2 / 73
1
しおりを挟む
それから四年後、私は十六になった。
最初の一年は戦地から
“何も言わずにごめん、帰ったらちゃんと話そう“
“大きな怪我はない、君も息災であることを願う"
とかひと言だけのメッセージは来ていた。
文字数や書けないことも多いのだろう、基本、戦地からの情報は少ない。
居場所を転々とするから返事も出来ない。
年を追うごとに数は減っても無事だという知らせは来ていた。
そして、私のデビューは明日に迫っていた。
「エドワード殿から、何か連絡は来たか」
「……何も」
「そうか」
父は何の感情も乗せずに言う。
わかっている、来ているのはまだ生きているという〝知らせ〟だけ__それ以外には何もない。
私が今年デビューだということも、忘れているのかもしれない。
それでも、信じていたかった。縋っていたかった。
守ると言ってくれた言葉を、幼い頃からの想いを否定したくなかった。
けれど、デビュー当日も、それから一週間経っても、彼からの連絡はなかった。
エドワード本人からはもちろん、彼の実家である侯爵家からも。
夫が戦地にいる以上、父にエスコートされて出るのに問題はなかったがそんな気にはなれなかった。
やっぱり、私は捨て置かれたのだ。
父も書類上は侯爵家の息子の妻とはいえあちらが私や実家に何かしら援助をしているわけでもなくこれではただの穀潰しだ。
「ここで惨めに待ってても、仕方ないわよね……」
やけになって勉強をサボらなくて良かった。
本来ならデビューしたはずの日から一週間後の翌日、
「お父様、お願いがあります」
私は除籍を願い出た。
父は一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに真顔になって、
「フェンティ殿のことはどうするのだ、形だけとはいえお前は、」
「形にすらなっていませんわ。書類上そうなっているだけ。あの方もあちらの家も私の存在など忘れているでしょうし婚姻時も私の承諾やサインなど求めなかったのですから離婚だって同じようになさるでしょうし何らお父様が気になさることはありません。十六年間、育ててくださってありがとうございました。そうそう、除籍していただくにあたってひとつだけお願いがありますの」
「何だ」
「紹介状を一筆、お願いできますでしょうか?」
こうして私は貴族籍を抜け、少しだけ旅をした後ある地方領主の子息の住み込み家庭教師として落ち着いた。
領主夫婦はとても感じの良い人達で私の生徒でもあるご子息ジェイミーも両親の愛情を一身に受けているせいかとても良い子で教え甲斐があり、良く懐いてくれていた。
ジェイミーは私がここに来た当時九歳、今は十二歳である。
そんな中、ついに「戦争がこちらの勝利にて集結し、全軍が帰還する」
という話が流れてきた。
王都から離れた地方に流れてくるまで多少のラグは生じるだろうから、王都ではもう帰還しているのかもしれない。
「まぁ、今の私には関係ないけれど……」
あれから元実家とも、“元嫁ぎ先”と言ったら語弊があるが___フェンティ侯爵家とも一切連絡は取っていない私は、そう信じて疑わなかった。
最初の一年は戦地から
“何も言わずにごめん、帰ったらちゃんと話そう“
“大きな怪我はない、君も息災であることを願う"
とかひと言だけのメッセージは来ていた。
文字数や書けないことも多いのだろう、基本、戦地からの情報は少ない。
居場所を転々とするから返事も出来ない。
年を追うごとに数は減っても無事だという知らせは来ていた。
そして、私のデビューは明日に迫っていた。
「エドワード殿から、何か連絡は来たか」
「……何も」
「そうか」
父は何の感情も乗せずに言う。
わかっている、来ているのはまだ生きているという〝知らせ〟だけ__それ以外には何もない。
私が今年デビューだということも、忘れているのかもしれない。
それでも、信じていたかった。縋っていたかった。
守ると言ってくれた言葉を、幼い頃からの想いを否定したくなかった。
けれど、デビュー当日も、それから一週間経っても、彼からの連絡はなかった。
エドワード本人からはもちろん、彼の実家である侯爵家からも。
夫が戦地にいる以上、父にエスコートされて出るのに問題はなかったがそんな気にはなれなかった。
やっぱり、私は捨て置かれたのだ。
父も書類上は侯爵家の息子の妻とはいえあちらが私や実家に何かしら援助をしているわけでもなくこれではただの穀潰しだ。
「ここで惨めに待ってても、仕方ないわよね……」
やけになって勉強をサボらなくて良かった。
本来ならデビューしたはずの日から一週間後の翌日、
「お父様、お願いがあります」
私は除籍を願い出た。
父は一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに真顔になって、
「フェンティ殿のことはどうするのだ、形だけとはいえお前は、」
「形にすらなっていませんわ。書類上そうなっているだけ。あの方もあちらの家も私の存在など忘れているでしょうし婚姻時も私の承諾やサインなど求めなかったのですから離婚だって同じようになさるでしょうし何らお父様が気になさることはありません。十六年間、育ててくださってありがとうございました。そうそう、除籍していただくにあたってひとつだけお願いがありますの」
