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七章 蜃気楼都市小閑編
常連争奪と密かな危機(下)
足す引く掛ける割る。
そんな計算の基本をゲームのルールとして覚えてもらうのが目的のカード遊び。
元々計算に慣れてて試しで遊んでみて経験もある僕や識と他の二人では力量に差が出るのは当然の事だ。
だが恐ろしい事にその内一人は手練れの商人である。
あっという間にルールを理解して水を得た魚が如くめきめき実力を発揮し始めた。
ムゾーさんおっかない。
ライムがルールを把握しながら慣れていく速度も相当早いと思うんだけど、ムゾーさんはもう識と互角の勝負を繰り広げていた。
僕?
僕はもう時々二番手になるくらいで大抵は三番手におります。
レンブラントさんもそうだけど、モノポリーとか絶対一緒にやりたくない面子である。
ちなみに何をどう頑張っても歯が立たなかったカード遊びといえば七並べ的なボードゲームだった。
あれはもうレンブラントさんどころかモリスさんにもリサさんにも名だたる商人ズにも手も足も出なかった。
そうそう、いざ娯楽となると賭博を除いて意外と貧弱なのもツィーゲの特徴で、最近になってようやくボードゲームやカード類も色々と出てき始めたところって感じだ。
「ははは、なるほど。これは面白い。あまり賭博などに絡めず純粋に遊べるという点が気に入りました」
「これから先、もっと没頭できて熱中するような娯楽が沢山この街から生まれていくでしょう。何か新しいものをみかけたら当商会にも是非お知らせください」
「えー、これが3で4が二枚……今回の目標値が……駄目だ1多い」
「そういえば先ほど頂いた茶碗蒸しでしたか。素晴らしい料理でした。澪殿本当に腕利きの料理人ですねえ、羨ましい」
腕利き、誉め言葉なのはわかる。
でも何か料理人につけるには微妙な気も……。
ゲームに興じる傍ら世間話が始まる。
多分、雰囲気でムゾーさんはゲームを頭の片隅に置きながら世間話という名の情報交換を始めているんだと思った。
「好きこそものの上手なれ、という言葉もあります。彼女は熱心ですから」
「私の舌が確かなら、希少なキノコのみならず卵と肉も尋常ではない代物と見ました。あれはもしや、ブラックベノムバレットの卵と肉ではありませんか?」
「おや、ムゾー氏は食通なんですね。その通りですよ」
「やはり……あれを見事に使いこなすなど、うっかり私などがご馳走になってしまってよかったのか……」
「お気になさらず。だいたい荒野の素材を専門に扱っておられるムゾー商会の代表であれば決して珍しい食材ばかりでもないのでは?」
今回澪が使った鳥は魔獣に属する。
全身真っ黒な鳥で、猛毒。
しっかりと毒を抜いて調理する事で黒色がすっかり抜けるから見た目でアウトかセーフか見極めやすいのが特徴でもある。
調理難度は特殊な魔獣の中では低いようだけど、捕獲の難易度がそれなりに高くて普通は気軽に食べられる食材じゃなかったりする。
「……料理として目にする機会は少ないですよ。いや、素材としても怪しいかもしれません。ついさっきもコハクヒトヨタケの在庫を切らせてお客様にご迷惑をおかけしたばかりで。クズノハ商会ではアレを乾燥で仕入れているようですが、最近あの辺りの希少素材がどうにも需要に追い付かない事がありまして」
「ああ、確かに。お求めになる方が増えている印象はありますね。ただウチはそちらほど扱う量が多くありませんので、乾燥物でしたらキノコ類も困っているほどではありませんが」
実際の在庫の動きに詳しそうなライムを見る。
手札を凝視して唸っていた彼が意図を察して頷いた。
「以前より奥を目指すようになった冒険者や外から荒野を目指す連中が増えてきたのが原因の一つだと思いやす。やっぱり効果の高い薬を携行していくってのは依頼の成功率はもちろん生還率にもモロに影響しますんで……あ、さっきの札捨てるんじゃなかった!」
「……つまりそうした薬に手が届くようになった冒険者が急増している、という訳ですか。確かにその傾向は掴んでいますが、いやはや早過ぎる。ゴウカエンタケやマコウダケくらいの一段上の素材ならまだ安定した流通なんですが」
