については術師団の護衛部隊を寝返らせる事で達成できたと」
無茶苦茶だな。
命の危険もあるだろうに、レンブラントさんはその辺りごり押ししたらしい。
商人のごり押しとは即ちお金。
金と金で出来る事を相手の望みに合わせてストレートに連打したと言っていた。
「世の中お金が全てじゃないし、絶対にお金じゃ揺らがない君みたいな変人も確かにいるんだけど……実際問題お金で買えない信念ってのもそんなにないものなんだよねー……」
「うむ。家、土地、仕事、家族に友人の事情。人には色々あるからな。今回の場合でいえば、その全てよりも国家への忠誠が勝るか否か。まあ、結果が全てを物語っているな」
ヴィヴィさんとノマさんは神妙に語ってたな。
既に国への忠誠が揺らいでいる、いわば根腐れしかけた木を倒すようなものだけに純粋な力押しというのは有効なのかもしれない。
該当部隊それぞれにぶち込まれる儀式魔術は事前に知らされ、それに特化した一級品の装備(ご丁寧にアイオンの支給装備と外見を全く同じにした物)をツィーゲからもらっての裏切り。
数名はそのまま死亡したようだけど、他全員は見事に混乱に乗じてツィーゲ側に生還したようだ。
流石は荒野で通用する装備を手掛けるブロンズマン商会のマイスター達が手掛けた逸品だ。
中級冒険者レベルの騎士が儀式魔術の直撃に一撃でも無事に耐えるとか愉快過ぎる。
「で……結局アイオンからの離反者は全部で三万ちょい。十万の軍に十万超えの補給担当の商人たちを引き連れてツィーゲまで来て……三万以上に寝返られて儀式魔術の雨あられとか……泣けるな。軍師とか大将だった人、一生立ち直れない気がする」
生きてればだけど。
聞けばツィーゲからのお誘い状をもらった人と隊だけだと三万に届かない位だったらしい。
でも実際には手紙を受け取りながら決断できなかった人、決断したけどギリギリで間に合わなかった人、アイオンへの忠誠を選んだ人、と色々いる訳で。
壁に穴を作って幻術で一時的に誤魔化すとかいう危ない橋で裏切った人を受け入れたツィーゲだけど、それを見ていた人は当事者以外にもいて、彼らの中には勝敗を察してツィーゲへの亡命や逃走を考える人もいた。
穴をあけてた壁もずっとそのままじゃなく、基本的には魔術やスキルで障壁を構成して素通りは出来なくしてたけど、そういったイレギュラーな離反者も吟味しながら受け入れたみたいだ。
「夜の逃亡が多かったようだけど……荒野の魔物が徘徊する中での逃走だもんな。必死じゃなきゃできないし、スパイも少し混じる程度だったと」
夜になって慣習通りに停戦して休むかと思いきや、ツィーゲは荒野で特殊なジョブの冒険者に魔物を捕獲させ高額で買い上げ、敵陣にばら撒いた。
荒野に生息する魔物は強力な種が多く、支配までするのはかなり骨が折れる。
だからその特殊なジョブ、召喚士やテイマー系統のジョブで荒野で活躍するのは中々きつく、順当にマイナーな立場だった。
でも今回の戦争関連で彼らも結構儲けたようで、有効性も示されただけに今後の彼らの評価も変わってくるんじゃなかろうか。
何せ支配の必要はなく、制御は一切できてなくていい。
捕獲さえしたなら買うという、これまででは考えられない条件が提示されたんだから。
ツィーゲの外壁は特殊な素材を組み込む事で(僕らが卸したジュエルウールも触媒の一種に活用されてるとかなんとか)余程強力な魔物でない限りは壁に近寄りたがらない仕様を実現している。
その条件なら相手方に魔物を封じた石を投擲するだけでこちらはぐっすり休みつつ相手を一方的に疲弊させる事ができる訳だ。
鬼畜。
まさに鬼畜の所業。
まあ実際にはアクシデントも色々ありまして。
亜空から何の奇跡か捕獲された熊がその中に紛れ込んでるわ、まだ中盤戦だと思ってたらその影響で巴とエマが怪我するし、お願いされてた女神の使徒への対処が凄く前倒しになったし?
