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七章 蜃気楼都市小閑編
新たな先駆者
「ティアラ、ビーストラッシュ!」
「ルァァァァァ!!」
ビルとアコスの敷く前衛守備の後ろから新たにパーティに加わっているバレッタが魔獣にスキル付きの指示を送る。
人よりもかなり大型の魔獣、ツキノワグリズリーは次の動きを命令され不愉快ながらもその通りに体を動かし敵を蹴散らしていく。
ああ、下手だ。
元々後衛ジョブであるビーストテイマー系はそもそもあまり体を鍛えない。
当然だが思いっきり最前線で肉体を削りあう戦士の思いや定石などまるで理解していないのだ。
「なんと無意味な攻撃だ」
「あの強敵が見る影もねえなあ」
敵は確かに全滅した。
もう危険は去ったと言えるだろう。
しかし明らかにオーバキルだ。
バレッタとティアラがスキル主軸の戦闘に慣れる為という大前提があるから完全な無駄ではない。
それが、唯一の救い。
そしてビルとアコスが愚痴るのもまた無理はない。
消耗と消費の激しい大技は戦いの初手でこそ最大限輝く。
相手が明らかな死に体で余力も僅かという時に選択すべきスキルではないのだから。
「どうでしょうか、ハク先生! 今の戦闘の評価は!」
「そうねスキルと指示はちゃんとできるようになっているわね。2点」
「ああぁ……そんな。この私が平均点だなんて」
「いうまでもなく100点満点の点数よー。世にも珍しい3点満点じゃないからねー?」
「や、やだなあ。ハク先生、この私こそはテイマー系ジョブの先駆者となるべき次代の覇者ですよ!? アルパインを駆け抜けていくこの才人になんて厳しい評価をするんですか! 言っておきますけれど。私、褒められて伸びるタイプです」
「だからちゃんと辛うじて褒めてあげられるとこを探してあげてるじゃないの。たまたまそこのツキノワ君が強いだけでバレッタのテイマーとしての実力は2てーん、師弟として最初の講義とはいえ、これは前途多難だわ」
ブロンズマン商会の面々と荒野の浅瀬で鍛錬を重ねているというのもあって緊張感は薄い。
ビルギットにとっても物資を大量に持ち込んでいる彼らの世話になれるのは大きなプラスで、同道を断る理由は無かった。
バレッタとティアラの関係をひとまず形にするまでという約束で彼女とハク=モクレンは師匠と弟子になった。
最初は不遇とはいえツィーゲのテイマー界隈で名を響かせたバレッタが頷かなかったのだが、はぐれのルビーアイをテイムしてテイマーとしての実力の一端を見せつけられてからは大人しく関係を受け入れているようだ。
「おおーい、ハクよ! ちょっと来てくれるか!!」
大所帯の中心の方からビルギットに寄り添うハクに声が向けられた。
相手は言うまでもなくブロンズマン商会の代表である。
元々は彼の目的の為に荒野にまで付き合わされている立場なのだから仕方ない。
ビジネスの面でいえばビルギットの傍にいる方が不自然なのだ。
「はいはーい、ボス。どうされましたー?」
とはいえ軽口もまた彼女の個性。
依頼主との付き合い方も通り一遍でないのだろうと察せられる。
「おう、ちと強引に攻めてみたがクラスアップだ。どっちが収納を持ってる? じゃなけりゃあ近い?」
「候補をお伺いしても?」
「だな。そうだった! 気が逸っていけねえ。スミスクラウン、マギユーザー、クワトロブレスだ」
「あーそれだとまっだ……ぁぁ!?」
途中まで聞いていたハクが結論を口にしようかとしていた次の瞬間。
彼女が言葉に詰まった。
「どうした、ハク」
「クワトロブレス!? 本当にソレ出てるんです!?」
「おうよ」
「クワトロブレスは……収納スキルを持つレアジョブです。普通はスミスクラウンから派生するはずですが……商会の経営者でもあった事や鍛冶の……類まれな実績が関係しているのかもしれません。クワトロ、即ち武器、防具、装飾、魔道具の全ての出来に恵まれ燦然と輝く。槌持つ者の一つの到達点ですよ」
「!? そうかい、なら迷う事はねえな。クワトロブレス、と」
ブロンズマンはクラスアップの申請を行う。
通常冒険者であればレベルはその場で上がってもクラスアップについては帰還してギルドに戻るまでは兆しがあるかどうかもわからない。
だがそこは都市で有数の商会のトップ、無理をやった。
冒険者ギルド職員を一部帯同させたのだ。
いうなれば簡易冒険者ギルドを引き連れてのパワーレベリング。
富豪の行いでしかない。
「しゃーー!! お前ら、実験は成功にして終了だ! 一旦戻って明日、詳細を話す! 撤収!!」
「最初はどうしよと思ったけど、クワトロブレスとは。良いモン見れましたー」
ブロンズマン商会代表もハクも上機嫌である。
「ハク先生! ほら! ティアラ、くるりんぱ!」
