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「でもそしたら暫く凜ちゃんと遊べないのかあ」
「……ヒート終わったら相手してやって」
「またタコパかなんかしようね」
「……ん」
「……文句言わない玲司気持ち悪いな」
「はっ倒すぞ」
相変わらず余計なことを言う口だ。
一応感謝してるっていうのに。
「数週間ならずれることも多いらしいよ」
「いやあ……姉貴も言ってたけどさあ……ストレスだったらどうしようかと思って」
「ストレスねえ……なにか思い当たることが?」
うちに来たばかりのことなら思い当たりしかないんだけど。
でも最近は優しくしてるつもりだし。まさかそれがストレスの原因だとは考えたくない。それが原因なら、俺はどうすりゃいいっていうんだ。
「でもストレスって自分でも気付かないことあるじゃない」
「ええ……?」
「生活環境が変わった訳でしょ、それで凜ちゃんも知らず知らずに溜め込んでるかもしれないし」
「前の環境糞だったみたいだし、うちのが良いと思うんだけどなあ」
「そういうのじゃなくて、玲司に気を遣うとかあるんじゃない、それだってストレスだよ」
「……」
「まあ凜ちゃんだってわかってるかわかんないけどね」
そう言われると心当たりがない訳ではない。
俺にきらわれるのがいちばんいやだと泣いた凜だ、無意識に良い子でいようとしてストレスを溜めてるとか?
俺を優先し過ぎて、例えば食事の好みやエアコンの温度や観たいテレビ番組の違い、掃除の仕方や洗濯物の畳み方、そういうのに少しずつストレスを溜めてるとか?結婚前に同棲しろっていうもんな?それは違うか?
「これ凜に訊いて答えると思う?」
「答えないと思う、ていうか自分でわかってない可能性高くない?」
「だよなあ」
ひとつひとつ確認していくしかないか、そんなストレスが原因なら解決しておきたい。
これは自分が噛みたいからとかそんな欲じゃなくて、単純にこれからの生活の為に、だ。
……全く下心がない訳じゃないけど。
◇◇◇
「すきな食べ物、ですか」
「そう」
「……」
手土産にプリンを買って帰って来た。夕食の買い出しのついでだから、スーパーで買ったものだけど。
その安いプリンをじっと見て、それからおずおずと、これも、この間のケーキも美味しかったです、と言う。
やっぱり甘いものの方がすきらしい。甘党。
「他は?甘いものの他、例えば肉とか魚とか果物とか」
「えっ、え……えと……ううん、何でもおいしい……苦いのはあんまり、ですけど……」
「コーヒー飲めないもんな」
「飲めって言われたら、その」
「頑張らなくていいからな、そんなの」
大してすききらいはないようだ。
空調は?寒かったり暑かったりしないか訊くとそれも大丈夫だと答える。
テレビ番組も、特に絶対観たいというものもないから、玲司さんと一緒に観れたら嬉しい、と言う。かわいい。まあ今は後から観ることも出来るからなあ……
家事にも特に拘りはない、教えて貰った通りにするだけ、とのこと。
気になったことを片っ端から確認するけれど、ストレスの原因はこれかなってのが見当たらない、所詮素人が医者の真似事など出来ないってことだ。
ヒートが遅れてる原因がストレスかもわからないしなあ……
他になにか……
そう考えて、ひとつ思い出した。それをそのまま口に出す。
「こわい夢って、どんな?」
ぴた、と凜の動きが止まって、顔色が悪くなって、俯く。
これじゃんビンゴじゃん確定じゃんか!
凜のそんな反応を見て喜ぶのはおかしいけれど、ストレスが原因かもわからないと思ったばかりだけれど、でもなんだか核心を突いたようで少し嬉しかった。
こわい夢というのは大体追い掛けられる夢だと思う。
他には殺される夢、いじめられる夢、幽霊や化け物が出る夢、そういうのだろうか。
「ひとつ、じゃないんですけど」
「そう、どういう夢?」
「……言わなきゃだめですか?」
「どうしても嫌ならいいけど……でも知っておきたいなって」
「知っておきたい……?」
「凜がどういうことがこわくて、俺のにおいが安心するなんて言い出すのかなって」
別に悪用する気はない、それで脅すとか、そんなことはしない、こどもじゃあるまいし。
幽霊とかがこわいならそれで弄るのはしないようにしようとか、追い掛けられる夢なら良くあることだよなって納得出来るし。それだけだったんだけど。
凜は少し迷うように視線を泳がせて、指先を握ったり離したりしながら、暫くしてようやく口を開いた。
言いたくないなら本当に言わなくていいんだよと言おうとしたタイミングだった。
「……玲司さん、に、きらわれる夢……」
「……へ」
「たまに、見ちゃって、昔から……何だろう、多分、いちばんいやだから見ちゃうんだと思うんですけど……」
自分が凜の夢に出てるとは思いもしなかった。
しかも昔から?
