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これより洗礼の儀を執り行う
13、嫌いじゃないんだぜこの小芝居茶番
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ライライぽんPoMのお耳をはぁーい、ジャック!
パーソナリティ ライライぽんPoM 持ち回り
まうたん、しほりーぬ、きょっち回
オープニング劇場~メール読みから抜粋
しほりーぬ「わあーっ!遅刻遅刻っ!すいませんっ、遅れましたっ!(棒」
まうたん 「どうしたの?しほりー。まだ収録始まってないよ?(棒」
しほりーぬ「あれっ!?だって今日はいつもより収録一時間早いってきょっちが電話してきて(棒」
まうたん 「えっ!?いつもと同じ時間だよっ?(棒」
しほりーぬ「何それどういうことっ?(棒」
まうたん 「っていうかそのきょっちがまだ来てないし(棒」
きょっち 「オあヨゥゴザィマァース(棒」
しほりーぬ「ちょっときょっち!今日収録一時間早いって!(棒」
きょっち 「アー、アレ?収録前ニィ、下ノオ店屋サンニアルシュークリーム食ベタカッタンダケドゥ、人気過ギテイッツモ売リ切レチャッカラアァ、早ク行ケバアッカナッテ、今日ノ収録ハ一時間早イッテ自分ニ言イ聞カセテタンダケドォ。イツモ通リ起キチャッテェ。デ、(棒」
しほりーぬ「それで私に電話してきたの!?勘違いして!?(棒」
きょっち 「ソー(棒」
まうたん 「んもー!きょっちったら(棒」
きょっち 「アイッ。シュークリームゥ(棒」
しほりーぬ「まあ…、買ってきたんならよしとしましょう!…んんッ、このシュークリーム、おいしーっ!(棒」
きょっち 「デッショー?(棒」
まうたん 「はい、シュークリームはあとあと!それじゃあ始めるよ?ライライぽんPoMの(エコー)」
まうたん・しほりーぬ・きょっち「お耳を?はぁーい、ジャーック!(エコー)」
「なっっんだこりゃ!」
吐き気のしそうな棒読み芝居にオチも糞な台本。
響季が頭をがりと掻き毟る。
きょっちはそもそも舌っ足らずなのかそういうキャラなのか、発声が聞き取れない。
切れの悪い媚びた語尾伸ばしもイライラする。
小学生のお昼の放送以下のこれを聴いてファンは萌えるのか。
冒頭コントも作家が書いたのか、はたまた毎週リスナーに募集をかけて書かせたものか。
流暢な喋りと、小芝居ですら全力で演じる声優ラジオに慣れた耳には酷く辛かった。
「ぐぐぐ、ううう。でもこの辛さが嫌いじゃないぃぃ」
さっさと飛ばして指示された該当箇所を聴きたいが、このアイドル達がやるグダグダ番組も聴いてみたい。
しかし体力がゴリゴリ減っていく。
そんな番組なのに、さっさと該当箇所だけ聴いてしまえばいいのに、響季は最初から通して聴いてしまっていた。
まうたん 「というわけで早速メール。えー、ラジオネーム」
「うぉ」
かつて使っていた、さっきとは違うラジオネームが聞こえてきたことに、響季がまた反応する。
今度はこちらを選んでくれたのかという嬉しさと共に。
まうたん 「『僕の家では《食べ物が休憩してる》、ということをよく言います』」
きょっち 「キュゥーケェー?」
まうたん 「(笑)『主に休憩させてるのは僕なのですが、たまたま飴を嘗めてる時にお土産に貰ったシュークリームを食べるために一旦飴を口から出して小皿においたして、あ、置いたりして(笑)』」
しほりーぬ「あー、はいはい。わかる。やるやる」
まうたん 「『その状態を休憩といいます。なのでよく食べ掛けのチーズを休憩させたりすると家族に、あ、チーズが休憩してる、カニカマが休憩してる、今川焼が休憩してるなどと言われます』」
しほりーぬ「へえーっ、面白いね。チーズが休憩してる(笑)」
きょっち 「カィカマ食べタァーイ」
しほりーぬ「そこぉ!?(笑)」
まうたん 「出たよっ(笑)きょっちの天然発動。あ、『皆さんにも家族や家の中だけで通じる言葉ってありますか』って」
どこでも受け入れられる家族を軸としたアットホームなメール。
そういえば一つ前の番組でもそうだった。
いわゆる採用されることを最優先にした、置きにいったメール。
最後に投げかけた質問もよくあるものだ。
だがそれでも確実に番組内で読まれていた。
