上 下
1 / 90
1.ダンジョン・マンションのチラシ 

1

しおりを挟む
「わたしの名前は……。えーと、その、あの……」
 わたしがしどろもどろになっていると、銀髪の青年は首をかしげた。
「エート・ソノ・アノ……、というのか?」
 ……もう、これっきゃない!
 わたしは覚悟を決めた。
「はい、そうです! エートとお呼びください!」
 話はしばし、さかのぼる。

***

 大通りでは、馬車が行きかい、市場は人でにぎわっている。
 そんな中、偶然入った路地裏の、アヤシゲな情報がいっぱいはってある掲示板。
 そこでわたしは、働ける場所、もしくは泊まれる場所がないか、チラシを読み上げながら必死に探していた。
「新薬を試してくれる人 募集中 
※ただし、身体・精神に対するいっさいの保証はしません」
 体にも心にも何か影響があるかもしれないってこと?
 ど、どんな薬を飲まされるんだろう……。
 ダメだ。
「バー 『ブラッディー・メアリー』スタッフ募集中 
※ただし、店長の好みに合うナイスバディな美女に限る 十五歳以上」
 わたしは自分の容姿を思い返す。
 赤毛のショートヘアに、パッチリとした桃色の瞳。左目の下には泣きぼくろ。すらりとした体。
 でも、美女ではないなぁ……。どっちかっていうと、かわいい系少女? なーんてね。
 あ、年齢が十五歳以上からかぁ。わたしは十三だから、ふたつ足りなかったね。
 それにこれ、接客だから、いろんな人と会わなきゃじゃん。
 うーん、たくさんの人に会うのはちょっと……。
 これも、ダメだ。
「マーメイドのウロコ 高く買い取ります」
「防御力そのまま、軽量化成功! 最新の鎧 破格のお値段で売ります! 冒険のおともに!」
「冒険者募集 ※レベル十五以上の戦士に限る」
 エトセトラ、エトセトラ……。
 ああ、ダメダメ。なんでこんなにいっぱいチラシがあるのに、わたしの条件に合うものがないの?
 別の掲示板探した方がいいかなぁ……。と、思っていた時だった。
「ダンジョン・マンション 住み込み管理人募集中 面接アリ」
 おおお⁉
「これだーっ!」
 わたしは思わずさけんだ。だって、住み込みってことは、泊まる場所に不自由しないってことじゃない! 
 詳しいことはあんまり書いてないけど、面接の時に話すのかな? 
 でも、面接なんて、よっぽど変なことしなきゃ落とされないよね。
 もう、わたしに決まったも同然じゃない!
 はっ、でも、わたしより先にだれか行ってるかも。
 こうしちゃいられない、早くマンションに向かわねば!
 こうして、わたしはチラシをはぎとり、書いてある住所目がけて猛ダッシュしたのだった。
 チラシに小さく、「※ただし、命の保証はしません」と書いてあったことに気づかずに……。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

後の祭りの後で

SF
BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:5

【完結】庶子だけれども、愛されてます!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:36

旦那様は妻の私より幼馴染の方が大切なようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:58,907pt お気に入り:5,440

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:116,249pt お気に入り:2,773

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...