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六章 アイオン落日編
魔人が咲かせる百合の花
僕が魔力体を生み出す切っ掛けになったマイナー論文。
執筆者は努力家で才能に恵まれた人だったが、世に広く名前を残す事はなかった。
どれほど恵まれたかじゃなく、どれだけ結果を残したかが後世にとって重要だという事なんだろう。
ジン達みたいな天才秀才の代名詞みたいな子達でさえ生き方次第では簡単に忘れられていくかもしれない、そんな暗示に思える。
……ま、名前が残るって事は歴史にとって都合が良いか無視できないかのどちらかだったとも言えるのか。
ここでも向こうでも、今に残る歴史なんて大筋では勝者の記録なんだから。
そう、歴史は歴と史で……ああ、駄目だ。
今はそんな事を考える時じゃない。
「先生?」
ジンから呼ばれて我にかえる。
ついつい昔、まだ日本にいた頃の一場面を思い出した。
「ああ、すまん。ダエナは魔術師の防御手段、ジンはセキュリティ方面への活用について可能性を見出したんだったな」
「はい」
僕がダエナに聞いた論文に関しての課題への回答、それに関してジンも加わって二人で答えてきた。
ダエナは戦闘寄り、ジンは一般生活寄りの発想だったが当然ながら実用までの道筋はない。
あくまでも可能性の話だ。
ダエナは強力な魔術発動の際の魔力障壁って部分に着目したけれど、そのままでは微弱過ぎる障壁の強化にサポートを二人ほど置くなど実用へのアプローチが弱い。
ジンは高まった魔力が人によって異なる色を帯びる事に着目して指紋のようにセキュリティに活用できないかと考えていた。
外的な要因でどうやって魔力の色を確認するのかは研究が必要だろうけど、もし実現したら面白い。
指紋や虹彩認証ならぬ魔力による本人確認が可能になる。
他の生徒があの論文から何を見出したのかも楽しみだ。
後で識に見せてもらお。
「縁もゆかりもなかった昔の人々の知識や研究の結果が今を生きるお前たちと出会う事で、こうして新しい発想を生み出す。その仲介を担ってくれるものが書物だ」
「……あ、そういう」
ジンはわかったみたいだな。
人みたいに百年くらいで死んでいく生物には過去と未来を繋ぐものが必要だ。
幸い、人は文字が使える。
口伝だけに頼っていれば記憶って曖昧なものが常に過去や事実を変えてしまう恐れがあるんだ。
本にして残される事で多くの知識が未来に向けて記録されていく。
だから、不用品や古くなった道具を処分するように本を扱ってはいけないし扱う人も専門家である必要がある。
ゆえに図書館や司書はなくてはならないものだし、司書であっても本来なら書物の要不要の選定はすべきじゃない。
とはいえ図書館には蔵書量の限界があるのも事実。
泣く泣く選別も必要にはなるんだろうけどね。
現実を無視して理想を語るなら、司書さんだって無限に所蔵していきたいだろう。
言うまでもなく特定のジャンルや思想を語った書物を不要だと焼くような行為は、許されていいものじゃない。
ダエナの考えだと意外とやりそうで怖いんだよな。
「ああ。ダエナもわかったか?」
「書物を軽く扱うなというのは、わかりました。図書館を倉庫扱いするなというのも」
「それは良かった」
「けれど、全ての本が尊ばれるべきか否かはむしろ積極的に考えていくべきだと思えてきました」
「ん?」
「確かに過去からの財産として書物が貴重なのは事実です。ただの道具とは訳が違う。でもだからと言って古くなった技術書や専門書については、俺は必要だとは思えません」
「うーん……」
そう来るか。
その辺りで混乱がおきないように蔵書の整理をするのも司書さんの腕の見せ所だろうしその図書館の専門性の出し方って……でも正直学園の図書館はカオスそのものなのも事実。
もう一つ二つ作りゃいいのに、と思えるのも事実。
ダエナみたいにただ雑多に本が突っ込んであるのはいい迷惑だと思ってしまうのもわからんでもない。
「より優れた書の登場で不要になる書物だって当然あるんじゃないでしょうか」
「それだと過去からの連続が途切れてしまうかもしれない。ダエナが思う事も一理あるが、そこは学園が図書館の増設などを考えて専門別の図書館を意識するようになってくれる事で解決できるだろう」