「悩ましいところですね、魔獣由来の素材や鉱物素材は冒険者を数多く抱えるしか解決策もありませんし」
「そこは少し下手を打ちまして、蜃気楼都市の常連となっていた冒険者パーティを幾つか失ってしまったばかりなんです。実に頭が痛いですよ。ん、失礼揃いました」
「お見事です。ムゾー商会ほどの大商会が支援している冒険者が全滅ですか? それは――」
「いえ、全滅した訳ではありません。蜃気楼都市への入場条件や常連として迎え入れられる条件を模索し情報収集していたところ、少し彼らから聞き出し過ぎたようで……出禁にされたようです。まさかそんな事が起こるとは夢にも思わず頭を抱えましたよ」
「ああ、つまりかの都市の機嫌を損ねたと。今色々な商会や冒険者が条件の確定に向けて大きく動いているようですから、待つも一手かもしれません。っと私もこれで揃いました」
雑談を交わしながらムゾーさんと識がさくさくっとワンツーフィニッシュを決めてくれる。
く、頭の中どうなってるんだか。
「識殿……既に交流を確立しているクズノハ商会はともかく他はもう我々を含めて必死ですよ。この件で待ちの一手は確実に悪手でしょう」
「……はは、まあ冒険者だけに頼るというのも一線で戦うムゾー商会としてはうまくないでしょうな」
「?」
識がムゾーさんに何やら少しだけ不自然な言葉を投げかけた。
うまくもなにも荒野の素材はその殆どが冒険者に頼るしかないのが現状の筈だけど?
「とはいえ素材商は今や誰もが常連争奪、有望な冒険者パーティの確保に血眼になっております。何しろ下の若手どもからの突き上げが相当にきついのです。ミリオノ商会のハウやホークス商会のジオも独自のルートで素材集めに特化したパーティをいくつも確保していますからねえ」
勢いある若手商会の名を挙げてやれやれとため息を吐くムゾーさん。
だがその瞳は名前を出したハウさんやジオさんらと何ら変わらない強い光を宿してる。
引退なんて言葉とは無縁の意思の強さを放って楽しそうな表情さえするんだから、こりゃハウさんもジオさんも大変だな。
そんな事を話していたムゾーさんが、僕が三位、ライムが最下位で終わったゲームから仕切り直し新たに配られた手札を見て、はっとした表情になった。
なんだ、もしかしたら最初の手札だけであがりとか?
「っ」
手札を凝視していた彼が識に視線を移す。
「いくら良い冒険者がきても、采配が違えばこのゲームでは勝てない」
「ええ、そうでしょうね。冒険者が良いに越した事もありませんが」
「……先ほどの言葉、そうか。そうですか」
??
なにやら二人が悪だくみを確認し合う悪党の様に目配せをしている。
そしてムゾーさんが唐突に僕を見た。
「な、なにか?」
「思えば貴方もアルパインというとっておきがありながら、専属契約を結んでいません。彼女らは何故か常連にはなっていませんがそれにしても不自然でした。だがそれもまた良き関係の築き方の一つ。冒険者というものは自由に異常に拘る連中でもありますしね」
「は、はぁ……」
「つまりクズノハ商会はそうやっている、識殿はそう教えてくれた訳ですね?」
「はて、特に窮地の助けになる魔法の言葉をお伝えした気はございませんが」
「魔獣や鉱物類は荒野で冒険者を使うしか在庫を増やす方法がほぼない。だが、それ以外は?」
それ以外?
というとキノコ、ああ植物系か。
でも荒野産となるとそれだけで色々規制が厳しいから結局系統を問わず冒険者頼りにならざるを得ないような……。
「ぐぬぬぬ、これはまたどうしたら……このまま、いやこいつとこいつを交換してみて……」
「となれば集めるべき冒険者パーティのタイプも変わってくる、いや幅が広がると見るべきか。それに……学者もいりますね」
「やべえ、ガキどもよりも多少強くねえと孤児院での俺の威厳ってもんが……」
「失礼! 急用を思い出しました! ライドウ殿、今日はこれにて失礼します! あとショーケースの展示が一部購入可能だという情報はこちらが公開するまで秘匿しますのでご安心を!」
え!?
