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終章 月と亜空落着編
意外と淡々と訪れる
うん。
二期生の子も完全な詠唱に拘らず、最低限魔術の発動を果たそうとするようになってきた。
識にも言われたけど、一期生のジン達と比べて明らかに二期生の子たちの方が成長が早い。
僕や識のカリキュラムというか講義が実践を経て熟練してきたのか、一期生という先輩の存在がより良い影響を生み出しているのか、純粋に二期生の才能が一期生を凌駕しているのか。
全部かもしれないし、一つも合ってないかもしれない。
識とも話をしてちゃんと何が影響しての結果なのか、近い内に結論を出しておきたいとこだなあ。
「ほい、遅い。ついでに選択した魔術もまずい。そこの二人は合格。残りは次の講義で再試験だ」
決められた時間以内に魔術を完成させて放つ。
一応色んなシチュエーションを想定して幾つか条件付けした上で二期生には試験を課した。
採点する項目は使用魔術の選定と詠唱の短縮割合、それに伴う威力の減衰度合いだ。
ジン達には模擬戦を通じて身体で覚えてもらった項目……いや単位というべきなのかな、特に講義として取り上げた内容じゃない。
でも判断力や思考の瞬発力も試される箇所だから二期生にはちゃんと解説もして講義に取り入れてる。
ちなみに合格者は二人だけ。
一度の試験で全員が合格するとも思ってないし、まあ、上々じゃないかと思う。
……考えてみれば一期生と比べて二期生の方が模擬戦の機会自体は少ないな。
切り取れる部分は講義で教えて試験をすればいいと思ったからでもあり、ジン達の手柄ともいえる。
ただその……模擬戦で鍛えたジン達の方が叩き上げ感があるのは事実。
指示待ちとまでは言わないけど二期生は一期生と比較すると若干教えてもらいたがりなとこがあるような……。
咄嗟の応用とかをやらせてみたら、この辺は一期生のが優秀になるか?
模擬戦主体の方針にも、それはそれなりにメリットがある?
講義の課題、だなあ。
悩ましい。
『ありがとうございました!!』
「ああ。次の講義もしっかりな。それぞれもう一度前提条件をきちんと読み込んで、各々の状況下での最善の手を追求するように。とはいえ今回の課題については次回も同じ前提での試験だ。別に仲間内で相談するも良し、早々合格した二人に頭を下げるもよし、合格に向けて全力を尽くすように。はい解散」
今日の僕の担当は二期生の試験でした、と。
識はジン達の方を見てくれてる。
彼らは修学旅行以降、明らかに今までより更に目の色を変えて講義に励んでる。
僕としては学も修めた事ですし、そろそろ卒業の準備に向けてこの講義もお開きにしようと思っていたとこもあるから少々思惑が外れた。
これじゃあ修学旅行じゃなく向学旅行じゃなかろうかと。
ロッツガルド学園全体ではそろそろ本格的に卒業予定者を狙っての勧誘も始まる頃合いだ。
取得単位も問題無いというのに、全員熱心な事この上ない。
片付けを済ませて荷物をまとめていると識も戻ってきた。
「すみません、若様にそのような後始末を」
「そういう識もジン達の講義を終わらせて来てくれたんだろ? むしろ僕が待たせたようなもんだよ。で、ジン達はどう? そろそろ講義終了の兆しは」
「ありませんね。あの分だと卒業寸前までしがみつくかもしれません」
識も少しばかりやれやれといった様子で苦笑する。
同じくらいの嬉しさも感じさせるとこが、まあ識先生の人気の秘訣の一つだろう。
「非常勤の一講義でやる事でもないだろうけど、卒業課題でも発表して区切りを付けさせたほうが良いかな」
「……本来設定していた成長度合いはとうに超えております。卒業課題というのは、確かに良い区切りになるかもしれません。節目は、あった方が良いですからね」
「うん、そう思うんだよ。ちゃんと講義をやりきって終わりましたよ、ってのは欲しいよね。その後プラスアルファで講義に参加するのは……まあ本人たちに任せるとしてさ」
部活の最後の大会みたいに。
引退とか卒業のしっかりした線は設けた方が良い、と僕は思うんだよ。
何故かと問われると、その、僕自身が体育会系の部活に慣れているからあまりにもそれが自然だから、ってだけなんだけどさ。
申請して借りた講義用のフィールドに重ね掛けしておいた結界を解除する。
よし、これで本日の講義終了。
「今のジン達に相応しい課題となると」
「パーティとしてやらせるか、個人個人に課題を出すかも考えないとね」
識を伴って僕らの待機室に戻るべく校舎への帰路を歩く。
もう学内に事件の傷痕は無い。
生徒もおおよその日常を取り戻してる。
街もだ。
違うのはクズノハ商会への評価と印象、それに僕らの忙しさ位。
「? おっと」
「若様?」
「ベルゴートにいる筈なのにな。どういう風の吹き回しなんだか」
珍しい気配が引っかかった。
空を高速で移動してこちらに向かってる。
識はまだ気づいてないようだったけど、僕の様子から警戒したのか、すぐにソレに気付いた。
「これは、一体……」
識、目を見開く。
「流石にここでばら撒くとは思えないけど、目的が読めないよね。識、悪いけど受講生のガードと余裕があれば学園敷地内の状態――」
「お任せください。若様は……」
「僕は大丈夫。よろしく」
「はっ!」
識の姿が消える。
ついでに僕の持ってた荷物も消える。
おお。
識、ナイス!