「増設……確かに。もっと全体の所蔵量が増え、かつ整理整頓されてわかりやすくなってくれれば選別の機会は減らせます」
「お前が思う以上に技術や研究の発展、その一連が連続して残されていく事には意味がある。確かに今の学園図書館は少々混沌とし過ぎているが、そこはこれからの講師や学生が変えていけば良い事だ。少なくとも、だ。過去から未来に向けて書物という贈り物がより多く残されていく事はとても大事な事だと私は考えている」
「……はい。わかりました」
「一度ゆっくりと識と話すと良い。教育に熱心に興味を持つダエナならそう難しく考えるまでもなく、本への敬意や付き合い方も身につけられるはずだ」
「ありがとうございます」
実戦に依らず戦い方、強さを身につけられる価値って観点から彼は教育に目覚めた。
なら一人の人が死ぬまでの時間を投じて研究した事、発見した事を後世の人がただ本を手にするだけで知る事ができる意味と価値だって直に理解できると思う。
「さてと。課題への回答だけど、識」
「はい」
「ジンとダエナには何点つけた?」
「どちらもおまけで60点、といった所ですね」
「厳しいね。それって、満点の基準を間違えてるぞ」
「……かなり衝撃的なものでしたので。確かに基準とすべきではなかったかもしれません」
『?』
やっぱ僕の魔力体を満点にしてたか。
ちなみに僕はジンが90点、ダエナが75点ってとこだった。
僕らのやりとりを聞いて生徒たちが何の事やら、といった表情でこちらを見ている。
ジンとダエナは点数の低さにショックを受けているようだ。
「種明かしをすると。この論文はあの学園祭の前に僕がとある司書から薦められて読んだものだ。で、その休みの間に識でさえちょっと驚くような成果に結びついた」
『!?』
波の様に広がる驚き。
「若様、あれは少しではありません。一同、度肝を抜かれました」
識に真顔で突っ込まれた。
「この一冊の大昔の論文で私が手にしたもの、知りたいか?」
問うまでもない事だったけど、一応。
まあ皆が皆コクコクと頷いた。
その反応を見て、僕もゆっくりと頷く。
「では見せる。ジン達一期生は実はもう見ているが……場所が相当特殊だったからろくに覚えてなくともおかしくないな」
それに魔力そのものを隠さずに披露した事はない。
もっとも全部垂れ流すのはまずいから四分の一ほどでいくか。
「……全員、気を確かに持って見逃さぬよう」
識が僕の気配を察してジン達の気を引き締めさせる。
『!?!?』
「私の場合普段は抑えているが、まあ人は多かれ少なかれ魔力を漂わせながら生きている」
隠蔽の界を解除して控えめに魔力を見せる。
ただ、それはジン達がこれまでに見聞きしてきたものとは別格の筈。
ローレルではそれなりの魔力を放つ相手とも戦ったろうけど、感じ取る余裕までは無かったようだし。
魔力の変化をわかり易くみせるために丁寧に詠唱を綴り、唱えて魔術を構成していく。
折角だから術の方は一帯に魔力を供給する見ためが派手なのにしようか。
エマさん直伝のロストチャント、学生にはあまり聞き覚えがない言語は高速かつ強力に魔術を編み上げていく。
そして発動の直前で、魔力体の構築にシフト。
膨れ上がって魔術になろうとしていた魔力が突如萎む方向にシフトして、その後安定して場に残り続ける。
今はもう無詠唱かつスイッチを入れるような感覚で魔力体を作れるようになったけど、そうだ、最初はこんな感覚で騙し騙し作ってたっけな。
『……』
ジン達が目を見開いて魔力の変化を見つめている。
中には詠唱に注目してるのもいるようだ。
僕はその辺りの解説は敢えてスルーして魔力を魔力体として固定。
学生にもわかり易いように色濃い藍色の魔力で人の上半身を構築して完成させた。
「私はあの論文を読み込んで魔力の可能性をこう実用化してみた。可視化はもちろん――」
一瞬で透明、不可視化して見せたり。
魔力までは隠していないからそこに何かあるのははっきりとわかる状態のまま。
「障壁化するのが物理的な接触を可能とする点から半物質化を実現した。まあこちらはこの論文だけのおかげではなく別の閃きもあっての事だが――」
説明はそこそこにジンとダエナを魔力体の両腕で掴む。
魔力や魔力で構成されたものが人を持ち上げるというのはダエナの言葉じゃないが非常識な出来事だ。
明らかに魔力とわかる、なのにただ柔らかな何かに掴まれる感覚は中々味わう事ができない経験だろう。