「このジャリご主人があぁ! ふざけんじゃねえぞぉ!」
「……プラマイゼロ。せっかく良い気分だったのになあ、もう! バレッタちゃーん! それ落第!! マイナス50てーん!!」
「うそおーーー!」
バレッタの絶叫とビルギットの重い溜息が重なる。
師匠と弟子の方の前途は未だ暗闇の中。
ハクもまた笑顔の下で小さく息を吐くのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
今僕は忙しい。
体よく来客を断る台詞のようだ。
しかし真実でもある。
僕ことライドウは今それなりに忙しいのだ。
ツィーゲの様々な場所で名が売れ顔が売れ。
物を売る仕事をやっている筈なのに人と会う事が仕事になっている気がする。
出世したって肩書きが社長だってやる事は変わりません。
そんなの割と無理なんだと気づきもしたね。
だから今はとにかく予定外の人と会ったりする余裕がない。
それは紛れもない事実だ。
しかしそんな僕でも何とか予定をこねくり回してその日の内に会わなくてはいけない人物が何人かいる。
いちいちお名前を挙げていくのは避けるけど、例えば目の前でニコニコ笑顔で僕を観察しまくってる両性類。
いわゆるルトである。
同伴者を引き連れて彼がここに来たとなれば流石に僕だって動かない訳にはいかない。
「という訳でね」
「わざとらしい」
「え?」
「こういう時にお前がそれを言うと本当にこの上なく胡散臭くてわざとらしい」
「誓って他意はないんだけどなー。君に特別依頼を出したいんだライドウ君。彼の身体の検証と出来れば今回の件の発動条件についての調査」
「……ディオ=何某。確かアイオン王国の偉い人の息子でしたか。将軍だか貴族だかの」
ルトめ。
また面倒くさそうな臭いしかしないのを連れてくる。
ルトと一緒にやってきたのは初めましてではない人物。
ロッツガルドで死にかけてたあのディオ君だ。
幸い、もう変異体の痕跡は見られない。
そこは全快と言ってよいと思う。
「家名は捨て、国は出奔した。故に今は何一つ拠り所ないただのディオ。本来ならば貴殿のような一線で活躍する人物との目通りなど叶わぬはずだが、こちらのギルドマスターによって出会えた事光栄に思う」
「いえ、この街で少しばかり良い波と風に乗れただけですので。御身もかなり数奇な星の下にお生まれのようですね。このような言葉をかけてよいものかどうか迷いましたが……心より同情申し上げます」
「ファルス殿より全幅の信頼を持って貴殿の下、今の私を知るところから始めるべきだと助言を頂いた。もとより私に異存などありはしない。しばし貴方を信じ、頼らせてもらっても良いだろうか。いずれこの身が何者かになった時、必ず恩に報いるとお約束します」
そういうとディオはソファから立ち上がり絨毯に手をついて僕に向けて頭を下げる。
思い切った態度をとる人だな。
流石のルトも驚いてる。
「……まっすぐな子だろ? 一応血にはしがらみはある。ただし本人から縁を絶っているし、さっきも説明した通りもしかしたら冒険者の世界にとんでもない新風を巻き起こすかもしれない存在でもある。だからトップクラスの機密の塊みたいな子だけどここに連れてきたんだ。面倒、みてやってくれないかな」
この通り、とルトが合掌する。
こっちは異世界だとあまり見ないけど日本では見慣れた格好だ。
いい加減、亜空の戦士や魔術師からも要望は出てきているしな。
冒険者ギルドへの皆の登録を考えると、ルトに幾つか恩を売っておくのは悪くない。
というか得しかない。
今ここに滞在している始まりの冒険者っていうとハク=モクレンさんか。
なんだかんだ立ち替わり来ているようなんだけど、ハクさんとはあまりサシで絡んだ経験がないな。
まあ、いい。
彼らの知恵も借りられるのならそこまで難しい仕事にもならないだろう。
ツキノワグリズリーの件はまだ終わってないけど、もう僕の手は離れたようなものだし……。
やるか。
「冒険者ギルドの長からそのように頼み込まれたら選択肢などあってないようなものじゃありませんか。あくまで商人ではなく冒険者としてでよろしいなら、そのディオさん。しばらくウチで預かりましょう」
「やった!」
「是非皆さん私の事は呼び捨てで、どうぞよしなに! 一日も早く己を知り冒険者や兵として独り立ちできるよう死力を尽くす事を誓おう!」
かつて半ばモルモットになるような境遇を一筋の涙とともに感動して受け入れる男はいなかった。
ディオのジョブ、エレンノービスの特性について。
そしてもう一つ、こちらがギルドとしては主題なんだろうが。
ディオのカードに今も表示され続けている新たな領域への誘い。
そこに触れると脳裏に衝撃の情報が浮かび上がってくる。
曰く。
ダブルジョブの取得条件を満たしました。設定を開始しますか?