ちょ、僕今回一発あがりできそうなんですけど!?
五回戦ぶりくらいの一位抜けのチャンスなのに!
こんな勝ち逃げありかってタイミングでムゾーさんが立ち上がって眼鏡の端をキラーンと輝かせて全力疾走、引き止める間もなく帰って行ってしまった。
「識、どゆ事?」
「このところツィーゲで一部の素材で流通の滞りがあったのは確かですので。少々助け舟を出しました」
「……植物系素材ならではの手段、か」
荒野で農業でも始めるんだろうか。
ツィーゲの中で栽培するのは正直危険な気もするなあ。
植物系とまではアタリをつけられてもその先はよくわからないのが少々情けない。
「はい、若様もお気付きの通り植物系素材は栽培が可能です。環境調整は難しいですが現在の需要を考えれば優先すべき種は容易にわかりますから、あの様子ならムゾー商会も対象を絞っての研究及び荒野のベースを用いての栽培までさほど寄り道せずに辿り着く事でしょう」
まあ確かに。
モノにもよるけど魔獣を飼うよりは容易といえなくもない。
「喫緊の課題として困ってるのはキノコ――」
「ええ。特にヒトヨタケに属するものやエンタケなどは成長のサイクルも早く様々な用途がありますから栽培のメリットは十分です。ヒトヨタケを乾燥させずに素材として扱う場合、現状だと採取難易度が跳ね上がります。こうした問題の解決にも役立つかと」
キノコ、となると扱いも難しいよねと言おうと思ったら真逆の返しがやってきました。
効能が特化していて乾燥させられるもの以外は保存も難しいのがキノコ素材だ。
荒野の植物系素材でもキノコを専門に扱うのはギャンブル性が高いといわれる所以でもある。
それだけに専門知識を持っている冒険者パーティは重宝され稼ぐに困らないってのもある。
トアさんとこだとハザルとルイザがこの手の知識を持ってるんだよな。
一人だけに頼らない事でより広範な知識を共有できるから強いんだ。
ちなみに亜空でもやばいレベルの毒キノコであるカエンタケとゴウカエンタケはまるで違う代物だ。
後者は一言でいえば青いエノキダケ、言葉の区切りでいえば豪華なエンタケである。
紛らわしい。
「な、なるほどね」
「先日ショーケースの展示で木屑を用いたキノコ栽培の紹介もしておきましたので数日以内にはアレを買い取りに来るのではないでしょうか」
識の言葉で内容を思い出す。
確かにご家庭で出来る自由研究シリーズみたいな展示がいくつかあった。
瓶詰めのおがくずからキノコがにょきにょき出てるの、確かにあったな。
今回の茶碗蒸しの場合は出汁を取る意味もあって乾燥物を使ったようだけど入れてあった三種のキノコはどれも亜空では栽培可能な品種だ。
ヒトヨタケとゴウカエンタケは特に収穫量が多かったはず。
放置しておくと一日で腐り落ちるけど毎日収穫できるヒトヨタケ系と一週間ほどのサイクルで収穫できて一度の収穫量が大量なゴウカエンタケ。
ふむ。
確かにツィーゲで荒野からもたらされる素材を栽培するとか養殖するって発想は見聞きした事が無い。
これが本格的に始まったらかなり劇的なんじゃなかろうか。
「……」
「とはいえ、人は意外と身近に生える草の生態すら知らぬもの。荒野の素材を栽培可能なほど研究し理解するというのは、いざ成功までの道のりを考えるとそれなりに苦労するやもしれませんが」
そのくらいは乗り越えてみせろ、と識先生が顔で語っておられる。
ま、ベースでの栽培になるにせよ一般人に務まる仕事じゃない。
冒険者のセカンドキャリアや糊口をしのぐ仕事の一つになれば、それはそれで街にもプラスかな。
「だね。にしても常連の争奪戦か。蜃気楼都市も良い感じにツィーゲに浸透してきた感じだね」
「はい、良い流れです」
唸るライムを他所に本日もクズノハ商会は通常運転だ。
そんな計算の基本をゲームのルールとして覚えてもらうのが目的のカード遊び。
元々計算に慣れてて試しで遊んでみて経験もある僕や識と他の二人では力量に差が出るのは当然の事だ。
だが恐ろしい事にその内一人は手練れの商人である。
あっという間にルールを理解して水を得た魚が如くめきめき実力を発揮し始めた。
ムゾーさんおっかない。
ライムがルールを把握しながら慣れていく速度も相当早いと思うんだけど、ムゾーさんはもう識と互角の勝負を繰り広げていた。
僕?