「こうして物体に干渉する事も可能だ。魔術師にとっては中々の革命だろう? もちろんこれは魔力そのものでもあるから――」
学生にも一般的な攻撃魔術フレイムアローを発動させると、ジンとダエナを掴む腕の内部に十数個の炎の矢が生まれ二人に向く。
「こんな風に魔術として改めて発動する事も可能だ。もちろん、この魔力を消費して行使できる」
『……』
おっと。
場から言葉が消える。
僕以外、静寂そのもの。
……ここまでかな。
二期の子が数名気分が悪そうだ。
触れた事のない魔力の塊が間近にあるというのは、中々に緊張する状況だからね。
「とまあ、こんな手品みたいな成果が思わぬ所で生まれるのも書物が大切に適切に保管されてきた結果だと言う事だな。では少し変わった魔術で余興は終わりにしよう」
最初魔力体を構築する時に詠唱した、広範囲に魔力を供給する魔術。
魔力体の全部でそれを発動させた。
僕が立っている場所から緑色の光が柱の様に立ちあがっていく。
やがて柱の左右からも光が伸びて葉を形成する。
これは花を模した形で発動する映える術。
咲く花は百合。
間もなく、結構巨大な緑光の百合が一輪、学園に咲いた。
学園都市のどこからでも見えるくらいの結構なサイズだ。
魔力をそれなりに食わせたから、納得の大きさでもある。
知ってはいてもあまり使う機会が無かった魔術だけど……派手だな。
あんまり一帯に魔力を供給する術なんて使わないもんなあ。
『!!』
百合が風に吹かれて揺れるような動きをした瞬間、一体に魔力がキラキラと降り注ぐ。
これが魔力の枯渇した戦場ならとんでもなく喜ばれたに違いない。
ま、ここは学園都市ロッツガルドですから?
少しの間体調が良くなるとか、珍しいもん見れて気分が良い程度の効果しか望めないね。
「では識。講義を始めよう」
「……そうですね。ではまず今の魔術を研究、模倣させてみるなど如何でしょう」
「……邪魔しちゃった?」
「いいえ。予定よりも充実した内容に出来そうです」
突然講義内容が変わってしまった。
識は怒っていないようだけど、最後の最後に余計な事をしてしまったかもしれない。
執筆者は努力家で才能に恵まれた人だったが、世に広く名前を残す事はなかった。
どれほど恵まれたかじゃなく、どれだけ結果を残したかが後世にとって重要だという事なんだろう。
ジン達みたいな天才秀才の代名詞みたいな子達でさえ生き方次第では簡単に忘れられていくかもしれない、そんな暗示に思える。
……ま、名前が残るって事は歴史にとって都合が良いか無視できないかのどちらかだったとも言えるのか。
ここでも向こうでも、今に残る歴史なんて大筋では勝者の記録なんだから。
そう、歴史は歴と史で……ああ、駄目だ。
今はそんな事を考える時じゃない。
「先生?」
ジンから呼ばれて我にかえる。
ついつい昔、まだ日本にいた頃の一場面を思い出した。
「ああ、すまん。ダエナは魔術師の防御手段、ジンはセキュリティ方面への活用について可能性を見出したんだったな」
「はい」
僕がダエナに聞いた論文に関しての課題への回答、それに関してジンも加わって二人で答えてきた。
ダエナは戦闘寄り、ジンは一般生活寄りの発想だったが当然ながら実用までの道筋はない。
あくまでも可能性の話だ。
ダエナは強力な魔術発動の際の魔力障壁って部分に着目したけれど、そのままでは微弱過ぎる障壁の強化にサポートを二人ほど置くなど実用へのアプローチが弱い。
ジンは高まった魔力が人によって異なる色を帯びる事に着目して指紋のようにセキュリティに活用できないかと考えていた。
外的な要因でどうやって魔力の色を確認するのかは研究が必要だろうけど、もし実現したら面白い。
指紋や虹彩認証ならぬ魔力による本人確認が可能になる。
他の生徒があの論文から何を見出したのかも楽しみだ。
後で識に見せてもらお。
「縁もゆかりもなかった昔の人々の知識や研究の結果が今を生きるお前たちと出会う事で、こうして新しい発想を生み出す。その仲介を担ってくれるものが書物だ」
「……あ、そういう」
ジンはわかったみたいだな。
人みたいに百年くらいで死んでいく生物には過去と未来を繋ぐものが必要だ。
幸い、人は文字が使える。
口伝だけに頼っていれば記憶って曖昧なものが常に過去や事実を変えてしまう恐れがあるんだ。