とある。
ダブルジョブ。
この響きはルトでさえ知らなかった機能のようで、詳細がわからない。
という訳で、僕が選ばれた。
変異体から回復したディオの肉体がどうなっているのかの調査。
そしてこれまでのスキルがどう取捨選択されていくかの実態調査。
最後にダブルジョブ取得クエスト、いや発生条件とでもいえば良いのか、その調査となる。
下手をすれば十日はかかる調査になるかもしれない。
まずは亜空に戻るまでに彼がなっていたというエレンノービスについて調べるか。
これも正直聞き覚えがないもんな。
少なくともツィーゲで出会った事はない。
戦争が終わったとはいえ、まだばかりもばかりだ。
こんなにいっぺんに花開くもんですかね。
でかい街にはトラブルも相応に多い。
こりゃ、今どころじゃない大きな大きな爆発物がぽっこり生まれていないだろうか、と。
流石に不安になってくる僕だった。
「ルァァァァァ!!」
ビルとアコスの敷く前衛守備の後ろから新たにパーティに加わっているバレッタが魔獣にスキル付きの指示を送る。
人よりもかなり大型の魔獣、ツキノワグリズリーは次の動きを命令され不愉快ながらもその通りに体を動かし敵を蹴散らしていく。
ああ、下手だ。
元々後衛ジョブであるビーストテイマー系はそもそもあまり体を鍛えない。
当然だが思いっきり最前線で肉体を削りあう戦士の思いや定石などまるで理解していないのだ。
「なんと無意味な攻撃だ」
「あの強敵が見る影もねえなあ」
敵は確かに全滅した。
もう危険は去ったと言えるだろう。
しかし明らかにオーバキルだ。
バレッタとティアラがスキル主軸の戦闘に慣れる為という大前提があるから完全な無駄ではない。
それが、唯一の救い。
そしてビルとアコスが愚痴るのもまた無理はない。
消耗と消費の激しい大技は戦いの初手でこそ最大限輝く。
相手が明らかな死に体で余力も僅かという時に選択すべきスキルではないのだから。
「どうでしょうか、ハク先生! 今の戦闘の評価は!」
「そうねスキルと指示はちゃんとできるようになっているわね。2点」
「ああぁ……そんな。この私が平均点だなんて」
「いうまでもなく100点満点の点数よー。世にも珍しい3点満点じゃないからねー?」
「や、やだなあ。ハク先生、この私こそはテイマー系ジョブの先駆者となるべき次代の覇者ですよ!? アルパインを駆け抜けていくこの才人になんて厳しい評価をするんですか! 言っておきますけれど。私、褒められて伸びるタイプです」
「だからちゃんと辛うじて褒めてあげられるとこを探してあげてるじゃないの。たまたまそこのツキノワ君が強いだけでバレッタのテイマーとしての実力は2てーん、師弟として最初の講義とはいえ、これは前途多難だわ」
ブロンズマン商会の面々と荒野の浅瀬で鍛錬を重ねているというのもあって緊張感は薄い。
ビルギットにとっても物資を大量に持ち込んでいる彼らの世話になれるのは大きなプラスで、同道を断る理由は無かった。
バレッタとティアラの関係をひとまず形にするまでという約束で彼女とハク=モクレンは師匠と弟子になった。
最初は不遇とはいえツィーゲのテイマー界隈で名を響かせたバレッタが頷かなかったのだが、はぐれのルビーアイをテイムしてテイマーとしての実力の一端を見せつけられてからは大人しく関係を受け入れているようだ。
「おおーい、ハクよ! ちょっと来てくれるか!!」
大所帯の中心の方からビルギットに寄り添うハクに声が向けられた。
相手は言うまでもなくブロンズマン商会の代表である。
元々は彼の目的の為に荒野にまで付き合わされている立場なのだから仕方ない。
ビジネスの面でいえばビルギットの傍にいる方が不自然なのだ。
「はいはーい、ボス。どうされましたー?」
とはいえ軽口もまた彼女の個性。
依頼主との付き合い方も通り一遍でないのだろうと察せられる。
