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よんじゅうきゅう
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おれはシャルルのことがすきだけれど、これを恋といっていいのかはわからなかった。
他のひとといるとさみしくなって、近くにいると嬉しくて、ぎゅってくっつくとあったかくて、一緒に寝てると安心して、でもやっぱり不安で、眠たいのに眠れなくて、でも癖なんだろうか、背中を撫でる手が瞼をとろとろさせるから、シャルルといるのがいちばんなんだって思ってた。
最初は嫌な奴、変な奴って、そうとしか思ってなかったのに、シャルルが優しくするから、楽しいこと教えてくれるから、あんなことするから、あんなこと言うから、傍にいていいんだって、シャルルだっておれのことすきなんだって、許してくれるって、思ってたのに。
ニンゲンがキスをするのはすきな相手だから。魔力をもらうためだとわかっていても、他の方法もあると言いながらそうしてくれるのは、気持ちいいと思うのは、おれがシャルルのことがすきで、シャルルもおれのことがすきだって、そう、思ってたのに。
思ってたのに。
違うんだって。
おれのこと、すきにならないって。なってくれないんだって。
だめだって言われても、それでも、シャルルがおれのこと、すきになってくれたらって、おれのこと、すきにさせてしまえば、って、思って……
勝手に夢を見ていたのかもしれない。
すきになんて、おれのことをすきになんてなってくれる訳ない。
おれが楽しくても嬉しくてもあったかいなって思っても、シャルルがそれを許さなかったらだめなんだ。
おれが魔王だから?シャルルが勇者だから?
おれが嫌な奴だから?女形になれないから?聖女の方がいい?他のひとがすきなの?
教えてくれたら、魔力をくれたら、そのひとになるのに。
「魔力……い、いらない……」
「あげないと困るでしょ」
「もらいたくない……いや、いやだ」
「こんなことで拗ねるな」
「シャルからもらいたくない!」
そうだよ、シャルル、嫌がってたじゃないか、最近はずっと。いやそうなかお、してた。
シャルルのことを知りたいと思った、おれのことも知ってもらって、一緒にいたいって。
知った上でおれのこと、いやになったんでしょ。
じゃあおれだって、そんなシャルルと一緒にいたくない。
優しくないシャルルも、あったかくないシャルルも、おれのことをすきにならないシャルルも、じゃあもういらない。そんなの、苦しいだけだ。
「じゃあ誰に貰うの、食事だけじゃそんなに」
「……北の魔法使い、に、会いに行くんでしょ」
「魔法使い、みたい、なひとだよ」
「でも色々知ってるんでしょ、おれの躰の治し方とか、魔力のこととか知ってるかもしれない」
「……北のひとに魔力もらうの?」
「うん」
「……駄目、わかってんの、魔力の貰い方」
「わかってる、何回も、した」
「……っ、」
「他の、方法じゃなくて、同じ方法でもらう」
「ばっ……」
そうだ、これは嫌がらせだ。
拗ねてるんじゃなくて、怒ってるのおれ。シャルルじゃないなら誰だっていい、貰わなくたっていい。
だってその方法がいちばんいいってシャルルが言ったんだ、そのシャルルがしてくれないなら他のひとから、出来るひとから貰う。
別に、シャルルじゃなくたって。あんな特別なこと、シャルルしか出来ないと思ってただけで、もし北の魔法使いみたいなひと、が、魔力くれるっていうなら、シャルルじゃなくたっていい。
だめならおれが死ぬだけ。
「あんなやり方じゃなく、俺の血を摂取するとか他にも」
「いや!」
「ノエ」
「もういい、いらない、シャルなんておれもいらないもん、お、おれだって、選べる、もん、もう、シャルなんてきらいだ……」
「……俺はノエのこと、家族みたいにかわいいって思ってんの、だから」
「うるさい、もういいったら、そんなの!やだ、もう、全然わかってくんない、きらい……」
「きらいって言われんの、かなしくなるんだけど」
「しらない、きらいっ」
ノエ、と呼ばれる名前すらいやになってくる。
シャルルがくれたくせに。シャルルがそうさせたくせに。シャルルがすきにさせたくせに。なんで違うなんていうの。
知ってるよ、知ってるの、ニンゲンは愛情表現でキスをするけれど、誰にでも出来るニンゲンもいるって、サキュバスも言ってた。
シャルルもそうだったんだ。
おれのこと、すきじゃなくてもあんなに優しく出来たんだ。
おれはシャルルだけなのに、シャルルにはおれだけじゃないの。
「きらい……」
きらきらしていて、わくわくしてた。
シャルルといると、ふわふわするような、そんなの、魔王城にいた頃はなかったんだ。
シャルルの傍がいちばん、いちばんあったかくて、でもだめなら……
にばんめなんていらなかった。本当は北の魔法使いなんてどうでもいい。シャルルじゃないといやだ。
でもだめなんでしょ、シャルルはいやなんでしょ、じゃあノエのことすきになるからなんて言わないんでしょ、言ったとしても、それは偽物でしょ。
おれが他のひととキスをしても、おれみたいにかなしくなんか、ならないんでしょう。
やけになってるなんてちゃんとわかってる。
本当は止めてほしいことも。
それでも止められないのは、止め方がわからないから。
仲直りする方法も、シャルルをすきになるのを止める方法も、どうやったら一緒にいられるかを、我慢する方法を。
離れたくなくても、離れることくらいしか、わかんなかった。
おれはシャルルとは離れるつもりで魔法使いに会いにいく。
他のひとといるとさみしくなって、近くにいると嬉しくて、ぎゅってくっつくとあったかくて、一緒に寝てると安心して、でもやっぱり不安で、眠たいのに眠れなくて、でも癖なんだろうか、背中を撫でる手が瞼をとろとろさせるから、シャルルといるのがいちばんなんだって思ってた。
最初は嫌な奴、変な奴って、そうとしか思ってなかったのに、シャルルが優しくするから、楽しいこと教えてくれるから、あんなことするから、あんなこと言うから、傍にいていいんだって、シャルルだっておれのことすきなんだって、許してくれるって、思ってたのに。
ニンゲンがキスをするのはすきな相手だから。魔力をもらうためだとわかっていても、他の方法もあると言いながらそうしてくれるのは、気持ちいいと思うのは、おれがシャルルのことがすきで、シャルルもおれのことがすきだって、そう、思ってたのに。
思ってたのに。
違うんだって。
おれのこと、すきにならないって。なってくれないんだって。
だめだって言われても、それでも、シャルルがおれのこと、すきになってくれたらって、おれのこと、すきにさせてしまえば、って、思って……
勝手に夢を見ていたのかもしれない。
すきになんて、おれのことをすきになんてなってくれる訳ない。
おれが楽しくても嬉しくてもあったかいなって思っても、シャルルがそれを許さなかったらだめなんだ。
おれが魔王だから?シャルルが勇者だから?