その後も零児はぬるりと暖簾をかき分け、赤提灯が灯る居酒屋に常連の顔で交じるようにラジオ番組に参加していた。
深夜のオシャレFM番組、地方FMのアイドル番組、早朝のリスナー川柳紹介番組、ミクスチャーバンドの生放送ラジオ、保険相談番組、新作映画紹介ラジオ。
そのどれもが即日ネット配信され、かつバックナンバーがあるような番組だった。
バックナンバーがあれば番組の雰囲気、コーナー、番組独自挨拶、そしてテンションはすぐ理解出来る。
それを纏い、さも昔からのリスナーですよとばかりに零児は潜り込んでいた。
響季のかつての名を借りて。
そして必ず番組を盛り上げ、笑いの小爆発を起こしていた。
「なんて節操がないんだ。あたしは」
そう思えるぐらいに響季の皮をかぶった零児はラジオ番組で大暴れしていた。
それは不思議で誇らしく、だがかりそめの優越感と愉快さだった。
そして、畏怖も。
恐らく零児のことだから全て一通ずつしかメールを送ってないのだろう。
各番組に、コーナーに一通だけ。
以前、響季がネットで知った零児のペンネームでラジオ番組にメールを送っていた時は、一つの番組に何通も送っていた。
どれでもいいから読まれろ!と一つの番組、一つのコーナーに何通も。
数撃ちゃ当たるの精神で、それこそ節操がないくらいに。
だが零児はそんなことはせず、確実に一通のメールだけを矢を射るように送り、それが採用されているのだろう。
マイナー番組ならばメールの採用率は高いが、それでも数撃ちなんて無駄な熱量などクールな彼女には要らないのだ。
かつての零児は文芸部でコンクール荒らしをしていた。
一年生にして先輩から反感を買うほどバッサバッサと受賞し、二年生はネットで本の書評書き。最上級生となった三年でまたコンクール荒らし。
読まれやすい文章、採用されやすい文章というものを熟知しているはずだ。
その沸き上がる言葉を、言の葉で身を隠した獣をラジオにメールを送ることでどうにか抑えつけていたのだ。
それを自ら禁止した結果がこれだ。
「なんとかせんと」
獣王無人に暴れまわる零児を止めなくてはと、響季は決意した。
あの獣に名前をつけなくてはと。
だが、
「へんな、不思議な感じだな」
部屋の天井に向かって響季が呟く。
自分とは無関係な、一生聴くことはないような番組。
そこに零児という存在を確認しただけで、繋がりが、糸が出来た。
それは一方的な糸だ。
しかしそのメールが読まれている時だけいやに音がクリアになり、現実感を伴う。
その放送と一緒に、心臓の音がリアルに聴こえる。
それは本来自分のメールが読まれた時でしか体験出来ないことだ。
それが他人の手によって、零児の手によって行われた。
「へはっ。へんな感じ。っておわあ!もうこんな時間かよ!」
へんなタイムを満喫していた響季だが、ふと部屋の時計をみて驚く。
もう深夜近い。
会議室ラジオは子供が聴ける時間にと、放送時間はだいぶ早い。
それなのにもうこんな時間ということは、ずいぶん長い間いろんなラジオ番組を渡り聴いてしまったということだ。
いい加減早く寝ないとと、寝支度をしようとするが、
「だぅぬばあぁ!」
今まで出したことのないような叫び声をあげ、響季が恐怖の着メロを奏でるケータイを取る。
『洗礼の儀式まだ?』
まるで狙いすましたようなタイミングで零児が急かしメールを送ってきた。
「うえーっ?このタイミングで?」
取り急ぎ、もう送りたいラジオ番組にはメールを送ってしまったのだろう。結果、早くしろとせっついてきたのだ。
どうしようと響季が焦る。まだ何も思いついていない。
脳も耳も身体も疲れきっている。
世の中の人間は、特に男性は女の子の追撃をかわす時どうするのだろうと響季は考え、
『早朝デートしない?』
という書き出しのメールを送る。
『ちょっと電車乗るけど美味しいパン屋さんがあって、でも人気だから朝の時点でほとんど売り切れちゃうみたい。今だとエリンギとひき肉の松茸そぼろ風パンってのが美味しいらしい。海近いから買ったのそこで食べようよ』
早朝デートという、普通の女の子ならうんざりしそうな、でも愉しそうなイベントへと誘った。
『いいよ』
早い返信は承諾のみを伝えてきた。
零児にとってはラジオへメールを送るのも結局は暇つぶしに過ぎない。
だったらまだ早朝デートの方が楽しいだろう。
裁判傍聴デートでも、世界のペッパーソース博物館デートでも、彼女なら何それおもしろそうと乗っかってくるだろう。