本にして残される事で多くの知識が未来に向けて記録されていく。
だから、不用品や古くなった道具を処分するように本を扱ってはいけないし扱う人も専門家である必要がある。
ゆえに図書館や司書はなくてはならないものだし、司書であっても本来なら書物の要不要の選定はすべきじゃない。
とはいえ図書館には蔵書量の限界があるのも事実。
泣く泣く選別も必要にはなるんだろうけどね。
現実を無視して理想を語るなら、司書さんだって無限に所蔵していきたいだろう。
言うまでもなく特定のジャンルや思想を語った書物を不要だと焼くような行為は、許されていいものじゃない。
ダエナの考えだと意外とやりそうで怖いんだよな。
「ああ。ダエナもわかったか?」
「書物を軽く扱うなというのは、わかりました。図書館を倉庫扱いするなというのも」
「それは良かった」
「けれど、全ての本が尊ばれるべきか否かはむしろ積極的に考えていくべきだと思えてきました」
「ん?」
「確かに過去からの財産として書物が貴重なのは事実です。ただの道具とは訳が違う。でもだからと言って古くなった技術書や専門書については、俺は必要だとは思えません」
「うーん……」
そう来るか。
その辺りで混乱がおきないように蔵書の整理をするのも司書さんの腕の見せ所だろうしその図書館の専門性の出し方って……でも正直学園の図書館はカオスそのものなのも事実。
もう一つ二つ作りゃいいのに、と思えるのも事実。
ダエナみたいにただ雑多に本が突っ込んであるのはいい迷惑だと思ってしまうのもわからんでもない。
「より優れた書の登場で不要になる書物だって当然あるんじゃないでしょうか」
「それだと過去からの連続が途切れてしまうかもしれない。ダエナが思う事も一理あるが、そこは学園が図書館の増設などを考えて専門別の図書館を意識するようになってくれる事で解決できるだろう」
「増設……確かに。もっと全体の所蔵量が増え、かつ整理整頓されてわかりやすくなってくれれば選別の機会は減らせます」
「お前が思う以上に技術や研究の発展、その一連が連続して残されていく事には意味がある。確かに今の学園図書館は少々混沌とし過ぎているが、そこはこれからの講師や学生が変えていけば良い事だ。少なくとも、だ。過去から未来に向けて書物という贈り物がより多く残されていく事はとても大事な事だと私は考えている」
「……はい。わかりました」
「一度ゆっくりと識と話すと良い。教育に熱心に興味を持つダエナならそう難しく考えるまでもなく、本への敬意や付き合い方も身につけられるはずだ」
「ありがとうございます」
実戦に依らず戦い方、強さを身につけられる価値って観点から彼は教育に目覚めた。
なら一人の人が死ぬまでの時間を投じて研究した事、発見した事を後世の人がただ本を手にするだけで知る事ができる意味と価値だって直に理解できると思う。
「さてと。課題への回答だけど、識」
「はい」
「ジンとダエナには何点つけた?」
「どちらもおまけで60点、といった所ですね」
「厳しいね。それって、満点の基準を間違えてるぞ」
「……かなり衝撃的なものでしたので。確かに基準とすべきではなかったかもしれません」
『?』
やっぱ僕の魔力体を満点にしてたか。
ちなみに僕はジンが90点、ダエナが75点ってとこだった。
僕らのやりとりを聞いて生徒たちが何の事やら、といった表情でこちらを見ている。
ジンとダエナは点数の低さにショックを受けているようだ。
「種明かしをすると。この論文はあの学園祭の前に僕がとある司書から薦められて読んだものだ。で、その休みの間に識でさえちょっと驚くような成果に結びついた」
『!?』
波の様に広がる驚き。
「若様、あれは少しではありません。一同、度肝を抜かれました」
識に真顔で突っ込まれた。
「この一冊の大昔の論文で私が手にしたもの、知りたいか?」
問うまでもない事だったけど、一応。
まあ皆が皆コクコクと頷いた。
その反応を見て、僕もゆっくりと頷く。
「では見せる。ジン達一期生は実はもう見ているが……場所が相当特殊だったからろくに覚えてなくともおかしくないな」
それに魔力そのものを隠さずに披露した事はない。
もっとも全部垂れ流すのはまずいから四分の一ほどでいくか。
「……全員、気を確かに持って見逃さぬよう」
識が僕の気配を察してジン達の気を引き締めさせる。