僕はもう時々二番手になるくらいで大抵は三番手におります。
レンブラントさんもそうだけど、モノポリーとか絶対一緒にやりたくない面子である。
ちなみに何をどう頑張っても歯が立たなかったカード遊びといえば七並べ的なボードゲームだった。
あれはもうレンブラントさんどころかモリスさんにもリサさんにも名だたる商人ズにも手も足も出なかった。
そうそう、いざ娯楽となると賭博を除いて意外と貧弱なのもツィーゲの特徴で、最近になってようやくボードゲームやカード類も色々と出てき始めたところって感じだ。
「ははは、なるほど。これは面白い。あまり賭博などに絡めず純粋に遊べるという点が気に入りました」
「これから先、もっと没頭できて熱中するような娯楽が沢山この街から生まれていくでしょう。何か新しいものをみかけたら当商会にも是非お知らせください」
「えー、これが3で4が二枚……今回の目標値が……駄目だ1多い」
「そういえば先ほど頂いた茶碗蒸しでしたか。素晴らしい料理でした。澪殿本当に腕利きの料理人ですねえ、羨ましい」
腕利き、誉め言葉なのはわかる。
でも何か料理人につけるには微妙な気も……。
ゲームに興じる傍ら世間話が始まる。
多分、雰囲気でムゾーさんはゲームを頭の片隅に置きながら世間話という名の情報交換を始めているんだと思った。
「好きこそものの上手なれ、という言葉もあります。彼女は熱心ですから」
「私の舌が確かなら、希少なキノコのみならず卵と肉も尋常ではない代物と見ました。あれはもしや、ブラックベノムバレットの卵と肉ではありませんか?」
「おや、ムゾー氏は食通なんですね。その通りですよ」
「やはり……あれを見事に使いこなすなど、うっかり私などがご馳走になってしまってよかったのか……」
「お気になさらず。だいたい荒野の素材を専門に扱っておられるムゾー商会の代表であれば決して珍しい食材ばかりでもないのでは?」
今回澪が使った鳥は魔獣に属する。
全身真っ黒な鳥で、猛毒。
しっかりと毒を抜いて調理する事で黒色がすっかり抜けるから見た目でアウトかセーフか見極めやすいのが特徴でもある。
調理難度は特殊な魔獣の中では低いようだけど、捕獲の難易度がそれなりに高くて普通は気軽に食べられる食材じゃなかったりする。
「……料理として目にする機会は少ないですよ。いや、素材としても怪しいかもしれません。ついさっきもコハクヒトヨタケの在庫を切らせてお客様にご迷惑をおかけしたばかりで。クズノハ商会ではアレを乾燥で仕入れているようですが、最近あの辺りの希少素材がどうにも需要に追い付かない事がありまして」
「ああ、確かに。お求めになる方が増えている印象はありますね。ただウチはそちらほど扱う量が多くありませんので、乾燥物でしたらキノコ類も困っているほどではありませんが」
実際の在庫の動きに詳しそうなライムを見る。
手札を凝視して唸っていた彼が意図を察して頷いた。
「以前より奥を目指すようになった冒険者や外から荒野を目指す連中が増えてきたのが原因の一つだと思いやす。やっぱり効果の高い薬を携行していくってのは依頼の成功率はもちろん生還率にもモロに影響しますんで……あ、さっきの札捨てるんじゃなかった!」
「……つまりそうした薬に手が届くようになった冒険者が急増している、という訳ですか。確かにその傾向は掴んでいますが、いやはや早過ぎる。ゴウカエンタケやマコウダケくらいの一段上の素材ならまだ安定した流通なんですが」
「悩ましいところですね、魔獣由来の素材や鉱物素材は冒険者を数多く抱えるしか解決策もありませんし」
「そこは少し下手を打ちまして、蜃気楼都市の常連となっていた冒険者パーティを幾つか失ってしまったばかりなんです。実に頭が痛いですよ。ん、失礼揃いました」
