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アニラジを聴いて笑ってる僕らは、誰かが起こした人身事故のニュースに泣いたりもする。(上り線)

6、いきなり降板劇

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マキシマム・フローズン情報局 最新回

パーソナリティ 森口茜
コーナー担当 神部さん(ISOTONIC JENERATION アニメーション宣伝部)

 出迎え挨拶コーナー1~CM~出迎え挨拶2/毎度毎度のスポンサーが宣伝しに来やがるのコーナー《ここで悲しいお知らせ》より抜粋

※CM、宣伝部分はカット


森口「CMの後は、『あれ?俺……、朝起きたら女になってた!!でもまあいいや!今日も元気にいってきまーす!!』な神部さんの登場でーす」

 (CM)

 森口「てなわけで、『サーモマグにはお白湯を2ガロン』なISOTONIC JENERATIONの神部さんです!」
 神部「はい、神部です。どんだけお白湯好きですか私(笑)」
 森口「(笑)えー、今週の出迎え挨拶は、ラジオネーム 飛行式さんと、文庫本にはカバーかけ郎さんからでした。ありがとうございました」
 神部「ありがとうございます」
 森口「どうですか?お白湯飲む?」
 神部「そこ広げるんですか!?(笑)」
 森口「なんか寝起きに飲むといいとか言うよね。痩せるとか」
 神部「体温を一定に保つとかでしたっけ?」
 森口「わかんないけど。スタジオ誰か…、ああ誰もわかんない(笑)みんな首捻ってる。女子力の低い現場だなあ」
 神部「(笑)」
 森口「もう、じゃあ、はいっ(笑)今週の商品は?」
 神部「えー、今週は《パイシートが常温に戻るまでに君を殺す》のキャラクターソングアルバム Vol 1です」
 森口「あああーっ。今週も、うちの番組のグッズじゃなかったああ!スポンサーの別作品の宣伝の場に使われてるうぅ」
 神部「(笑)」
 森口「えー?もうなによ。キャラソン集?」
 神部「そうですね。えー、こちらの商品」

 (中略)

 神部「というわけで是非皆様、お買い求めください」
 森口「はーい、ということでぇ、『ショルダーバッグをいつも同じ肩にかけてるので肩の位置がズレている』神部さんありがとうございましたあ。今の追い出しの挨拶は、ラジオネーム CDロムロムロムさんでした。あっ、あとそうだ。ここで番組から重大な発表が」
 神部「あっ、そうですした」
 森口「そうですした?(笑)」
 神部「そうでしたっ!(笑)重大かはわからないんですけど、えーと、私今週でこの番組の担当から離れることになりまして」


 「えっ!?」

  ラジオを聴いていた零児がベッドに身を横たえたまま驚く。
  暖かな布団に包まれた心臓がドクドクと脈打つ。
  さっきの縦揺れ地震の比ではない。まるで耳に心臓があるぐらいにうるさい。
  たった今、番組お付きの宣伝担当さんがその涼やかな声で言ったことが信じられなかった。
  だが自分の仕事での配属のことなのだから嘘などないだろう。

そんな、神部ちゃんが?愛すべきいじられ広報さんが?
 Sっ気風味の美人声広報さんが?

  内から聴こえてくるそのドクドクに混じって内なる声が聴こえてくる。


 森口「なんだかねえー、寂しいねえ。左遷なの?」
 神部「(笑)いえ、単にあれですね。人事異動です」
 森口「アニメ宣伝部から離れるみたいなこと?」
 神部「そうですね」
 森口「じゃあ宣伝コーナーの前後にやってる、神部ちゃんの出迎え挨拶と追い出し挨拶のコーナーも今日で終わりってことで」
 神部「それは私としては最初っから別にやんなくていいコーナーでしたけどね(笑)」
 森口「えー?人気コーナーだったじゃーん。メールだってここだけすごい大量に来てたし」
 神部「いやいや、ここのリスナーさんおかしいからっ!(笑)そんな力入れるコーナーじゃないでしょうが!」



  パーソナリティである森口茜と共に神部ちゃんが何か言っていたが、零児の耳には入ってこない。
  そんな、と。そんなバカなと。そればかりが頭を巡る。
  神部ちゃんが番組を離れちゃうだなんて。
  突きつけられた事実を、零児は受け入れられなかった。
  神部ちゃんが出ているからこの番組をずっと聴いていたようなものなのに。
  宣伝しているアニメなんか一度も見てないけど、ラジオだけはきっちり毎週聴いていたのに。

  歳相応に落ち着いてない人が多いのか、フワフワとした、どこか根無し草のような生き方をしている声優。それとやりあう歳相応に落ち着いている、きちんとした社会人宣伝ウーマン。
  そして聴こえてくるのは声優とは違う、素人くさいごく普通の喋り口調と作りこまれていない声。
  時にはパーソナリティが宣伝をやいのやいのと声だけで邪魔し、神部ちゃんはそれに振り回されたり邪魔をするでない!とぴしゃりと叱責したりする。
  いい年した大人が真っ当な大人に怒られる。
  そんな茶番と対比構造は、聴いていて耳が楽しかった。
  おまけに検索すればわかってしまう声優と違い、会社の広報さんなんて人はなかなか顔がわからない。
  公録などに行けばわかるかもしれないが、そんな機会も零児にはなかった。
  だからこそ声だけでどんな人か想像する楽しさがあったのに。
  彼女を笑わせたくて、笑いを引き出したくて、出迎え挨拶と追い出し挨拶のコーナーにもネタを送っていたのに。

 「そっか…」

  先程うっすら聞こえてきた二人のやりとりを零児が反芻する。
  適当な紹介文句をつけていち会社員を面白おかしくいじる《神部ちゃんを出迎える挨拶と追い出す挨拶を考えるコーナー》
  素人だからどれだけ切り込んでいいかわからない、あまりいじりすぎてはいけない、適度な笑いの刃が試されるコーナーだったのに。
  それも今日で終わるのだ。
  本来なら一度笑いをとれればいい自分が、欲を出して何度も送り、採用されていたのに。

 「終わるんだ…」

  ぐるぐると、思い出とするにはあまりにも近しい過去が、楽しい放送が頭の中で巡る。
  零児の身体を悲しみだけが支配する。
  今まで乗り越えてきた番組最終回なんて非じゃない悲しさ。
  あの名企画、利き化粧水がつい先日のことのようだった。

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