82 / 143
5
82
しおりを挟む
「あんまりリアムに聞かせたい話じゃなさそう……」
リアムをひとりで座らせることに抵抗があるのだろう、怜くんは膝の上にリアムを乗せ、そのふかふかの耳を押さえて俺に呟く。
多分さっきからその呟きは青年にまで聞こえてたんだろう。微笑み方が胡散臭い。
「じゃあそのちっちゃい子、聞こえなくするか眠らせるかしたら?君魔法使いでしょう」
「は~?かわいそうなこと言わないで下さい!」
「オレは別に聞かれても構わないんだよ、そっちが嫌なんでしょう、それともそういう魔法は使えない?オレが掛けてあげようか」
「断る!」
がるがると噛みつきそうなくらい怒ってる怜くんが珍しい。先程までは俺の陰に隠れていたのに。
でも実際、リアムの耳に入れたい話題ではない。
サキュバスなんて存在も知らないだろうけど、その種族ですらリアムは知らずに生きて問題もない筈だ。
それに俺たちはサキュバスがいる時点で、薄らそうだろうな、と顛末に気付いている。その答え合わせをリアムの前ですることに躊躇っているのだ。
こんなとこで、おとなはだいじな話してるからこどもは外で遊んでおいで、なんて訳にもいかない。
「アンタみたいなのにこの子を眠らせられるならシャルルさんにしてもらう」
「ごめん俺普通の寝かしつけくらいしか出来ない、得意だけど」
「ぐう、そんなら自分でやります!」
「なんでそんな悔しそうなの」
「こんなこと普通したくないでしょ!でも絶対リアムには聞かせたくない!」
そう怜くんが拒絶したくなるのもわかる気がする。
青年はやはり俺じゃなくて怜くんを見てるからだ。
その理由はまあなんとなくわかる。
俺は、このシャルルの見た目はこちらの世界の住人のものだ。
けれど、怜くんも青年も、そしてこの場に居ない聖女さまも、お互い見るだけで日本人だ、向こうの世界の住人だと、そうわかるくらい、多分そのままの姿でこっちに来ている。
俺と違って一々認識阻害も掛けない怜くんは、一応フードで隠してはいるけれど、ちらちらと黒髪が見えていた。それは今回も。
だから、俺が怜くんたちに会って日本人だ!と喜んだことがあるように、彼も喜んでいるのかもしれない。俺も日本人だとはこの見た目から気付かずに。
本来なら勇者さまに来た依頼だ、この森の奥の謎の洋館についてのイベントは。
でも彼が待っていたのは俺ではない、怜くんだった。
でも怜くんのこなす筈のイベントにはこんな洋館の話はない。小説外のイベントだ。
物語の完結後のイベント。一応、何が起きても不思議ではない、小説はそこで終わっても、閉じた途端に登場人物が死んだり世界が壊れることはないのだから、作者も知らないところで彼等は生きてるのだ。
だからとはいえ、怜くんからしたら、俺が現れ、青年に洋館へ呼ばれという訳のわからない事態になってしまっている。
そして俺にも関係ない訳ではない、ノエの旧知のサキュバスに出会ってしまった。
つまり俺も怜くんも、よくわからんことに巻き込まれてる。
「それ生きてる?ぬいぐるみみたいに寝ちゃった」
「生きてるに決まってるでしょ、縁起でもないこと言うな!」
「寝かせないで大丈夫?ベッドの準備しようか」
「この状態で離す訳ねーだろ!」
言葉だけだと強気だが、実際の怜くんはくたっとしたリアムを抱え、びくびくおどおどしている。
陰キャを自称するだけあって、陽キャというよりも悪いことをしてそうな色男にびびっちゃってるのだろう。
……俺にはそんな反応しなかったよな?シャルルの顔面も強いと思うのだけれど。
椅子をかたんと動かし、俺の近くまできた怜くんは警戒心マックスだ。
それを見た青年は楽しそうに笑う。怜くんが逃げたくなる気持ちがよくわかる。
「僕たちがここに来た理由もわかってんでしょ」
「うん」
「……街のひとたちに手を出すの止めてくれませんか」
「悪いことはしてないでしょう?」
「してるだろ」
「帰してあげてるじゃない」
洋館を訪れては記憶を失って、でも五体満足で帰る若者、魔力はなくても精力があれば生きていけると言う複数人のサキュバス、そんなのもうすぐ答えはわかるだろう、食われてるのだ、性的に。
……仔熊ちゃんが出てくるようなほんわか物語には到底出せない話ですよ。
「彼女たちに死ねと?」
「そんなことは」
「彼女たちからしたら同じだよ、食事と一緒、止めろなんてオレは言えないな」
「他の街で」
「自分の目の届かないところでならいいんだねえ」
うぐ、と怜くんの口が止まる。そんなことを言いたいのではないことくらいわかるのに、それは揚げ足取りってやつだ。
確かに心配だ、精力を吸い取るような真似は辞めて欲しい、と思う反面、殺される訳でもなし、性的なサービスを無料で受けられると思えば、ひとによってはハッピーな話だ。
忘れてしまうのは残念かもしれないけれど、躰的にはすっきりしたことだろう。
精力を搾り取って殺す、とかではないのなら、まあ悪い話でもないのではないか。
でも若い子を手当り次第というのは戴けない。
そこさえ気を付ければ……というかもう娼館でも経営してろという話だ。
ただの人間にサキュバスだと見破られはしないだろう、良い仕事になるのではないか。
リアムをひとりで座らせることに抵抗があるのだろう、怜くんは膝の上にリアムを乗せ、そのふかふかの耳を押さえて俺に呟く。