響季は楽しい時間稼ぎが出来たことにホッとした。
パーソナリティ ライライぽんPoM 持ち回り
まうたん、しほりーぬ、きょっち回
オープニング劇場~メール読みから抜粋
しほりーぬ「わあーっ!遅刻遅刻っ!すいませんっ、遅れましたっ!(棒」
まうたん 「どうしたの?しほりー。まだ収録始まってないよ?(棒」
しほりーぬ「あれっ!?だって今日はいつもより収録一時間早いってきょっちが電話してきて(棒」
まうたん 「えっ!?いつもと同じ時間だよっ?(棒」
しほりーぬ「何それどういうことっ?(棒」
まうたん 「っていうかそのきょっちがまだ来てないし(棒」
きょっち 「オあヨゥゴザィマァース(棒」
しほりーぬ「ちょっときょっち!今日収録一時間早いって!(棒」
きょっち 「アー、アレ?収録前ニィ、下ノオ店屋サンニアルシュークリーム食ベタカッタンダケドゥ、人気過ギテイッツモ売リ切レチャッカラアァ、早ク行ケバアッカナッテ、今日ノ収録ハ一時間早イッテ自分ニ言イ聞カセテタンダケドォ。イツモ通リ起キチャッテェ。デ、(棒」
しほりーぬ「それで私に電話してきたの!?勘違いして!?(棒」
きょっち 「ソー(棒」
まうたん 「んもー!きょっちったら(棒」
きょっち 「アイッ。シュークリームゥ(棒」
しほりーぬ「まあ…、買ってきたんならよしとしましょう!…んんッ、このシュークリーム、おいしーっ!(棒」
きょっち 「デッショー?(棒」
まうたん 「はい、シュークリームはあとあと!それじゃあ始めるよ?ライライぽんPoMの(エコー)」
まうたん・しほりーぬ・きょっち「お耳を?はぁーい、ジャーック!(エコー)」
「なっっんだこりゃ!」
吐き気のしそうな棒読み芝居にオチも糞な台本。
響季が頭をがりと掻き毟る。
きょっちはそもそも舌っ足らずなのかそういうキャラなのか、発声が聞き取れない。
切れの悪い媚びた語尾伸ばしもイライラする。
小学生のお昼の放送以下のこれを聴いてファンは萌えるのか。
冒頭コントも作家が書いたのか、はたまた毎週リスナーに募集をかけて書かせたものか。
流暢な喋りと、小芝居ですら全力で演じる声優ラジオに慣れた耳には酷く辛かった。
「ぐぐぐ、ううう。でもこの辛さが嫌いじゃないぃぃ」
さっさと飛ばして指示された該当箇所を聴きたいが、このアイドル達がやるグダグダ番組も聴いてみたい。
しかし体力がゴリゴリ減っていく。
そんな番組なのに、さっさと該当箇所だけ聴いてしまえばいいのに、響季は最初から通して聴いてしまっていた。
まうたん 「というわけで早速メール。えー、ラジオネーム」
「うぉ」
かつて使っていた、さっきとは違うラジオネームが聞こえてきたことに、響季がまた反応する。
今度はこちらを選んでくれたのかという嬉しさと共に。
まうたん 「『僕の家では《食べ物が休憩してる》、ということをよく言います』」
きょっち 「キュゥーケェー?」
まうたん 「(笑)『主に休憩させてるのは僕なのですが、たまたま飴を嘗めてる時にお土産に貰ったシュークリームを食べるために一旦飴を口から出して小皿においたして、あ、置いたりして(笑)』」
しほりーぬ「あー、はいはい。わかる。やるやる」
まうたん 「『その状態を休憩といいます。なのでよく食べ掛けのチーズを休憩させたりすると家族に、あ、チーズが休憩してる、カニカマが休憩してる、今川焼が休憩してるなどと言われます』」
しほりーぬ「へえーっ、面白いね。チーズが休憩してる(笑)」
きょっち 「カィカマ食べタァーイ」
しほりーぬ「そこぉ!?(笑)」
まうたん 「出たよっ(笑)きょっちの天然発動。あ、『皆さんにも家族や家の中だけで通じる言葉ってありますか』って」
どこでも受け入れられる家族を軸としたアットホームなメール。
そういえば一つ前の番組でもそうだった。
いわゆる採用されることを最優先にした、置きにいったメール。
最後に投げかけた質問もよくあるものだ。
だがそれでも確実に番組内で読まれていた。
その後も零児はぬるりと暖簾をかき分け、赤提灯が灯る居酒屋に常連の顔で交じるようにラジオ番組に参加していた。
深夜のオシャレFM番組、地方FMのアイドル番組、早朝のリスナー川柳紹介番組、ミクスチャーバンドの生放送ラジオ、保険相談番組、新作映画紹介ラジオ。
