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13.ヴァンの「条件付け」練習
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ヴァンの暴走事件の次の日。
わたしとヴァン、そしてマオはダンジョンの地下五階。土のエリアにいた。
「ヴァンパイアの本性をコントロールしたい。やり方、教えろ。あと、練習の監督もしてくれ」
そう、ヴァンがマオに頼んだからだ。
なんていうか、頼むにしては上から目線だよね。
でも、マオは、「おまえからの頼み事は、めずらしいな……」と、ちょっとうれしそうな顔になって、「いいぞ」とこころよく承諾してくれた。
マンションで魔王化してコントロールの練習をすると、ものを壊すといけない。
ってことで、このダンジョンまでやってきたのだ。
「さて、ヴァン。ヴァンパイアの本性をコントロールしたいと言っていたが……。具体的には、どうなりたいんだ?」
「血を飲んで、魔王化しても正気をたもっていたい」
「ふむ。だれの血を飲むんだ」
「そりゃ、エートのだろ。召喚の契約もしたし、いざって時におれが魔王化できた方がいい」
「ほう。つまり、戦闘時の魔王化だな」
マオはあごに手をあて、ちょっとの間考えこみ……、口を開いた。
「ひざまずいてエートの手の甲に、口づけるというのはどうだろう?」
「は?」
わたしとヴァンの声が重なった。
マオってば、何言ってるの?
今って、魔王化をどうコントロールするかっていう話だったよね?
なぜに、令嬢への正式な挨拶みたいな話になってんの?
想像するだけで、かーっと顔が熱くなる。
ヴァンひざまずき、優しくわたしの手をとって、甲にキス。
まるで、王子様みたいじゃん!
ちら、とヴァンを見ると、眉の間にシワをよせて、困惑ともあきれともとれる表情をしていた。
「あいかわらず、おまえ、大事なところの話がぶっとんでんだよ。なんでそんな考えにいたったのか、説明しろ」
うん、ごもっとも。ヴァンの言う通りだね。
「つまりだな、おまえがエートの血を飲むことを、儀式化するんだ」
「……まだわかんねーな」
ヴァンがわたしの方をふりむいたので、わたしも肩をすくめて「わからない」と同意してみせる。
「マオ、いきなり儀式なんていわれても……。ちゃんとした理由があるんだよね」
「ああ。理性をたもちつつ、ヴァン自身の意思で魔王化したいんだろう? そういうのは、魔王化する時に、本能にある種の条件をすりこませるのが一番なんだ。いわゆる条件付けだな」
「うーん……」
聞いてみたはいいものの、まだよくわかんない……。
ヴァンも、そんな顔をしている。
マオはそんなわたしたちを見て、「どういったものか……」とつぶやいた。
「ヴァン、おまえがおれの血を『食事』として飲むときは、必ず正面から抱きついてきて、おれの首筋に牙を立てるだろう?」
「うえっ⁉」
「……!」
ヴァンがすごい声を出し、わたしは驚きで固まった。
なんか、ものすごいことを聞いたような気がする。
マオはいつもの通りに表情が変わらないが、ヴァンの顔がかあああっと赤くなっていく。
「な、なんで今そんな話をエートの前でわざわざ言って……! エート、別におれ、好きでマオに抱きついてんじゃないからな! ただ、ガキのころからそうしてたっていうか、赤ん坊のころからそうやってマオの血を飲んでたから、それがそのまま……」
めちゃくちゃ早口でまくしたてるヴァン。なんだか、貴重だ。
「そうそう、赤ん坊のおまえは、抱っこしてやると必ずおれの首筋を噛んでな。ちゅうちゅうと血を飲むのがとても愛らしかったぞ」
「マオーッ! 余計なこと言うな!」
えー、想像するとかわいいな。
赤ん坊のヴァンや、ちっこいヴァンが一生懸命血を吸ってる姿。
でも、やっぱり昔のマオの姿は想像できないな……。
うーん、というか、マオは今いくつなんだろう? ホントにナゾだよね。
「今は! そんな話! 関係ないだろーが!」
ヴァンはマオの服をひっぱってぎゃーぎゃーと抗議し、マオはそれを温かい目で見守っている。
マオがヴァンを育てたって聞いた後だからかな。なんだか反抗期の息子と、おっとりとしたお父さんって感じで心がほっこりする。
「いや、関係あるぞ。今のが、おまえの『食事の条件付け』だ。いつもそうしてきたし、それで魔王化しても、理性をたもってただろう?」
ヴァンがはっとしたような顔になる。
「だから、今やるべきことは『戦闘の条件付け』なんだ。『エートの手に口づけて、その血を飲む』ということを、『理性をもって魔王化し、戦闘する』という『条件』ということにする。それを、おまえの本能にすりこませれば、うまくいくと思うぞ」
話を聞いているうちに、わたしもなんとなくわかった気がする。
要は、決められた動作をすることで、「今からこれをやるんだぞー」ってスイッチを入れるってことでしょ? ルーティンっていうんだっけ。
こうすると、集中力があがって、うまくいきやすいって話、どこかで聞いたことあるもん。
「……わかった。よっしゃ、エート。さっそくやってみるぞ」
「あ、うん!」
……うん? 元気よく返事をしたのはいいものの。
今からヴァンに手の甲にちゅーされるんだよね。
うわー、ど、どうなっちゃうんだろう⁉
わたしとヴァン、そしてマオはダンジョンの地下五階。土のエリアにいた。
「ヴァンパイアの本性をコントロールしたい。やり方、教えろ。あと、練習の監督もしてくれ」
そう、ヴァンがマオに頼んだからだ。
なんていうか、頼むにしては上から目線だよね。
でも、マオは、「おまえからの頼み事は、めずらしいな……」と、ちょっとうれしそうな顔になって、「いいぞ」とこころよく承諾してくれた。
マンションで魔王化してコントロールの練習をすると、ものを壊すといけない。
ってことで、このダンジョンまでやってきたのだ。
「さて、ヴァン。ヴァンパイアの本性をコントロールしたいと言っていたが……。具体的には、どうなりたいんだ?」
「血を飲んで、魔王化しても正気をたもっていたい」
「ふむ。だれの血を飲むんだ」
「そりゃ、エートのだろ。召喚の契約もしたし、いざって時におれが魔王化できた方がいい」
「ほう。つまり、戦闘時の魔王化だな」
マオはあごに手をあて、ちょっとの間考えこみ……、口を開いた。
「ひざまずいてエートの手の甲に、口づけるというのはどうだろう?」
「は?」
わたしとヴァンの声が重なった。
マオってば、何言ってるの?
