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その声がいつも魂の叫びでありますように

8、あの18って書いてあるのれんの奥にある世界

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「響季」
 「なに?」
 「これあげる」

  いつもの放課後デートにて。暖を取るために入ったコーヒーショップで、零児が何かを通学バックから出した。
  どうやらDVDのパッケージらしきもののようだが、

 「んなっ!」

  それをひと目見て、響季がバン!と手のひらで隠すようにジャケットの面を叩く。
  顔は真っ赤で、直視出来ないためジャケットではなく零児を見ていた。
  零児はいつものクールなアーモンドアイだったが。

 「なに…、これ…」
 「忍者屋敷deレズビアン 74時間ぶんまわしスペシャルvol8 水攻め火攻め貝合わせ攻め」
 「そうじゃなくて!」

  タイトルをつらつらと暗唱する零児に響季が違うがな!とツッコむ。

 「何でこんなの…、っていうかあげるってなに!?」

  そういう関係か、あるいはプレイをお望みかと考えるが、

 「ラジオのノベルティで貰った」
 「………はヒ?」

  返ってきた答えに、響季が間の抜けた声を出す。

 「ノベルティ、なのかな。わかんないけど」

  そう零児は困ったような、難しい顔をする。
  彼女曰く。
  自分が聴いている現役セクシー女優のポッドキャストでは、毎週一番面白いメールをくれた人に過去に自分が出演したアダルトDVDをプレゼントするらしい。
  そして自分が選ばれたという。
  さすがと言えばさすがだった。
  響季がどれだけ送ってもメールが読まれなかった番組であっさり読まれる。
  番組に対してのネタレベル調整などいともたやすい零児からすれば、そんなことは普通に起こりうることだった。
  女子高生がAV女優のポッドキャストを好んで聴いている事実は少々おかしなことだが、零児なら、重度のラジオマニアな彼女なら、聴いてたとしても不思議とおかしくないと響季は思った。
  そして、

 「そんな番組までメール送ってんの?」

  ごく自然な質問を投げつけた。この人はどこにでも火種を投げ込むなと。

 「最近来るメール少ないって言ってたし。聴くだけリスナーだったんだけど」

  どうやら送られてくるメールの少なさに、パーソナリティが皆さんのお便りが頼りですと募ったらしい。
  それに対し零児は純粋に、番組ファンとして支援メールを送ったという。

 「でもれいちゃん、いつもメールに名前書かないって」

  零児はその名前から男の子扱いされるのが嫌で、送るのはいつもラジオネームだけだと言っていた。
  だから番組側がノベルティをやると言っても送って来れないはずなのだが。

 「その番組はちょっと、普通にノベルティのCDホルダーが欲しくて。で、そんな番組だから男の子みたいな名前の方が都合いいかなって」

  DVDは一名だけだが、メールが読まれた人全員には女優様がお世話になったメーカーから貰ってきたという、シルバーでスペーシーなCDホルダーが貰えるらしい。
  分厚く、そこそこの量が入ると実用性が高い上、見た目がオシャレなのにエロDVDメーカーのロゴ入りという点で零児の食指が伸びたという。
  CDホルダーというノベルティは、エロティックDVDをたくさん所有しているであろうリスナーが、嵩張らず中身だけをすっきり所有出来るようにという配慮らしいが、

 「ホルダーのが欲しいわ」

  響季からすれば誰でも貰える方のノベルティを欲しがった。

 「二通読まれて二個貰ったから一個響季にあげる」
 「ホント!?わーい!」

  そして予期せずお得にあやかれたことに諸手を上げて喜ぶ。
  結果、コーヒーショップのオシャレ客に見えないよう隠していたジャケットが顕になり、

 「で、これ」
 「えっ…」

  つつ、と零児がくんずほぐれずするくノ一達がジャケットとなっているDVDを差し出す。

 「持ってても困るし」
 「いや、でも」

  とりあえず響季は自分の手元に引き寄せ、腕で隠すようにする。

 「あたしも困るよ…」
 「見ればいいじゃん」
 「見ないよ!自分が見りゃいいじゃん!」
 「見たよ」
 「えっ!?」

  目の前の女子高生の問題発言に、女子高生が固まる。そして、

 「…どう、でした」
 「ゲボ吐いた」
 「ゲボて」

  ゲボ。あるいはゲロ。あるいは吐瀉。
  実際は吐いてないだろうが、それだけ過激なのか、それとも性的なものが苦手なのか。
  それともホントは見ていなくて適当に言っているのか。響季が腕で隠したジャケ写をチラ見しながら考えていると、

 「…響季ほんとにいらないの?」
 「だから、あたしも貰っても困るし」

  さっきと同じことを零児が言う。だがそれなら響季も同じだ。
  タダで貰えても流石にコレは困る。
  どうしようかと下唇を噛み、考え込む赤眼鏡を見て、

 「じゃあ売りにいく」

  零児が腕の下からDVDを引き抜く。

 「売るったってどこに?」
 「…バラライカ?」

  少し考え、零児が言ったのはココらへんでは有名な、アダルトグッズ&DVD買い取り販売専門のチェーン店だ。
  高価買取を謳っているため、それなりのお値段はつくだろう。だが、

 「あーゆー店、18歳未満お断りなんじゃないの?」
 「買い取りだけならいいんじゃない?」
 「いや、ダメでしょ…」
 「そうかな」

  響季が考えうる事態を提唱するも、零児はすっとぼけた態度をとる。
  つまりはアダルトグッズ屋に、恐らく制服のままのこのこ参上し、お嬢さんダメですよと言われ、売りに来ただけです、いや18歳未満ですよね、こういったものは買い取りも、と言われ、追い返されるかもしれない。そういったことを零児はわざわざ実行しようとしていた。
  仮に買い取りOKでも、入店、あるいは店に留まることになる。
  モテナイ狼どもがいる店で、こんな可愛らしい少女が。
  そんな姿を想像しただけで、

 「…アタクシが引き取ります」

  響季はそう言わざるを得なかった。硬い声と表情で、ブツを通学用バッグにしまう。

 「助かります」

  零児がぺこと頭を下げるが、その口の端がうまくイタズラが発動したニャーンと歪んでいたことに、目の前の赤メガネは気づいていなかった。
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