ひきこもりの僕がある日突然勇者になった理由。リピート

ジャンマル

文字の大きさ
13 / 28
誘いに乗る

ボス

しおりを挟む
 翌日、伊東はつかまり、任務は無事に終わった。
 だが、今回の任務、最後の最後で任務を完遂させた彼女。いったい何者なのだろうか。晴ちゃんも、「分からない」と、言っていた。
 だが、彼女はどうやら美雨さんを知っているような口ぶりだった。まさか、知り合い……? それは、彼女が目覚めてからじゃないとわからない。
「……伊勢谷さん。提案があります」
「……? 何のだい?」
 彼女の提案とはどんなものだろうか。
「彼女について、ボスが何か知っているかもしれません」
「ボス……?」
 ボスなんているのか? 初耳だ。というか、居るなら教えてくれてもよかったじゃない。なんで教えてくれなかったのだ。
「……ついて来てください」
 何故だ? ボスに合わせてくれるらしい。
 だが、彼女の顔はどこか合わせたくない。そんな雰囲気を出していた。
「いいですか? ボスは普段は優しいですが、今はお姉ちゃんの件でかなり苛立ってます。だから、余計に怒らせるようなことはしないでくださいよ?」
「了解」
 ボス……そんなキレやすい人……? いや、普段キレないなら優しい人か……? まあいい。とりあえずあってみればいい。――――
 コンコン。ドアをノックする音だ。ドアをノックしたのは晴ちゃんだ。 
 そして、部屋の方から、「入っていいぞ」と、優しくダンディな声が聞こえてくる。
「入ります!」
 晴ちゃんの足は、少しだけ。震えていた。
 怒らせるとそこまでやばいのか……? 僕は、覚悟を決め、つばを飲み込む。
 ガチャ。ドアを開けた音だ。そこに見えるのは――――
「やあ。初めましてだね? ……伊勢谷慎二君……?」
「は、初めまして!」
 圧倒的な威圧感。僕は、その威圧に負けて、緊張してしまった。
「まあ、そうガチガチしなくてもいいじゃないか。それで、用というのは?」
「は、はい……用というのは、美雨さんの件で……」
「む……」
 ボス(らしい)男が、怒りを抑えているのが、僕にもわかった。それほどに、今回の件は複雑なのだと僕は察した。
「……君たちの用というのは、恐らく。美雨君を襲った彼女の事だね?」
「はい……」
 やはり、何か知っている……?
「彼女は七瀬夢実……『元』勇者だ」
 元……? 一体どういう意味だ……?
「彼女はなぜ、今更になって……」
「……彼女は、ECO社と何か関係が……?」
「……無い。だが、あるとすれば、恐らく……」
 何か心当たりが?
「彼女は2年前、伊東を逃がしているんだ」
「伊東を……?」
 伊東を2年前に……? どういうことだ?
「当時、伊東はECO社とは別の会社の人間だった。その時に、君たちと同じように彼女を捕まえ、ブラック企業から手を引かせようとした……」
 まさか、その時の逆恨み? そんなの、あり得るのだろうか? しかし、そんな私情で行動しているのなら、彼女を止めるのも任務になるのでは?
「だが、逃がした後、彼女は理由を明かさずここを去った、恐らく、伊東を捕まえるためだろう」
「それだけのために……」
「まあ、僕たちからしたらそれだけの理由になるだろうが、それが。彼女にとっては大事な任務だったんだ」
「大事な任務……?」
 彼女にとっての大事な任務って、なんだろうか。例えば、命を奪われかけたとか?
「その時の被害者が、彼女の家族だったんだよ」
 家族が被害者になった。だが、自分は逃がした……だから彼女を捕まえるために色々して、今回みたいになった……そこまではわかる。だが、彼女はなんで美雨さんを恨んでいるんだ?
「家族を救えなかった。それが、彼女自身には、当初のパートナーだった美雨君の責任だと勝手に思い込んでしまった」
「それだけで……」
 あまりにも理不尽だった。自分の失敗した任務をパートナーのせいにする……それが彼女の当時の正しい判断だったとしても、人を殺していい理由にはならない。美雨さんは死んでいないが。
「理不尽だと思うだろう? だが、そうしないと彼女にはつらかったんだろう」
 それはわかった。だが、何故今更美雨さんを?
「今回の動機はおそらく、過去との決別だろう」
「……彼女の件は把握できました。ですが、もう一つお願いがあります」
「……なんだね?」
「僕を……鍛えてください……!!」
 僕は強くならなければいけない。これからは、彼女に守られるのではなく、彼女を守る立場に居なきゃいけない。そう考えたからだ。
「……君の意気込みはわかった。だが、駄目だ」
「ど、どうして……」
 何故だ? 理由が分からない……ダメな理由は何だ?
「彼女たちが今強いのは、確かに私が指導したからだ。だが、それ以前に彼女たちには元からそれだけの力があった。だが、君にはそれが出来ない」
「僕に……勇者としての才能がないからですか?」
「そうだ」
 返事は即答だった。なぜだ? なら、何故僕を勧誘したんだ? 勧誘する意味は何だったんだ?
「君を勧誘したのは私の命令ではない。美雨君の独断だ」
「独断って……」
「私も反対したんだがね。何故か、彼女は言っても聞かなかった」
 言っても聞かない。彼女はそういう性格だ。多分。だけど、どうして独断でも僕を選んだんだ? 彼女は。それこそ、理由がわからない。
「おっと……話が随分長くなったね。私には仕事があるので、これで話は終わりだ。後の事は後で晴君にデータでも何でも、資料を渡しておこう」
「分かり……ました……」
「悔しいかね? 自分には才能がなく、彼女には才能があるのが」
「悔しいですよ……悔しくないわけないじゃないですか。男が女に守られて悔しくない理由なんてないでしょ……!」
 悔しい。その感情だけが今の僕に行動させた。何故僕なんだ? ほかの人じゃ駄目だったのか? なんでだ……なんで僕なんだ……
「……じゃあ、私は行くよ」
「ボス、一体どういうおつもりで……?」
「今はなしたのは、全部本当の話だ。なんだね? 君も悔しかったのかい?」
「い、いえ……」
「では。今後の活躍に期待してるよ」
 そう言い放ち、男はこの場から去った。
「くそっ……くそっ……」
 今は、悔しい気持ちだけでいっぱいだった。後悔と、悔しい気持ちで、僕はどうにでもなる気がした。――
「なあ、晴ちゃん」
「なんです?」
「あのボスって人、どういう人なんだ?」
「ああ、ボスですか。彼は、木山春斗。本人はかつて日本を救ったって言ってます」
「木山……春斗……?」
 何故だろう。どこかで、どこかで聞いたことがある気がした。
 彼の過去についてはよくわからなかった。いや、今は知らないほうがいい気がした。知ってしまったら、何かが変わってしまう気がした。――――
 次の日、ECO社の社長さんから、お礼の手紙が届いたと晴ちゃんが報告してきた。その手紙には、今はお礼が出来ないが、いつか必ず礼をすると書かれていたらしい。
 任務を達成できなかった。今回僕が経験したのは、敗北だった。
 その敗北が何かに役に立つとしたら、それは何処なのだろうか。それにこたえることのできない僕には、今のままじゃ役不足。お荷物なんだろう。
 だけど、ボスに会って分かったことがある。それは、この仕事が時には一生を分ける判断をしなければいけないこと。そして――ボスは最低の人間だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...