『!?!?』
「私の場合普段は抑えているが、まあ人は多かれ少なかれ魔力を漂わせながら生きている」
隠蔽の界を解除して控えめに魔力を見せる。
ただ、それはジン達がこれまでに見聞きしてきたものとは別格の筈。
ローレルではそれなりの魔力を放つ相手とも戦ったろうけど、感じ取る余裕までは無かったようだし。
魔力の変化をわかり易くみせるために丁寧に詠唱を綴り、唱えて魔術を構成していく。
折角だから術の方は一帯に魔力を供給する見ためが派手なのにしようか。
エマさん直伝のロストチャント、学生にはあまり聞き覚えがない言語は高速かつ強力に魔術を編み上げていく。
そして発動の直前で、魔力体の構築にシフト。
膨れ上がって魔術になろうとしていた魔力が突如萎む方向にシフトして、その後安定して場に残り続ける。
今はもう無詠唱かつスイッチを入れるような感覚で魔力体を作れるようになったけど、そうだ、最初はこんな感覚で騙し騙し作ってたっけな。
『……』
ジン達が目を見開いて魔力の変化を見つめている。
中には詠唱に注目してるのもいるようだ。
僕はその辺りの解説は敢えてスルーして魔力を魔力体として固定。
学生にもわかり易いように色濃い藍色の魔力で人の上半身を構築して完成させた。
「私はあの論文を読み込んで魔力の可能性をこう実用化してみた。可視化はもちろん――」
一瞬で透明、不可視化して見せたり。
魔力までは隠していないからそこに何かあるのははっきりとわかる状態のまま。
「障壁化するのが物理的な接触を可能とする点から半物質化を実現した。まあこちらはこの論文だけのおかげではなく別の閃きもあっての事だが――」
説明はそこそこにジンとダエナを魔力体の両腕で掴む。
魔力や魔力で構成されたものが人を持ち上げるというのはダエナの言葉じゃないが非常識な出来事だ。
明らかに魔力とわかる、なのにただ柔らかな何かに掴まれる感覚は中々味わう事ができない経験だろう。
「こうして物体に干渉する事も可能だ。魔術師にとっては中々の革命だろう? もちろんこれは魔力そのものでもあるから――」
学生にも一般的な攻撃魔術フレイムアローを発動させると、ジンとダエナを掴む腕の内部に十数個の炎の矢が生まれ二人に向く。
「こんな風に魔術として改めて発動する事も可能だ。もちろん、この魔力を消費して行使できる」
『……』
おっと。
場から言葉が消える。
僕以外、静寂そのもの。
……ここまでかな。
二期の子が数名気分が悪そうだ。
触れた事のない魔力の塊が間近にあるというのは、中々に緊張する状況だからね。
「とまあ、こんな手品みたいな成果が思わぬ所で生まれるのも書物が大切に適切に保管されてきた結果だと言う事だな。では少し変わった魔術で余興は終わりにしよう」
最初魔力体を構築する時に詠唱した、広範囲に魔力を供給する魔術。
魔力体の全部でそれを発動させた。
僕が立っている場所から緑色の光が柱の様に立ちあがっていく。
やがて柱の左右からも光が伸びて葉を形成する。
これは花を模した形で発動する映える術。
咲く花は百合。
間もなく、結構巨大な緑光の百合が一輪、学園に咲いた。
学園都市のどこからでも見えるくらいの結構なサイズだ。
魔力をそれなりに食わせたから、納得の大きさでもある。
知ってはいてもあまり使う機会が無かった魔術だけど……派手だな。
あんまり一帯に魔力を供給する術なんて使わないもんなあ。
『!!』
百合が風に吹かれて揺れるような動きをした瞬間、一体に魔力がキラキラと降り注ぐ。
これが魔力の枯渇した戦場ならとんでもなく喜ばれたに違いない。
ま、ここは学園都市ロッツガルドですから?
少しの間体調が良くなるとか、珍しいもん見れて気分が良い程度の効果しか望めないね。
「では識。講義を始めよう」
「……そうですね。ではまず今の魔術を研究、模倣させてみるなど如何でしょう」
「……邪魔しちゃった?」
「いいえ。予定よりも充実した内容に出来そうです」
突然講義内容が変わってしまった。
識は怒っていないようだけど、最後の最後に余計な事をしてしまったかもしれない。
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※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です