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第6章 ヤーベ、辺境伯のピンチを華麗に救う!

第53話 店の裏口から脱出しよう

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「あいよっ! お待たせ!」

慣れた手つきで大きな鉄鍋をこれまた鉄のお玉でカンカンと音を立てて料理していた親父が完成を告げる。

さらに鉄鍋から盛られる料理。炒めたご飯に野菜や肉が入り、そして味付けの決め手はやはり醤油。絶妙な香りが漂ってくる。

そして目の前にチャーハンが置かれた。

「う、うまそう!」

「うまそうじゃねぇ。うまいんだよ」

そう言ってニヤリとするクマのような親父は獰猛な笑み浮かべる。嫌いじゃないね、こういう親父。

早速でかめのスプーンですくう。蓮華とは違うな、ただのでか目のスプーンだ。

俺様の方のチャーハンは大盛だ。傍目に見てもイリーナの普通盛りより二倍近い量がある。いい盛りっぷりだぜ親父!

文字通り山と化したチャーハンの麓にドスッとスプーンを差し込んで持ち上げる。
ふわっと醤油のいい匂いが包み込む。
我慢できずに早々に口に含む。



「う、うまっっっっっ!!」



口の中に広がる芳醇な香り! これは醤油だけではない!
・・・尤も俺には料理の才能は無いし、具体的に醤油以外に何が入っているのかわからないけど。

隣を見ればイリーナはまだぽや~っとしたままチャーハンに手を付けていない。

「イリーナ?」

「ふえっ!?」

「チャーハン冷めるぞ? 早く食べよう」

「ふわっ!? うん、そうだな、食べるとしよう」

そう言って慌ててスプーンを突っ込み、アツアツのチャーハンを口に放り込む。

「アチャチャチャチャ!!」

アツアツチャーハンを思いっきり口に頬張って叫び声をあげるイリーナ。

「ほら、水飲め、水」

俺が渡した木のコップをひったくるように奪うとゴクゴクと飲み干す。

「ふわわ~、アツアツだったぞ」

「そりゃそうだよ、出来立てなんだから。フーフーして食べるんだよ」

「な、なるほど・・・」

目を白黒させながら水を飲みほしたイリーナは落ち着くと、再度フーフーしながら一口だべる。

「お、おいしい・・・」

「ウマイよな!このチャーハン!」

「うん、すっごくおいしいぞ!」

喜んで食べだすイリーナ。
よかったよかった。これでお腹も落ち着けばイリーナ自身も落ち着くかな。
俺たちはチャーハンを心行くまで堪能した。





「・・・ん!?」

店の外が騒がしい。

耳を澄まして見る。

「聖女様見た? 華麗に空を飛んでいらっしゃったわよねー!」

「ブフォッ!」

イカン、チャーハンが噴き出た。
こういう時は店の親父にバレない様にこっそりスラクリーナー発動!
触手の先っちょを掃除機のノズルの如く細くして撒き散らしたチャーハンの米粒を回収だ!

「ん?どうしたヤーベ」

イリーナがこっちを見てくる。

「いや・・・」

どう取り繕おうかと迷っていると、さらに声が聞こえてくる。

「聖女様じゃなくて、女神様らしいよ!」

「なんたって千人以上の人々を回復させたって話だもんね!」

「王都にいるなんちゃって聖女なんかと比べ物にならないらしいよ」

「そんなの比べられるわけないじゃん! 本物と偽物なんだから」

「そっかそっか~」

何か知らないけど、イリーナ賛歌と王都にいるらしい聖女のディスりが止まらない。

「外でイリーナを聖女とか女神とか言って讃えているみたいだ」

「な、なぜだ!?」

「なんでだろ?」

俺は首を傾げてみる。

「讃えられるなら、ヤーベを讃えるべきだろう!」

なぜかテンションが上がるイリーナ。

「もしかしたら、追手を撒くために<勝利を運ぶもの>ヴィクトル・ブリンガーを発動して移動したから、イリーナしか姿が見えなくなって、イリーナが治療したことになったんじゃないか?」

