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14 お願い
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機嫌のよかった僕は、隣にいるザックにしなだれかかる。僕の白い肌は、きっとアルコールのせいで上気している違いない。最高に色っぽいと思う。
「ねぇ、ザックさん。お願いがあるんだけど」
「なんでしょう」
姿勢を正したザックが、ごくりと息を呑んだ。
「あのね。言いにくいんだけどさ」
「なんでも言ってください」
「じゃあお言葉に甘えて。僕の仕事手伝って?」
虚をつかれたらしいザックは「仕事、ですか」と顎をさすっている。
「そう、仕事。僕あんまり仕事できなくて」
「そんなこと。事務官の試験は難しいと聞きました。そんなに謙遜しないで」
謙遜じゃないんだよ。その難しい試験を不正で突破したのが僕だから。なんの励ましにもならない。しかし不正の件はザックには言わない方がいいかもしれないな。変に真面目そうだし、もしかしたら嫌悪されるかもしれない。それだけならまだしも、おかしな正義感を発揮されて告発とかされたらたまったものじゃない。
「ねぇ? だめかなぁ」
甘えたような声で擦り寄れば、ザックがピシリと固まった。
「……初めのうちは慣れないでしょうし、手伝いくらいなら」
「ありがと」
手伝いではなく全部まるっと押し付けるつもりなのだが今はそれでいいだろう。とりあえず言質をとれただけで十分だ。この男は真面目そうだし。一度交わした約束は無下にしないだろう。
残っていた酒を全部ザックのグラスに注いで押し付ける。素直に受け取った彼は、一気に呷った。先程から結構な量を飲んでいるがまったく顔色が変わらない。酒には強いらしい。
そのままどんどんザックに飲ませてなんとなくお開きにもっていく。
家まで送るとの申し出をきっぱり断って僕も帰路につく。ちょっと飲み過ぎたかもしれない。後半はザックのグラスに酒を注ぐことに専念していたが、前半でいつもより飲んでしまったかもしれない。
しかし気分はいい。
ふらふらと暗い夜道を歩いていると、突然横から伸びてきた手にがっちりと腕を掴まれた。
「っ!」
驚きのあまり一瞬で酔いが醒めた。ついで聞こえてきた声に、背筋を冷たいものが走った。
「なにしてるんですか、リア様」
「ス、スコット」
なぜここに。
そういえば前回エドワードから強引に逃げてきたんだった。なんとなくそれで済んだような雰囲気になっていたのだが、あの後エドワードも正気に戻ったのだろう。
酒のせいで浮かれていた僕は、眼鏡を外してうっかり目元を晒していた。服は地味だがどこからどうみても傾国リアだった。し、失敗した。
「酒飲んでたんですか? 誰と」
「……ひとりで」
「本当に?」
「うん」
こくこくと頷くが、スコットの目は笑っていない。そろそろと腕を引き抜こうとするが、逆に強く掴まれて逃げ場がなくなってしまう。ぐいっと引っ張られてたたらを踏んだ。
「本当にひとりですか?」
こいつ絶対に信じてないな。いやまあひとりじゃなかったんだけどさ。まさか近衛騎士団のザックと一緒だったなんて言えるわけがない。
勘が良すぎないか? 僕がわかりやすいだけ?
「リア様?」
「ひとりで飲んでました」
ちらりと頭上を見れば、冷たい視線とかちあった。
「どこの店ですか」
「なんでそんなこと」
無言で睨みつけられて首をすくめる。なんだか怖くて素直に店名を答えれば、スコットは眉を寄せる。あぁ、これでまた使える店が減った。
「そこ、ひとりで行くような店じゃないでしょ」
「別によくない?」
「じゃあ確認しに行ってもいいですか? やましいことがなければついてきてくださいますよね」
確認ってなに。
静かに目を見開けば、スコットは「あなたが本当にひとりで来店したか店員に確認します」と末恐ろしいことを言い出す。だがあの店は結構な高級店だ。客の情報を易々と口にするはずがない。
「騎士団の調査だと言えば協力してもらえますよ」
「職権濫用だろ!」
「おや。なにかまずいことでも?」
こ、この野郎!