だから凜は俺にきらわれるのがいちばんいやだと何度も言っていたのだろうか。
「こ、こどもみたいですよね、でも、ぼく、ずっと玲司さんのこと、考えてたから、だから、その、ほんとにきらわれちゃったらって……」
……それは下らなくて、でも確かにいちばんこわいことかもしれない。
「……ヒート終わったら相手してやって」
「またタコパかなんかしようね」
「……ん」
「……文句言わない玲司気持ち悪いな」
「はっ倒すぞ」
相変わらず余計なことを言う口だ。
一応感謝してるっていうのに。
「数週間ならずれることも多いらしいよ」
「いやあ……姉貴も言ってたけどさあ……ストレスだったらどうしようかと思って」
「ストレスねえ……なにか思い当たることが?」
うちに来たばかりのことなら思い当たりしかないんだけど。
でも最近は優しくしてるつもりだし。まさかそれがストレスの原因だとは考えたくない。それが原因なら、俺はどうすりゃいいっていうんだ。
「でもストレスって自分でも気付かないことあるじゃない」
「ええ……?」
「生活環境が変わった訳でしょ、それで凜ちゃんも知らず知らずに溜め込んでるかもしれないし」
「前の環境糞だったみたいだし、うちのが良いと思うんだけどなあ」
「そういうのじゃなくて、玲司に気を遣うとかあるんじゃない、それだってストレスだよ」
「……」
「まあ凜ちゃんだってわかってるかわかんないけどね」
そう言われると心当たりがない訳ではない。
俺にきらわれるのがいちばんいやだと泣いた凜だ、無意識に良い子でいようとしてストレスを溜めてるとか?
俺を優先し過ぎて、例えば食事の好みやエアコンの温度や観たいテレビ番組の違い、掃除の仕方や洗濯物の畳み方、そういうのに少しずつストレスを溜めてるとか?結婚前に同棲しろっていうもんな?それは違うか?
「これ凜に訊いて答えると思う?」
「答えないと思う、ていうか自分でわかってない可能性高くない?」
「だよなあ」
ひとつひとつ確認していくしかないか、そんなストレスが原因なら解決しておきたい。
これは自分が噛みたいからとかそんな欲じゃなくて、単純にこれからの生活の為に、だ。
……全く下心がない訳じゃないけど。
◇◇◇
「すきな食べ物、ですか」
「そう」
「……」
手土産にプリンを買って帰って来た。夕食の買い出しのついでだから、スーパーで買ったものだけど。
その安いプリンをじっと見て、それからおずおずと、これも、この間のケーキも美味しかったです、と言う。
やっぱり甘いものの方がすきらしい。甘党。
「他は?甘いものの他、例えば肉とか魚とか果物とか」
「えっ、え……えと……ううん、何でもおいしい……苦いのはあんまり、ですけど……」
「コーヒー飲めないもんな」
「飲めって言われたら、その」
「頑張らなくていいからな、そんなの」
大してすききらいはないようだ。
空調は?寒かったり暑かったりしないか訊くとそれも大丈夫だと答える。
テレビ番組も、特に絶対観たいというものもないから、玲司さんと一緒に観れたら嬉しい、と言う。かわいい。まあ今は後から観ることも出来るからなあ……
家事にも特に拘りはない、教えて貰った通りにするだけ、とのこと。
気になったことを片っ端から確認するけれど、ストレスの原因はこれかなってのが見当たらない、所詮素人が医者の真似事など出来ないってことだ。
ヒートが遅れてる原因がストレスかもわからないしなあ……
他になにか……
そう考えて、ひとつ思い出した。それをそのまま口に出す。
「こわい夢って、どんな?」
ぴた、と凜の動きが止まって、顔色が悪くなって、俯く。
これじゃんビンゴじゃん確定じゃんか!
凜のそんな反応を見て喜ぶのはおかしいけれど、ストレスが原因かもわからないと思ったばかりだけれど、でもなんだか核心を突いたようで少し嬉しかった。
こわい夢というのは大体追い掛けられる夢だと思う。
他には殺される夢、いじめられる夢、幽霊や化け物が出る夢、そういうのだろうか。
「ひとつ、じゃないんですけど」
「そう、どういう夢?」
「……言わなきゃだめですか?」
「どうしても嫌ならいいけど……でも知っておきたいなって」
「知っておきたい……?」
「凜がどういうことがこわくて、俺のにおいが安心するなんて言い出すのかなって」
別に悪用する気はない、それで脅すとか、そんなことはしない、こどもじゃあるまいし。
幽霊とかがこわいならそれで弄るのはしないようにしようとか、追い掛けられる夢なら良くあることだよなって納得出来るし。それだけだったんだけど。
凜は少し迷うように視線を泳がせて、指先を握ったり離したりしながら、暫くしてようやく口を開いた。
言いたくないなら本当に言わなくていいんだよと言おうとしたタイミングだった。
「……玲司さん、に、きらわれる夢……」
「……へ」
「たまに、見ちゃって、昔から……何だろう、多分、いちばんいやだから見ちゃうんだと思うんですけど……」
自分が凜の夢に出てるとは思いもしなかった。
しかも昔から?
だから凜は俺にきらわれるのがいちばんいやだと何度も言っていたのだろうか。
「こ、こどもみたいですよね、でも、ぼく、ずっと玲司さんのこと、考えてたから、だから、その、ほんとにきらわれちゃったらって……」
……それは下らなくて、でも確かにいちばんこわいことかもしれない。
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