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終章 月と亜空落着編
光差さない冷たい底で
海はこの世界において荒野と双璧をなす秘境だ。
果てに何があるのかどころか別大陸の存在すら明らかになっていない。
そして海の底、深海は現代の地球においても最大の秘境である。
女神の世界の深海は完全に手付かず、ヒューマンにとって存在しない場所といっても過言ではない。
更にいえば目を向け、意識される事さえない盲点。
大国どころかクズノハ商会ですら、情報網が存在しないエリアといえる。
後者においては意識さえ向ければ情報網構築は可能だったりは、するのだが。
(相変わらず、ここは一体どこなのか)
自分が現在地の情報を把握できていない事に気持ちの悪さと不快を感じているのは魔族。
それも魔将と呼ばれる最高幹部の一人であるロナだった。
(三度目だというのに、見慣れない材質の建物に、いつ来ても夜。月明りさえない)
三度の来訪は全て王の供として。
ゼフは来るたびに魔将のいずれかを供として連れてきたが場所の詳細は口にした事は一度もない。
一番回数が多いのはモクレンだが彼とて取引相手や場所の仔細は知らない。
ただ知っている事は、ここが重要な取引の場だという事。
「結局、魔将の誰もこの地の真実に気付く事は出来なかったな」
責めるでもなく、楽しそうにゼフは笑う。
案内された部屋のソファーに座る彼はリラックスしていた。
魔王としてではなく、長年付き合った仲間と雑談しているような気安さがそこにあった。
「……何らかの結界を施された別空間、陛下は否定されましたが私はやはりこれが正解だと思うのですが」
「全くの不正解だ、ロナ」
「いずれ、絶対に謎を解き明かしてみせます」
「いやいや、ここに来るのは今日が最後だ。そして恐らく今日、お前は答えに至るだろうさ」
「最後、でございますか?」
「うむ。モクレンから連絡があった。じき、完成する」
何でもない事の様にゼフが言った言葉にロナが目を見開いた。
「それは、陛下が以前仰っていた……『女神を討つための』武器でしょうか」
鼓動が早くなる。
ロナは、それが魔族の切り札だと知っている。
他でもないゼフが種の切り札だと断言した武器、或いは兵器なのだ。
魔将ですらおいそれと知る事ができない、極秘の計画。
薄らと存在だけは知っているというレベルだ。
開発を担当するモクレンと魔王であるゼフ自身、そして直轄の部下しか知らない。
当然ヒューマンには全く漏れ出ていない。
勇者の魅了があろうとそもそも向こうに存在をまるで知られていないし現場に情報の欠片すら無いから漏洩の心配もない。
「ああ、短い間の協定だったが無事にここまでこぎつける事が出来た。時間がある様なら今日はあちらもトップが来てくれるかもしれないとの事だが、果たしてどうなるか」
「毎回陛下本人を要求してくるのにあちらは一度も王を出さない。……陛下、もしやクズノハとの密談、密会だったとは仰いませんよね」
かの不気味な商会の存在がロナの頭をよぎる。
「クズノハ商会か。ソレが叶えば一番だが、違う」
ゼフは更に言葉を続けようとしたが気配を察して口を閉じる。
次いで部屋にノックの音が響く。
ロナは入室の許可を伝え、そして、入ってきた人物を直視して思わず唾を呑んだ。
「お待たせしましたな、魔王ゼフ殿」
「……いや無理をお願いしている身だ。気になさらないで欲しい、宰相アーモン殿」
「陛下は生憎と時間が取れず私が最後を担当する事となりました。申し訳ございません」
ロナは優雅に礼をする人物を注意深く、かつ失礼にならぬよう観察していた。
魚、だ。
かなり個性的で、はっきり言えば醜い魚。
魚人とでもいえば良いのか、男性型人魚であるマーマンともまた違った亜人であると彼女には感じられた。
