【完結】最後の勇者と元魔王さまはこの世界を知り得るか

鯖猫ちかこ

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「いい天気過ぎる……!こんな洗濯日和初めて!」
「一々洗濯してたの?」
「……いや魔法使ってましたけど」

 船を降りた先、あまりの違いに驚いた怜くんが、ものの例えですよ、と唇を尖らせた。
 ただ、怜くんもそう言いたくなる程良い天気だ、快晴、夏間近というような。
 馬鹿みたいに変わる気温の変化がゲームのようだと毎度思う。
 暑い、と今にも服を脱いで走って行きそうなリアムを取っ捕まえて、危ないから服を脱がない走らないと約束をさせる。
 獣人だとばれないように認識阻害を掛けていても、怜くんたちのように見破れる転生者だのがどこにいるかわからない。
 聖女さまともうひとり、とそのひとりを探しに来たものの、俺たちの考えが全部あってるかはわからないのだ。
 もしかしたら他の話とも繋がってるかもしれない。まだ絶対、というわけではない。

 取り敢えず、上着は脱いでしまっているが、冬物はそりゃ暑い。
 先に服を見に行こう、と言うと既に薄着の……とはいえやはりまだメイド服ではあるのだが、夏仕様の生地になっているサキュバスたちは、魔力で服を作れないなんて不便ねえ、と以前のノエと同じようなことを呟いた。
 人間と魔族の魔法の使い方は違うのだから仕方ない。

 当然のように手を出すノエのその手を握って、こっちだよ、と道案内をする俺を見て、莉央くんが子守りみたい、と零した。
 ……まあ間違ってない、最初は迷子防止の為にそうしてたのだから。今はただの甘えだけれど。

 着いた先で、怜くん莉央くん、リアム、そしてノエの分も涼しそうなものは買ってなかったな、とそれぞれ購入し、ついでにぞろぞろとメイド服の女性が着いてくる光景は悪目立ちだ、と彼女たちにも着替えさせた。
 割合地味な色合いを選んだつもりだったが、流石美人揃いのサキュバス、それでも目立つ容姿は隠せなかった、がまあ少しはましだろう。

 涼しい服に袖を通したら次は食事。
 新鮮な野菜や魚、肉を使った料理、冷たいデザート。
 雪国にない訳ではないが、進んで食べなかったり、保存食だったりで、調理法も違う。
 おいしいおいしいと口いっぱいに頬張るリアムに、野菜も甘いから食べな、と怜くんが皿に載せる。こっそりソフィに食べさせることが出来ず、でも怜くんの前で食べないという選択肢も選べず、しわしわした表情で野菜を口にするリアムがかわいかった。
 おとなにとって野菜が甘かろうが、こどもからしたら野菜は野菜のようだ。

 ノエもほんの少しだけ上達した手付きでフォークを口に運ぶ。結局テーブルマナーとかちゃんと教えられなかったな。
 俺としてはノエが美味しく食べてくれるのなら、堅苦しい場での食事なんて必要ないのだけれど。
 美味しい?と口の端のソースを拭い、ノエに訊くと、うん、と頷いてフォークを差し出した。
 食い意地の張ったノエから珍しい、と思いながらも口を開くと、まあ、とサキュバスが瞳を丸くした。
 ……魔王さまが誰かにあーん、してるところなんて見る機会はそりゃあなかったでしょうね。
 にまにまされると、俺だってじわじわ恥ずかしくなってきてしまう。
 ……こういうのはふたりの時にしようかとノエに伝えたところ、小首を傾げられてしまった。


 ◇◇◇

 無事に宿も取り、さて聖女さまのところへ。
 お城にいるとわかりきってるのは探す手間も省けて大変助かるのだが、やはり積極的に行きたい場所ではない。
 提案しといてやだやだ行きたくない、と駄々を捏ねる訳にもいかない。だってただ面倒だということだけが理由なのだから。
 気は重いがこれは俺がやらないと行けないこと。気合いを入れて、さあ!という時だった。
 シャルルさん!とかわいらしい、若い女の子の高い声に振り向くと、大きく手を振りながら聖女さまが元気に走ってくる姿を捉えてしまった。
 こんなやんちゃな聖女さまで大丈夫なのだろうか。

「やっぱりシャルルさんたちだったあ!」
「ゆりちゃん」
「目立つひとたちが街を歩いてるって聞いたから、もしかしてって探しちゃった!」

 えへへ、と頬を紅くして、息を切らして嬉しそうに笑う女の子に、ひとりにしてしまった罪悪感がどっと沸いてしまう。
 幾ら強い子だといってもそりゃあ不安がない訳ではないのだ、おとなの俺が不安を拭えないのにまだ十代の女の子が抱え切れる訳もない。

「ノエっちも久しぶり、ドラゴンちゃんも!ちょっと大きくなった?飛べるの?やだかわい……あっ」

 街中で素を見せてしまってることに気付いた聖女さまは、街のひとと俺たちを見て、今更にこりと上品な笑みを浮かべて、どこかでお話しませんこと?なんて取り繕った。
 怜くんはぽかんとし、莉央くんはその変わり身の速さがツボに入ってしまったのか吹き出していた。
 すごいぞゆりちゃん、斜に構えたような男を笑わせてやるなんて。

 わたしの部屋に来ますか、と提案した聖女さまに、お城に行くのはやだなあと思った俺は、女の子の部屋に行くなんて、と遠慮した怜くんに乗っかって、さっき取った宿で話しようよ、と提案で返した。
 人目さえなければそれでいいので、聖女さまは簡単に了承を出したけれど、よく考えなくても普通なら危ない行為だ。
 男だらけだし、一応傍にいる女性はサキュバスだ、聖女さまならそうわかってる筈だろうに。
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