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ろくじゅうはち

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 もう一度、見つめ合って、でもさっきのものより空気が柔らかい。そのままちゅうと一回、二回、角度を変えて三回。
 ぬるりと入ってきた舌が熱くて、肩がびく、と跳ねた。
 さっきのは本当に、ただのなんでもない、想いを伝えるだけのキス。
 今度のものは、魔力も同時に流れてくる。
 熱い、熱くて、少し痺れるようで、これも、なんだろう、いつもより気持ちがいい。
 魔力をくれる時も、すきだったら気持ちいいものなのかな、おれの気の持ちようなのかな、勝手に気持ちよくなっちゃってるだけなのかな。
 でもいいや、シャルルがおれのこと、すきになってくれるなら、もうなんだっていい。
 すきって言ってくれるなら、火傷するくらい熱くても我慢出来る。

「は、ァ……う、んん」

 頬を包まれて、耳を触られるとぞくぞくする。
 変な声が出ちゃう、上手く逃がすことが出来ない。
 どうしよ、どうしよう、気持ちい、なんか、どんどん気持ち良くなってしまう。
 シャルルの魔力のせいかな……

「ふ、っう、は……ぁ、う」
「……ごめん、苦しかった?」
「んんぅ……」
「魔力またあげすぎちゃったかな」

 とろとろになってかわいい、と額に唇を落とす。
 胸もお腹もいっぱいになってしまう。
 どうしよう、あったかくて気持ちよくて眠くて、なんだかすごく……うう、魔王がこんなこと思っていいのかな、嬉しいって、しあわせだあって思ってしまう。

「シャル……」
「うん?」
「かわいいって、ほんと……?」
「ほんとほんと、めちゃくちゃかわいいよ」
「……リアムやソフィより?」
「……」

 シャルルの動きがぴた、と止まって、それからぎこちない笑顔で、気にしてた?と訊く。
 うん、と頷くと、だよなあ……ごめんなあ、とまたぎゅうと抱き締めてきた。
 ……嬉しい。シャルルの少し強いくらいの抱きしめ方が。

「ノエへのかわいいとリアムとソフィへのかわいいは違うっていうか……いや同じことも多いんだけど、それで俺も悩んだりしたんだけど」
「……難しい」
「難しいけど、でも難しくないんだよ、ノエがたくさんかわいいの」
「……?」
「ソフィとリアムと同じかわいいと、ノエだけ、ノエだけしかないかわいいがあんの、そのノエだけのかわいい、が……その、うん、さっきみたいな、キスしたくなるなってかわいいで」
「ソフィとリアムのかわいいはキスしたくない?」
「そう……そうねえ……うん、口じゃなくて……ほっぺたとか、そういう、赤ちゃんや動物にするような……そのままだな、これ……ええと」

 ううん、なんて言えばいいかな、と唸るシャルルに、頭をぐいと擦り付けて、じゃあああいうの、おれ以外としないでね、と言うと、ほっとした溜息が頭の上から聞こえた。
 それから、ノエも他のひとから魔力であっても貰ったりしないでね、と降ってきた。
 ……うん、あんな、レイから貰うとか言っておれもごめんなさい。

「ノエにきらいって言われたのすっごいやだったな」
「……ごめん」
「俺が悪かったんだけどね、でもこれからは……喧嘩しても、俺に不満があっても聞きたくないなあ、ね、俺もそういうの、言わないから、ノエも言わないでくれたら嬉しいな」
「ゆ、ゆわない……!」
「代わりにすきはいっぱい言ってくれていいよ」
「代わりじゃない」
「はは」
「……す、」
「うん」

 すき、と言うと、シャルルの心臓の音がまた早くなる。どきどきどくどくするその音と、くっつき過ぎて籠る自分の声が不思議だ。
 さっきまですっごく寒くて冷えていたのに、今はそれが嘘のようにあたたかくて、ぽかぽかするくらい。

 気持ち良くて、あったかくて、気持ちも魔力も満たされて。
 まだ昼前だっていうのに、すごく眠い。
 魔力貰い過ぎたかな、昨日はリアムとぐっすり寝たと思っていたけど、存外眠れていなかったのかも。
 それともこれは、シャルルの魔法なのかな、一緒にいると、安心しちゃうやつ。

「ノエ、眠いの?」
「んー……ん、」
「……いいよ、寝ても。俺は怜くんたちと少し話をするけど……一応ね。起きた時に居なくても、ノエを置いてったりしてないんだからね」
「ん……それで、い、から……眠るまではこのまま……してて」
「このままで寝れるう?」
「うん……」

 早くなったり落ち着いたり忙しいシャルルの心臓の音とあったかい腕の中、右手はおれの背中を撫でて、左手は髪を撫でる。
 おれ専用の寝かしつけ方だと思うと、本当に?信用していい?とまた心配する気持ちと、瞳が合うと少し早くなる鼓動が、優しく笑う口許が、たまにきゅうと結ばれる瞬間が、ああ、いいんだ、これで、とすとんと何かが落ち着いてしまう。

「シャル……」
「なあに」
「……なんも、ない」

 何かを言いかけて忘れてしまった。
 いいや。今はシャルルに委ねてしまいたい。
 ふやけてしまいそうな、そんなあたたかいところにどっぷり浸かってしまいたい。
 考えることはいっぱいある筈なんだけど、暫くはこの腕の中で何も余計なことは考えず、全部おれのものにしておきたい。
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