生臭さなどはない。
声は通常の人と変わらず、話しているのは共通語だ。
背は高く幅もあるため威圧感も強い。
突起やいぼが幾つもある顔は口が大きく目もぎょろりとして、魔族のものとは違うが柔らかな角の様なものが額の奥辺りから出て、垂れ下がっていた。
あ、とかえっとか口にしなかっただけ、ロナは素晴らしい精神力の持ち主だと言えよう。
ちなみにこの場に真がいればチョウチンアンコウだ、と反射的にモチーフを言い当てただろう。
宰相アーモンと魔王ゼフは一通り世辞や挨拶を交わしにこやかに談笑する。
その様は人と全く変わらず。
「確か、魔将のロナ様でしたな。最後の案内、私が務めさせていただきます。どうぞ、よろしくお願い致します」
「はい、初めましてアーモン殿。よろしくお願い致します」
相手に合わせ好意的に礼を返すロナ。
しかしアーモンはロナの様子に一瞬動きを止め、そしてまたすぐ彼なりの笑顔を浮かべた。
ロナはアーモンの放つ雰囲気と動きの様子で、それが彼の笑顔なのだろうと推測した。
「初めまして、ではありませんよ。ロナ殿」
「え?」
「最初においでになった時も、ご挨拶こそできませんでしたが私が案内を担当致しました」
アーモンはそう述べると彼の姿が一瞬でヒューマンのそれに代わる。
はじめましてではない、との言葉通りロナが記憶している案内人の一人の姿に一致していた。
「決して試したというような事ではなく、ゼフ陛下からのリクエストでしてな。今日は皆、本来の姿でと」
「本来のお姿、ですか」
「はい。我々は海皇という種族でして。とある縁によりゼフ陛下に協力しております。そしてここは我々の国の中、限られた者しか訪れる事を許されない遺跡、とでもいえばいいのか。まあそんな所でございます」
「カイオウ、申し訳ありません。寡聞にして存じ上げず」
「でしょうな。我らを知る者となると恐らくゼフ殿の他には一部の上位精霊か上位竜ぐらいではないでしょうか」
元の姿に戻るアーモン。
魔術かスキルか特殊な道具を用いての変化か。
全くわからかったロナは若干の悔しさを覚える。
「……」
(そんな種族がまだこの世界に……。姿からすると水中、海の種族かしら?)
「そなたらとの出会いが余に魔王としてどう在るかを決断させた。奇縁ではあろうが……運命よな」
「!!」
自身の事に饒舌なゼフの姿にロナは衝撃を受ける。
驚きと喜び、そして何かが大きく動き出していく不安を感じるロナ。
「運命ですか。流石に魔族に最後までお付き合いする事はできかねますが、個人的にはゼフ陛下の覚悟が成就する事を祈っておりますよ。一友人として」
「ありがとう。アーモン殿」
「ではゆるりと参りますかな。お二方は私の後を」
「?」
ん、とロナは思った。
ここで交渉をし、後に別室で何かの資料をもらって帰るというのがいつものパターンだ。
図書館と似た雰囲気の場所だったとロナは記憶している。
「ああロナ。今日は常々頼んでいた無理が通ってな。一番最初にここに来た時以来の待望の……先ほどアーモン殿が言った遺跡とでもいうべき場所の中心部に行く事になる」
「はっ、わかりました陛下。ありがとうございます、申し訳ありません!」
主にいらぬ説明をさせたと悔いるロナ。
ゼフが勝手に勝手にロナの顔を察しただけだが、そんな表情を浮かべてしまった事を彼女は恥じていた。
「ははは、ロナ殿。そう気を張らずに。あまり緊張されるとかえって危のうございます」
「危険ですか?」
気遣いの言葉と裏腹にロナは緊張を高める。
「はい。ここは特殊な環境ですから。ただ私のあとをゼフ陛下と一緒に付いてきてください。変に動かれますと私でも安全を保証できなくなります」
「いや、そういわれても、その」
(ここがどこかもわからず危険とだけ伝えられて、ゼフ様がいらっしゃる場でそんな事出来るものか!)
