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プロローグ
しおりを挟む私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
私は幼い頃から本ばかり相手にしている頭でっかちの子供だったけれど、お母様はそんな私を否定することのない優しい人だったので、特に不遇な子供ではなかった。二歳下の弟が産まれて、皆がそちらにかかりきりのことが増えても、お母様は優しかった。
だが、私が六歳の時に母が病気で儚くなった。
母が病気で亡くなると、父は仕事一辺倒になった。
そして立派な跡取りを育てることに注力した。
私には、
「早く一人前になって嫁に行け。いつまでも家にいたら恥晒しになるからな」
そう言って、私に色々な習い事を課し、まともな会話はなくなった。
夕食時に、
「調子はどうだ」
と進捗を聞いてくるだけの定型文に、
「問題ありません」
とだけ返す。
家庭教師の方がまだ交すワード数が多いだろう、私はこの家が嫌いになった。
早く出たくてたまらなかった。
けれど七歳から通い始めた学園は母親がおらずいつも本を抱えた子供に優しい場所ではなかった。
私は学園も嫌いだった。
けれど家にいるのはもっと嫌だった。
父は良くも悪くも貴族らしく、外聞の悪い子供を許さなかった。
学園では、人目につかない草むらに潜って良く泣いた。
八歳の頃、
「どうして泣いてるの?」
と声を掛けてきた男の子がいた。
綺麗な金髪に青い瞳の男の子だった。
私も瞳は青だけど、髪は赤い。
体の大きさからかなり上の学年なのだろう、学園には七歳~十八歳の子が通う。
この人はもう大人なのだから私を揶揄ったりしないだろう、私は泣きながら諸々ぶちまけた。
「そうか……それは辛いね、良かったら今後もここに泣きに来るといい。色々ぶちまける相手がいた方がストレス解消になるだろう?僕はエドワード、エディでいい。君の名前は?」
そう言って優しく微笑むその人に恋をした。
私、アルスリーア・エルドアの初恋だった。
学年があがって九歳になっても、十歳になってもこの逢瀬ともいえない逢瀬は続いた。
私はもう泣かなくなってたけど、彼と会うのが楽しかった。
優しい彼の声が大好きだった。
彼が微笑んで聞いてくれるのが嬉しくて、沢山話をしたし、わからない所はいつも教えてもらった。
「リーアは優秀だね、わからない所もすぐ克服するし。縁談とかも来てるんじゃないの?」
「まさか!__でも、そうねお父様なら、知らないうちに利益のある相手と纏めてしまうかもしれないわ」
私がそう呟くと、
「そうなの?__じゃあ、僕と婚約しとけば良いんじゃない?」
「え?」
エドワードの家は侯爵家だ。
それも、王都でも名の通った名家である。
私も最初家名を聞いた時は驚いた。
エドワード・フェンティ___代々騎士団長や宰相を輩出してきた名門フェンティ侯爵家。彼はそのフェンティ侯爵家の三男だったのだ。
「僕と婚約していれば、勝手に婚約を進められることもないだろう?リーアを守りたいんだ」
「ほ ほんとに?」
「うん、そうすれば僕が卒業してもリーアと会う口実が出来るし」
エドワード様は十六歳、二年後には卒業してしまうのだ。
私は嬉しいけれど、そういえばなんでエドワード様には婚約者がいないのだろう、こんなに素敵な人なのに。
「リーアが泣かなくて済むように、僕が守るよ」
そう言ってくれたのに。
正式に婚約して二年後、彼は卒業と同時に戦争に旅立っていった。
私にひと言も言わずに。
「ごめん、君のデビューには必ず迎えに行くから」
と走り書きのような手紙一通だけを残して、エドワードはいなくなった。
エドワードと私の婚姻届が受理されていると私が知ったのは、彼が戦地に立って一週間以上経ってからのことだった。
___十二歳の私は、書類上だけエドワード・フェンティの妻となった。
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