「なんだと!? そんな間違いをしているとは!早速訂正してヤーベこそが神なのだと教えねば!」

そう言って店を飛び出そうとするイリーナを羽交い絞めする。

「コラ! 誰が神か! 大体教えるってなんだ、教えるって! 教えたら教会の人間とか一杯来るでしょ!」

「そ、そうか・・・」

そうこうしているうちに、外の女性たちは別の話題に盛り上がる。

「屋根から屋根へ飛び移る聖女様!素敵よね~」

「違うって!聖女様じゃなくて女神様!」

「そうそう!あれだけの人を回復させるって、もう絶対女神様だよね~」



「ヤーベ、間違いなく神様扱いだぞ」

ニコニコしながらイリーナが俺の顔を見つめる。

「今はお前が女神様扱いだけどな」

お互い見つめ合いながら笑う。


ところが・・・


「それにしても、女神様の真っ白なおパンツ、ステキだったわね~」

「ホント、サイッコウだったわ~」

「あまりに美しいの!」

「輝くようだったわ!」

「「「女神様のおパンツ、お美しい~~~~!!!」」」





「「!!!」」

笑いながら見つめ合っていたのだが、イリーナの表情が固まる。

マズイ・・・



「ヤ、ヤ、ヤーベ・・・」

ああ、またイリーナの目が決壊寸前のダムの様に!

「大丈夫だ!みんな美しい!最高!って言ってたじゃないか」

「わ、わ、私のおパンツ、みんなにみ、み、見られ・・・」


ああ、ダムが決壊する!


「イリーナが綺麗だから、みんな最高って褒めてるんだよ。自信持って大丈夫さ」

とりあえずガンバ! 見たいな格好でイリーナを励ます。

「私が綺麗・・・? ヤーベも私が綺麗だって思う・・・?」

「モチロンさ! イリーナは最高に綺麗さ!」

この状況で、「別に」とか空気読まずに発言できる心臓は持ち合わせていない。
尤もスライムだし、もともと心臓など持ち合わせていないが。

「本当・・・?」

コクッと首を傾げて、決壊寸前まで涙を溜めた円らな瞳を俺に真っ直ぐ向ける。

「本当さ!」

今度はイリーナの両肩に手を置いて伝える。

「ヤーベ!」

イリーナがギュッと抱きついてくる。
とりあえずこれで落ち着いてくれるといいけど。

「うん、ヤーベのせいで町の人に私のおパンツを見られてしまったわけだし・・・、これは、ヤーベに責任を取ってもらわないといけないな・・・うん」

うん?イリーナが自己完結しているが、なんて言った?

「ヤ、ヤーベ・・・、責任、取ってもらえるだろうか・・・?」

ああ、またまたイリーナの目が決壊寸前のダムの様に!

デジャビュ!

てか、おパンツを見られた責任ってどうやって取るの!?





「ここか!このへんか!女神様がおられたのは!」

「こっちの方へ来たと情報が!」

「どこだ!探せ!」



「ゲッ!」

ヤバイ! 何でバレた!
てか、そういやイリーナのおパンツ丸出しで店の前に着地したんだったわ。

「ヤバイ!逃げるぞイリーナ!」

「あわわ、ヤ、ヤーベ、どこから出るのだ?」

きょろきょろ見回すイリーナ。
もはや店の前の大通りは人集りが出来始めている。

「なんか事情があるなら、店の裏口から出なよ」

「マジか! 大将恩に着る!」

俺はイリーナの手を引いて店の裏口にダッシュした。





お店の裏手、細い路地に出たところで、再び<勝利を運ぶものヴィクトル・ブリンガー>を発動して屋根の上に飛び上がる。

「ヤ、ヤーベ・・・」

「あ」

これ以上イリーナのおパンツを振りまくわけにもいかない。
どうするか・・・

「イリーナ、俺に体を預けてくれるか?」

「ふえっ!? ・・・うん、まかせるら」

俺は<勝利を運ぶものヴィクトル・ブリンガー>で張り付くエリアを拡大。手足だけではなく、首から下を全身包む。服の上からだが、フルプレートのイメージで全体を包む。

イメージって大事だよね。俺のイメージは聖闘士セ〇ヤに出てくるゴールドク〇スだけどな! どうせだから、色も同じ金色でピカピカ輝かすか!