僕的には散々ですよ、ホント。
あの雷、もしかしたら翌日には電気マッサージ的に体に好影響でも無いかと思ってたらむしろ痛みが残って究極の筋肉痛的なモノに変化してくれやがったし。
二人が心配で戻ったらエマの方は複数叩き込まれた状態異常も相俟って大騒ぎだったのに、巴は何か昂ぶってて割りと元気でさ……究極の筋肉痛、何割かはあいつの所為かもしれない。
「向こうの惨状を誤魔化すんだか、煽る為だか知らないけど毎夜毎夜のどんちゃん騒ぎもなあ。スキルでの回復向上が主目的とは言え、ステージでライブとか始めるし」
レンブラントさんの演説自体には色々符丁があったようで意味深いものだったらしい。
でも同様の技術を流用したライブまでやっちゃうのはどうかと思うよ。
あれ何かツィーゲでも流行りだして、今や広場は昼の部夜の部ひっきりなしで舞踊や歌唱のステージが立つ始末だ。
報告で見ただけなんだけど、踊りあり歌あり男子、女子、混合グループそれぞれ取り揃えで。
回復、魔力回復、高揚……色々効果ごとにも別れてたとか。
だけどね、何なんだろうねこのアイドルって枠は。
「今のツィーゲの人口程度ならそこまで効果は無いだろうが、これから私が想定する規模で都市と人口が肥大化していくのなら広告の専門家、広告塔というものが物を売る時に重要な役割を発揮するかもしれんと思うんだ。まだ試作だが芸人の亜種のような形で試運転から始めてみようと思ってるんだよ」
と、豪商……いや怪商……うーん無敵商人か?
レンブラントさんが言ってました。
今この世界には一部の役者とか音楽家、芸術家はいるけどさ。
こういっては何だけど金持ちのパトロンを見つけない限り彼ら自体に存在価値ってのは無い。
だって生産性が無いからね。
スポーツ選手もそうだけど、世の中が発達して皆がある程度お金と余裕があって……何かこうグローバルな感じにならないとアーティストにも脚光が当たる事って無いと思うんだよな。
たかだか一都市が大きくなって人口が増えた所で、ねえ?
……?
そういえば、いわゆる芸能人という、あのキラキラした世界の人はどうしてあんなにお金持ってるイメージなんだろ。
ん?
んん?
今この世界でアイドルなんて成立してないから、必要とされてないってのはまあ妥当だと思う。
でも……じゃあ、あーいう仕事はいつ、何を切っ掛けに仕事として成立するようになった?
……正直、まったく興味が無い世界だっただけに全くわからない。
という事は?
まさかツィーゲで本当に芸能界が誕生するのか!?
いやいやいや、広告?
広告塔……。
大手の商会がエース級の冒険者パーティのスポンサーになるって話は聞くけど……。
何か、背筋が寒くなった。
もしもアイドルやらタレントやら歌手やらがこれを機にツィーゲで生存権を得ていくとしたら、あの人には世の中の仕組みが一体どう見えているんだろ。
「おっかないな、アルテよりホラーじゃん。どこから物を見てんだ、あの人」
あいつはまあ、用意した矢を叩き込んでる内に手応えが幾つかあって殺せた。
転移だか雷だけに光速移動なのか知らんけど、どこで死んだかも知らんけど、まあ死んだ。
体も魔力の核らしいのもほぼ完全に破壊したし、魂も逃がさず塵にした。
もう会う事は無い。
エマを豚とか言うんじゃありませんよ、ミジンコからやり直せっての。
七より先の儀式魔術を三つも獲得した事で全部の絵は描けた、というレンブラントさんの言葉には一体どこまでの意味が含まれていたのか。
干渉しない範囲に儀式魔術師たちを配置するための外壁。
いや、それには街の区切りや離反者を受け入れる仕込みもあった。
「あんなん反則やろ! あっちは所々穴開きで壁作って良かとか聞いとらんやん! 知っとったらラスト三日余裕とか見せんで全力で突っ走ったと!?」
「アニキ、出てますて。何か謎の方言出てますから。元々距離はこっちが短かった訳ですし、まあ向こうの頑張り勝ちって事で。今日の酒も奢りじゃないっすか。まあ落ち着いて」
「納得いかーん!!」