「思えば、響先輩も来たし帝国の皇女も来てた。そりゃ、お前が来てもおかしくはないか」
全く、速いじゃないか。
ふと上を見上げると竜の影。
にわかに騒がしくなる学生たち。
前に見た飛竜よりも大きいか?
僕が目当てって可能性は限りなく少ないと思ってたけど、どうやらいきなり僕のとこに来るらしい。
竜から飛来する影はこの辺りに着地するつもりでいるようだ。
飛竜で着陸すればいいのに。
学園都市には空を飛ぶ騎獣用の着陸スペースがきちんと設置されてるんだからさ。
「……なんだ、いきなりお前かよ」
「や、しばらく」
「……ああ、久しぶりだな」
「こんなとこに来てる場合なのか、帝国は」
「場合も何も。ヒューマンの英雄が、未来を担う優秀な若者を育成するロッツガルド学園を訪問する。リミアの響もやってる筈だぜ」
何というか。
自分でもどんな心境になるんだろうなと少し不安もあったってのが事実なんだけど。
驚く程に、無、だな。
全く親しくなかった名前だけ知ってる中学の同級生に久々に会ったような。
無関心なのか、それともあれから色々あって落ち着いて話せるようお互いに成長したとか?
謎な心理状態なのは確かだ。
「それもそうか。まあこうやって再会したのも何かの縁だろ。どこに向かうつもりか知らないが、良ければ案内するよ……智樹」
「お前が、俺を?」
「せん、響先輩が来た時も偶然会ったしなあ。同じ勇者だし差別は良くないだろ」
ええ、建前です。
お前がそこら中に魅了を撒いて回っても困る。
「へえ……」
「で、魅了はコントロールできるようになったのか?」
「いきなり手札を覗くような事を聞くんじゃねえよ、正気か?」
「ここが僕の仕事場でもあるんだ。例え帝国関係者であってもロッツガルドで魅了なんぞばら撒いてみろ、とんでもない事になる」
「とんでもない事ねえ、例えば?」
「多分物凄い量のクレームが来る」
「……は?」
「単純に面倒だぞ、きっと」
僕なら対応したくたい。
にしても、流石は二人しかいない勇者だな。
周囲の学生が存在に気付いて驚愕で固まってる。
言わずもがな、女子生徒は黄色い声で出迎えてるのもいる。
ただ幸いにも今のとこ魅了をどうこうしてる様子は無い。
後始末が面倒臭いから絶対蔓延させないからな。
「何でも暴力で解決するサイコ野郎かと思ったら意味わかんねえボケもするんだな」
失礼な。
多少場を和ませようかとはしたけどボケてるつもりはない。
暴力の方は、別に否定はしない。
そういう行動があったのは間違いないし。
「いきなり帝国の勇者がご来訪したんだ。あんまり学内が緊張しても良くない。僕なりに多少は考えてるんだよ」
「ちゃんと勇者として振舞うなんてわけないさ。これでも勇者としてそれなりの舞台に上がってるんだ」
そういうと智樹は柔らかく穏やかな満面の笑みで周囲に応じ始める。
……なるほど、芸能人が見せるような自然で綺麗な、訓練された魅力的な笑顔ってやつだ。
貴族とか商人も結構取習得してる。
さらりとやってくれる。
僕がその自然に見えつつ緊張も下心も見せない笑顔をモノにするのにどれだけかかったと思ってるんだ。
先輩といい、勇者め。
め。
「……な?」
「参りました、勇者様。それで? どこに用事なんだ?」
魅了は使ってない。
使ってないが、男女を問わず智樹の笑顔は威力を十全に発揮した。
場は好感に包まれ、僕らの進行を妨げる失礼なのもいない。
ただ皆が勇者へ敬愛を向けていた。
肩書きと容姿、それに笑顔ってだけじゃないだろうけど愛嬌とでもいうのかね。
勇者ってな、確かに格が違うみたいだ。
「ん? まあ全体的な視察だ。まずは学長に挨拶だな。一応リリから事前に連絡は入れてある筈だ」
「随分アバウトだな。ま、了解。学長室に向かおう」
「……本気でガイド役やる気でいたのかよ。読めねえ奴」
?