「ヤ、ヤ、ヤーベ!何か光ってるぞ!?」

「イリーナがやっぱり女神ってことだろ」

「ひょわっ!?」

そのまま今度は大通りを横切らずに、通りの人々から見られない位置で屋根を移動して行く。そしてコルーナ辺境伯家に到着!

ローガ達はすでに先行させている。コルーナ辺境伯家の庭にずらりと並んでお座りしている。フェンベルク卿に声を掛けようとしたのだが・・・

「ヤーベ殿はまだ帰って来ぬか!」

「ははっ! イリーナ嬢と町中を移動していると思われます」

「何としても確保せよ!我がコルーナ辺境伯家の賓客としてもてなすだけではだめだ!我が辺境伯家に所属してもらわねば!」

「すでに給金等の諸条件も用意出来ております」

「絶対王都の連中に気取られるなよ!」

「ははっ!」





「Oh・・・」

建物の陰に隠れて様子を見ていたのだが、状況は最悪の方向へ向かっているな。

「ヤーベ、どうするのだ? コルーナ辺境伯家に雇われるのか?」

「そういうのが嫌だから代官のナイセーにも内緒にするように言ったんじゃないか」

「そうだったな」

「大体、コルーナ辺境伯家に雇われたら、イリーナの家はどうなるんだ?」

「ヤ、ヤーベ・・・」

感動してウルウルするイリーナ。
でも今の俺はゴールドク〇スだから、顔見えないんだよね。

「よし、ルシーナちゃんだけにこっそり挨拶してこの町を出ちゃおう」

「いいのか?」

「良いも何もない。ルシーナの部屋の窓にこっそり上るぞ」

「わかった」





窓の外のバルコニーに降り立つ。
そっと覗くと、ルシーナは寝ていた。
スライム触手で、窓の隙間からにゅるりと滑り込ませ、鍵を開ける。
怪盗なんちゃらになれそうだ。

そっと部屋に入る。部屋にはルシーナだけが寝ていた。ちょうどよかった。

ふと目が覚めるルシーナ。

「・・・イリーナちゃん、女神様だったんだ・・・」

「ふえっ!?」

あ、ゴールドク〇スのままだったからな!
俺は一旦<勝利を運ぶものヴィクトル・ブリンガー>を解除して分離する。
瞬間ローブ着込みは得意技になりそうだ。

「あ! ヤーベさん!」

「し―――――!」

「ど、どうしたんですか?」

「君のお父さんがちょっと強引に我々をこの家に留めようとしているようなので、我々は一旦帰る事にするよ」

「え・・・、帰ってしまわれるのですか? 父の対応は謝罪致しますから、どうかお食事だけでも・・・」

俺は亜空間圧縮収から俺様特製の濃縮薬草汁を取り出す。

「これ、プレゼント。ちょっとずつ飲んでね」

ルシーナに渡してあげる。

「ありがとうございます・・・」

ちょっと寂しそうにお礼を言うルシーナ。

「また、会いに来るよ! 俺たちの事は内緒にしておいてね!」

そう言って<勝利を運ぶものヴィクトル・ブリンガー>を発動する。
ゴールドク〇スバージョンでね!

「き、綺麗・・・」

「ルシーナちゃんまたね!」

「イリーナちゃんバイバイ!また会いに来てね!」

俺たちはバルコニーから飛び出す。もちろん見つからないようにね!

「ヒヨコ隊長!聞こえるか!」

『控えております、ボス』

「どの城門から出るべきか?」

『お待ちください! 各部報告せよ!』


しばし待つ。


『まだ、どの門もボスやイリーナ嬢を拘束するような命令は届いていないようです』

「ならば入って来た西門から出よう。ローガ達にも伝えてくれ。西門集合だ!」

『ラジャ!』

それにしてもヒヨコすごいな。今も各城門から一定の距離でヒヨコたちを配備しており、念話で情報を超高速で届けていた。あまり長い情報は伝達ゲームの様に途中でおかしくなる可能性もあるけどな。

まあ、泉の畔に帰ってマイホームでも建てようか。
俺は屋根の上を高速で移動しながら考えた。
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