何か、壁作りで賭け事してたらしいPRGのアニキさんチームが負けたらしくて、見事に酒に溺れてた。
驚異的な量飲んで、でも潰れる事なく延々と飲み食いしてたな。
話し方が独特な方言に変わってて、酔って荒れるとああなる人なんだと苦笑したのはつい先日の事。
なのに何故か気持ちよく飲んでる感じで周りには人が一杯いて、物や人にもあたってなかった。
あれも一流の傭兵だからこそ、だろうか。
そして彼らの活躍もあって突貫工事で完成した長い壁に儀式魔術師の確保。
大量に、各地点に三組ずつの部隊を配置して高価な魔力回復ポーションも完備し絶え間なく儀式魔術を撃てるようにした。
相手の兵力全体には及ばなくても、どの国も必要以上の数を確保しようとしなかった儀式魔術師やその予備軍は集めようと思えばいくらでも集められた。
国家や組織に雇われなかった、所属できなかった儀式魔術師はあまり関心も持たれない日陰者の扱いというのがまた泣ける。
この世界では既に必要数だけいれば後はいらないとされる一か八かの職でもあるから仕方ない点もあるけどね。
多分、この戦争の結果を受けて大国は必死になって在野の儀式魔術師を集め始めるんじゃなかろうか。
もしかしたらロッツガルド学園でも将来の進路にそれが加わるかも。
今回のケースだとツィーゲへの忠誠心などどうでも良いという観点なので更に条件は緩かったようだし。
この一点だけではツィーゲはアイオンを圧倒していた。
周辺から根こそぎかき集めるという事は相手方が緊急に補充しようとしても不可能という事でもある。
初手を裏切りで確実に直撃させ相手の儀式魔術師を削り、次からは初見を含む十種の儀式魔術でさらに相手の儀式魔術への対抗手段を魔術師ごと削り削り削る。
無茶をしているようで、決して正攻法ではないけれど、理には叶っている気がする。
「なに、元々国でクーデターが起こるような王の統治が揺らいだ国相手だから出来た曲芸だよ。何せ私は戦いの素人だからね、ただ時に勝負事ではそういう素人の突拍子もない考えが会心の仕事をする事があるものさ。大勝負の時ほど……ね」
と笑ってましたが。
何か、もう一回戦っても同じ事を言って勝ちそうだなレンブラントさん。
途中からは投降を懇願する敵兵を状況に応じて仕留めたり受け入れたりしながら、しぶとく張り付いてた商人たちに向けて儀式魔術を叩き込みだした。
この時点でもう勝敗は決していたと思う。
昼は抵抗できない儀式魔術と遠い壁。
夜は荒野の魔物との戦い。
そして朝が来てまた儀式魔術が荒野の魔物ごとアイオン軍を灰燼に帰す。
やがてアイオン軍が壊走を始め、ツィーゲの外壁で戦闘が起きなくなって七日。
アイオン王国から使者と書状が届いた。
はい。
ツィーゲ、独立しました。
盲点というよりも大博打だ、と見る人も多いだろう。
僕も最初はレンブラントさんらしくない、出たとこ勝負な戦い方を選んだと思った。
でもPRGのヴィヴィさんやノマさん、他歴戦の傭兵や冒険者らに同時に繰り出していた複数の策と併せて話を聞いていくと実はかなり現実的な……博打だとしてもかなり勝率の高い博打だったのではと考え直すようになった。
大体、兵力の差と根本的な資源の差を考えるとツィーゲとアイオン王国ではツィーゲの方が圧倒的に不利だ。
つまり独立宣言を出して国として分離する事自体が既に無謀とされる行為だった。
そう考えれば……儀式魔術という目の付け所は博打じゃなく世の盲点を突いたと見る方が正しいかも。
圧倒的な兵力差を埋める火力としては確かに数字だけみれば魅力的な手だから。
まあ僕はレンブラントさん寄りの考え方をしてるから彼贔屓の思考になるのは、そこは仕方ない。
アイオン王国が派兵を決め出兵するまでの間、既にレンブラントさん達ツィーゲの商人は動き始めてた。
まず王国に所属しながら王国への忠誠や期待を失っている一派に秋波を送った。
その候補は相手に露見しない事を第一に慎重に、だけど広範囲に大胆にもと商人の鼻を全力で発揮させて選ばれていき。