「……もしやゼフ陛下?」
ここがどんな場所か言ってないなんてことないよね、とアーモンはゼフを見る。
ゼフは明るい笑顔でサムズアップして応じた。
「……ははは、まあな。クイズにしている内に言い出しそびれてしまった」
「貴方らしいというか、何というか。しかし魔王の玉座に座る前の貴方を再び垣間見たようで少し懐かしい気分になりましたよ。悪くない」
少し柔らかく砕けた様子になるアーモン。
しかし必要な情報を魔王の護衛役が知らないのは大問題。
やや呆れた表情を真面目に取り繕い、アーモンがロナに顔を向ける。
「ロナ殿」
「……はい」
「ここはとある海溝の底、光すら届かない常闇の海底なのです」
「カイコウ、カイテイ……海底!?」
「ええ。深い海の底というのは海に生きる民にとってすら近寄りがたい特殊な環境でして。それを緩和するために様々な術や道具、特殊能力を用いてこの建築物を始め成立しております」
「う、海の底というのは光も届かないほど深いのですか?」
「もちろん。常に闇が支配し浅い海を生きる種であれば魚ですら入り込めません。陸の方にわかる様説明するなら過酷な氷に閉ざされた吹雪止まぬ……」
「アーモン殿、的確な例えかもしれないがそれは少し魔族にとって」
「あ……確かに。となれば噂に聞く荒野の奥地だとか、活発な火山が乱立する緑なき地、逆に深く濃い緑が支配する密林……」
「ああ、その方がわかり易いだろう。な、ロナよ」
「は、はい!陛下!」
「我々からすると寒い場所というのが一番、酷地のイメージがしやすいのですが。魔族の方々はその辺りで暮らしておられるのでしたな。失言でした。確か魔族の中にも海に適応した種がいましたがアレは確か…」
「ローレライだな。我らとは既に関係が薄く、別種というイメージが強い」
「なるほど」
「あの、アーモン殿。ご説明ありがとうございました。勉強になります」
「いえいえ。ともあれここはそういう場所ですので、私の言葉を一番に考えて頂きたく」
「しかと胸に刻みました」
「では、いよいよ外へ。参りましょうか、奇異なる宝物庫『骸の叡智』へ」
全く視界がない暗闇の中、初めて感じる細かな泥の感触。
ゼフとロナは案内人の背を見て一歩を踏み出した。
果てに何があるのかどころか別大陸の存在すら明らかになっていない。
そして海の底、深海は現代の地球においても最大の秘境である。
女神の世界の深海は完全に手付かず、ヒューマンにとって存在しない場所といっても過言ではない。
更にいえば目を向け、意識される事さえない盲点。
大国どころかクズノハ商会ですら、情報網が存在しないエリアといえる。
後者においては意識さえ向ければ情報網構築は可能だったりは、するのだが。
(相変わらず、ここは一体どこなのか)
自分が現在地の情報を把握できていない事に気持ちの悪さと不快を感じているのは魔族。
それも魔将と呼ばれる最高幹部の一人であるロナだった。
(三度目だというのに、見慣れない材質の建物に、いつ来ても夜。月明りさえない)
三度の来訪は全て王の供として。
ゼフは来るたびに魔将のいずれかを供として連れてきたが場所の詳細は口にした事は一度もない。
一番回数が多いのはモクレンだが彼とて取引相手や場所の仔細は知らない。
ただ知っている事は、ここが重要な取引の場だという事。
「結局、魔将の誰もこの地の真実に気付く事は出来なかったな」
責めるでもなく、楽しそうにゼフは笑う。
案内された部屋のソファーに座る彼はリラックスしていた。
魔王としてではなく、長年付き合った仲間と雑談しているような気安さがそこにあった。
「……何らかの結界を施された別空間、陛下は否定されましたが私はやはりこれが正解だと思うのですが」
「全くの不正解だ、ロナ」
「いずれ、絶対に謎を解き明かしてみせます」
「いやいや、ここに来るのは今日が最後だ。そして恐らく今日、お前は答えに至るだろうさ」
「最後、でございますか?」
「うむ。モクレンから連絡があった。じき、完成する」