「お見事です。ムゾー商会ほどの大商会が支援している冒険者が全滅ですか? それは――」
「いえ、全滅した訳ではありません。蜃気楼都市への入場条件や常連として迎え入れられる条件を模索し情報収集していたところ、少し彼らから聞き出し過ぎたようで……出禁にされたようです。まさかそんな事が起こるとは夢にも思わず頭を抱えましたよ」
「ああ、つまりかの都市の機嫌を損ねたと。今色々な商会や冒険者が条件の確定に向けて大きく動いているようですから、待つも一手かもしれません。っと私もこれで揃いました」
雑談を交わしながらムゾーさんと識がさくさくっとワンツーフィニッシュを決めてくれる。
く、頭の中どうなってるんだか。
「識殿……既に交流を確立しているクズノハ商会はともかく他はもう我々を含めて必死ですよ。この件で待ちの一手は確実に悪手でしょう」
「……はは、まあ冒険者だけに頼るというのも一線で戦うムゾー商会としてはうまくないでしょうな」
「?」
識がムゾーさんに何やら少しだけ不自然な言葉を投げかけた。
うまくもなにも荒野の素材はその殆どが冒険者に頼るしかないのが現状の筈だけど?
「とはいえ素材商は今や誰もが常連争奪、有望な冒険者パーティの確保に血眼になっております。何しろ下の若手どもからの突き上げが相当にきついのです。ミリオノ商会のハウやホークス商会のジオも独自のルートで素材集めに特化したパーティをいくつも確保していますからねえ」
勢いある若手商会の名を挙げてやれやれとため息を吐くムゾーさん。
だがその瞳は名前を出したハウさんやジオさんらと何ら変わらない強い光を宿してる。
引退なんて言葉とは無縁の意思の強さを放って楽しそうな表情さえするんだから、こりゃハウさんもジオさんも大変だな。
そんな事を話していたムゾーさんが、僕が三位、ライムが最下位で終わったゲームから仕切り直し新たに配られた手札を見て、はっとした表情になった。
なんだ、もしかしたら最初の手札だけであがりとか?
「っ」
手札を凝視していた彼が識に視線を移す。
「いくら良い冒険者がきても、采配が違えばこのゲームでは勝てない」
「ええ、そうでしょうね。冒険者が良いに越した事もありませんが」
「……先ほどの言葉、そうか。そうですか」
??
なにやら二人が悪だくみを確認し合う悪党の様に目配せをしている。
そしてムゾーさんが唐突に僕を見た。
「な、なにか?」
「思えば貴方もアルパインというとっておきがありながら、専属契約を結んでいません。彼女らは何故か常連にはなっていませんがそれにしても不自然でした。だがそれもまた良き関係の築き方の一つ。冒険者というものは自由に異常に拘る連中でもありますしね」
「は、はぁ……」
「つまりクズノハ商会はそうやっている、識殿はそう教えてくれた訳ですね?」
「はて、特に窮地の助けになる魔法の言葉をお伝えした気はございませんが」
「魔獣や鉱物類は荒野で冒険者を使うしか在庫を増やす方法がほぼない。だが、それ以外は?」
それ以外?
というとキノコ、ああ植物系か。
でも荒野産となるとそれだけで色々規制が厳しいから結局系統を問わず冒険者頼りにならざるを得ないような……。
「ぐぬぬぬ、これはまたどうしたら……このまま、いやこいつとこいつを交換してみて……」
「となれば集めるべき冒険者パーティのタイプも変わってくる、いや幅が広がると見るべきか。それに……学者もいりますね」
「やべえ、ガキどもよりも多少強くねえと孤児院での俺の威厳ってもんが……」
「失礼! 急用を思い出しました! ライドウ殿、今日はこれにて失礼します! あとショーケースの展示が一部購入可能だという情報はこちらが公開するまで秘匿しますのでご安心を!」
え!?