同時に儀式魔術を担当する魔術師隊など戦争の結末を決めるのに重要な立場にありながら、確実に露見するようなリスクがある相手にも交渉を持ち掛け、駄目ならそれを囮に深い所での離反工作を進める。
「結果、儀式魔術師たちの寝返りは失敗したけど彼らの無力化については術師団の護衛部隊を寝返らせる事で達成できたと」
無茶苦茶だな。
命の危険もあるだろうに、レンブラントさんはその辺りごり押ししたらしい。
商人のごり押しとは即ちお金。
金と金で出来る事を相手の望みに合わせてストレートに連打したと言っていた。
「世の中お金が全てじゃないし、絶対にお金じゃ揺らがない君みたいな変人も確かにいるんだけど……実際問題お金で買えない信念ってのもそんなにないものなんだよねー……」
「うむ。家、土地、仕事、家族に友人の事情。人には色々あるからな。今回の場合でいえば、その全てよりも国家への忠誠が勝るか否か。まあ、結果が全てを物語っているな」
ヴィヴィさんとノマさんは神妙に語ってたな。
既に国への忠誠が揺らいでいる、いわば根腐れしかけた木を倒すようなものだけに純粋な力押しというのは有効なのかもしれない。
該当部隊それぞれにぶち込まれる儀式魔術は事前に知らされ、それに特化した一級品の装備(ご丁寧にアイオンの支給装備と外見を全く同じにした物)をツィーゲからもらっての裏切り。
数名はそのまま死亡したようだけど、他全員は見事に混乱に乗じてツィーゲ側に生還したようだ。
流石は荒野で通用する装備を手掛けるブロンズマン商会のマイスター達が手掛けた逸品だ。
中級冒険者レベルの騎士が儀式魔術の直撃に一撃でも無事に耐えるとか愉快過ぎる。
「で……結局アイオンからの離反者は全部で三万ちょい。十万の軍に十万超えの補給担当の商人たちを引き連れてツィーゲまで来て……三万以上に寝返られて儀式魔術の雨あられとか……泣けるな。軍師とか大将だった人、一生立ち直れない気がする」
生きてればだけど。
聞けばツィーゲからのお誘い状をもらった人と隊だけだと三万に届かない位だったらしい。
でも実際には手紙を受け取りながら決断できなかった人、決断したけどギリギリで間に合わなかった人、アイオンへの忠誠を選んだ人、と色々いる訳で。
壁に穴を作って幻術で一時的に誤魔化すとかいう危ない橋で裏切った人を受け入れたツィーゲだけど、それを見ていた人は当事者以外にもいて、彼らの中には勝敗を察してツィーゲへの亡命や逃走を考える人もいた。
穴をあけてた壁もずっとそのままじゃなく、基本的には魔術やスキルで障壁を構成して素通りは出来なくしてたけど、そういったイレギュラーな離反者も吟味しながら受け入れたみたいだ。
「夜の逃亡が多かったようだけど……荒野の魔物が徘徊する中での逃走だもんな。必死じゃなきゃできないし、スパイも少し混じる程度だったと」
夜になって慣習通りに停戦して休むかと思いきや、ツィーゲは荒野で特殊なジョブの冒険者に魔物を捕獲させ高額で買い上げ、敵陣にばら撒いた。
荒野に生息する魔物は強力な種が多く、支配までするのはかなり骨が折れる。
だからその特殊なジョブ、召喚士やテイマー系統のジョブで荒野で活躍するのは中々きつく、順当にマイナーな立場だった。
でも今回の戦争関連で彼らも結構儲けたようで、有効性も示されただけに今後の彼らの評価も変わってくるんじゃなかろうか。
何せ支配の必要はなく、制御は一切できてなくていい。
捕獲さえしたなら買うという、これまででは考えられない条件が提示されたんだから。
ツィーゲの外壁は特殊な素材を組み込む事で(僕らが卸したジュエルウールも触媒の一種に活用されてるとかなんとか)余程強力な魔物でない限りは壁に近寄りたがらない仕様を実現している。
その条件なら相手方に魔物を封じた石を投擲するだけでこちらはぐっすり休みつつ相手を一方的に疲弊させる事ができる訳だ。
鬼畜。
まさに鬼畜の所業。
まあ実際にはアクシデントも色々ありまして。
亜空から何の奇跡か捕獲された熊がその中に紛れ込んでるわ、まだ中盤戦だと思ってたらその影響で巴とエマが怪我するし、お願いされてた女神の使徒への対処が凄く前倒しになったし?