そういえば。
学長の顔……って。
どんなんだっけか。
二期生の子も完全な詠唱に拘らず、最低限魔術の発動を果たそうとするようになってきた。
識にも言われたけど、一期生のジン達と比べて明らかに二期生の子たちの方が成長が早い。
僕や識のカリキュラムというか講義が実践を経て熟練してきたのか、一期生という先輩の存在がより良い影響を生み出しているのか、純粋に二期生の才能が一期生を凌駕しているのか。
全部かもしれないし、一つも合ってないかもしれない。
識とも話をしてちゃんと何が影響しての結果なのか、近い内に結論を出しておきたいとこだなあ。
「ほい、遅い。ついでに選択した魔術もまずい。そこの二人は合格。残りは次の講義で再試験だ」
決められた時間以内に魔術を完成させて放つ。
一応色んなシチュエーションを想定して幾つか条件付けした上で二期生には試験を課した。
採点する項目は使用魔術の選定と詠唱の短縮割合、それに伴う威力の減衰度合いだ。
ジン達には模擬戦を通じて身体で覚えてもらった項目……いや単位というべきなのかな、特に講義として取り上げた内容じゃない。
でも判断力や思考の瞬発力も試される箇所だから二期生にはちゃんと解説もして講義に取り入れてる。
ちなみに合格者は二人だけ。
一度の試験で全員が合格するとも思ってないし、まあ、上々じゃないかと思う。
……考えてみれば一期生と比べて二期生の方が模擬戦の機会自体は少ないな。
切り取れる部分は講義で教えて試験をすればいいと思ったからでもあり、ジン達の手柄ともいえる。
ただその……模擬戦で鍛えたジン達の方が叩き上げ感があるのは事実。
指示待ちとまでは言わないけど二期生は一期生と比較すると若干教えてもらいたがりなとこがあるような……。
咄嗟の応用とかをやらせてみたら、この辺は一期生のが優秀になるか?
模擬戦主体の方針にも、それはそれなりにメリットがある?
講義の課題、だなあ。
悩ましい。
『ありがとうございました!!』
「ああ。次の講義もしっかりな。それぞれもう一度前提条件をきちんと読み込んで、各々の状況下での最善の手を追求するように。とはいえ今回の課題については次回も同じ前提での試験だ。別に仲間内で相談するも良し、早々合格した二人に頭を下げるもよし、合格に向けて全力を尽くすように。はい解散」
今日の僕の担当は二期生の試験でした、と。
識はジン達の方を見てくれてる。
彼らは修学旅行以降、明らかに今までより更に目の色を変えて講義に励んでる。
僕としては学も修めた事ですし、そろそろ卒業の準備に向けてこの講義もお開きにしようと思っていたとこもあるから少々思惑が外れた。
これじゃあ修学旅行じゃなく向学旅行じゃなかろうかと。
ロッツガルド学園全体ではそろそろ本格的に卒業予定者を狙っての勧誘も始まる頃合いだ。
取得単位も問題無いというのに、全員熱心な事この上ない。
片付けを済ませて荷物をまとめていると識も戻ってきた。
「すみません、若様にそのような後始末を」
「そういう識もジン達の講義を終わらせて来てくれたんだろ? むしろ僕が待たせたようなもんだよ。で、ジン達はどう? そろそろ講義終了の兆しは」
「ありませんね。あの分だと卒業寸前までしがみつくかもしれません」
識も少しばかりやれやれといった様子で苦笑する。
同じくらいの嬉しさも感じさせるとこが、まあ識先生の人気の秘訣の一つだろう。
「非常勤の一講義でやる事でもないだろうけど、卒業課題でも発表して区切りを付けさせたほうが良いかな」
「……本来設定していた成長度合いはとうに超えております。卒業課題というのは、確かに良い区切りになるかもしれません。節目は、あった方が良いですからね」
「うん、そう思うんだよ。ちゃんと講義をやりきって終わりましたよ、ってのは欲しいよね。その後プラスアルファで講義に参加するのは……まあ本人たちに任せるとしてさ」
部活の最後の大会みたいに。
引退とか卒業のしっかりした線は設けた方が良い、と僕は思うんだよ。
何故かと問われると、その、僕自身が体育会系の部活に慣れているからあまりにもそれが自然だから、ってだけなんだけどさ。
申請して借りた講義用のフィールドに重ね掛けしておいた結界を解除する。
よし、これで本日の講義終了。
「今のジン達に相応しい課題となると」