何でもない事の様にゼフが言った言葉にロナが目を見開いた。
「それは、陛下が以前仰っていた……『女神を討つための』武器でしょうか」
鼓動が早くなる。
ロナは、それが魔族の切り札だと知っている。
他でもないゼフが種の切り札だと断言した武器、或いは兵器なのだ。
魔将ですらおいそれと知る事ができない、極秘の計画。
薄らと存在だけは知っているというレベルだ。
開発を担当するモクレンと魔王であるゼフ自身、そして直轄の部下しか知らない。
当然ヒューマンには全く漏れ出ていない。
勇者の魅了があろうとそもそも向こうに存在をまるで知られていないし現場に情報の欠片すら無いから漏洩の心配もない。
「ああ、短い間の協定だったが無事にここまでこぎつける事が出来た。時間がある様なら今日はあちらもトップが来てくれるかもしれないとの事だが、果たしてどうなるか」
「毎回陛下本人を要求してくるのにあちらは一度も王を出さない。……陛下、もしやクズノハとの密談、密会だったとは仰いませんよね」
かの不気味な商会の存在がロナの頭をよぎる。
「クズノハ商会か。ソレが叶えば一番だが、違う」
ゼフは更に言葉を続けようとしたが気配を察して口を閉じる。
次いで部屋にノックの音が響く。
ロナは入室の許可を伝え、そして、入ってきた人物を直視して思わず唾を呑んだ。
「お待たせしましたな、魔王ゼフ殿」
「……いや無理をお願いしている身だ。気になさらないで欲しい、宰相アーモン殿」
「陛下は生憎と時間が取れず私が最後を担当する事となりました。申し訳ございません」
ロナは優雅に礼をする人物を注意深く、かつ失礼にならぬよう観察していた。
魚、だ。
かなり個性的で、はっきり言えば醜い魚。
魚人とでもいえば良いのか、男性型人魚であるマーマンともまた違った亜人であると彼女には感じられた。
生臭さなどはない。
声は通常の人と変わらず、話しているのは共通語だ。
背は高く幅もあるため威圧感も強い。
突起やいぼが幾つもある顔は口が大きく目もぎょろりとして、魔族のものとは違うが柔らかな角の様なものが額の奥辺りから出て、垂れ下がっていた。
あ、とかえっとか口にしなかっただけ、ロナは素晴らしい精神力の持ち主だと言えよう。
ちなみにこの場に真がいればチョウチンアンコウだ、と反射的にモチーフを言い当てただろう。
宰相アーモンと魔王ゼフは一通り世辞や挨拶を交わしにこやかに談笑する。
その様は人と全く変わらず。
「確か、魔将のロナ様でしたな。最後の案内、私が務めさせていただきます。どうぞ、よろしくお願い致します」
「はい、初めましてアーモン殿。よろしくお願い致します」
相手に合わせ好意的に礼を返すロナ。
しかしアーモンはロナの様子に一瞬動きを止め、そしてまたすぐ彼なりの笑顔を浮かべた。
ロナはアーモンの放つ雰囲気と動きの様子で、それが彼の笑顔なのだろうと推測した。
「初めまして、ではありませんよ。ロナ殿」
「え?」
「最初においでになった時も、ご挨拶こそできませんでしたが私が案内を担当致しました」
アーモンはそう述べると彼の姿が一瞬でヒューマンのそれに代わる。
はじめましてではない、との言葉通りロナが記憶している案内人の一人の姿に一致していた。
「決して試したというような事ではなく、ゼフ陛下からのリクエストでしてな。今日は皆、本来の姿でと」
「本来のお姿、ですか」
「はい。我々は海皇という種族でして。とある縁によりゼフ陛下に協力しております。そしてここは我々の国の中、限られた者しか訪れる事を許されない遺跡、とでもいえばいいのか。まあそんな所でございます」
「カイオウ、申し訳ありません。寡聞にして存じ上げず」
「でしょうな。我らを知る者となると恐らくゼフ殿の他には一部の上位精霊か上位竜ぐらいではないでしょうか」
元の姿に戻るアーモン。
魔術かスキルか特殊な道具を用いての変化か。
全くわからかったロナは若干の悔しさを覚える。
「……」
(そんな種族がまだこの世界に……。姿からすると水中、海の種族かしら?)