僕的には散々ですよ、ホント。
あの雷、もしかしたら翌日には電気マッサージ的に体に好影響でも無いかと思ってたらむしろ痛みが残って究極の筋肉痛的なモノに変化してくれやがったし。
二人が心配で戻ったらエマの方は複数叩き込まれた状態異常も相俟って大騒ぎだったのに、巴は何か昂ぶってて割りと元気でさ……究極の筋肉痛、何割かはあいつの所為かもしれない。
「向こうの惨状を誤魔化すんだか、煽る為だか知らないけど毎夜毎夜のどんちゃん騒ぎもなあ。スキルでの回復向上が主目的とは言え、ステージでライブとか始めるし」
レンブラントさんの演説自体には色々符丁があったようで意味深いものだったらしい。
でも同様の技術を流用したライブまでやっちゃうのはどうかと思うよ。
あれ何かツィーゲでも流行りだして、今や広場は昼の部夜の部ひっきりなしで舞踊や歌唱のステージが立つ始末だ。
報告で見ただけなんだけど、踊りあり歌あり男子、女子、混合グループそれぞれ取り揃えで。
回復、魔力回復、高揚……色々効果ごとにも別れてたとか。
だけどね、何なんだろうねこのアイドルって枠は。
「今のツィーゲの人口程度ならそこまで効果は無いだろうが、これから私が想定する規模で都市と人口が肥大化していくのなら広告の専門家、広告塔というものが物を売る時に重要な役割を発揮するかもしれんと思うんだ。まだ試作だが芸人の亜種のような形で試運転から始めてみようと思ってるんだよ」
と、豪商……いや怪商……うーん無敵商人か?
レンブラントさんが言ってました。
今この世界には一部の役者とか音楽家、芸術家はいるけどさ。
こういっては何だけど金持ちのパトロンを見つけない限り彼ら自体に存在価値ってのは無い。
だって生産性が無いからね。
スポーツ選手もそうだけど、世の中が発達して皆がある程度お金と余裕があって……何かこうグローバルな感じにならないとアーティストにも脚光が当たる事って無いと思うんだよな。
たかだか一都市が大きくなって人口が増えた所で、ねえ?
……?
そういえば、いわゆる芸能人という、あのキラキラした世界の人はどうしてあんなにお金持ってるイメージなんだろ。
ん?
んん?
今この世界でアイドルなんて成立してないから、必要とされてないってのはまあ妥当だと思う。
でも……じゃあ、あーいう仕事はいつ、何を切っ掛けに仕事として成立するようになった?
……正直、まったく興味が無い世界だっただけに全くわからない。
という事は?
まさかツィーゲで本当に芸能界が誕生するのか!?
いやいやいや、広告?