「パーティとしてやらせるか、個人個人に課題を出すかも考えないとね」
識を伴って僕らの待機室に戻るべく校舎への帰路を歩く。
もう学内に事件の傷痕は無い。
生徒もおおよその日常を取り戻してる。
街もだ。
違うのはクズノハ商会への評価と印象、それに僕らの忙しさ位。
「? おっと」
「若様?」
「ベルゴートにいる筈なのにな。どういう風の吹き回しなんだか」
珍しい気配が引っかかった。
空を高速で移動してこちらに向かってる。
識はまだ気づいてないようだったけど、僕の様子から警戒したのか、すぐにソレに気付いた。
「これは、一体……」
識、目を見開く。
「流石にここでばら撒くとは思えないけど、目的が読めないよね。識、悪いけど受講生のガードと余裕があれば学園敷地内の状態――」
「お任せください。若様は……」
「僕は大丈夫。よろしく」
「はっ!」
識の姿が消える。
ついでに僕の持ってた荷物も消える。
おお。
識、ナイス!
「思えば、響先輩も来たし帝国の皇女も来てた。そりゃ、お前が来てもおかしくはないか」
全く、速いじゃないか。
ふと上を見上げると竜の影。
にわかに騒がしくなる学生たち。
前に見た飛竜よりも大きいか?
僕が目当てって可能性は限りなく少ないと思ってたけど、どうやらいきなり僕のとこに来るらしい。
竜から飛来する影はこの辺りに着地するつもりでいるようだ。
飛竜で着陸すればいいのに。
学園都市には空を飛ぶ騎獣用の着陸スペースがきちんと設置されてるんだからさ。
「……なんだ、いきなりお前かよ」
「や、しばらく」
「……ああ、久しぶりだな」
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ええ、建前です。
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「へえ……」
「で、魅了はコントロールできるようになったのか?」
「いきなり手札を覗くような事を聞くんじゃねえよ、正気か?」
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「……は?」
「単純に面倒だぞ、きっと」
僕なら対応したくたい。
にしても、流石は二人しかいない勇者だな。
周囲の学生が存在に気付いて驚愕で固まってる。
言わずもがな、女子生徒は黄色い声で出迎えてるのもいる。
ただ幸いにも今のとこ魅了をどうこうしてる様子は無い。
後始末が面倒臭いから絶対蔓延させないからな。
「何でも暴力で解決するサイコ野郎かと思ったら意味わかんねえボケもするんだな」
失礼な。
多少場を和ませようかとはしたけどボケてるつもりはない。
暴力の方は、別に否定はしない。
そういう行動があったのは間違いないし。
「いきなり帝国の勇者がご来訪したんだ。あんまり学内が緊張しても良くない。僕なりに多少は考えてるんだよ」
「ちゃんと勇者として振舞うなんてわけないさ。これでも勇者としてそれなりの舞台に上がってるんだ」
そういうと智樹は柔らかく穏やかな満面の笑みで周囲に応じ始める。
……なるほど、芸能人が見せるような自然で綺麗な、訓練された魅力的な笑顔ってやつだ。
貴族とか商人も結構取習得してる。
さらりとやってくれる。
僕がその自然に見えつつ緊張も下心も見せない笑顔をモノにするのにどれだけかかったと思ってるんだ。
先輩といい、勇者め。
め。
「……な?」
「参りました、勇者様。それで? どこに用事なんだ?」
魅了は使ってない。
使ってないが、男女を問わず智樹の笑顔は威力を十全に発揮した。
場は好感に包まれ、僕らの進行を妨げる失礼なのもいない。
ただ皆が勇者へ敬愛を向けていた。
肩書きと容姿、それに笑顔ってだけじゃないだろうけど愛嬌とでもいうのかね。
勇者ってな、確かに格が違うみたいだ。
「ん? まあ全体的な視察だ。まずは学長に挨拶だな。一応リリから事前に連絡は入れてある筈だ」
「随分アバウトだな。ま、了解。学長室に向かおう」
「……本気でガイド役やる気でいたのかよ。読めねえ奴」
?
そういえば。
学長の顔……って。
どんなんだっけか。
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