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8. メロウの帽子

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 事件は、地下三階で起きた。
 事件現場を見ていたマーメイドの証言によると、冒険者は三十代くらいの男性。ひとりでダンジョンに来ていたということだった。
 事件当時、キヨコがその冒険者の相手をしていた。だが、かなりの強さで、キヨコは攻撃を防ぎきれなくなってきたそうだ。だから、負けてしまう前に水の中に逃げようとしたところ……。
 なんと、その冒険者は持っていた釣竿を振り、釣り針をうまくキヨコの帽子にひっかけたのだ。
 そのまま、釣竿は引かれ、針にひっかかったキヨコの帽子は冒険者に取られた。
 そして、水に帰れなくなったキヨコは岸に上がり、その冒険者にしたがうことを誓ったという。
 その際、冒険者は「このコズール様にしたがえ!」と言っていたとのこと。
 ぐぬぬ、コズールめ、許せん!
 今は、管理人たちがそれぞれ地下二階の火のエリア、地下一階の風のエリアに散って、捜索をしているところだ。
 階段で待ち構えるって手もあったんだけど……。それだと、他の利用者たちに何事かと思われるし、このダンジョンの信用にかかわるからダメなんだって。
 ホラ、階段でまちぶせされて、管理人に荷物取られたーってウワサが立つとまずいから。
 ううう、はがゆい。
 だから、わたしとヴァンは、風のエリアで当てもなくコズールを探していた。
「シルフたち、わたしたち、コズールって男につれられている、メロウのキヨコを探しているの。何か知らない?」
「えー、分かんないよー」
「しーらないっ!」
 シルフたちに聞いても、まったく成果なし。それどころか……。
「それよりも、エート、遊ぼう!」
「そうそう、踊ろうよ」
「メロウのことなんて、放っておいてさー」
 小さい体に蝶の羽をぱたつかせて、ふわふわと踊りだした。
 さっきから、この有様だよ。モンスターたちって、結構ドライなんだよね。
 自分以外のモンスターは、どうでもいいというか……。
 キヨコが連れ去られるのを見たマーメイドも、「あれがキヨコの運命なら、しかたないわよねー」って感じだったし!
 もう! 一緒におしゃべりしたり、食事したりしてる仲なのに、なんでこうなるかな!
「キヨコみたいなのがめずらしいのよー。あの子、フレンドリーすぎるもの」
 みたいに言ってさ!
 モンスターと人間の常識の違いを改めて知ったよ……。
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