「おう、ちと強引に攻めてみたがクラスアップだ。どっちが収納を持ってる? じゃなけりゃあ近い?」
「候補をお伺いしても?」
「だな。そうだった! 気が逸っていけねえ。スミスクラウン、マギユーザー、クワトロブレスだ」
「あーそれだとまっだ……ぁぁ!?」
途中まで聞いていたハクが結論を口にしようかとしていた次の瞬間。
彼女が言葉に詰まった。
「どうした、ハク」
「クワトロブレス!? 本当にソレ出てるんです!?」
「おうよ」
「クワトロブレスは……収納スキルを持つレアジョブです。普通はスミスクラウンから派生するはずですが……商会の経営者でもあった事や鍛冶の……類まれな実績が関係しているのかもしれません。クワトロ、即ち武器、防具、装飾、魔道具の全ての出来に恵まれ燦然と輝く。槌持つ者の一つの到達点ですよ」
「!? そうかい、なら迷う事はねえな。クワトロブレス、と」
ブロンズマンはクラスアップの申請を行う。
通常冒険者であればレベルはその場で上がってもクラスアップについては帰還してギルドに戻るまでは兆しがあるかどうかもわからない。
だがそこは都市で有数の商会のトップ、無理をやった。
冒険者ギルド職員を一部帯同させたのだ。
いうなれば簡易冒険者ギルドを引き連れてのパワーレベリング。
富豪の行いでしかない。
「しゃーー!! お前ら、実験は成功にして終了だ! 一旦戻って明日、詳細を話す! 撤収!!」
「最初はどうしよと思ったけど、クワトロブレスとは。良いモン見れましたー」
ブロンズマン商会代表もハクも上機嫌である。
「ハク先生! ほら! ティアラ、くるりんぱ!」
「このジャリご主人があぁ! ふざけんじゃねえぞぉ!」
「……プラマイゼロ。せっかく良い気分だったのになあ、もう! バレッタちゃーん! それ落第!! マイナス50てーん!!」
「うそおーーー!」
バレッタの絶叫とビルギットの重い溜息が重なる。
師匠と弟子の方の前途は未だ暗闇の中。
ハクもまた笑顔の下で小さく息を吐くのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
今僕は忙しい。
体よく来客を断る台詞のようだ。
しかし真実でもある。
僕ことライドウは今それなりに忙しいのだ。
ツィーゲの様々な場所で名が売れ顔が売れ。
物を売る仕事をやっている筈なのに人と会う事が仕事になっている気がする。
出世したって肩書きが社長だってやる事は変わりません。
そんなの割と無理なんだと気づきもしたね。
だから今はとにかく予定外の人と会ったりする余裕がない。
それは紛れもない事実だ。
しかしそんな僕でも何とか予定をこねくり回してその日の内に会わなくてはいけない人物が何人かいる。
いちいちお名前を挙げていくのは避けるけど、例えば目の前でニコニコ笑顔で僕を観察しまくってる両性類。
いわゆるルトである。
同伴者を引き連れて彼がここに来たとなれば流石に僕だって動かない訳にはいかない。
「という訳でね」
「わざとらしい」
「え?」
「こういう時にお前がそれを言うと本当にこの上なく胡散臭くてわざとらしい」
「誓って他意はないんだけどなー。君に特別依頼を出したいんだライドウ君。彼の身体の検証と出来れば今回の件の発動条件についての調査」
「……ディオ=何某。確かアイオン王国の偉い人の息子でしたか。将軍だか貴族だかの」
ルトめ。
また面倒くさそうな臭いしかしないのを連れてくる。
ルトと一緒にやってきたのは初めましてではない人物。
ロッツガルドで死にかけてたあのディオ君だ。
幸い、もう変異体の痕跡は見られない。
そこは全快と言ってよいと思う。
「家名は捨て、国は出奔した。故に今は何一つ拠り所ないただのディオ。本来ならば貴殿のような一線で活躍する人物との目通りなど叶わぬはずだが、こちらのギルドマスターによって出会えた事光栄に思う」