「そなたらとの出会いが余に魔王としてどう在るかを決断させた。奇縁ではあろうが……運命よな」
「!!」
自身の事に饒舌なゼフの姿にロナは衝撃を受ける。
驚きと喜び、そして何かが大きく動き出していく不安を感じるロナ。
「運命ですか。流石に魔族に最後までお付き合いする事はできかねますが、個人的にはゼフ陛下の覚悟が成就する事を祈っておりますよ。一友人として」
「ありがとう。アーモン殿」
「ではゆるりと参りますかな。お二方は私の後を」
「?」
ん、とロナは思った。
ここで交渉をし、後に別室で何かの資料をもらって帰るというのがいつものパターンだ。
図書館と似た雰囲気の場所だったとロナは記憶している。
「ああロナ。今日は常々頼んでいた無理が通ってな。一番最初にここに来た時以来の待望の……先ほどアーモン殿が言った遺跡とでもいうべき場所の中心部に行く事になる」
「はっ、わかりました陛下。ありがとうございます、申し訳ありません!」
主にいらぬ説明をさせたと悔いるロナ。
ゼフが勝手に勝手にロナの顔を察しただけだが、そんな表情を浮かべてしまった事を彼女は恥じていた。
「ははは、ロナ殿。そう気を張らずに。あまり緊張されるとかえって危のうございます」
「危険ですか?」
気遣いの言葉と裏腹にロナは緊張を高める。
「はい。ここは特殊な環境ですから。ただ私のあとをゼフ陛下と一緒に付いてきてください。変に動かれますと私でも安全を保証できなくなります」
「いや、そういわれても、その」
(ここがどこかもわからず危険とだけ伝えられて、ゼフ様がいらっしゃる場でそんな事出来るものか!)
「……もしやゼフ陛下?」
ここがどんな場所か言ってないなんてことないよね、とアーモンはゼフを見る。
ゼフは明るい笑顔でサムズアップして応じた。
「……ははは、まあな。クイズにしている内に言い出しそびれてしまった」
「貴方らしいというか、何というか。しかし魔王の玉座に座る前の貴方を再び垣間見たようで少し懐かしい気分になりましたよ。悪くない」
少し柔らかく砕けた様子になるアーモン。
しかし必要な情報を魔王の護衛役が知らないのは大問題。
やや呆れた表情を真面目に取り繕い、アーモンがロナに顔を向ける。
「ロナ殿」
「……はい」
「ここはとある海溝の底、光すら届かない常闇の海底なのです」
「カイコウ、カイテイ……海底!?」
「ええ。深い海の底というのは海に生きる民にとってすら近寄りがたい特殊な環境でして。それを緩和するために様々な術や道具、特殊能力を用いてこの建築物を始め成立しております」
「う、海の底というのは光も届かないほど深いのですか?」
「もちろん。常に闇が支配し浅い海を生きる種であれば魚ですら入り込めません。陸の方にわかる様説明するなら過酷な氷に閉ざされた吹雪止まぬ……」
「アーモン殿、的確な例えかもしれないがそれは少し魔族にとって」
「あ……確かに。となれば噂に聞く荒野の奥地だとか、活発な火山が乱立する緑なき地、逆に深く濃い緑が支配する密林……」
「ああ、その方がわかり易いだろう。な、ロナよ」
「は、はい!陛下!」
「我々からすると寒い場所というのが一番、酷地のイメージがしやすいのですが。魔族の方々はその辺りで暮らしておられるのでしたな。失言でした。確か魔族の中にも海に適応した種がいましたがアレは確か…」
「ローレライだな。我らとは既に関係が薄く、別種というイメージが強い」
「なるほど」
「あの、アーモン殿。ご説明ありがとうございました。勉強になります」
「いえいえ。ともあれここはそういう場所ですので、私の言葉を一番に考えて頂きたく」
「しかと胸に刻みました」
「では、いよいよ外へ。参りましょうか、奇異なる宝物庫『骸の叡智』へ」
全く視界がない暗闇の中、初めて感じる細かな泥の感触。
ゼフとロナは案内人の背を見て一歩を踏み出した。
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