マジで性格悪い。最悪だ。追い詰められた僕はもはや目を泳がせることしかできなかった。
そんな僕を見たスコットは大袈裟にため息を吐く。
「主人がお待ちです。帰りますよ」
そのまま僕はエドワードのもとへと連行された。
「ねぇ、ザックさん。お願いがあるんだけど」
「なんでしょう」
姿勢を正したザックが、ごくりと息を呑んだ。
「あのね。言いにくいんだけどさ」
「なんでも言ってください」
「じゃあお言葉に甘えて。僕の仕事手伝って?」
虚をつかれたらしいザックは「仕事、ですか」と顎をさすっている。
「そう、仕事。僕あんまり仕事できなくて」
「そんなこと。事務官の試験は難しいと聞きました。そんなに謙遜しないで」
謙遜じゃないんだよ。その難しい試験を不正で突破したのが僕だから。なんの励ましにもならない。しかし不正の件はザックには言わない方がいいかもしれないな。変に真面目そうだし、もしかしたら嫌悪されるかもしれない。それだけならまだしも、おかしな正義感を発揮されて告発とかされたらたまったものじゃない。
「ねぇ? だめかなぁ」
甘えたような声で擦り寄れば、ザックがピシリと固まった。
「……初めのうちは慣れないでしょうし、手伝いくらいなら」
「ありがと」
手伝いではなく全部まるっと押し付けるつもりなのだが今はそれでいいだろう。とりあえず言質をとれただけで十分だ。この男は真面目そうだし。一度交わした約束は無下にしないだろう。
残っていた酒を全部ザックのグラスに注いで押し付ける。素直に受け取った彼は、一気に呷った。先程から結構な量を飲んでいるがまったく顔色が変わらない。酒には強いらしい。
そのままどんどんザックに飲ませてなんとなくお開きにもっていく。
家まで送るとの申し出をきっぱり断って僕も帰路につく。ちょっと飲み過ぎたかもしれない。後半はザックのグラスに酒を注ぐことに専念していたが、前半でいつもより飲んでしまったかもしれない。
しかし気分はいい。
ふらふらと暗い夜道を歩いていると、突然横から伸びてきた手にがっちりと腕を掴まれた。
「っ!」
驚きのあまり一瞬で酔いが醒めた。ついで聞こえてきた声に、背筋を冷たいものが走った。
「なにしてるんですか、リア様」
「ス、スコット」
なぜここに。
そういえば前回エドワードから強引に逃げてきたんだった。なんとなくそれで済んだような雰囲気になっていたのだが、あの後エドワードも正気に戻ったのだろう。
酒のせいで浮かれていた僕は、眼鏡を外してうっかり目元を晒していた。服は地味だがどこからどうみても傾国リアだった。し、失敗した。
「酒飲んでたんですか? 誰と」
「……ひとりで」
「本当に?」
「うん」
こくこくと頷くが、スコットの目は笑っていない。そろそろと腕を引き抜こうとするが、逆に強く掴まれて逃げ場がなくなってしまう。ぐいっと引っ張られてたたらを踏んだ。
「本当にひとりですか?」
こいつ絶対に信じてないな。いやまあひとりじゃなかったんだけどさ。まさか近衛騎士団のザックと一緒だったなんて言えるわけがない。
勘が良すぎないか? 僕がわかりやすいだけ?
「リア様?」
「ひとりで飲んでました」
ちらりと頭上を見れば、冷たい視線とかちあった。
「どこの店ですか」
「なんでそんなこと」
無言で睨みつけられて首をすくめる。なんだか怖くて素直に店名を答えれば、スコットは眉を寄せる。あぁ、これでまた使える店が減った。
「そこ、ひとりで行くような店じゃないでしょ」
「別によくない?」
「じゃあ確認しに行ってもいいですか? やましいことがなければついてきてくださいますよね」
確認ってなに。
静かに目を見開けば、スコットは「あなたが本当にひとりで来店したか店員に確認します」と末恐ろしいことを言い出す。だがあの店は結構な高級店だ。客の情報を易々と口にするはずがない。
「騎士団の調査だと言えば協力してもらえますよ」
「職権濫用だろ!」
「おや。なにかまずいことでも?」
こ、この野郎!
マジで性格悪い。最悪だ。追い詰められた僕はもはや目を泳がせることしかできなかった。
そんな僕を見たスコットは大袈裟にため息を吐く。
「主人がお待ちです。帰りますよ」
そのまま僕はエドワードのもとへと連行された。
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