そのどれもが即日ネット配信され、かつバックナンバーがあるような番組だった。
バックナンバーがあれば番組の雰囲気、コーナー、番組独自挨拶、そしてテンションはすぐ理解出来る。
それを纏い、さも昔からのリスナーですよとばかりに零児は潜り込んでいた。
響季のかつての名を借りて。
そして必ず番組を盛り上げ、笑いの小爆発を起こしていた。
「なんて節操がないんだ。あたしは」
そう思えるぐらいに響季の皮をかぶった零児はラジオ番組で大暴れしていた。
それは不思議で誇らしく、だがかりそめの優越感と愉快さだった。
そして、畏怖も。
恐らく零児のことだから全て一通ずつしかメールを送ってないのだろう。
各番組に、コーナーに一通だけ。
以前、響季がネットで知った零児のペンネームでラジオ番組にメールを送っていた時は、一つの番組に何通も送っていた。
どれでもいいから読まれろ!と一つの番組、一つのコーナーに何通も。
数撃ちゃ当たるの精神で、それこそ節操がないくらいに。
だが零児はそんなことはせず、確実に一通のメールだけを矢を射るように送り、それが採用されているのだろう。
マイナー番組ならばメールの採用率は高いが、それでも数撃ちなんて無駄な熱量などクールな彼女には要らないのだ。
かつての零児は文芸部でコンクール荒らしをしていた。
一年生にして先輩から反感を買うほどバッサバッサと受賞し、二年生はネットで本の書評書き。最上級生となった三年でまたコンクール荒らし。
読まれやすい文章、採用されやすい文章というものを熟知しているはずだ。
その沸き上がる言葉を、言の葉で身を隠した獣をラジオにメールを送ることでどうにか抑えつけていたのだ。
それを自ら禁止した結果がこれだ。
「なんとかせんと」
獣王無人に暴れまわる零児を止めなくてはと、響季は決意した。
あの獣に名前をつけなくてはと。
だが、
「へんな、不思議な感じだな」
部屋の天井に向かって響季が呟く。
自分とは無関係な、一生聴くことはないような番組。
そこに零児という存在を確認しただけで、繋がりが、糸が出来た。
それは一方的な糸だ。
しかしそのメールが読まれている時だけいやに音がクリアになり、現実感を伴う。
その放送と一緒に、心臓の音がリアルに聴こえる。
それは本来自分のメールが読まれた時でしか体験出来ないことだ。
それが他人の手によって、零児の手によって行われた。
「へはっ。へんな感じ。っておわあ!もうこんな時間かよ!」
へんなタイムを満喫していた響季だが、ふと部屋の時計をみて驚く。
もう深夜近い。
会議室ラジオは子供が聴ける時間にと、放送時間はだいぶ早い。
それなのにもうこんな時間ということは、ずいぶん長い間いろんなラジオ番組を渡り聴いてしまったということだ。
いい加減早く寝ないとと、寝支度をしようとするが、
「だぅぬばあぁ!」
今まで出したことのないような叫び声をあげ、響季が恐怖の着メロを奏でるケータイを取る。
『洗礼の儀式まだ?』
まるで狙いすましたようなタイミングで零児が急かしメールを送ってきた。
「うえーっ?このタイミングで?」
取り急ぎ、もう送りたいラジオ番組にはメールを送ってしまったのだろう。結果、早くしろとせっついてきたのだ。
どうしようと響季が焦る。まだ何も思いついていない。
脳も耳も身体も疲れきっている。
世の中の人間は、特に男性は女の子の追撃をかわす時どうするのだろうと響季は考え、
『早朝デートしない?』
という書き出しのメールを送る。
『ちょっと電車乗るけど美味しいパン屋さんがあって、でも人気だから朝の時点でほとんど売り切れちゃうみたい。今だとエリンギとひき肉の松茸そぼろ風パンってのが美味しいらしい。海近いから買ったのそこで食べようよ』
早朝デートという、普通の女の子ならうんざりしそうな、でも愉しそうなイベントへと誘った。
『いいよ』
早い返信は承諾のみを伝えてきた。
零児にとってはラジオへメールを送るのも結局は暇つぶしに過ぎない。
だったらまだ早朝デートの方が楽しいだろう。
裁判傍聴デートでも、世界のペッパーソース博物館デートでも、彼女なら何それおもしろそうと乗っかってくるだろう。
響季は楽しい時間稼ぎが出来たことにホッとした。
応援ありがとうございます!
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