「何だ」
「紹介状を一筆、お願いできますでしょうか?」
こうして私は貴族籍を抜け、少しだけ旅をした後ある地方領主の子息の住み込み家庭教師として落ち着いた。
領主夫婦はとても感じの良い人達で私の生徒でもあるご子息ジェイミーも両親の愛情を一身に受けているせいかとても良い子で教え甲斐があり、良く懐いてくれていた。
ジェイミーは私がここに来た当時九歳、今は十二歳である。
そんな中、ついに「戦争がこちらの勝利にて集結し、全軍が帰還する」
という話が流れてきた。
王都から離れた地方に流れてくるまで多少のラグは生じるだろうから、王都ではもう帰還しているのかもしれない。
「まぁ、今の私には関係ないけれど……」
あれから元実家とも、“元嫁ぎ先”と言ったら語弊があるが___フェンティ侯爵家とも一切連絡は取っていない私は、そう信じて疑わなかった。
1,554
あなたにおすすめの小説
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)
なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい
木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」
私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。
アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。
これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。
だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。
もういい加減、妹から離れたい。
そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。
だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。
幼馴染を溺愛する彼へ ~婚約破棄はご自由に~
佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アイラは、婚約者であるオリバー王子との穏やかな日々を送っていた。
ある日、突然オリバーが泣き崩れ、彼の幼馴染である男爵令嬢ローズが余命一年であることを告げる。
オリバーは涙ながらに、ローズに最後まで寄り添いたいと懇願し、婚約破棄とアイラが公爵家当主の父に譲り受けた別荘を譲ってくれないかと頼まれた。公爵家の父の想いを引き継いだ大切なものなのに。
「アイラは幸せだからいいだろ? ローズが可哀想だから譲ってほしい」
別荘はローズが気に入ったのが理由で、二人で住むつもりらしい。
身勝手な要求にアイラは呆れる。
※物語が進むにつれて、少しだけ不思議な力や魔法ファンタジーが顔をのぞかせるかもしれません。
妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます
佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。
しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。
ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。
セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。
病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します
佐藤 美奈
恋愛
セフィーナ・グラディウスという貴族の娘が、婚約者であるアルディン・オルステリア伯爵令息との関係に苦悩し、彼の優しさが他の女性に向けられることに心を痛める。
セフィーナは、アルディンが幼馴染のリーシャ・ランスロット男爵令嬢に特別な優しさを注ぐ姿を見て、自らの立場に苦しみながらも、理想的な婚約者を演じ続ける日々を送っていた。
婚約して十年間、心の中で自分を演じ続けてきたが、それももう耐えられなくなっていた。
「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。
佐藤 美奈
恋愛
「アリス姉さん助けてくれ!女友達と旅行に行っただけなのに婚約しているフローラに別れると言われたんだ!」
弟のハリーが泣きながら訪問して来た。姉のアリス王妃は突然来たハリーに驚きながら、夫の若き国王マイケルと話を聞いた。
結婚して平和な生活を送っていた新婚夫婦にハリーは涙を流して理由を話した。ハリーは侯爵家の長男で伯爵家のフローラ令嬢と婚約をしている。
それなのに婚約破棄して別れるとはどういう事なのか?詳しく話を聞いてみると、ハリーの返答に姉夫婦は呆れてしまった。
非常に頭の悪い弟が常識的な姉夫婦に相談して婚約者の彼女と話し合うが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる