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経緯 1

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匂宮の浮舟から蓮花へとスライドした執着は想像以上だった。
なんとか理由をつけて蓮花と近付きになろうとした匂宮だが、母である中宮はじめ妹の女一の宮、妻である中君、さらには(夫なのだから当然だが)親友であるはずの薫までが邪魔をして(そもそも織羽の感覚からすれば人妻に言い寄るのは犯罪なのだが気にするようなタチでもないので)一切近寄れず、欲求不満をため込んだ匂宮はあたり構わず周囲の女房たちを漁った。

蓮花が若くして亡くなると、その素行はさらに悪くなっていった。

元々皇子の中では気さくに振る舞う人物ではあったが周囲への気遣いを忘れ、当たり散らすことが多くなり、潮が引くように周囲に侍っていた人間が減っていった。
公務も面倒くさがってサボることが多くなり、担った役目もまともに全うしなくなっていった。
次の東宮として立たせるつもりだった中宮や兄である現東宮が注意するも返事ばかりで一向に態度を改める様子がない。
愛妻である中君が注意しても同じだった。

匂宮は宮中での支持をなくし孤立していった。
そんな中、帝が病に倒れ急遽の譲位がなされ、東宮が即位したが新たな東宮を擁立する会議は紛糾した。
今までほぼ確定とされていた匂宮が最近の振る舞いから「次代の東宮には相応しくない」との声が多く上がったからだ。

帝には多くの子があったが、ここ数年で頭角を表していたのは薫だった。

皇子ではないが父親が準太上天皇であった光源氏、母親はの女三の宮、(本当は母方だけだが)血筋は皇室であり、光源氏が臣籍降下さえしなければ皇子として育っていたはず。
そこへ冷泉院(光源氏と藤壺の宮の不義の子で幼くして帝位に就いたが、若くして譲位し隠棲している。実の父は光源氏だと察しているので薫を弟と認識している)が「実は自分が幼くして帝位につかなければいけなくなった時、源氏の君に皇子に戻って帝位に就いてくださらないかと打診したのだが『構えてお受けしませぬ』と強くはねつけられた。薫も父君に似て野心がないのだな。優秀でありながら万事控えめで……」などと酒の席でうっかりわざと呟いたものだから情勢は一気に薫に傾いた。

本来なら匂宮の後ろ盾でありそれを見越して自分の娘と結婚させたはずの夕霧も、薫が出生の秘密に勘づいた際に酒を酌み交わしたことでより弟としても亡き親友(薫の実父・柏木)の忘れ形見としても改めて薫を愛おしく思っていたのと、ふらふらと腰が据わらず自分の姫の中でも一番の自慢の娘である六の君(匂宮の正室)の元へ訪れの少ない匂宮の態度に内心で思うところもあり、強く反対することもなく。
また匂宮の母である中宮も側仕えの女房の一人二人を愛人にするくらいならともかく、姫宮たちの周りまでうろうろするのは問題で、特に最近の素行は感心できるものではない。
引き替え我が弟ながら薫の立ち回りが見事すぎて庇いきれず、異例の事ではあったが歴史上例がないことでもなく薫が皇籍に戻り、東宮となってしまった。

薫は最初こそ固辞していたが「匂宮に対抗する地位はあった方が良い」という浮舟や中君の助言もあり、「確かに蓮花様の忘れ形見を守るのに高い身分は都合が良いかも知れぬ……」と不承不承ながら受け入れた。

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