広告塔……。
大手の商会がエース級の冒険者パーティのスポンサーになるって話は聞くけど……。
何か、背筋が寒くなった。
もしもアイドルやらタレントやら歌手やらがこれを機にツィーゲで生存権を得ていくとしたら、あの人には世の中の仕組みが一体どう見えているんだろ。
「おっかないな、アルテよりホラーじゃん。どこから物を見てんだ、あの人」
あいつはまあ、用意した矢を叩き込んでる内に手応えが幾つかあって殺せた。
転移だか雷だけに光速移動なのか知らんけど、どこで死んだかも知らんけど、まあ死んだ。
体も魔力の核らしいのもほぼ完全に破壊したし、魂も逃がさず塵にした。
もう会う事は無い。
エマを豚とか言うんじゃありませんよ、ミジンコからやり直せっての。
七より先の儀式魔術を三つも獲得した事で全部の絵は描けた、というレンブラントさんの言葉には一体どこまでの意味が含まれていたのか。
干渉しない範囲に儀式魔術師たちを配置するための外壁。
いや、それには街の区切りや離反者を受け入れる仕込みもあった。
「あんなん反則やろ! あっちは所々穴開きで壁作って良かとか聞いとらんやん! 知っとったらラスト三日余裕とか見せんで全力で突っ走ったと!?」
「アニキ、出てますて。何か謎の方言出てますから。元々距離はこっちが短かった訳ですし、まあ向こうの頑張り勝ちって事で。今日の酒も奢りじゃないっすか。まあ落ち着いて」
「納得いかーん!!」
何か、壁作りで賭け事してたらしいPRGのアニキさんチームが負けたらしくて、見事に酒に溺れてた。
驚異的な量飲んで、でも潰れる事なく延々と飲み食いしてたな。
話し方が独特な方言に変わってて、酔って荒れるとああなる人なんだと苦笑したのはつい先日の事。
なのに何故か気持ちよく飲んでる感じで周りには人が一杯いて、物や人にもあたってなかった。
あれも一流の傭兵だからこそ、だろうか。
そして彼らの活躍もあって突貫工事で完成した長い壁に儀式魔術師の確保。
大量に、各地点に三組ずつの部隊を配置して高価な魔力回復ポーションも完備し絶え間なく儀式魔術を撃てるようにした。
相手の兵力全体には及ばなくても、どの国も必要以上の数を確保しようとしなかった儀式魔術師やその予備軍は集めようと思えばいくらでも集められた。
国家や組織に雇われなかった、所属できなかった儀式魔術師はあまり関心も持たれない日陰者の扱いというのがまた泣ける。
この世界では既に必要数だけいれば後はいらないとされる一か八かの職でもあるから仕方ない点もあるけどね。
多分、この戦争の結果を受けて大国は必死になって在野の儀式魔術師を集め始めるんじゃなかろうか。
もしかしたらロッツガルド学園でも将来の進路にそれが加わるかも。
今回のケースだとツィーゲへの忠誠心などどうでも良いという観点なので更に条件は緩かったようだし。
この一点だけではツィーゲはアイオンを圧倒していた。
周辺から根こそぎかき集めるという事は相手方が緊急に補充しようとしても不可能という事でもある。
初手を裏切りで確実に直撃させ相手の儀式魔術師を削り、次からは初見を含む十種の儀式魔術でさらに相手の儀式魔術への対抗手段を魔術師ごと削り削り削る。
無茶をしているようで、決して正攻法ではないけれど、理には叶っている気がする。
「なに、元々国でクーデターが起こるような王の統治が揺らいだ国相手だから出来た曲芸だよ。何せ私は戦いの素人だからね、ただ時に勝負事ではそういう素人の突拍子もない考えが会心の仕事をする事があるものさ。大勝負の時ほど……ね」
と笑ってましたが。
何か、もう一回戦っても同じ事を言って勝ちそうだなレンブラントさん。
途中からは投降を懇願する敵兵を状況に応じて仕留めたり受け入れたりしながら、しぶとく張り付いてた商人たちに向けて儀式魔術を叩き込みだした。
この時点でもう勝敗は決していたと思う。
昼は抵抗できない儀式魔術と遠い壁。
夜は荒野の魔物との戦い。
そして朝が来てまた儀式魔術が荒野の魔物ごとアイオン軍を灰燼に帰す。
やがてアイオン軍が壊走を始め、ツィーゲの外壁で戦闘が起きなくなって七日。
アイオン王国から使者と書状が届いた。
はい。
ツィーゲ、独立しました。
感想 3,667
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だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)