ちょ、僕今回一発あがりできそうなんですけど!?
五回戦ぶりくらいの一位抜けのチャンスなのに!
こんな勝ち逃げありかってタイミングでムゾーさんが立ち上がって眼鏡の端をキラーンと輝かせて全力疾走、引き止める間もなく帰って行ってしまった。
「識、どゆ事?」
「このところツィーゲで一部の素材で流通の滞りがあったのは確かですので。少々助け舟を出しました」
「……植物系素材ならではの手段、か」
荒野で農業でも始めるんだろうか。
ツィーゲの中で栽培するのは正直危険な気もするなあ。
植物系とまではアタリをつけられてもその先はよくわからないのが少々情けない。
「はい、若様もお気付きの通り植物系素材は栽培が可能です。環境調整は難しいですが現在の需要を考えれば優先すべき種は容易にわかりますから、あの様子ならムゾー商会も対象を絞っての研究及び荒野のベースを用いての栽培までさほど寄り道せずに辿り着く事でしょう」
まあ確かに。
モノにもよるけど魔獣を飼うよりは容易といえなくもない。
「喫緊の課題として困ってるのはキノコ――」
「ええ。特にヒトヨタケに属するものやエンタケなどは成長のサイクルも早く様々な用途がありますから栽培のメリットは十分です。ヒトヨタケを乾燥させずに素材として扱う場合、現状だと採取難易度が跳ね上がります。こうした問題の解決にも役立つかと」
キノコ、となると扱いも難しいよねと言おうと思ったら真逆の返しがやってきました。
効能が特化していて乾燥させられるもの以外は保存も難しいのがキノコ素材だ。
荒野の植物系素材でもキノコを専門に扱うのはギャンブル性が高いといわれる所以でもある。
それだけに専門知識を持っている冒険者パーティは重宝され稼ぐに困らないってのもある。
トアさんとこだとハザルとルイザがこの手の知識を持ってるんだよな。
一人だけに頼らない事でより広範な知識を共有できるから強いんだ。
ちなみに亜空でもやばいレベルの毒キノコであるカエンタケとゴウカエンタケはまるで違う代物だ。
後者は一言でいえば青いエノキダケ、言葉の区切りでいえば豪華なエンタケである。
紛らわしい。
「な、なるほどね」
「先日ショーケースの展示で木屑を用いたキノコ栽培の紹介もしておきましたので数日以内にはアレを買い取りに来るのではないでしょうか」
識の言葉で内容を思い出す。
確かにご家庭で出来る自由研究シリーズみたいな展示がいくつかあった。
瓶詰めのおがくずからキノコがにょきにょき出てるの、確かにあったな。
今回の茶碗蒸しの場合は出汁を取る意味もあって乾燥物を使ったようだけど入れてあった三種のキノコはどれも亜空では栽培可能な品種だ。
ヒトヨタケとゴウカエンタケは特に収穫量が多かったはず。
放置しておくと一日で腐り落ちるけど毎日収穫できるヒトヨタケ系と一週間ほどのサイクルで収穫できて一度の収穫量が大量なゴウカエンタケ。
ふむ。
確かにツィーゲで荒野からもたらされる素材を栽培するとか養殖するって発想は見聞きした事が無い。
これが本格的に始まったらかなり劇的なんじゃなかろうか。
「……」
「とはいえ、人は意外と身近に生える草の生態すら知らぬもの。荒野の素材を栽培可能なほど研究し理解するというのは、いざ成功までの道のりを考えるとそれなりに苦労するやもしれませんが」
そのくらいは乗り越えてみせろ、と識先生が顔で語っておられる。
ま、ベースでの栽培になるにせよ一般人に務まる仕事じゃない。
冒険者のセカンドキャリアや糊口をしのぐ仕事の一つになれば、それはそれで街にもプラスかな。
「だね。にしても常連の争奪戦か。蜃気楼都市も良い感じにツィーゲに浸透してきた感じだね」
「はい、良い流れです」
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