「いえ、この街で少しばかり良い波と風に乗れただけですので。御身もかなり数奇な星の下にお生まれのようですね。このような言葉をかけてよいものかどうか迷いましたが……心より同情申し上げます」
「ファルス殿より全幅の信頼を持って貴殿の下、今の私を知るところから始めるべきだと助言を頂いた。もとより私に異存などありはしない。しばし貴方を信じ、頼らせてもらっても良いだろうか。いずれこの身が何者かになった時、必ず恩に報いるとお約束します」
そういうとディオはソファから立ち上がり絨毯に手をついて僕に向けて頭を下げる。
思い切った態度をとる人だな。
流石のルトも驚いてる。
「……まっすぐな子だろ? 一応血にはしがらみはある。ただし本人から縁を絶っているし、さっきも説明した通りもしかしたら冒険者の世界にとんでもない新風を巻き起こすかもしれない存在でもある。だからトップクラスの機密の塊みたいな子だけどここに連れてきたんだ。面倒、みてやってくれないかな」
この通り、とルトが合掌する。
こっちは異世界だとあまり見ないけど日本では見慣れた格好だ。
いい加減、亜空の戦士や魔術師からも要望は出てきているしな。
冒険者ギルドへの皆の登録を考えると、ルトに幾つか恩を売っておくのは悪くない。
というか得しかない。
今ここに滞在している始まりの冒険者っていうとハク=モクレンさんか。
なんだかんだ立ち替わり来ているようなんだけど、ハクさんとはあまりサシで絡んだ経験がないな。
まあ、いい。
彼らの知恵も借りられるのならそこまで難しい仕事にもならないだろう。
ツキノワグリズリーの件はまだ終わってないけど、もう僕の手は離れたようなものだし……。
やるか。
「冒険者ギルドの長からそのように頼み込まれたら選択肢などあってないようなものじゃありませんか。あくまで商人ではなく冒険者としてでよろしいなら、そのディオさん。しばらくウチで預かりましょう」
「やった!」
「是非皆さん私の事は呼び捨てで、どうぞよしなに! 一日も早く己を知り冒険者や兵として独り立ちできるよう死力を尽くす事を誓おう!」
かつて半ばモルモットになるような境遇を一筋の涙とともに感動して受け入れる男はいなかった。
ディオのジョブ、エレンノービスの特性について。
そしてもう一つ、こちらがギルドとしては主題なんだろうが。
ディオのカードに今も表示され続けている新たな領域への誘い。
そこに触れると脳裏に衝撃の情報が浮かび上がってくる。
曰く。
ダブルジョブの取得条件を満たしました。設定を開始しますか?
とある。
ダブルジョブ。
この響きはルトでさえ知らなかった機能のようで、詳細がわからない。
という訳で、僕が選ばれた。
変異体から回復したディオの肉体がどうなっているのかの調査。
そしてこれまでのスキルがどう取捨選択されていくかの実態調査。
最後にダブルジョブ取得クエスト、いや発生条件とでもいえば良いのか、その調査となる。
下手をすれば十日はかかる調査になるかもしれない。
まずは亜空に戻るまでに彼がなっていたというエレンノービスについて調べるか。
これも正直聞き覚えがないもんな。
少なくともツィーゲで出会った事はない。
戦争が終わったとはいえ、まだばかりもばかりだ。
こんなにいっぺんに花開くもんですかね。
でかい街にはトラブルも相応に多い。
こりゃ、今どころじゃない大きな大きな爆発物がぽっこり生まれていないだろうか、と。
流石に不安になってくる僕だった。
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※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です