今って、魔王化をどうコントロールするかっていう話だったよね?
なぜに、令嬢への正式な挨拶みたいな話になってんの?
想像するだけで、かーっと顔が熱くなる。
ヴァンひざまずき、優しくわたしの手をとって、甲にキス。
まるで、王子様みたいじゃん!
ちら、とヴァンを見ると、眉の間にシワをよせて、困惑ともあきれともとれる表情をしていた。
「あいかわらず、おまえ、大事なところの話がぶっとんでんだよ。なんでそんな考えにいたったのか、説明しろ」
うん、ごもっとも。ヴァンの言う通りだね。
「つまりだな、おまえがエートの血を飲むことを、儀式化するんだ」
「……まだわかんねーな」
ヴァンがわたしの方をふりむいたので、わたしも肩をすくめて「わからない」と同意してみせる。
「マオ、いきなり儀式なんていわれても……。ちゃんとした理由があるんだよね」
「ああ。理性をたもちつつ、ヴァン自身の意思で魔王化したいんだろう? そういうのは、魔王化する時に、本能にある種の条件をすりこませるのが一番なんだ。いわゆる条件付けだな」
「うーん……」
聞いてみたはいいものの、まだよくわかんない……。
ヴァンも、そんな顔をしている。
マオはそんなわたしたちを見て、「どういったものか……」とつぶやいた。
「ヴァン、おまえがおれの血を『食事』として飲むときは、必ず正面から抱きついてきて、おれの首筋に牙を立てるだろう?」
「うえっ⁉」
「……!」
ヴァンがすごい声を出し、わたしは驚きで固まった。
なんか、ものすごいことを聞いたような気がする。
マオはいつもの通りに表情が変わらないが、ヴァンの顔がかあああっと赤くなっていく。
「な、なんで今そんな話をエートの前でわざわざ言って……! エート、別におれ、好きでマオに抱きついてんじゃないからな! ただ、ガキのころからそうしてたっていうか、赤ん坊のころからそうやってマオの血を飲んでたから、それがそのまま……」
めちゃくちゃ早口でまくしたてるヴァン。なんだか、貴重だ。
「そうそう、赤ん坊のおまえは、抱っこしてやると必ずおれの首筋を噛んでな。ちゅうちゅうと血を飲むのがとても愛らしかったぞ」
「マオーッ! 余計なこと言うな!」
えー、想像するとかわいいな。
赤ん坊のヴァンや、ちっこいヴァンが一生懸命血を吸ってる姿。
でも、やっぱり昔のマオの姿は想像できないな……。
うーん、というか、マオは今いくつなんだろう? ホントにナゾだよね。
「今は! そんな話! 関係ないだろーが!」
ヴァンはマオの服をひっぱってぎゃーぎゃーと抗議し、マオはそれを温かい目で見守っている。
マオがヴァンを育てたって聞いた後だからかな。なんだか反抗期の息子と、おっとりとしたお父さんって感じで心がほっこりする。
「いや、関係あるぞ。今のが、おまえの『食事の条件付け』だ。いつもそうしてきたし、それで魔王化しても、理性をたもってただろう?」
ヴァンがはっとしたような顔になる。
「だから、今やるべきことは『戦闘の条件付け』なんだ。『エートの手に口づけて、その血を飲む』ということを、『理性をもって魔王化し、戦闘する』という『条件』ということにする。それを、おまえの本能にすりこませれば、うまくいくと思うぞ」
話を聞いているうちに、わたしもなんとなくわかった気がする。
要は、決められた動作をすることで、「今からこれをやるんだぞー」ってスイッチを入れるってことでしょ? ルーティンっていうんだっけ。
こうすると、集中力があがって、うまくいきやすいって話、どこかで聞いたことあるもん。
「……わかった。よっしゃ、エート。さっそくやってみるぞ」
「あ、うん!」
……うん? 元気よく返事をしたのはいいものの。
今からヴァンに手の甲にちゅーされるんだよね。
うわー、ど、どうなっちゃうんだろう⁉
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