おれが嫌な奴だから?女形になれないから?聖女の方がいい?他のひとがすきなの?
教えてくれたら、魔力をくれたら、そのひとになるのに。
「魔力……い、いらない……」
「あげないと困るでしょ」
「もらいたくない……いや、いやだ」
「こんなことで拗ねるな」
「シャルからもらいたくない!」
そうだよ、シャルル、嫌がってたじゃないか、最近はずっと。いやそうなかお、してた。
シャルルのことを知りたいと思った、おれのことも知ってもらって、一緒にいたいって。
知った上でおれのこと、いやになったんでしょ。
じゃあおれだって、そんなシャルルと一緒にいたくない。
優しくないシャルルも、あったかくないシャルルも、おれのことをすきにならないシャルルも、じゃあもういらない。そんなの、苦しいだけだ。
「じゃあ誰に貰うの、食事だけじゃそんなに」
「……北の魔法使い、に、会いに行くんでしょ」
「魔法使い、みたい、なひとだよ」
「でも色々知ってるんでしょ、おれの躰の治し方とか、魔力のこととか知ってるかもしれない」
「……北のひとに魔力もらうの?」
「うん」
「……駄目、わかってんの、魔力の貰い方」
「わかってる、何回も、した」
「……っ、」
「他の、方法じゃなくて、同じ方法でもらう」
「ばっ……」
そうだ、これは嫌がらせだ。
拗ねてるんじゃなくて、怒ってるのおれ。シャルルじゃないなら誰だっていい、貰わなくたっていい。
だってその方法がいちばんいいってシャルルが言ったんだ、そのシャルルがしてくれないなら他のひとから、出来るひとから貰う。
別に、シャルルじゃなくたって。あんな特別なこと、シャルルしか出来ないと思ってただけで、もし北の魔法使いみたいなひと、が、魔力くれるっていうなら、シャルルじゃなくたっていい。
だめならおれが死ぬだけ。
「あんなやり方じゃなく、俺の血を摂取するとか他にも」
「いや!」
「ノエ」
「もういい、いらない、シャルなんておれもいらないもん、お、おれだって、選べる、もん、もう、シャルなんてきらいだ……」
「……俺はノエのこと、家族みたいにかわいいって思ってんの、だから」
「うるさい、もういいったら、そんなの!やだ、もう、全然わかってくんない、きらい……」
「きらいって言われんの、かなしくなるんだけど」
「しらない、きらいっ」
ノエ、と呼ばれる名前すらいやになってくる。
シャルルがくれたくせに。シャルルがそうさせたくせに。シャルルがすきにさせたくせに。なんで違うなんていうの。
知ってるよ、知ってるの、ニンゲンは愛情表現でキスをするけれど、誰にでも出来るニンゲンもいるって、サキュバスも言ってた。
シャルルもそうだったんだ。
おれのこと、すきじゃなくてもあんなに優しく出来たんだ。
おれはシャルルだけなのに、シャルルにはおれだけじゃないの。
「きらい……」
きらきらしていて、わくわくしてた。
シャルルといると、ふわふわするような、そんなの、魔王城にいた頃はなかったんだ。
シャルルの傍がいちばん、いちばんあったかくて、でもだめなら……
にばんめなんていらなかった。本当は北の魔法使いなんてどうでもいい。シャルルじゃないといやだ。
でもだめなんでしょ、シャルルはいやなんでしょ、じゃあノエのことすきになるからなんて言わないんでしょ、言ったとしても、それは偽物でしょ。
おれが他のひととキスをしても、おれみたいにかなしくなんか、ならないんでしょう。
やけになってるなんてちゃんとわかってる。
本当は止めてほしいことも。
それでも止められないのは、止め方がわからないから。
仲直りする方法も、シャルルをすきになるのを止める方法も、どうやったら一緒にいられるかを、我慢する方法を。
離れたくなくても、離れることくらいしか、わかんなかった。
おれはシャルルとは離れるつもりで魔法使いに会いにいく。
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