多分さっきからその呟きは青年にまで聞こえてたんだろう。微笑み方が胡散臭い。
「じゃあそのちっちゃい子、聞こえなくするか眠らせるかしたら?君魔法使いでしょう」
「は~?かわいそうなこと言わないで下さい!」
「オレは別に聞かれても構わないんだよ、そっちが嫌なんでしょう、それともそういう魔法は使えない?オレが掛けてあげようか」
「断る!」
がるがると噛みつきそうなくらい怒ってる怜くんが珍しい。先程までは俺の陰に隠れていたのに。
でも実際、リアムの耳に入れたい話題ではない。
サキュバスなんて存在も知らないだろうけど、その種族ですらリアムは知らずに生きて問題もない筈だ。
それに俺たちはサキュバスがいる時点で、薄らそうだろうな、と顛末に気付いている。その答え合わせをリアムの前ですることに躊躇っているのだ。
こんなとこで、おとなはだいじな話してるからこどもは外で遊んでおいで、なんて訳にもいかない。
「アンタみたいなのにこの子を眠らせられるならシャルルさんにしてもらう」
「ごめん俺普通の寝かしつけくらいしか出来ない、得意だけど」
「ぐう、そんなら自分でやります!」
「なんでそんな悔しそうなの」
「こんなこと普通したくないでしょ!でも絶対リアムには聞かせたくない!」
そう怜くんが拒絶したくなるのもわかる気がする。
青年はやはり俺じゃなくて怜くんを見てるからだ。
その理由はまあなんとなくわかる。
俺は、このシャルルの見た目はこちらの世界の住人のものだ。
けれど、怜くんも青年も、そしてこの場に居ない聖女さまも、お互い見るだけで日本人だ、向こうの世界の住人だと、そうわかるくらい、多分そのままの姿でこっちに来ている。
俺と違って一々認識阻害も掛けない怜くんは、一応フードで隠してはいるけれど、ちらちらと黒髪が見えていた。それは今回も。
だから、俺が怜くんたちに会って日本人だ!と喜んだことがあるように、彼も喜んでいるのかもしれない。俺も日本人だとはこの見た目から気付かずに。
本来なら勇者さまに来た依頼だ、この森の奥の謎の洋館についてのイベントは。
でも彼が待っていたのは俺ではない、怜くんだった。
でも怜くんのこなす筈のイベントにはこんな洋館の話はない。小説外のイベントだ。
物語の完結後のイベント。一応、何が起きても不思議ではない、小説はそこで終わっても、閉じた途端に登場人物が死んだり世界が壊れることはないのだから、作者も知らないところで彼等は生きてるのだ。
だからとはいえ、怜くんからしたら、俺が現れ、青年に洋館へ呼ばれという訳のわからない事態になってしまっている。
そして俺にも関係ない訳ではない、ノエの旧知のサキュバスに出会ってしまった。
つまり俺も怜くんも、よくわからんことに巻き込まれてる。
「それ生きてる?ぬいぐるみみたいに寝ちゃった」
「生きてるに決まってるでしょ、縁起でもないこと言うな!」
「寝かせないで大丈夫?ベッドの準備しようか」
「この状態で離す訳ねーだろ!」
言葉だけだと強気だが、実際の怜くんはくたっとしたリアムを抱え、びくびくおどおどしている。
陰キャを自称するだけあって、陽キャというよりも悪いことをしてそうな色男にびびっちゃってるのだろう。
……俺にはそんな反応しなかったよな?シャルルの顔面も強いと思うのだけれど。
椅子をかたんと動かし、俺の近くまできた怜くんは警戒心マックスだ。
それを見た青年は楽しそうに笑う。怜くんが逃げたくなる気持ちがよくわかる。
「僕たちがここに来た理由もわかってんでしょ」
「うん」
「……街のひとたちに手を出すの止めてくれませんか」
「悪いことはしてないでしょう?」
「してるだろ」
「帰してあげてるじゃない」
洋館を訪れては記憶を失って、でも五体満足で帰る若者、魔力はなくても精力があれば生きていけると言う複数人のサキュバス、そんなのもうすぐ答えはわかるだろう、食われてるのだ、性的に。
……仔熊ちゃんが出てくるようなほんわか物語には到底出せない話ですよ。
「彼女たちに死ねと?」
「そんなことは」
「彼女たちからしたら同じだよ、食事と一緒、止めろなんてオレは言えないな」
「他の街で」
「自分の目の届かないところでならいいんだねえ」
うぐ、と怜くんの口が止まる。そんなことを言いたいのではないことくらいわかるのに、それは揚げ足取りってやつだ。
確かに心配だ、精力を吸い取るような真似は辞めて欲しい、と思う反面、殺される訳でもなし、性的なサービスを無料で受けられると思えば、ひとによってはハッピーな話だ。
忘れてしまうのは残念かもしれないけれど、躰的にはすっきりしたことだろう。
精力を搾り取って殺す、とかではないのなら、まあ悪い話でもないのではないか。
でも若い子を手当り次第というのは戴けない。
そこさえ気を付ければ……というかもう娼館でも経営してろという話だ。
ただの人間にサキュバスだと見破られはしないだろう、良い仕事になるのではないか。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
229
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる